EVANGELION : LAGOON

Welcome to H.S.D. RPG.
CAR-BATTLE in TOKYO-3, 2015.
by N.G.E. FanFiction Novels,
and RACING LAGOON.

Episode 3. MIDNIGHT PlusONE












 GSの駐車場に勢いよく入ってきたS14は、キュッとタイヤを鳴かせて急停止した。

 鈴原はクルマから降りると、あわてた様子で僕たちの方へ来た。

「すまん!こないなことになってしもうて……」

 開口一番がそれだった。僕は何のことだか分からず、何も返せなかった。

「鈴原君、いったいどうしたんだい?」

 沈黙したままの僕に代わり、渚さんが尋ねた。

「……!?聞いとらんのか!?
 石川の野郎が、おまえらのTEAMのアイドル霧島マナをさらいおったんや」

「霧島を?……どうなってる?」

 ようやく復活した僕はそれだけ言った。
 渚さんも、さすがに驚きを隠せないようだ。

 鈴原もかなり焦っているようだ。
 仲間内が若い女を誘拐した。穏やかな話ではない。

「石川の野郎、独断で綾波に挑戦状たたきつけようとしとるんや。
霧島はそのための人質っちゅうわけや……」

 綾波先輩は今夜は留守だ。挑戦のしようがないだろう。
 やはり僕たちで解決しなければならないのか……

 それよりも、石川…………
 さっき僕に「綾波に伝えとけ」なんて言っておいて、なんでまた?
 脅迫まがいの手口を使うところといい、…………綾波先輩に勝つことより、むしろ自分の力を誇示しようとしているように見える…………

 もしかしたらそっちが本当の狙い……?

「いま惣流に連絡とっとるとこなんや。せやけど全然つかまらへんのや…………
赤レンガ倉庫の方捜してみるゆうとったからな。あのあたりは携帯もつながらんし」

「NightRACERSとは無関係というわけかい?」

「ほんまにすまん!いまのわしには謝ることしかでけへん……
情けない話やが、惣流が綾波に負けたんで統率がとれへん。
チームがばらばらになっちまったんや」

 鈴原は再び頭を下げた。

「……派閥争いが表面化したというわけか。惣流派と石川派ね……」

 渚さんは顎に手を当てて考え込んだ。

 派閥争いか……たしかに、あれだけ大きなチームならそういうこともあるだろう。
 STREETは下克上の世界…………覇権を狙う者は、常にその機会をうかがっている。

 それが今回は石川が、MNA対NRの構図を利用していっきにNR支配を狙った…………そんなところだろう。


 それはそれでいい。
 他のチーム、走り屋への挑戦、チーム政権の転覆……それ自体に問題はない。自然の流れだ。
 だが、そのために霧島がダシにされたのは許せない。少なくとも僕にとってみれば。
 これだけでも、石川に対する制裁の理由にはなる。

「言いたかないが、そんなとこや……
……せやけどな、霧島には指一本ふれさせへん!わしを信じとくれ!」

「…………何を言っても事実が変わるワケじゃないよ。それよりも、手がかりは何かつかめたの?」

「それなんやが、赤レンガ倉庫で石川のインテを見たっちゅう奴がおるんや。それで惣流が確かめに行っとるんやが……そっちはどないする?」

「……僕はもう一度ベイラグーンに戻ってみる。
石川の性格だ……挑戦したいのなら、ギャラリーが集まるところを派手に流して目立とうとするだろうさ。
それに……少し前にも僕のところに来た。またやって来ないとも限らない」

 S14とZのアイドリングが重なる。

「さよか……。
そういや、お前こないだのレースが公道デビューだったんやてな?はじめてにしちゃ、なかなかの走りやで。
よかったら名前教えてくれんか」

 鈴原は急に話題を変えてきた。用件が済んで、いくぶん気が落ちついたんだろうか。
 もともとお節介焼きなところもあるんだろうね…………。

「…………シンジ。碇シンジだ」

「おう!碇か!
わしは鈴原トウジっちゅうんや、これからよろしゅうな!
……碇、お前は速うなるで!」

「…………」

「このわしが言うんやから間違いあらへん。お前ならきっとなれるで、横浜最速に!!」

 綾波先輩にも言われたこと…………
 僕は、そんなにすごいのだろうか?
 自分では大して才能があるとは思えない。実際、他の人と競争すればたいてい負けるだろう。

 それでも…………何か人を惹きつけるものが………例えば僕がZに感じたように………あるのだろうか?

