EVANGELION : LAGOON

Welcome to H.S.D. RPG.
CAR-BATTLE in TOKYO-3, 2015.
by N.G.E. FanFiction Novels,
and RACING LAGOON.

Episode 17. GALE A MOMENT2:oral stage












 薄暗く広々とした、NERV本社作戦会議室。

 床面モニターに、衛星軌道上からとらえたNERVアメリカ第一支部の映像が映し出されている。

 それを取り囲むようにして見ているのは、ゲンドウ、冬月先生、赤木博士、葛城、伊吹さん、日向さん、青葉さん……それに、綾波先輩。
 伊吹さんが資料のファイルをめくり……映像に合わせてカウントする。

「T-マイナス10秒。……9、8、7、6、5、4、3、2、1……コンタクト」

 一瞬遅れて映像がかすかに揺らぐ。

 直後、画面が白光に満たされた。
 光が引いた後、円形に配置された施設の中心点から赤々とした火球が広がっていく。それはとどまるところを知らない勢いで次々と建物を飲み込んでいき、外縁のクレーターをも乗り越えて広がっていく。
 大気が蒸発し、はるか数万キロも離れているはずの衛星までもが溶けはじめる。

 十数秒後。
 衝撃波はついに監視衛星をも呑み込み、そこで映像が途切れた。

「やはりS2機関か」

 ため息を解く冬月先生の言葉に青葉さんが答える。

「タイムスケジュールから逆算して、ドイツで修復されたS2機関の限定起動実験中の事故と思われます」

「S2機関、及び『黒き月』セントラルユニット、ならびに半径49キロ以内の関連研究施設は消滅しました。
予想される原因は材料強度の不足から設計初期段階のミスまで32768通りです」

「S2機関修復はシュナイダー君の管轄だったな……彼からの報告はまだなのかね?」

「正式な報告書は第一次調査完了後、追って提出するそうです」

 NERVが進める人類補完計画。
 D-Projectもその中のひとつに過ぎない……

 僕たちが何も知らずに日々を過ごしている、その影で……数々の陰謀、計略が繰り広げられている。
 表に出てくるのは氷山の一角。いや、一角ですらない。
 真実はどこにも無い……あるのは、人の意志、それのみ。

「……でも、爆発ではなく消滅なんでしょ。つまり消えたと……」

 日向さんが付け加える。

「よくわかんないものを『無理して』使うからよ」

 葛城の言葉にはどこか、諦めにも似た響きがこめられていた。
 そこで赤木博士がじっと葛城を見やり、そして葛城もそれに返す。視線の交差。










 会議終了後、葛城は赤木博士を捕まえて言った。

「リツコ。会長は黙ってたけど、あれはどーみてもシュナイダーの仕業よ。
どうにか物証でも押さえられないもんなの?」

「分かってるわ。でも、物理的証拠はどうにもならないわね。あれは間違いなくディラックの海。すべては文字通り、この世から消え去ったわ」

 冷ややかに返す赤木博士。だが、さすがの彼女も表情に焦りの色が見え隠れしている。

「ったく、D計画の方にちょっかいかけてくるだけならともかく、S2までポシャらせるとはね……これは奴が造反した場合のシミュレーションも練っとくべきだわね」

「構わないけど、あまり派手に動くのはまずいわよ。感づかれては意味が無いわ」

 NERV内部にも、色々な問題の種はあるらしい。日本だけではない……アメリカやヨーロッパにも、NERVの手は伸びている。

「それはもちろん。ま、今はちょうど横浜GP前だし……手回ししとくにはおあつらえ向きだわ」

「…………ミサト。第一支部がやろうとしていたことの真実……知りたい?」

 ずっと考え込んでいた赤木博士が、挑発するように葛城を見やる。

「あによ?『まだ』なんか隠し事があるわけ?」










 同じ頃。

 ゲンドウと綾波先輩は、会議を終えたその足で第3新東京市地下のある場所へ向かっていた。
 NERV本社ビルの地下にあるジオフロント……それは東京湾の地層の中に浮かぶ、球形の広大な地下空間。第3新東京市をすっぽりと囲ってしまうほどの広さは、ジオフロントを経由して第3新東京市のあらゆる場所へ移動することを可能にしている。

