EVANGELION : LAGOON

Welcome to H.S.D. RPG.
CAR-BATTLE in TOKYO-3, 2015.
by N.G.E. FanFiction Novels,
and RACING LAGOON.

Episode 1. ANGEL ATTACK












 山下通りからベイラグーンエリアへ入る交差点にガソリンスタンドがある。
 180SXはそこへ入った。



 GSの駐車場に、数台の改造車が停まっている。
 同じチームステッカーを貼っている。


 僕と霧島はクルマを降り、集まっている人たちのそばへ行った。
 2人の男性が、僕たちに気づいて声をかける。

「やあマナちゃん、ようやく来たね」

「よう、霧島」

 最初に声をかけてきたのは、GSの作業服を着た銀髪の青年だった。
 刺繍の文字から、ここのGS「MILAGE」の従業員だと分かる。

 もう1人の方は、森林迷彩のシャツを着た……おそらくそれをトレードマークにしていると思われる……メガネの少年。


「ずいぶん遅れてきたけど、何かい?
早速彼とお楽しみしてきたのかな?」

「あはは、そんなわけないじゃないですかあ〜!
でも、結構タイプかな〜なんちゃって♪」

 いきなりナニを言い出すんだこの女は……

「また始まったぜ……
霧島も飽きないよな?」

 ほら、こっちのメガネの少年もあきれてるじゃないか……

 と、銀髪の青年が僕の方に向き直る。

「君が例の新入りだね」

「……初めまして、碇シンジです」

 とりあえず挨拶する。

「僕は渚カヲル。『TEAM MidNightANGELS』のメンバーだ。
こっちは相田ケンスケ君。彼も同じくMNAのメンバーだ。彼は君と同じ18歳だよ」

「相田ケンスケだ、よろしくな」

「ああ……こっちこそ」

 簡単な自己紹介……

 ただの社交辞令と分かっていても、それをするとしないとでは流れがまったく違ってくる……



 そうさ……
 それは自分と他人の間の、たったひとつの扉みたいなものさ……

 閉じた扉を開けるのに必要な鍵……


 会話ってのはそんなものなのかもしれない…………





「そういえば渚さん、綾波さんはまだ来てないの?」

 霧島が尋ねる。

「ん、もうすぐ来るんじゃないかな?
ところでシンジ君、君に見せておきたいものがあるんだ。
こっちへ来てくれるかい?」

「……?は、はい……」

 僕は渚さんの後について、GSの裏手にあるガレージに向かった。

 ……と、霧島もいっしょについてきてる。



「暗いから気をつけてくれよ」

 明かりが点けられる。

 僕の目の前に、巨大な影が浮かび上がる。

「……これは……!!」

「ふふ、驚いたかい?」

 そこにいたのは、薄汚れたガレージには不釣り合いなほどに磨き込まれた深紫のフェアレディZだった。
 Z32型ツインターボ。

 日本車らしくない鋭い眼光で僕を射抜く。


「ワンオフのワイドボディにフルチューンエンジン。ボディもサスもブレーキもすべて強化済みだ。
これほどのZはちょっとないよ」

 渚さんが得意気に説明する。


 僕は目の前のZの存在感に圧倒されていた。
 こいつは本物だ。

 それになにより…………



 こいつは……


 僕を知っている…………


 僕の記憶の中にあるなにかと、そいつがリンクした。
 ……覚えているのか?僕は?それを?
 ……分からない。



「……これも綾波先輩が?」

「そうよ」

 背後から声をかけられ、僕は反射的に振り向いた。


 視線を向けた先にいたのは、そう……



 綾波先輩…………


 僕の記憶と変わらない。
 澄んだ鋭い瞳を……僕に向けている……。



「……久しぶりね、碇くん」

「……ああ……」

 僕はそれだけしか言えなかった。

 2年ぶりの再会…………



 考えてみれば、僕は先輩に何か言いたくて来たワケじゃない。


 たったひとつの思い……

 もう一度会いたい。
