EVANGELION : LAGOON
Welcome to H.S.D. RPG.
CAR-BATTLE in TOKYO-3, 2015.
by N.G.E. FanFiction Novels,
and RACING LAGOON.
Episode 5. Zeta I
土曜日はあっという間にやってきた。
綾波先輩の計らいで、この日はいつもより早く仕事を切り上げて今夜のバトルに備えることになった。
終業時間が近づいた頃、ケンスケと渚さんもMAGIにやってきた。
ピットを借りてマシンの最終チェックをしている。
「……じゃ、いつも通りベイラグーンのターミナルに。集合は9時半、いいわね?」
みんなで集合場所と時間を確認したあと、それぞれ走りに出ていく。
一方渚さんはまだ仕事が残っているためMILAGEに戻る。
僕は……
走るのか?決戦前のウォーミングアップ?
……テンションを高めておくというのならいいだろう。
だが……
決戦の時まであと3時間。
あれこれ思い悩むには十分すぎる時間だ。
「シンジ君っ!」
声をかけてきたのは霧島だ。
なんだかやけに嬉しそうな顔をしている。かえって不気味だ。
「ねえ、よかったらさあ〜今から一緒にJohnny'sに行かない?新作パフェができたんだって!」
「……そんなの今でなくたっていいじゃないか」
「いいのいいの、腹が減っては戦はできぬ、でしょ〜」
結局連れて行かれることになった。
Johnny'sというのはファミリーレストランチェーンの名前で、この辺りでJohnny'sといったら横浜スタジアムの近くにある「元町Johnny's」のことを指す。
元町に無いのに何故元町Johnny'sなのかは謎だ。
この時間帯、ファミレスは走り屋たちの溜まり場になる。
駐車場には走り屋のクルマばかりが並んでいた。
スポーツカーだけではなく、中にはスターレットなどの軽の姿もある。コンパクトボディ+ターボの速さは侮れない……
ジングルがぶら下がったドアを開ければ、ちりんと鈴の音がなる。
「いらっしゃいませ〜!」
ウェイトレスの明るい声が透き通る。
店内を見渡せば、走り屋と思しき若い男のグループが4組ほど、あとはカップルの姿がちらほらと……
僕にとっては、あまり居心地がいいものではない。
僕と霧島は窓際のテーブルを選んだ。ここからは店が面している道路と駐車場が見下ろせる。
客の話に聞き耳を立てれば……たわいもない噂話が聞こえてくる。
「……(ほら、見ろよ!あいつだよ、NRの鈴原とやる奴)」
「……(えっ?どれどれ?……なんだあ、ガキじゃねえか)」
「……(しかも女連れかよ)」
「……(MNA渚の面目……丸つぶれだな……)」
くだらない……
いちいち反応してたらきりがない。
気を紛らわそうと外を見る。
「ん……?あのワゴンR……」
隅の従業員用スペースに並んだクルマの中に、見覚えのある色を見つけた。
白のワゴンR……そうだ、この間ケンスケと行ったUORに出ていたクルマだ。
チームステッカーが貼ってある…………「元町Queen's」……?
席についてまもなく、ウェイトレスが注文を取りに来た。
霧島はお目当てである「あんみつクレープパフェ」、僕はオレンジジュース。
注文を取り終わったあと、そのウェイトレスは思いだしたように言った。
「あっ、ところであなた、今入ってきたZの人?」
「……ああ、そうだけど」
「あのね、よかったらすこし時間もらえないかな?お話ししたいって人がいるの」
「?……別に……構わないよ」
なんのことだろう?僕に話が?
そのウェイトレスは注文を伝えに調理場に戻ると、奥に向かってなにやら呼びかけた。
「ヒカリ〜!MNAの人だよ〜!」
MNA……僕のこと?
霧島の方を見る。
……別に気にも留めてなさそうだ。
「ふふふ〜シンジ君って、こういうとこあんまり来ないでしょ〜?さっきからそわそわしちゃって」
「……そうかな?」
まあ雰囲気に慣れてないってのはある。
霧島の方はといえばさっきから嬉しそうだ。待ちに待った新メニューを食べられるってことがとても楽しみなんだろう。……僕は別にお腹は空いてないし……今、食べても緊張でたぶんダメだろう。
「こんばんわ〜!あなたがMNAの碇シンジ君ね?」
可愛らしい女の声に振り向くと、そこにはお下げ髪のウェイトレスが来ていた。雀斑がすこし印象的。
パフェとジュースをテーブルに並べると、彼女は即座に僕の隣に座った。
……霧島の眉がぴくりと動いた。……ような気がした。
「まずは自己紹介からね!わたしは洞木ヒカリ、ここでバイトしてます。チーム『元町Queen's』のメンバーで、クルマはワゴンR!ほら、あそこの白いのよ」
そういって彼女……洞木、か。洞木はさっき僕が見つけたワゴンRを指さして見せた。
窓から外を見下ろそうと身体を乗り出したため、僕にかなり接近してくる。
……霧島の眉が一瞬引きつった。……見間違いじゃないよね?
