EVANGELION : LAGOON

Welcome to H.S.D. RPG.
CAR-BATTLE in TOKYO-3, 2015.
by N.G.E. FanFiction Novels,
and RACING LAGOON.


Episode 9. Don't wanna be late to join the night,
hey you know it's the time!!












 夜の11時を回ろうとしている時間、元町Johnny's。
 これから走りに出るであろう走り屋たちのグループが数組、それぞれにだべっている。

 その中でふと、首都高の話題が出た。

「知ってるか?MNAのZ32。あれってスゲー速いらしいぜ」

 こういう場所で話題に上る……すなわち、名が売れてきているということ。
 僕は別に構わないけど……

「見たことあるよ俺も。首都高の有名どころでも誰もついてけねーって」

「NRのFDが、アイツ追っかけてブローしたらしいぜ。1週間ぐらい前から見かけねーもン」

 惣流のことか……
 FDはもうすぐエンジンの積み込みが終わる。
 問題は、セッティングを決めるのにどれくらいかかるかだ……
 早い方がいいだろうけど、500馬力級ともなればヘタなセッティングでは即ブローだ。特にREは。

 ここは、綾波先輩の腕の見せ所だな……





 と、外の駐車場にFCとハチロクがやってきた。

 渚さんとケンスケだ……
 この2人はよくつるんで走っているらしい。
 まあ、他のMNAメンバーはみなMAGIのスタッフだし……
 自然と、そういうグループになるんだろう。

「いらっしゃいませ!飲み物は何にする?」

 顔なじみである洞木が応対する。
 渚さんたちはテーブルにつき、それぞれアイスコーヒーを頼んだ。

「惣流君のFDはもうすぐ完成するそうだね。この間シンジ君が言っていたよ」

「そうなんですか?……惣流もやっぱり、碇と決着つける気なんですかね……」

「だろうね。彼女にしてみれば、初めて自分が決定的な敗北を喫した相手なわけだからね……」

「綾波さんとも、結局なんだかんだで直接対決はしてないんですよね?
……碇のヤツも、あっという間にトップクラスまで上り詰めたわけだ……」

 僕が来るまでは、第3新東京のツートップ、綾波・惣流といわれていた。
 この2人が戦い、そして勝った方が、第3新東京最速……すなわち、「横浜最速の走り屋」の称号を受け継ぐことになる。
 10年前の横浜戦争終結以来、長らく空席だったその最速の座に、綾波先輩と惣流、そのどちらかが就くはずだった。

 それを決めるはずだったのが、あの赤い月の夜……MNA対NRの交流戦。
 あのバトルで勝った方が、横浜最速となるはずだった。

 だが……僕が、あのZが走り出したことでそれは白紙に戻った。

 Diablo-Zetaの復活……

 それは、この街の勢力図が混沌へ向かうことを意味する。
 幾多の走り屋たちの意地とプライドがぶつかりあい……
 そうして、すべてが無に帰したとき、そこから新たな最速の座が生まれる。

 だから、みんな……





 そう、「横浜GrandPrix」。
 走り屋、夢の祭典。最速を決める戦い。
 もしかしたら、綾波先輩は初めからそのつもりだったのかもしれない。

 僕と、Zを……この戦いへと、導くために。
 だとしたら僕は……

 ……走る。そのことに変わりはない。

 だけどひとつ、変わったことがある。

 僕は気付いた。
 僕は求めてる、そのことを。
 速い相手を求めてる……STREETで、戦う相手を。

 それはZの思い……最速を目指す者の思い。

 そしてそれは、僕も同じ…………

 ……今は、惣流のFD。

 もう一度、戦う。
 Try Again…………
 今、もう一度、挑む。
 今度は完璧な状態で。

 そう思うと僕は……
 誘われるように、首都高への道を走っていた。

 今夜でなければ、それは叶わない。










 台場から第3新東京へ戻る途中だった惣流に、綾波先輩から連絡が入った。
 携帯の画面に表示された発信者名を見て一瞬息を飲む。

『アスカ?FDだけど、とりあえず組み上がったわ。いちおうシャシダイにかけてアタリと基本セッティングは取ったんだけど、これから実走で詰めていきたいのよ。
今から来られるかしら?』