 それだけの思いで、ここに来たんだ……



「……じゃ、メンバーも揃ったことだし
行きましょう」

「……シンジ君も連れて行くんですか?」

 霧島は怪訝そうに言った。

 綾波先輩はさも当然のように返す。

「ええ。そのためにこれを用意したのよ」 

「……本気なんですか?」

 綾波先輩は無言で、視線だけを返す。
 僕は予感した。


 先輩は僕の方に向き直ると言った。

「碇くん。私が今から言うことをよく聞いて。
……これにはあなたが乗るのよ。そして、これから行われるチーム対抗戦を走ってもらうわ」

「僕が……?」

「ちょっと待ってください!」

 霧島が言葉を挟む。

「彼は今来たばかりなんですよ。初めて乗るクルマでいきなりバトルなんて無理です!」

「出走するだけでいいわ。それ以上は望まない」

「でも」

 霧島の言葉を振り払うと、綾波先輩は僕を見据えた。

「碇くん。これはあなたにしかできないこと。
そして…………あなたが望んでいたこと。分かるわね?」

 僕にしか……?
 僕の望んでいたこと…………


 僕は何を望む?…………そう……何を願う?



 …………綾波先輩と同じ世界に生きていたい…………



 そうだ……答えは決まってる。答え……そう、その答えがこれなんだ…………



「……ああ。僕は走るよ」


 予感はしていた。

 そして今、それは確信に変わった。


 Z。
 僕は君に出会った。

 綾波先輩。
 僕を覚えていてくれた。



「いいのかい?シンジ君」

 渚さんはいちおうそう言ってくれた。
 だけど僕には関係ない。



 僕は流れに身を任せる。


 激しく渦を巻き始めた、運命という流れに……










「僕は君を知っているかもしれない……君は、僕を知っているの……?」

 Zのドアを開ける。古いクルマだが、ヘタリもなくしっかりしている。

「僕は…………君と似てるのかもしれない。…………誰にも……誰とも馴れ合わない…………」

 僕はZのコクピットに座り、ステアリングを握った。

 ホーンボタンに刻まれた、無花果の葉をあしらったエンブレム。
 「NERV」……そう、TRUSTやHKSと並ぶ、有名チューニングメーカーだ…………

 「GOD'S IN HIS HEAVEN, ALL'S RIGHT WITH THE WORLD.」

 NERVのロゴに記されたこの一文は、NERVがリリースするパーツの中でも特にハードスペックなものだけに与えられる称号。

 そしてそのリヤゲートウィンドウには、12枚の翼を持つ天使セラフィムを背負う。
 サイドステップに貼られた「TEST-01」のステッカー…………すなわち、このチームの1番機であることを意味している。

 それらすべてから、ギリギリと重く、しかし鋭いプレッシャーを感じる。
 同じパーツを揃えただけでは現れない、このZだけのもの。



 イグニッションに差し込まれているキーを、ONの位置まで回す。
 デジタル式のメーターパネルに光がともり、棒グラフ状のブーストメーターが0を指す。

 燃料ポンプの作動音が背後から響く。


 僕はキーを始動位置へ入れた。

 セルモーターが唸る。

 ズゴーンというスポーツカーらしい轟音を上げてZは起動した。遮音材が取り除かれたエンジンルームから、Zの鼓動が直に伝わってくる。


 すでにウォームアップは済ませていたようで、水温・油圧・アイドリングともすぐに適正域に落ちついた。


 Zが静かに息をしている中で、僕は今夜のことを考えていた。
 初めて、夜のSTREETに出る。



「行こう……BAYLAGOONに」

 他のメンバーたちが順次発進していく。

 僕は綾波先輩と渚さんの後について走り出した。





 街乗りの巡航速度。
 普通に走る分には、クラッチがやたら重い以外特に違和感はない。

 エンジンも、荒れ狂うようなドッカンパワーではなく、いたってフラットだ。



 安定しているのは足を固めているからだろうか?