「それで……話ってのは?」
「そう!今晩のバトルでぜ〜ったい!!!鈴原クンに勝ってほしいの」
洞木は思いきり拳に力をこめて言った。
「そりゃまた……何で?」
「約束させられちゃったのよ!鈴原クンが10連勝したらドライブデートするって!
でね、今夜のバトルがちょうど、その10勝目。
鈴原クンが、もしも万一!!あなたに勝てば 10連勝になっちゃうの!!
…………ううん、鈴原クンにもいいとこあるんだけどね。
あっ!そうそう!
あの手紙もらったときはちょっとグッときちゃった。
『わしが最速伝説となってヒカリを迎えにいく!!その時まで、待っとれや!!』…………なんて書いてあるのよ……
でもね、そのあと『おう!!読んだか?読んだか?』って、何度も聞いてくるの。
もう、これはどう考えても恥ずかしいでしょ!
みんなの目も少しは気にして欲しいわ…………」
洞木はいっきにしゃべった。僕は少し圧倒されてしまった。
要約すると、鈴原に交際を迫られて困っているから、とりあえず10連勝を阻止してドライブデートをナシにして欲しい……ということらしい。
っていうか鈴原……意外と……だね……
僕は詳しいことは分からないけど…………
……まさか、だから僕を指名したなんてことはないよね?
僕の方が渚さんよりはずっと楽に戦えるだろうし……
…………
いや、それはないな。
あいつはそんなこと考えるような奴じゃない……
理由は無いけどそんな気がする……
「………………」
ふと見ると、霧島は僕の顔をじーっと見つめていた。手と口は食事をしていても、目だけがこっちを向いてる。
無言の圧力……
僕は自分が壁際に追いやられていくのを感じた。
「…………僕には関係ないだろ?手紙の話は聞かなかったことにしておくよ…………」
霧島はいつのまにかパフェを平らげていた。けっこう量あったと思ったけど……
僕はオレンジジュースをいっきに飲み干すと、代金を支払って店を出た。
洞木は「約束よ〜!!」と僕らを見送った。
「Z…………僕は……やらなきゃならない……」
呟く。
Zは沈黙を保ったままだ。
「シンジ君っ!」
いきなり背後から大声を立てられた。振り向くと、霧島が腰をかがめて僕を上目遣いに見ていた。
目つきが結構マジだ。
もともとちょっとタレた目のため、潤んでるように見えるのはご愛敬。
「今日のバトル、ぜ〜ったい勝ってね!約束だよ!」
「……最善は尽くすさ。だけど、結果は保証できないよ」
「もうっ!気合いがないんだからぁ〜」
霧島はじゃれつくように僕の肩を叩いた。
僕は無意識のうちに半歩後ずさる。
「そうだ!もしさあ、シンジ君が勝てたら……デートしてあげる!いいでしょ〜?」
「……洞木の真似か?それにこっちから頼んだ覚えもないけど」
「む……シンジ君って、言いにくいことサラッと言うのね」
頬をぷーっとふくらませてジト目を僕に向ける。
どうしろってんだ……
気まずい沈黙に包まれそうになったその時、遠くから響いてくるエキゾーストがそれを吹き飛ばした。
普通のクルマとは音が違う。相当のハイチューンエンジンだ。
全開のサウンド。ウェイストゲートの抜ける音がここまで聞こえてくる。
僕にとっては聞き慣れた、そして懐かしい音。
僕は思わず道路の方を振り返った。
音のトーンが下がり、スキール音が響く。コーナーを抜けてくる。
それまで反響音だけだったのが、ダイレクトな澄んだサウンドに切り替わった。
まもなく目の前の道路を通過する。
「来たっ!来たぞ〜〜〜!!」
たむろっていたギャラリーたちが、音に誘われるように道路沿いに群がっていく。
「間違いない!あの蒼いRS!MidNightANGELSの綾波だ!!」
ギャラリーの1人がそう言い終わらない内に、そのクルマは僕たちの目の前を駆け抜けていった。
閃光が突き抜ける。大気を震わせる咆吼と、熱い風を従えて…………
その身体の中に、抑えきれないほどのパワー。それを象徴するかのような強烈なブローオフサウンドが響いた。
綾波先輩のRS…………2.4リッターにボアアップしたフルチューンのFJ20にTO4Rタービンをセット、ブースト1.8kg/cm²で520馬力を叩き出す。思いきりピークパワーに振ったセッティングは、獰猛な龍の如き走りを見せる。
「蒼い稲妻……陳腐だけど、一度目にしたら……やっぱりそう言いたくなるよね」
視線を全身に浴びて……駆け抜けていく……。
研ぎ澄まされ、途切れることのない集中力。
ウォーミングアップの軽い走りでさえ、いまの僕にはついていけそうにない。
縁石をかすめ……ガードレールを舐めるように……。
それが当たり前だと言うような、その走り。
皆……羨望の眼差しを向けている。
僕も……その1人なのか?