「……早かったわね、思ったより。
どうなの?仕上がりは」

『シャシダイでの測定は523馬力。だいたい目標値はクリアしたわ。後はあなたに合わせて細部の煮詰めね』

「分かった……今からそっちに向かうわ」

 それで会話を終え、携帯をたたむ。
 ため息を吐いた惣流に、相原さんは言った。

「……FD、完成したのね?」

「ええ……。後は、セッティングを詰めるだけです」

「そう……」

 つばさ橋が見えてきた。
 もうすぐ、第3新東京市だ。

 テスタロッサの車内には、エンジンの音とロードノイズだけが響いている。

「……アスカ。MAGIまで、送っていくわ」

「……お願いします」

 相原さんは新山下ICでテスタロッサを一般道へ降ろし、MAGIへ向けて進路を取る。










 MAGIでは綾波先輩が惣流を待っていた。

 生まれ変わったFDは、全開で走れる時を今か今かと待ちわびている。
 高音と低音の混じった太いアイドリングサウンドがFDを包んでいる。

「…………」

 立ち止まり、沈黙する惣流。
 じっと、吸い付けられたようにFDを見つめる。

「……どうしたの?あなたのFDよ。
パワーもきっちり500馬力出ているわ」

「…………ん?ああ、悪い悪い……
……なんか、こうしてまた走れるなんて、正直夢みたいで……
走りはじめたばかりの頃、その頃の気持ち……思い出しちゃったわ」

「……そう」

 FDのエクステリアで唯一変更されたのは、空力とオーバーハングの軽量化を狙って装備された固定式ヘッドライト。同時にHID化し、照射能力を高めている。

 一方、エンジン周りはほぼすべてに手が入れられた。
 ラジエータは発熱量の多いチューンドエンジンに備えて大型化し、インタークーラーのVマウントと併せて冷却効率を高める。
 排気抵抗の大きい純正触媒は取り外し、代わってスポーツキャタライザーを装着。エアポンプもRE雨宮のSDコンバータに変更した。
 大パワーに対応するため燃料ポンプは強化タイプに変更、プレッシャーレギュレータを装着して燃圧のタレを防ぐ。さらに高G走行を想定してコレクタータンクも装備。

 すべて、パワーだけではなく耐久性を考慮に入れたチューンだ。
 いくらパワーを重視するからといって、そっちをまるきり無視するわけにはいかない。
 安定して走れる耐久性があってこそ、初めて速いチューンドといえるんだ。

 文字通り、完璧なチューンドとしてFDは生まれ変わった。

 そこには紛れもない、最速のオーラが満ちている。

「さっそく……行くの?」

「ええ。あなた自身のドライブで……」

「分かった。……今夜一晩で、キッチリ決めるわ」

 惣流はFDのコクピットに乗り込み、綾波先輩もナビシートに座った。
 ECUに接続したモバイルパソコンを起動し、セッティングの準備をする。

 FDが発進する。
 クラッチを繋いだその瞬間、惣流はぞくっとするような刺激を覚えた。
 これだけでも分かる。
 このエンジンの凄さが。

 低速でももたつかない。スムーズに、回る。
 1000/1mm、1000/1g……いや、それ以上の精度でバランス取りされたエンジンの、緻密かつ流れるようなフィール。

 これなら、間違いなくZに勝てる。

 自分の身体の中で、どくどくと熱い血液が流れ出すのを惣流は感じていた。
 回転を上げていくエンジンとシンクロするように、身体の中の熱いものが動き出すのを、確かに感じていた。