 床は打ちっ放しのコンクリートからリノリウムへと変わる。

 洞窟の中のような不気味な空隙……ゲンドウはそこで歩みを止めた。

 綾波先輩もそれにならう。

「第一支部は『黒き月』の管理権委譲を申し出てきた……これは好都合といえる。
今後はここ……ベイラグーン・タワー地下にすべてを移設する」

 虚空を見上げるゲンドウ。綾波先輩も同じものを見ている。

 光が仄かに湧き出てくる。
 暗闇だった場所に、その存在が浮かび上がる。

 人がすっぽり入れるほどの大きなカプセル……それを吊り下げているケーブルはさながら人間の脊髄のように。いびつに絡みつくパイピングは腸か脳髄のように……
 カプセルの中は空っぽだ。ただ、オレンジ色の液体だけが満たされている。


「『サード』の様子はどうだ?」

「精神にやや不安定な面が見られますが、現状で問題はありません。
初号機との感応も良好です」

 あくまで機械的に答える綾波先輩。

 『サード』……僕のことを言ってるのか……
 『初号機』……Diablo-Zetaのことも…………

「ならばいい……これで、あの計画が実行できるな」

「……はい」

 光はやがて、部屋全体を満たしていく。

 黄金色の光に包まれる。それは現世と来世の狭間のように……


 遮るものは何も無い。
 この場所ではすべてが透明になり、すべてが見える。

「データ収容後……7時間で帯域を確保、ダイナミックリンクの伝播が完了します」

 人の手を借りずに動き出すコンピューター……

 それは自らの意志も持たず、理由も分からず、ただ動き続ける。
 機械仕掛けの人形……

「ですが……『魂』のデジタル化はできません。
あくまでフェイク……『人間』の真似をする……ただの機械です」

「構わん。『Diablo』がそこにあると思い込み……目覚めさせることができればそれでいい。
初号機と……『弐号機』にデータを入れておけ。

…………お前の『零号機』にも……な」

「はい」

 綾波先輩は静かにそれだけ答えた。





 …………Diablo-Zeta…………

 ……君は知っていたのか……


 紅の月の夜……そう、呼び合うように目覚める僕の血を…………


 見えるのは黒い水……羊水のように僕を包み込む……

 僕が何度も見た夢……意識の深層に沈殿した記憶……

 種族記憶の鎖は……僕の心を支えている……


 ……時を越えて……

 ……Diablo-Zeta……



 今、もう一度……

 10年前の記憶を求めて……


 凍り付いていた僕の心を溶かし……

 そうさ……僕はそのために走ってきた……

 Diablo-Zeta、君も同じなんだ……


 SPEEDは時空をも飛び越え、見果てぬ未来、忘却の過去を同時に現出させてくれる。

 最速の彼方へ……



 僕は今……ようやくその入り口に立ったばかりなんだ……


 わかる。感じる。

 この世に雑多と飛び交う『意志』の中……それは僕『たち』だけにわかる……

 折り重なる彩色の極光……睨みつける瞳、振り上げられる翼……





『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』
『Diablo』






 Z……そう、Diablo-Zeta……


 Diablo-TUNE。

 そうさ……綾波先輩も、惣流も同じだ……僕たちはわかる。


 Diablo-TUNEを施されたマシン……

 それは悪魔の使いか、堕天使の成れの果てか。


 ……Diablo-RS……

 ……Diablo-FD……


 きっと今頃、それぞれに感じていることだろう……10年前から今までずっと秘められていた、それぞれの記憶を……

 忘れ得ることのない、血と鉄と炎とで踏みにじられた命の記憶を……



 横浜Grand-Prix…………


 舞台は仕立てられた。

 あとはスタートを待つだけ……いや、それを決めるのは僕たち自身だ……


 凍りついた紅の月、今再び夜空にそびえる……

 燃えさかる太陽と共に……



 …………HIGH SPEED Driving R.P.G.…………


 そうさ、それは僕たちの『物語』……

 遥かなる最速の彼方、SPEEDへの意志を胸に……今……


 ……10年間、記憶の氷に閉ざされていた命を溶かし……


 僕たちは走り出す……


 ……目覚めた『時』が、走り出す……












YOKOHAMA GRAND-PRIX
CHAMPIONSHIP ROUND


TOKYO-3