 僕には分からない。たぶん誰も、本当のことは知らない。

 だけどそれでも、みんなが思ったことは確かだから。
 そう思ったのなら、きっとそうなのかもしれない。


 ところで鈴原は「横浜最速」って言ったね……
 そうか。もともとここに住んでる人たちは、新しくつけられた「第3新東京」じゃなく、もともとの名前である「横浜」を使うことがあるんだね。

「……僕はそんなのには興味ないよ。僕はただ……走っている時間が心地いいだけだよ……」

「それでいいんや。わしらはなあ、速くなりてえ、それだけで走っとる。
速い奴はチームなんて関係なしで格好ええもんやないか」

「速い……奴……」

「自分より速い奴にあこがれて、いつかなあ、そいつより速くなれればそれでええ。
負けたら負けたで、ガキの喧嘩みたいに笑いあってなあ。
……恨み言なし。忘れちまえばええんや。わしらにゃ、走りっきゃないんやからな!」

 威勢のいい鈴原の声。僕には……欠けているものだ。

「おう!碇もそういう走り屋になれや!!」





 最速……そう、それは栄光の証。

 だけど……僕は……まだ、進む道を見定めていない……

 速さを……僕は分からない……


 ……自分が何を求めてるのか……


 ……Z……

 君が探してるもの……

 見えないもの……


 ……それは……


 ……SPEED……


 ……それがZ……

 君が目指す、果てしない道の向こうにある……





「誰の指図も受けたくない。
僕は僕なりにやらせてもらうよ」

「………………石川のクルマはNightORANGEのインテグラSiRや。ごっついGTエアロつけとるからすぐ分かるはずや。
言えた義理やないが、手荒な真似はひかえとくれや!」

「相手次第だね。
……そういえば、さっきケンスケからも電話が来てた。外国人墓地にいるって……なんだか、ひどくあわてていたようだけど」

「そらきっと石川の手のモンや。MNAの行動を制限するつもりなんやな」

「じゃあ、僕が相田君の方に行ってみるよ。シンジ君は鈴原君と、マナちゃんを捜してくれ」

 渚さんが分担を提案する。

「ああ……でも、店はいいの?」

「事態は切迫している。臨時休業にしておくさ。店長には明日僕から言っておくから問題ないよ」

「わかった」

 渚さんは自分のFCを起動させる。暖機する間、閉店の準備をする。
 ロータリーの独特なサウンドが、店内に響く。

「赤レンガ倉庫からこっち方面来るっちゅうと、山下通りの方を通るな……
わしはチャイナタウンの方を捜してみるわ。碇はベイラグーンの方を頼む」

「ああ、分かったよ」

 僕たちはそれぞれに散らばっていった。










 MILAGE前の交差点を通過したとき、後方から紅いクルマが現れた。
 FD3S……あのステッカーは、NRの惣流か!?

 FDはベイラグーン埠頭に入ると、軽くパッシングした後ハザードを出した。

 僕は駐車場に入ってZを停めた。FDもそれに続く。


 FDから降りてくるドライバーの姿を、僕は見る。

 一目見て天然と分かる美しい金髪。
 すらりとした長身……
 NighRACERS本牧リーダー、惣流アスカラングレー。

 惣流は降りるなり僕に向かって叫びかけた。

「アンタ!MNAの……」

「……碇シンジ」

「そうそう、シンジね!
……ほんっとにゴメン!だいたいのトコは鈴原から聞いたでしょうけど……
石川の馬鹿が!突っ走っちゃって……」

 焦りと苛立ちを含んだ声で惣流が吐き捨てる。

「赤レンガ倉庫に行って来たんだろう?どうだったの?」

「……あっちの方はいま取り込み中よ。黒塗りのLIMOUSINEが団体サンで来てたわ」

「LIMOUSINE……黒塗り……三流のFilmNoirの世界か……」

「…………何言ってんのよ。ともかく、石川はあんな奴らにコネなんて無いから、わざわざそばにもいない……
あの下品なクルマを隠せるような場所は第3には他に無いから、市内のどっかを流してるって可能性が高いわ」