 首都高へ上がる。
 今回セッティングに使うのは環状線内回り。
 ツイスティなコースでいかに踏んでいけるエンジンに仕上げるか……それが今回FDをチューンするにあたって綾波先輩が立てたコンセプトでもあった。

「とりあえずブースト0.9で様子見。それから上げていくわ」

「OK、綾波。アンタの腕、見せてもらうわよ」

「あなたの腕もね」

 流れに乗っての巡航から、攻めのスラロームへと移るFD。

 続々とECUから送られてくるデータを見ながら、エンジンが求める最適の燃料と点火を探り続ける。
 ひとつとして、同じシチュエーションはない。
 常に変化するコース状況に対応させる、それはある意味でサーキットマシンよりも技量を求められる作業だ。

 いつ如何なる状況でも、ドライバーの意のままにクルマを操れること。

 250km/hという超高速の中で、ドライバーの操作に正確にレスポンスすること。
 そしてその操作に応えるだけの力を発揮すること。

 強く、脈打つ心臓。

 FDが、まるで薄皮をはがすように……その心を開きつつある。
 ためらうことなくそれに近づき……そして、シンクロする。
 その鉄の塊に、自分の血が通っているかのように…………


 求めても、求めても底が見えてこない。
 ずぶずぶと泥沼にはまっていくような感触……

 すべてのしがらみやわだかまりを捨てて、自我さえも消えていくその感触。

 最高で、そして最低な時間。

 しかしそれも永遠には続かない。










「いらっしゃいませーっ!!」

 SAのガソリンスタンドで給油するFD。
 給油中も綾波先輩はパソコンから目を離すことなく、採取したデータをまとめている。

 いったんFDを降りた惣流はジュースを買いに自販機へ向かった。

「綾波ィ、コーヒーでいいわね?」

「……ええ」

 給油を終えたところで、FDを隅の作業場に寄せる。

 綾波先輩もリセッティングが一段落したところでFDから降りて休憩する。
 惣流からホットの缶コーヒーを受け取ると、綾波先輩は一息に飲み干した。

「ほんっとコレ、いいわね。
マジでもう、どんどんフィーリングがよくなってくのがわかるもの。
パワーはいくつ出てた?」

「……ピークは537馬力。それよりも、中間域の厚みの方が大きいわ。
パワーバンドは4000rpm〜6000rpmね」

「なーる。パーシャルから踏み足していくときとか、差が出そうね」

 コーヒーの残りを飲みきる惣流。
 2人は空き缶をくずかごに捨てた。

「足はどうかしら?」

「そうね、まあ今のままでも文句はないわ。
ただアタシの好みで言うなら……リヤの車高をちょっと落として、ダンパーを柔らかめにしたいわね。そうすればもっとトラクション稼げるでしょうし」

「旋回性は腕でカバーすると?あなたらしいわね」

「くくく、まーね」

 足回りの微調整も終え、再びコースに復帰するFD。
 夜もふけ、ちらほらと走り屋たちの姿も目立つようになってきた。

 FDは走り続ける。

 惣流の想いを乗せて。










 同じ頃、僕は横羽線を上っていた。

 今夜が、その夜。
 そういう予感がしていた。


 綾波先輩から、特に連絡を受けているわけではない。
 ただなんとなくそんな気がしただけだ。

 だけど、迷ってはいない。

 僕はもう迷わない。


 求めることは、ひとつ。





「……っ!?何だ?」

 いつの間にか後ろに張り付かれていた。
 かなり大きなクルマだ。

 白く鋭いHIDバルブの光を浴びせてくる。
 国産ではない……外車か!?