NORTH YOKOHAMA


YOKOHAMA GP
GRAND-STAND


AM 10:00


NERV & WON-TEC



TOKYO-3
TEAM MidNightANGELS
R.AYANAMI

EAST JAPAN
HAKONE DRIFTDANCERS
M.KOGUCHI

TOKYO-3
NightRACERS HONMOKU
A.L.SOHRYU

WEST JAPAN
WEST-RR
M.SHIINA

OLD TOKYO
C1-ROADSTARS
G.KUSUNOKI

TOKOY-3
TEAM MidNightANGELS
S.IKARI
















 ついに……この日がやってきた。

 横浜GP本戦……日本中から選りすぐられた精鋭の走り屋たちがここ、北横浜のSTREETに集う。
 まるで遠い世界のような歓声に包まれながら僕は……Zをゆっくりと、スターティンググリッドへと近づけていく。


 僕は最後尾からのスタートだ。

 目の前にいるのはC1-ROADSTARS、楠木ガモウのR33GT-R。ド派手なグループCエアロにゴールドのグラデーションカラーが目を引く。彼は首都高、C1環状線を主なテリトリーとするチームのリーダーだ。僕たちとは、走る時間帯が違うために今までかち合うことはなかったが……
 油断はできない。実質、初めて見る相手と言っていい。

 33Rの前には、血のような紅い色に身を包んだR32GT-R。関西圏ではトップクラスと言われるWEST-RRのクルマだ。ドライバーの名は椎名メグミ。以前にも首都高への遠征を繰り返していたらしく、ホームグラウンドでないにも関わらず12使徒の名を冠された実力派の走り屋だ。
 彼女のことは、事前に綾波先輩から情報は聞かされていた。
 12使徒「ブラッディR」……その真っ赤なボディからそう言われる彼女のGT-Rは、アテーサ4WDシステムに独自のチューニングを施すことによってGT-Rらしからぬ脅威の機動性を手に入れているという。もともと非常に優秀な駆動システムであるアテーサET-S。4つのタイヤの性能をギリギリまで引き出すことにより、同クラスのクルマであればワンランク上の走行性能を発揮できる。
 電子制御システムの類は一切持たないZとは対照的な、超ハイテクマシン。それがスカイラインGT-Rなのだ。


 スターティンググリッドはポールポジションに綾波先輩。そして虎口、惣流と続く。

 はるか向こう、陽炎に包まれる綾波先輩のRS。
 日の光を浴びて、青いボディが瑞々しく輝いている。


 太陽の光を浴びる。まぶしい。

 夜の世界にいる時間の方が、はっきり言って落ち着く。
 こんな明るい中を走るのは……

 大気が揺らぐ。僕の精神も揺らぎ、視界は薄暗く狭い。歓声と騒音が心を鈍らせていく。

 見えるのはレッドシグナル。スタートまで、あとわずかだ。











 羽田、NERV本社ビル。
 ゲンドウはGP会場には出向かず、この日はずっと執務室にこもっていた。

 窓のブラインドをわずかに指で開け、スモッグの向こうに霞む横浜GP会場を見下ろす。

「これで……覚醒が成されるなら、我々はもはや後戻りはできんな」

 呟く。

 背後の机に置かれたPCモニターには、なにやら不気味な化学式とそのCGモデルが映し出されている。
 バックに薬のカプセルが描かれていることから、何かの薬品だろうか。
 その片隅に小さく、しかしはっきりと青い文字。

 「CODE:DIABLO」





 Diabloの血……今ならはっきりとわかる。
 僕の身体の中に……たしかに流れてる。
 Z……Diablo-Zeta……こいつにシンクロしていく。

 NERVがなぜ、僕をこいつに乗せたのか……そんなことはどうだっていい。

 こいつに乗って、走っていれば……僕は僕を確かめられる。

 生きているって。命を、燃やしているって。
 エンジンの鼓動と心臓の鼓動がシンクロする。





 未来なんて無い。

 僕はこの先、どれだけ生きていられるだろう。
 1年?2年?もっと短いかもしれない。
 だけど、そんなことはかまわない。Z、こいつが僕を昂ぶらせてくれるから……

 Diablo-TUNE。

 いつか綾波先輩が言ってた。


 ──人間の条件ってものがあるとしたなら……死を恐れる気持ちは、おそらくそのひとつ。
死ぬことを恐れない者を人間と呼べるかどうか……私にはわからないわ──


 どうなんだ?
 僕も、惣流も、綾波先輩も、……Diablo-TUNE。

 僕たちはいったいなにものなんだ……?