 路面のわずかなギャップを踏めば、ドンッという軽い振動とともにマシンが跳ねる。
 普通のクルマのようにぐらりと揺れたりはしない。


 派手なマフラーのわりに音はそれほど大きくない。
 ターボエンジンだからなのか……身体の芯に響くような太い音だ。



 先頭を行く綾波先輩のクルマは、アクアブルーに塗られたR30スカイラインだ。
 いわゆる鉄仮面顔ではなく、3本グリルの前期型。レーシングカーのようなワイドボディと大型のウイングが目を引く。


 その後ろ、僕の前にいるのが渚さんのRX-7、FC3S型。きれいな銀色のボディだ。
 エアロパーツはノーマルで、左テールに見える105φのマフラーだけが唯一チューンドカーであることを示している。


 そして3番目に僕、フェアレディZ、Z32型。初めての走行ということで、ちょうどみんなにエスコートされるような形だ。
 曲線を多用したバイオテックな印象のフルエアロを纏い、神々しさというよりは邪悪な光を感じる紫色に塗られている。しかし、リヤバンパー下に装備されたディフューザーでも分かるように本気で空力を追求したデザインだ。HIDプロジェクターのヘッドライトは鋭い青白いビームを路面に撃ち込んでいる。


 僕の後ろにいるのは霧島の180SX。VeilSideのコンバットエアロにカーボンGTウイングというかなり派手なエクステリアだ。こげ茶色の180SXというのも珍しいと思う。


 最後尾を走るのは相田のハチロクトレノ。黄色&黒というこれまた珍しいカラーリングだ。



 僕たち5台はBAYLAGOON埠頭へ向けて隊列走行をする。僕たちが近づくと、一般車や他の走り屋たちのクルマもよけていってるみたいだ。










 埠頭に近づくにつれ、道路端に集まったギャラリーが目に付くようになってきた。


 ベイラグーンにおけるコースは、埠頭内の道路の最外縁部。
 「BAYLAGOON short」と呼ばれ、これに隣の新山下埠頭を加えたコースを「BAYLAGOON long」という。

 今回走るのは「BAYLAGOON short」だ。



 コース内へ入ると、ギャラリーの数はとたんに増えた。

 コーナーというコーナーに、人の群れ。



 僕たちはその中を、歓声を浴びながら走り抜けていく。





 埠頭の外へ出る道とコースとの合流点そばに、大型トレーラーのターミナルがある。
 夜は、そこが走り屋たちの集会場として使われる。


 駐車場の中央に、数台のクルマが並んで停まっている。
 他のクルマたちは皆そこを囲むように、少し離れたところに輪をつくって停まっている。
 主役が上る舞台を仕立てるように……


 遠くから見てもすぐに分かった。

 あれが、僕たちの相手。



 綾波先輩のRSが、アフターファイヤーを噴いて旋回姿勢に入った。
 渚さんのFCもそれに続く。

 挨拶がわりのドリフトをかまして駐車場へ入るようだ。

 RSのリヤタイヤから白煙が上がった。
 僕たちもそれに続く。

 綾波先輩のRSは、ギャラリーたちの目の前であざやかな360度ターンをキメて停車した。

 僕はその隣に従うように、Zを静かに停めた。
 続いて、渚さんたちも横に並んで停まった。


 綾波先輩はクルマから降りると、真正面で待ちかまえていた相手チームのメンバーたちと視線を交わした。ふん、と鼻を鳴らして前へと進み出る。

 こういう場所に来るのが初めての僕は……後ろの方で、事の成り行きをじっと見守っていた…………。










「分かってるわね?ルールはいつもどおりよ」

「おう、綾波!わしら『NightRACERS本牧』の惣流サンか、あんたか……どっちが第3新東京最速にふさわしいか、今夜!はっきりさせたるで!!」

 相手チームのリーダーらしき金髪の女がバトルの取り決めについて念を押し、傍らにいるナンバー2らしき男は盛んに息巻いている。

「綾波!不敗神話だかなんだかしらねえが、てめえのレジェンドはここでTHE ENDだぜ!!」

 綾波先輩たちが話している間に、髪を蛍光紫に染めたロン毛の男が割り込んできた。
 「硬派」とプリントされたシャツを着ている。「硬派」ねえ……

「能書きはいいわ。……始めるわよ。
……安心して。全員まとめて構ってやるわ」

 少しもひるむ様子を見せず、綾波先輩が応える。僕には……とても手が届かない世界。遠い世界の出来事のように見える……

 これはどういう感情だ……?