 街灯の光を浴び、一瞬だけだがそいつの姿が見えた。

「……!フェラーリッ……」

 白いテスタロッサ。

 その象徴とも言える跳ね馬の代わりにフロントノーズに貼り付けられているのは、嘴仮面のエンブレム。
 間違いない。12使徒だ。

「白のテスタロッサ……相原さんか」

 惣流の先輩。
 彼女もまた、僕と同じ予感を抱いたのだろうか。

 テスタロッサはZをパスすると、ついてこい、というようにパッシングした。

 もちろん僕は行く。
 12使徒のテスタロッサ。相手にとって不足はない。












WHITE WOLF


Kaori Aihara(Apostles) Ferrari Testarossa


愛する者こそ自分のすべて
それが叶わぬのなら、誰も愛さない、誰からも愛されない。
群れからはぐれた孤独
ハマの白き狼、WhiteWolf Testarossa














 浜崎橋JCTで環状に合流。
 銀座エリアを駆け抜け、江戸橋JCTへ。

 テスタロッサはここで、環状線へ進路を取った。

 狭く、タイトな環状線。

 ここが完成したのは確か……高度経済成長のまっただ中、1967年だ。
 そのころのクルマなんて、100馬力あるかないかだ。
 そこを今、僕たちはこんなモンスターマシンで走ってる。
 誰が想像できた?そんなことを……

 半世紀以上も前に造られた道路……路面状態はお世辞にもいいとは言えない。
 継ぎ目、わだち、アスファルトの補修跡……普通に走るのでさえ気を使う、ここを200km/hオーバーで走るなんて……普通の人間には考えられないだろう。

 だから僕たちは、社会的には悪と見なされる。

 当然だ。


 だけど、それでも僕たちは走る。
 相原さんだってよく分かってる。
 確かお医者さんだったか……僕なんかよりずっと高い地位にいる。
 もし、なにかあったら……一瞬にしてすべてが終わる。
 それはよく分かってるはずだ。

 分かっていながらやめられない。
 分かっているからこそ続けていける。

 僕たちがやっているのはそういうことだ。


「そう……これがうれしいってことなのか」

 喜び。歓び。よろこび……

 走っているこの瞬間。
 僕は、そう、うれしい。

 分かってるだろ……


 他の何にも代え難いもの。
 これ以外に何がある!?
 僕には考えられない。

 狭い考えだって、ヒトは言うかもしれない。

 だけど、代わりにとてつもなく深い。

 そうさ……僕にとっては、これが一番なんだ。
 Zとともに走り続ける……これ以外の幸せがどこにある!?


 どうなんだ、惣流ッ……!!!












C1 HIGHWAY


Entry list
Shinji Ikari(MNA) GCZ32 FAIRLADY Z
Asuka L.Sohryu(NR) FD3S RX-7
Kaori Aihara(Apostles) Ferrari Testarossa


交わる想いはどこまでも遠く
重なる瞬間はどこまでも深く
300km/hのSPEEDに心を乗せて
Let's movin', super ultimate sonic dance !!














 一般車の集団を抜けたとき、僕たちの目の前に赤いRX-7が現れた。

 一目見て分かった。惣流のFDだと。
 向こうも僕たちの接近を察知していたのか、すぐさまバトルモードに入る。

「惣流っ!」

 フル加速に移るFD。

 違う。
 今までとは別物の加速だ。

 13B改サイドポート、T78ビッグシングルの威力。

 加速タイミングの差もあり、まず相原さんのテスタがトップに。
 その後を僕のZ、さらに少し離れて惣流のFD。
 だが、すぐに差を詰めてくる。

「シンジ……アンタも分かってたのね」

 Zのテールを見据える惣流。

「アスカ……いけるの?」

「まあ見てなさい綾波。本当に速いのはどっちか……
その目でしっかりとね!」

 ブーストを1.0に上げ、Zを追撃する惣流。
 綾波先輩は4点ハーネスを締め直し、Gに耐えられるよう踏ん張る。

「アスカ……見せてもらうわよ。あなたの想いを」

 バックミラーにFDの姿を確かめ、相原さんは呟いた。





 トンネルを抜ければ、谷町JCTの左コーナーがある。
 やや登り勾配のついたトンネル出口を、猛烈な勢いで駆け上がっていくテスタロッサ。

「くっ……マジか……」

 速い。
 そして、ヤバイ。
 この環状でこれだけの速度を出すのか……!!