「ああ。いま鈴原が市内を回ってる……僕はベイラグーンを探すつもりだ」

「そう……じゃ、あたしは本牧方面をあたってみるわ。石川も、腐ってもNRだしね。戻ってくるかもしれないわ。
ついでに石川に誑かされた連中をシメ上げてやるし」

「……好きにしてくれ」





 惣流が走り去ってすぐ、渚さんから電話が来た。
 ケンスケを無事救出したという。

 と、その時……

「…………ん?キャッチだ……」

『どうしたんだい?』

「ちょっと待って渚さん、また後でかけるよ…………」

 通話を切り替える。

「もしも『シンジ君っ!?』し……」

 いきなり最大音量が炸裂した。思わず携帯を耳から離す。

「……霧島か!一体どうなってる?そっちは大丈夫なのか?」

『どうなってるも何も……今、NRの連中に追っかけられてて大変なのよ……!!』

「NR……石川か!!」

 よく聞くと、霧島の声にかぶさるようにしてスキール音が響いている。
 どうやら、今まさにカーチェイスの真っ最中のようだ。

「どこにいるんだ?」

『今、山下公園を過ぎたから……っ、もうすぐベイラグーンに入るよ』

「ベイラグーン……
……って、それはまずい!出入り口を塞がれたら袋だぞ!?」

『……ああっ!?や、ヤバ……もう……』

「ちっ!分かった、僕もすぐ行くから!それまでなんとか逃げ切ってくれ!!」

 携帯をシートに放り投げると、僕はZを発進させた。





 BAYLAGOON shortへ。最終コーナー付近で待ちかまえる。

「来たか……!あれは石川!」

 明らかにバトルレンジの速度で突っ込んでくる霧島の180SXと、石川のインテグラ。
 すかさず僕もダッシュで追いかける。


 僕はインテグラにパッシングを浴びせた。


 インテグラが逃げる。
 僕も追う。


「ケッ……しつこい野郎だ!」

 バックミラーから離れない光に、石川兄が舌打ちする。

「追いつかれるぜ」

「オレを誰だと思ってんだ!すぐにちぎってやるぜ!!」

 石川は勢いづくが、いかんせんクルマの性能が違う。
 パワーならZが上だ。直線でぐいぐいと差を縮める。

「ああっ!あのZ32!!MidNightANGELSの生意気な奴だぜ!!」

 石川弟がバックミラーを見て叫ぶ。

「おもしれえ!やったろうじゃねえの!!」












BAYLAGOON long


vs. Ishikawa brothers(NR) DC2 INTEGRA



石川兄弟の駆るインテグラを止め
霧島マナを救出せよ














 ベイラグーンショートへの合流直後は長いストレートだ。Zのパワーを生かし、そこで一気に差を詰める。
 HIDプロジェクターの鋭い光が、インテグラのテールに迫る。

 先頭を逃げる180SXが、ロングコースへとノーズを向ける。
 直線が長く、ハイパワー車に有利なエリアへと誘い込むつもりのようだ。

 コの字コーナーを立ち上がり、その後の左高速コーナーに対してイン側からインテグラに迫る。

 幅寄せをかましてひるませた隙に、素早くアウト側へ切り込んで180SXとインテグラの間に割り込む。

 すかさずブロック。ブレーキランプを細かく点滅させ、インテグラの速度を落とす。
 なんとか霧島が逃げる時間を稼がなければいけない。


「アニキッ!こんなヤツコーナーで差しちまえよッ!」

「でけえ図体が邪魔なんだよッ!ええいフラフラとうっとうしい!!」

 ペースを乱されて石川は相当いらついているようだ。インテグラの挙動が怪しくなってきた。

 ここで渚さんに連絡する。

「…………早く……早く!」

 呼び出し音がもどかしい。3回目のコールで出た。

『シンジ君かい!?』

「渚さん!!今ベイラグーンで石川とやってる、霧島も一緒だ!
大至急応援を頼む!出口が封鎖されてるかもしれない、惣流と鈴原にも知らせてくれ!!」

『分かったよシンジ君!今MILAGEに戻ってきたところだから、すぐそっちへ行けるよ』

「ああ、頼んだよ!!」

 通信終了。

 そうこうしているうちに、コースを一周して分岐点に戻ってきた。
 どうする?このままベイラグーンを周回し続けるか、それとも市内へ戻るか……?
 どうする霧島…………


 180SXが左へテールを振る。右へ……このままベイラグーンを?
 いや、あれはフェイントだ!

 180SXは振りっ返しで素早く左へ曲がる。山下通りへ合流して市内へ戻る道だ。

 僕も180SXの後を追う。
 後ろを確認すると、石川のインテグラは突然の進路変更に対応できずにアンダーを出してしまい、かなり遅れていた。

 振り切った……か?


「……!」

 視線を正面に戻すと、埠頭のゲート前に陣取った数台のクルマが見えた。NRの連中だ。
 くそっ……間に合わなかったか!

 どうする……?ここで止まれば終わりだ…………


「……逃げちゃダメだ……」

 アクセルを踏み込む。
 霧島は迷っているのか、180SXの速度が次第に落ちてくる。

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……!!」

 目の前に180SXのテールが近づく。
 近づくにつれ、ゲート前に数人のNRメンバーがいるのが見えてくる。
 幸いにも道が広いおかげで、左右にすこし隙間が出来ている。

 通れるかどうかは賭だけど……ここは行くしかない!