「違う……僕は、今夜の舞台に上がる」
そうさ……僕はもう、傍観者じゃない。自分の意志で……物語を紡ぎだしていく。
Z……君が目指しているもの……僕にも、分かるときが来るかな……
NightRACERS本牧、鈴原トウジ…………彼が今、僕の前に立ちはだかる敵。乗り越えていかなければ……その先はない。
そうさ……遅い奴には、ドラマは追えない…………
「……すごいよね、綾波さんって……」
「…………」
霧島も僕も、誰もが綾波先輩の走りに魅入られていた。
僕は自分の体温が上昇していくのを感じていた。
右手を握ったり、開いたりを2、3度繰り返す。これは僕の癖だ。
じっとしていられなくなり、僕はZのもとへ歩き出した。
やや遅れて霧島が僕の後を追いかけてくる。
「シンジ君!」
Zに乗り込もうとしている僕に、霧島が呼びかけた。
「ちょっと走ってくるよ……霧島は先にベイラグーンに行ってて」
そう言うと僕はZのバケットシートに腰を落とし、ドアを閉めた。
「あ、待って!」
「……なんだ?」
「私も……一緒に行っちゃダメかな?」
どこまでついてくる気なんだ…………いいかげんに勘弁してくれ。
僕はそれには答えず、キーを回してZを起動させた。
轟音が僕たちを包みこむ。
「……好きにすればいい……ただし、僕についてこれるのならね」
そう言い切ると僕はZのウィンドウを上げた。
霧島はさすがに面食らったような、驚いた表情をしていた。
……ちょっと邪険にしすぎたか?
いや……別にいいだろ。
ウィンカーをつけて道路に鼻先を出す。
霧島が180SXを反転させてくるのをすこしだけ待つ。
「本気か……?」
Zと180SXが道路に出る。
ギアを2速に入れ、30km/hぐらいでゆっくり走り出す。
タコメーターはおよそ2300rpm。
「Z……フルブーストだ」
アクセルをあおり、クラッチを蹴る。
タコメーターの表示が跳ね上がり、クラッチがつながると同時にZは凄まじいホイールスピンとともに加速した。
身体がシートに押しつけられる。
ブーストメーターのグラフは0まで伸びてわずかにためらうと、次の瞬間には加速度的に上昇をはじめた。ゲージが赤色になる領域に一瞬突入し、やがて危険領域ぎりぎり、1.5kg/cm²で落ちついた。
その頃にはもう速度は80km/hに達し、180SXは早くも置き去りにされていた。
レッドゾーン手前、きっちり7500rpm、130km/hまで引っ張り3速にシフトアップ。
狭い下道では、体感速度は高速道路の比じゃない。
Zのボディのわずか20cmほど横を、ガードレールが流れている。道路端に生えた茂みの葉が、Zのボディを掠めていく。
前方に一般車。対向車線は空いてる。
僕はためらうことなくZを対向車線に飛びこませた。反対側のガードレールがコクピットのすぐそばまで迫る。
相対速度はカルく100km/hオーバー。激流の中を流れる景色。
ガードレールと一般車、それに道行く歩行者……それらのプレッシャーはスピードの2乗の比率で重くなっていく。
一般車を3台まとめて抜き去ると僕はZを走行車線に戻した。
バックミラーを見れば、霧島の180SXは案の定一般車につっかえていた。
「ムリするなよ……」
200メートルほど先で道は左へ緩くカーブしている。
クリッピングポイントは縁石際……
そう、綾波先輩のように…………
フロントバンパーを擦るか擦らないかの、ぎりぎりのライン。
僕にできるか……?