 そんな僕の心境を察した綾波先輩は、クルマに乗り込む前に僕に声をかけてくれた。

「碇くん……気にしないで。
ただ走ればいいのよ……感じるままに」

 僕は無言で頷いた。





 騒音が、にわかに激しくなる。レースに参加するマシンたちが、その存在を誇示するようにエンジン音を轟かせる。

 僕のすぐそばにいる綾波先輩のRSが、そのエンジン音で僕の肌をビリビリと震わせる。僕のZの音は、かき消されそうになりながらも静かに、しかし力強く響いている。



 MNA、NR両チームから、周辺配慮のための要員が先にコースに乗り込んでいく。
 夜遅い時間とはいえ、一般車がまったくいなくなるというわけではない。アタッカーが安心して全開走行できるよう、交差点を封鎖して他のクルマがコース内に入らないようにするのだ。

 MNAからは、今日のレースには出走しない霧島が封鎖要員として出る。
 一方NRは、新興チームであるMNAとは違い30名以上のメンバーを抱える巨大チームだ。傘下に入っている小さなチームを合わせればその人数は3桁に届くほどだ。定期的にこうした形でのチーム内レースを行っていることもあり、その手際はスムーズだ。



 しばらくして、「ALL CLEAR」…………一般車なしの報告がスタート地点に届けられた。

 それを聞いた出走メンバーたちは、いっせいに臨戦態勢をとる。
 すべての拘束を解かれた7基のエンジンが、そのエキゾーストを狂おしい炎と雷鳴のソニックブームとしてベイラグーン全体を包みこむ。


 ……溶けていきそうだ。

 切ないほどに共鳴するエンジンの轟音。



「……碇!」

「どうした、相田?」

 隣のグリッドにいる相田が、僕に声をかけた。彼が指さす先には、派手なオレンジ色のクルマがいる。

「俺たちのTargetは、石川ケイスケのインテグラってとこだな」

「Target……」

「ほらあいつだ、あいつ。
NightORANGEのインテグラSiR……」

 あいつは……さっき綾波先輩に絡んでいた男だ。例の「硬派」君……
 石川ケイスケっていうのか……



 …………インテグラSiR…………

 ……ホンダの中量級FF……

 ……エンジンはB18C……VTEC、180馬力……

 …………パワーは大したこと無いけど……

 ……ツルシの状態ですでにMakerTUNED、コーナリング性能は侮れない…………



「お前のZなら、力押しでイケるだろ?ここはひとつ、ばーっと見せつけてやろうぜ!!」

「……そうだね」



 伝説が蘇る夜か…………



 ……くだらない……


 僕はなにひとつ分かってなかった。

 今夜、ベイラグーン埠頭に集まった人たちが何を待っているのか、何を見ようとしているのか……



 綾波先輩がなぜ、僕を呼んだのか……


 なぜ、Zを僕に渡したのか……



 ……僕は……もっとよく考えるべきだった…………



 だけど、Z…………君は知っているのか……?


 光の帯に彩られた道路……その先に、君は何を見ている……?



 Zが吼える。激しく脈打つその鼓動を腰に感じながら、僕はステアリングを握りしめる。

「いくよ…………Z」












TEAM BATTLE
  MidNightANGELS
      vs.
    NightRACERS Honmoku


BAYLAGOON short 2LAPS

STARTING GRID
1st Rei Ayanami(MNA) DR30 SKYLINE RS-X
2nd Asuka L.Sohryu(NR) FD3S RX-7
3rd Kaworu Nagisa(MNA) FC3S RX-7
4th Touji Suzuhara(NR) S14 SILVIA
5th Keisuke Ishikawa(NR) DC2 INTEGRA
6th Kensuke Aida(MNA) AE86 TRUENO
7th Shinji Ikari(MNA) GCZ32 FAIRLADY Z


NightRACERS石川ケイスケに勝利せよ












 エンジンの轟音が大気を震わせ、僕を溶かしていく。

 見えているのは光の海。



 最後尾の7番グリッド。

 目の前には、いましも飛び出そうとしている6台のマシン。



 僕もそれに続く。


 大丈夫……いけるさ。



 迷いはない。


 感情さえも。














予告


交流戦はMNA綾波の圧勝に終わる。

だが、それはすべての始まりにすぎなかった。

生まれて初めての感情に戸惑うシンジ。

走り屋としての第一歩を踏み出したシンジに、綾波は励ましの言葉を贈る。



第2話 最速への誘い


Let's Get Check It Out!!!






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