「相原先輩……っ!」

 ケタ違いの加速を見せるテスタロッサ。
 惣流が思わず呻く。

 高速道路の騒音を圧倒するほどの甲高いエキゾーストを叫びながら疾走するテスタロッサ。
 その加速はとどまるところを知らない。

「つうっ……」

 追いきれない。Zは5速で満足に伸びないまま、谷町コーナーへとターンイン。
 一瞬気が緩んだせいか、FDに抜かれてしまった。

 テスタロッサは一般車に詰まり、僕たちは幸いと言うべきか、ちぎられずについていけていた。

「加速ラインに一般車がいなければ…………300km/hはいっていたわね」

 心なしか、綾波先輩も口元を引きつらせているように見える。
 惣流は、何かが吹っ切れたのか不敵に微笑んでいた。

「霞ヶ関トンネルから、谷町JCTまでのわずかな直線……通称、赤坂ストレート。
距離にしてわずかに500メートル。この場所で、300km/hを出そうと言うのよ」

 キーボードを打ちながら、綾波先輩は呟く。

「あそこはマジヤバイわ。わざわざトライするようなとこじゃないわよ……」

「……アスカ、谷町分岐の左……何速でいける?」

 わずかな間、その瞬間に惣流の走り屋としての本能が判断を下す。

「5速よ」

「そうね。あなたなら5速250km/hでいけるわ。
霞ヶ関トンネルを4速220km/hで立ち上がり、そのまま5速をきっちり踏み切れば……このFDなら、300km/hに届く。
決して、不可能なことではないわ」

「分かってる。相原先輩はこう言ってるのよ……赤坂ストレートが勝負ポイントだって。
上等だわ……最初から全開フルブースト、環状1周でケリをつけるわ」

「望むところよ。このFDを組んだ人間として、私にも意地ってものがあるわ」

 全力での追撃態勢に入る惣流、そして綾波先輩。
 僕もテスタロッサを追う。





 すぐそばに惣流のFDがいる。
 これだけ接近していて、でも恐怖感はない。
 まるで本当に、相手の心が見えているかのように……

 それは信頼とかとはまた違う。

 惣流の心に、はっきりと甦る10年前の記憶。
 そこには、惣流のRX-7へのこだわりの原点とも言える……赤いFC3Sが見える。





『え〜、ママがいちばん速いんじゃないのぉ?』

『ママのクルマよりも速いクルマ?いるわよ、そりゃあ……』

 昔から、なんでも一番じゃなければ気が済まない性格だった。
 幼い少女だったころ……そのころからいままで、ずっと残っていた言葉。

『フェアレディZっていってね……ママのお友だちが乗ってるのよ』

 そのZこそが、今なお生ける伝説として走り続けるDiablo-Zeta。

 僕が今、乗っているこのZ…………

 僕も惣流も、同じ思いをもってここにいる……
 それは、ともに走る中に感じる一体感…………





 言葉にはできない何か……そう、同じ仲間という認識。
 それがあれば安心できる。ああ、こいつは僕と同じなんだなって。
 惣流ももうそこまで、僕の領域に入ってきてる。

 そしてそれはすなわち、僕もそこまで惣流の領域に入っていっているということ。

「シンジ……アンタを初めて見たときから……アタシはもう、アンタに惹かれてたのかもね……
不思議なヤツよ、アンタって。どうがんばったって触れることさえできないのに……どうして、ここまでアタシを虜にするの?」

 はっきりと、声に出して言った。
 綾波先輩に聞かせるかのように……
 そのことに何の意図があるのかは、僕には分からないが。

「だけどねシンジ……こうして走ってるときだけは、アンタをそばに感じる。
アンタの息づかいが肌に触れる……」

 テールトゥノーズに接近する。
 先行FD、後追いZ。さらに僕たちを率いるようにテスタ。
 僕たちを導こうというのか……12使徒、WhiteWolf。

 じわじわと、差を詰めていく惣流。
 師である相原さんをも越えていくほどのその速さは、いったい何処から来るのだろう?