アクセルを緩めてエンブレを効かせ、ステアリングを左へ切る。
右フロントに荷重がかかり、サスペンションがぐっと縮む。
それに対応して左の荷重が抜けていく。接地感がなくなっていく。
「!」
左フロントタイヤが落ちる。車体がわずかに傾き、次の瞬間には鋭く突き上げてくる。
側溝のフタを踏んだようだ。Zのサスペンションはその振動を難なく吸収するものの、僕は思わずZをベストラインから外へ逃がしてしまった。
わずかにスキール音を上げて、センターラインをまたぐところまでZを流す。
対向車がいないことを確認するとそのまま次の左コーナーへ向けてアウト側へラインを取る。
ここを曲がればSYK Main STREETだ。
ブレーキングからヒールアンドトゥで2速へ落とす。速度は90km/hちょっと。
ステアリングを左へ1周。鈍いスキール音を上げてテールが流れる。
ガードレールが目の前を横に流れていく。視線の先に山下通りの直線をとらえ、アクセルオン。一瞬タメてステアを中立に戻す。
Zは腰を深く沈め、その重たいフロントノーズを強引にアウト側へ流して姿勢を立て直す。
立ち上がりでわずかにアンダーが出た。まだ踏み足りないのか。
軽くステアリングで修正し、直線のフル加速に移る。
速度はぐんぐん伸びていく。
3速へシフトアップ。170km/h。4速へ。
ストレートの終わりが見えてきた。だがまだいける。
230km/h。5速へは……さすがに入らない。
ブレーキペダルを思いきり踏みつける。
ABSが作動し、ペダルが小刻みに震える。ギャップを踏んでもロックする気配はない。4輪独立制御か。
MILAGEを視界の端に認め、僕はZを本牧方面へ向けた。
もしかしたら鈴原たちが、まだいるかもしれない。
そんな期待があったからだ。
道路は4車線になり、中央分離帯が現れる。
「さっそくお出迎えか……今日はツイてるかもな」
前方に見覚えのある2台。
赤いFDと、黒いS14。NRのツートップ、惣流と鈴原だ。
練習走行なのか、それほど飛ばしてはいない。
僕はアクセルを緩めると、2台の後ろについた。
S14がテールを揺らす。僕は軽くパッシングを返した。
今の僕はかなり精神がハイになってると思う。
気持ちがZにシンクロしていくのが分かる。
S14とFDが、手を伸ばせば届きそうに感じる。
FDのテールから、鮮やかなオレンジ色の炎が迸った。
それが、戦闘開始を告げる号砲。
Warming up RUN Honmoku STREET (NightRACERS TWO TOP) 戦士なら 勝てないと分かっていても 挑まなければならないときがある |
長い直線を全開で突っ走る。
スロットルを開けるわずかなタイミングの違い、エンジンの吹け上がりの違いで差は大きく広がる。
レスポンスに優れるFD、S14が先に出る。Zは一瞬遅れるものの、すぐにその差を縮めにかかる。
造成地の護岸に3台のエキゾーストがこだまする。
速度は200km/hを軽く超える。
Zはまだまだ加速できる。FDもまだ伸びる。
産業道路の高架が寄り添うように左側に現れ、前方に大きな交差点がある。
Honmoku STREETの難所の1つに挙げられるヘアピンコーナーだ。
僕たち3台は順次右車線に寄ると、ブレーキングからドリフト状態へ移行する。
ステアリングで姿勢を維持しながらアクセルを踏み込んでいく。
風を切る音が聞こえる。
コンクリートウォールが迫る。
Zはコースセンターでグリップを回復させ加速に移った。
FD、S14は壁ぎりぎりまでドリフトを維持し、そのままスムーズに速度を乗せていく。
車間がいっきに開く。40メートルほどか。
テクニックの差、それがはっきり出た。僕にはまだ、惣流たちのような正確なドリフトコントロールができない。
マージンをかなり大きく取らなければいけない分……攻めきれないところが出てくる。
「くっ……」
たまらず舌打ちする。
アクセルを床まで踏みつけ、前方に見える2台のテールを見据える。
道は緩い右カーブ。
コンクリートウォールはところどころに腐食があり、不気味な緑色に見える。
テールランプが動く。コーナーだ。
右へ……
僕も2台に続き右へステアを切る。
コンクリートウォールが途切れると同時に、視界に大きくコンテナの姿が飛びこんでくる。
瞬間、左へ消えていくS14のテールランプが見えた。
「嘘だろ…………」
テールが左へ流れる。ステアは左へ入っているが車体は右を向いている。
立て直して減速する距離は残っていない。
ヘッドライトの光が、前方に立ちふさがる鋼鉄のフェンスをとらえた。
コンテナが迫る。
Zはいまだ左へ流れたまま。
テールがわずかに揺れた。一瞬遅れて、フロントタイヤが道路に食い込むのを感じる。
「ちぃっ!」
立て直すのはムリだ。
旋回モーメントが反転するのを感じると、僕はサイドブレーキを思いっきり引いた。
景色がワープする。
リアタイヤがロックし、猛スピードで右へスピンする。
金切り声のような激しいスキール音が響く。
停止。
前方には、今さっき抜けてきたシケインが見える。
ゴムの焼ける焦げ臭い匂いが、Zのコクピットに満ちていた。
予告
初めて目の当たりにした、NR鈴原の本当の速さ。
惑うシンジ。しかし、Zは迷うことを許さなかった。
ついにやってくる決戦の時。
Z、S14が熾烈なデッドヒートを繰り広げる。
第6話 決戦、ベイラグーン
Let's Get Check It Out!!!