 他の人間たちは背景でしかない。

 綾波先輩のRS、惣流のFDだけが、僕の意識の中ではっきりと形を保っている。あとはみんな、ぼやけている。

 今ならわかる。僕たちは同じ種類の人間だったんだって。


 綾波先輩……惣流……。

 渚さんや鈴原は、堕ちていった者。僕たちと共にいられるだけの力がなかったモノ……
 それは寂しい。だから、忘れたい。


 SKYLINE RS-X。FD3S RX-7。

 僕は忘れない。

 共に走る仲間。



 熱気が激しさを増す。歓声が一段と高まる。

 グリッドガールがプラカードを掲げ、スタート1分前を知らせる。
 誘われるように各車のエンジン音が昂ぶっていく。
 観客の熱狂は最高潮へ。


 横浜Grand-Prix。NERVとWON-TECの共催による、世界初の公道グランプリレース。
 いわゆる「走り屋」たちによるチューンドカー、アンダーグラウンド・ストリートレースの祭典。

 業界初のイベントであるこの横浜GP……それだけに、皆の熱狂は凄まじい。

 これだけのエネルギーを人々に発揮させる……
 速さを、求めること。そして勝利、栄光。それを求める人はたくさんいるってことだ。


 だけど皮肉なのは……肝心の僕たちが、それらを微塵とも思っていないことだ。

 綾波先輩も惣流も、わかっているはず。
 NERVがこのレースを主催したのは、走り屋の祭りのためなんかじゃない。

 Diablo……人間をさらなる高みへと導く、その力を解き放つため。

 冬月先生の言葉どおりだ……


 吼えるマシンたち。それは僕たちの叫び、生命のエネルギーの具象。

 レッドシグナル。カウントダウン。


 シグナル・グリーン。











YOKOHAMA GRAND-PRIX
CHAMPIONSHIP ROUND


TOKYO-3 YOKOHAMA BAYSIDE STREET

Entry list
Rei Ayanami(MNA) DR30 SKYLINE RS-X(Diablo-RS)
Miharu Koguchi(DD) RPS13 180SX
Asuka L.Sohryu(NR) FD3S RX-7(Diablo-FD)
Megumi Shiina(RR) BNR32 SKYLINE GT-R(BLOODY-R)
Gamou Kusunoki(C1) BCNR33 SKYLINE GT-R V-spec
Shinji Ikari(MNA) GCZ32 FAIRLADY Z(Diablo-Zeta)


遥かなる最速の彼方
人間を超えた最果ての領域
どこまでも孤独で、甘美で、そして無垢な混沌
命は狂い、なお生き続ける













 スタンディングスタート。

 景色が逆流するように、僕たちは加速していく。
 見える。

 速い。どのマシンも桁違いだ。
 Diablo-Zetaの速さも、このマシンたちの前では霞んでしまう。

 だが……僕は負けない。わかるんだ。


 はっきりとイメージできる。大気を貫き、光の激流を乗り越えて突き進むZを、僕を。

 綾波先輩も……惣流も……
 そうさ……同じなんだ。

 だからこれは僕たちの戦い……僕たちの、自分自身の戦いなんだ……

「Z……母さんは、初めからわかってたんだろうか……
この戦いの結末を……こういうことになるってことを、すべて見通していたんだろうか……」

 楠木33Rが真正面に迫る。

「見えるよ……」

 風は隙間を吹き抜ける。Zはすばやく33Rのサイドへ回り込み、ブロックを破る。

「雑魚は……どいてろっつってんのよォ!」

 そこへ飛び込んでくる惣流FD。33Rを両側から挟む。
 行き場を失った33Rはたまらずブレーキング。無理なラインでコーナーへなだれ込みスピン。ここで脱落だ。

「シンジ……アンタもわかってんでしょうが?この戦いの真実をね……!」

 躍り込むようにZの鼻っ面を押さえるFD。
 そのままボディを振りかざしてコーナーへ。ガードレールが揺らぎ、衝撃波は僕の視界を弾き飛ばす。

 異次元の走り……惣流、これが君の力か……そして、キョウコさんの……『Diablo-FD』の力なのか……

「NERVの企んでる人類なんたら計画……そんなのはアタシの知ったこっちゃない。だけどひとつだけ……人間の限界を超えた先、それを見極める……今ならその気持ち、よっくわかるわ。
生きてる限り、誰もが……その気持ち、持ってるはずだから」