「たまんないでしょ?
どんなに言葉を交わすよりも……どんなに身体を重ねるよりも、もっと深く触れあえるんだもの……
……フッ、イカれてるわよねアタシ。

…………でもシンジ…………
……大マジ、なのよね。
周りから見れば狂ってるようにしか見えなくても……本気なのよね、アタシたちは」

 再び浜崎橋JCT。
 テスタロッサが内回りへノーズを向け、迷うことなく僕たちもそれに続く。





 そして銀座シケインエリアへ。
 正直僕たちのような大柄なマシンでは狭苦しい場所だ。
 ところどころにあるガードもやっかいだ。

 だけど……それでも、僕たちは一歩も引かない。

「くっ……アスカ、やるじゃない…………」

 先行する相原さんの表情に焦りの色が見える。
 惣流の猛烈な追い上げは、さすがの相原さんにも予想外のことだったようだ。

 パスさせるか?それとも先頭をキープするか?

「アスカ……こらえてよ。最高のラインで……運んであげるから……!」

 さらにマージンを削り取り、攻め込んでいくテスタ。
 ここから先はもう、なにかあったらすべてが終わる領域。

「あくまでトップを守るつもりね……
……トップ引きを、するつもりなの?」

 綾波先輩の表情が険しくなる。

「(確かに、先行車がいればラクでしょうね。でも代わりに、トップ引きの負担はマシンもドライバーも大きいわ。
ヘタをすれば犠牲になるだけで終わってしまう……
……それでも、彼女は踏み続けるというの……)」

 先頭のテスタ。既にFDにぴったりと張り付かれている。





 江戸橋JCT。最高速からいっきにフルブレーキング。
 ギリギリまでこらえてコーナーに飛びこみ、すかさず全開で立ち上がる。

 テスタロッサはあくまで譲らない。





 トンネルに入る……ここでFDが動いた!
 下りながらの左コーナー、通過速度は150km/h、ここでインを差した!

 鋭いレーンチェンジでテスタの前に躍り出るFD。
 Zでは追いきれない。
 僕は最後方のポジション。

 だが、僕だってそれは納得しない。
 このZが許さない。

 ぶち抜く。必ず。

「FDの速さ……恐るべきものだわ。それはまさしくDiablo……
Diablo-TUNEと呼ぶべきもの」

 相原さんの目の前に、激しくアフターファイヤーを吐き散らすFDがいる。

「アスカ……あなたはもう、私を越えている……
私よりもさらに上の領域へと、踏み込もうとしている…………」

 どこか寂しげな言葉。
 今まで可愛がってきた者が……自分のもとを離れていく。
 巣立ち……黙って、見送るべきなのか。

「覚えてる、アスカ?私たちが初めて出会ったときのこと……
夜の横浜駅で……
ざんばらに切り落とした金髪が、今でもまぶたに焼き付いてる。
思えばあの時にもう気付いてたのよね。あなたの中に流れる走りの血に…………」