「逃げちゃダメだ!!!」

 僕はアクセルを床まで踏みきった。
 それに応え、Zが凄まじい咆吼を上げる。

 いっきに180SXの横に並ぶ。
 サイドウィンドウを下げ、大きく手を振って霧島に合図する。

「強行突破する!!僕の後についてくるんだ!!!」

 180SXを従え、正面のゲートに向かって突進する。
 右側が広い。

 NRのR33スカイラインが、その巨体で僕たちの逃げ道を塞ぎにかかる。
 隙間が狭められる。
 反対側は鉄のフェンスだ。

 すでに速度は100km/h近く出てる。今からブレーキングしたって無駄だ。

「くっ!!……うあっ!……!」

 衝撃。
 金属がぶつかる音が響く。
 視界が一瞬ぶれ、身体が空中に浮き上がったように感じた。
 なんとか踏ん張って耐えると、NRの追っ手は目の前から姿を消していた。

 バックミラーに目をやると、R33がよろよろと下がっていくのが見えた。
 そして開いた道を、霧島の180SXがすり抜けてくる。

 もう僕たちの行く手をさえぎるものはない。
 もうすぐ埠頭を抜けて市内に入る。
 なんとか、逃げ切ることが出来た…………

「あれは……鈴原!それに渚さん、惣流も……」

 反対車線をヘッドライトの列が向かってくる。
 先頭からS14、FC、FD。

 すれ違いざま、スピンターンして止まる。

 鈴原たちは僕たちとNRメンバーたちの間に割って入るようにしてクルマを停めた。
 散らばっていたNRのメンバーたちもぞろぞろと集まってくる。
 やや遅れて、石川のインテグラもやってきた。

 すっかりふてくされた顔でインテグラから下りてくる石川。
 僕の姿を見つけると、一睨みしたあと唾を吐き捨てた。



 鈴原たちがクルマから降りてくる。エモノこそ持っていないが、その威圧感はNRの下っ端メンバーをビビらせるには十分なようだ。
 惣流は特に、かなり殺気立っている。チームリーダーとして、示しはきっちりつけるつもりのようだ。


「渚さん!」

 霧島が呼びかける。
 NRのことは鈴原たちに任せ、渚さんは僕たちの方に来た。

「マナちゃん、シンジ君、大丈夫だったかい?」

「ええ、私は大丈夫です……だけど……」

 霧島はそこで言い淀み、僕の方をちらりと見た。

「だけど……シンジ君、Zが…………」

「Zが……?」

「…………」

 渚さんがZを見る。

「うわ……やっちゃってるね。どれどれ…………幸い足回りへのダメージは無いようだけど……
シンジ君、これはまた派手にやったね」

 僕もZのダメージをチェックする。
 R33にヒットした左フロントは、バンパーからフェンダー前にかけて塗装が剥がれ、深いひっかき傷が付いている。フォグランプとコーナーレンズも割れてしまっている。

「……シンジ君、私を逃がすために……NRの包囲を突破しようとして……」

「霧島が気にすることはないよ……」

 分かってる。
 気にしたって仕方ない。

 別に後悔はしてない。
 戦って傷つくのは当たり前だ。
 自分が傷つくのは構わない。

 だけど……
 他人を傷つけてしまうのはいやだ。


 たとえ、それが敵であっても。
 NRのR33は、僕のZよりひどいダメージのようだ。道をふさごうとした際に後ろ向きに車体を出したため、ヒットしたリアバンパーがめり込んでボディにまでダメージが及んだようだ。スカイラインのシンボルである4連のテールランプも無惨に割れ、マフラーも曲がっている。
 と、マフラーの先端でひっかいたようだね……Zの傷は。

 傷を負ったワインレッドのボディ……見ていて痛々しい。
 だけど、どこかでそれを喜んでいる自分がいる。
 敵を倒した。敵に勝った。

 殲滅…………

 それは僕。





 身体が、火照ってる。
 だけど意識は不思議なくらいに冷めてる。

 冷めてるからこそ、よけいに熱く感じる。

 僕は……間違ってる?

「どうして……」

 呟きが漏れた。

「僕はどうして…………誰のためにこんなこと……しなくちゃならないんだ…………」

 霧島はまだ、僕のそばにいる。
 聞こえたかもしれない。

 でも、構うものか…………


 僕は……

 ずっと、1人だったんだから…………














予告


スピードを求める自分と、死を恐れる自分。

一度Zから離れ、冷静に自分を見つめようとするシンジ。

だがそれは、マナとのすれ違いを生む。

そして雨の首都高で、シンジは12使徒の1人と遭遇する。



第4話 雨、逃げ出した後


Let's Get Check It Out!!!






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