 鉄橋のストレート。黒い東京湾を眼前に、汐風と開放の光に抱かれて走り抜ける。

 スクランブルブーストでいっきにスピードを乗せ、抜け出してくるRS。
 蒼いボディはどこまでも澄み、それでいて深い。

 Z、RS、FD、3台が並んで鉄橋を駆け抜ける。僕たちのオーラは風をも引き連れ、一陣のフィールドとなって軌跡を残す。

「ユイ博士が夢見ていた人類の未来……SecondIMPACTの種子に冒された人類は、いずれ長くは生きられない。人間が『人間』をやめ、新たな『種類』へ生まれ変わるしか、滅びを免れる道はない。
人類補完計画はその為に……Diabloは……その為の鍵……」

 紫電の火花を散らすRS。スピードは大地を揺さぶり、抉る。

「すべての『Diablo-TUNE』……その母胎たる『黒き月』……それは人類に未来をもたらす慈悲深い母であると同時に……人間の未来を喰い尽くす悪魔でもある……」

 弾けるアフターファイヤー。炎は青白く、大気を蒸発させていく。

「神の御遣い『12使徒』……相容れない存在。ここで引くわけには……いかないのよ」

 椎名32R。12使徒、ブラッディRだ。こいつは楠木のように、一筋縄ではいかない……
 RSと32Rが狭路を並走していく。どちらも一歩も譲らない。惣流は前へ、僕は後ろを押さえる。4台が数十cmの車間距離で接する。

「魂が身体の縛りを抜けて……そう、すべてを見渡せる……遥か空から。
見えないものなんてないわ」

 侵蝕しあうオーラ。12使徒、そしてDiablo-TUNE。力と力のぶつかり合い。

「思念の速度で飛べる……どんな遠くへも、光の限界をも超えて先へ行ける……そうさ、それは時の記憶」

 ブラッディRをかわし、僕たちは3台連なってさらに加速していく。
 一糸乱れぬ編隊飛行だ。

「行ける……わかるわよ、綾波……アンタが目指してるもの、アタシたちも求めてる」

 空間はゆがみ、道は激しく波打つ。
 光は偏向し、視界は正面と、そして未来を。

 刻まれたブラックマーク、突き出したガードレール、幻惑する白線のストライプ……乱反射するビルの窓ガラス、明滅する信号、シグナル、レッド。シグナルRED……

 赤は血の色。ブレーキランプの光もそうだ。

 アフターファイヤー……燃える血を迸らせる。

 過熱するブレーキローター。『エネルギー』を『歪み』に変えて大気中へと放つ。

 あらゆる『赤』が僕たちを、力の具現として纏う……
 そうさ、血にまみれて僕たちは走り続けるんだ……

「脳髄の奥底から沁み広がる……そうさ、これがDiabloの証……
こいつが僕を……僕が僕であることを忘れさせてくれる……」

「Diablo-TUNE……それをやったら、もう元には戻れない。人間の『中身』がまるっきり入れ替わっちゃうんだものね……
だけど、それでいい。やらなければわかんないし、やってこそわかる。
どんなドラッグよりも激しく、狂おしく、そして忠実に……Diabloは人間を壊し、そして……創り出せる」

「眠れる神々『リリス』……『アダム』……そして我らヒト『Diablo』……約束の刻は近いわ」

 速度がなくなる。僕たちは完全に切り離された空間を走ってる。

 景色はない。相対物がなければ、速度は意味がなくなる。
 僕と、惣流と、綾波先輩と……僕たちは共に、同じ空間を共有してる。

 たとえ今この瞬間、世界が滅んだとしても。


 僕たちの『意志』は、消えることはない。














予告


横浜GPの決着。だが、シンジの戦いは終わってはいなかった。

Diabloに心を奪われ、失われていく自分。

蘇る横浜最速伝説、その記憶の断片。

それは、崩壊への序曲。



第18話 命の選択を


Let's Get Check It Out!!!







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