 中学時代の惣流は、母親が死んだ直後とあってかなり荒れていたらしい。
 そんなとき相原さんに誘われ、走りの道へと進むことになる。

「私に義理立てすることなんてないのよ……あなたが思うように、やればいいわ」

 大気を、風を揺らめかせてコーナーへ飛び込むテスタロッサ。超弩級戦艦のような巨大なボディが路面を這う。

「これは……アスカ、私からあなたへの……最後の誓いよ」

 FD、Z。テスタロッサ。3台が見えない糸でつながれているかのように……舞う。
 心が、スピードに乗ってひとつのラインをたどる。

 霞ヶ関トンネルへ。ここを抜ければ赤坂ストレート。

 テンションがいっきに高まっていく。
 一度きりの勝負。やり直しはきかない。

 そうさ……今夜でなきゃダメなんだ。

 僕たちが出会う……それは限りない平行線が交わる瞬間。
 一度離れてしまえば、それきり二度と会うことはない。
 今夜でなきゃ、ダメなんだ。

「Z……聞こえるだろ?みんなの声が……」

 トンネルに共鳴する僕たちのエキゾーストノート。
 それはいつか夢見た、熱い夜の思い出。

「ママ……見てる?今こうして、アタシはZと走ってる……
あの時叶わなかった夢……今夜、叶えてみせるわ」





 若き日のキョウコ。
 彼女が初めて買ったクルマはRX-3。それからSA22、FC3Sと、REをずっと乗り継いできた。
 親友でライバルでもあるユイは、S130ZからZ31、Z32と、フェアレディZを乗り継いできた。

 Z vs RX-7。世紀をまたいでずっと競い続けてきた、公道の戦士。

 首都高での、決戦。
 奇しくも、同じ赤坂ストレートで。





『……赤坂ストレート?そうね、まあよくて250km/hってトコかしらね』

『う〜ん、キョウコでもそれくらいが限界か……』

『何の話よ?』

『いやあ、あそこで300km/h出せるかって話ヨ。はは、やっぱ夢物語だよな、そんなの』

 国産車でようやく300km/hオーバーが達成された頃の話だ。
 1km近いストレートを持つテストコースを走って、ようやく出せた速度。それを公道上でというのは、当時のチューンドカーのレベルを考えればいささか厳しかっただろう。

 だが、今は違う。





「夢じゃないわ……霞ヶ関トンネルを4速220km/hで飛び出し……そのまま5速をキッチリ踏み切れば、300km/hに届く……
現代のチューンドカーはここまで来たのよ」





 当時、Diablo-Zetaはまだ開発中で、その存在も公表されていなかった。

『ユイ、アンタのクルマならどうかしら?』

『Z?まだ造ったばかりだからね、トライはちょっと厳しいわ。
まずは慣れなきゃね、このパワーに。

……そしたらさ……キョウコ、今までの決着を付けましょう。
環状……湾岸……東名……全部のステージで、どっちが速いか……
私のZと、あなたのセブンで……

ね、キョウコ…………』





「見ていて、ママ……」


 一般車がばらける。おそらく、ストレート上でちょうどクリアになるだろう。
 これ以上ないベストなシチュエーション。

 トンネルを抜ける。最後の左コーナー。

 加速していく。
 反対に、時間の感覚はゆっくりになっていく。
 レコードラインが見える。それは一本しかない。

「いける……この速度で立ち上がればっ!」

 猛然と加速する惣流のFD。
 差がじわりと広がっていく。

「…………っ!Z!」

 僕はZをイン側に寄せ、テスタロッサの左後方についた。

「なっ!?なんでラインを外れんのよ……それじゃ速度を乗せていけない……っ!」

 惣流が驚きに息を飲む。
 だけど、分かってた。

 Zはすべてを分かってた。そして、FDも。

「くっ!!」

 突如リアをブレイクさせるテスタ。
 わずかなギャップを拾ってパワースライドを起こし、大きく姿勢を崩す。
 このままではスピンは免れない……最悪クラッシュもあり得る。

 だけど……

 そこに、Zはいた。
 そっと抱き寄せるように……スピンしかけたテスタのボディを受け止める。
 激しい接触にもまったく安定を失わないZ。

 テスタはZに張り付いたまま50メートルほど滑走し、ようやくグリップを回復した。
 割れたヘッドライトカバーが、きらきらと光を反射させつつ散っていく。

 テスタ、ここで脱落。後はZとFDの勝負だ。

 赤坂ストレート300km/h、トライッ!!!

「…………っ!!!」

 今までにない強烈な加速が惣流を襲う。
 FDがその力のすべてを解き放つ。
 視界は後方に流れ、そこは光の激流。

「お……遅い!?」

 いや、違う。とてつもなく速い。
 速すぎて、距離感がつかめない。

「ぐ…………っ」

 メーターの表示はぐんぐん上昇していく。
 だが迫りくるコーナーはそれよりも速く接近してくる。

 足りない。距離が足りない……!!

「Z!」

 僕の視界には、接近するFDのテールランプが映っていた。
 流れる景色の中で、その光だけが孤高を保って輝いている。

 それは僕に近づいてくる。いや、僕が近づいている。


 FDのブレーキランプが激しく点灯する。
 エアロを路面にこする火花が飛び、煙を上げるほどの必死の制動をかけるFD。

 ギリギリまで踏み込んだ。まるでジェットコースターのように、壁に張り付かんほどの勢いでコーナーを曲がっていくFD。

 Zは……それよりも速く、曲がれる。

「くぉの……バカシンジぃ!」

 だが後一歩、届かない。
 FDが先にコーナーを抜け、最後までZを抑えきった。

 最後にひときわ長くブローオフサウンドを響かせ、FDはバトルモードを解いた。
 ゆっくりと速度を落としていく。
 僕もそれに従う。





「……結局……またあのZを速くしてやったようなモンじゃない?」

 自嘲気味に言う惣流。

「メーターはいくつだった?」

「誤差補正、してあるんでしょ?……ジャスト300km/h。そして……」

「……そしてそれに追いついてきたZは、間違いなく320km/hいっているわね」

 惣流から綾波先輩へ、言葉がつながる。
 自分で言った言葉に、綾波先輩はニヤリと口元をほころばせる。

「まだまだ……あんなものではないわ。Zの……本当の速さはね……」

「……嬉しそうね、綾波……」

「フッ……アスカ、あなたこそ……」

 ここまでだ。もうこれ以上は、意味がない……
 僕は安堵のため息をついた。Zも……満足げみたいだ。





「まさか、あのZに助けられるなんてね……流石としか言いようがないわ」

 減速して巡航に移った僕たちに、テスタが追いついてきた。
 相原さんも、冷や汗モンだっただろう。
 テスタは左のフロントバンパーがへこみ、左のヘッドライトカバーが割れている。それ以外にダメージはないようだ。

「…………いい仲間に出会えたわね、アスカ……」

 トップに立った惣流を、相原さんはそう言って見送った。





 僕たちは芝公園PAに入り、相原さんとはそこで別れた。
 テスタ……大丈夫かな?










 それぞれのクルマを停め、PAに降り立つ。
 言葉を交わさなくても、心は通じ合ってる。

 綾波先輩はポケットから1枚のステッカーを取り出すと、それをFDのフロントウィンドウに貼った。

「綾波、これって……」

「……そう。NERVが認めた走り屋……その証よ」

 無花果のデザイン。そして、「GOD'S IN HIS HEAVEN, ALL'S RIGHT WITH THE WORLD.」のロゴ。
 選ばれた者にだけ与えられる、最速の称号。

 惣流はそれを受けた。

「…………ありがと、綾波……」

 初めて、見た気がした。
 惣流の笑顔……
 ここでは、僕はただの観客だ。



 ゆっくりと昇ってきた朝日が……僕たちを、祝福していた。














予告


NightRACERSの支配を狙い、惣流FDの撃墜を目論む石川兄弟。

一方、MidNightANGELS渚カヲルは独自にFCをチューンし、単身12使徒に挑む。

本牧埠頭、そして湾岸。

2つのステージで繰り広げられる、壮絶なドッグファイト。



第10話 チューンド・ロータリー


Let's Get Check It Out!!!






<前へ> <目次> <次へ>