未来の過去、過去の未来

9話 朝(あした)は来ずに







明かりを落とされた部屋の中で、スライドが次々と映し出されて行く。 その中に映るのは、紫の機体と紅の機体、そして二体の異形の怪物。 スライドが替えられて行く度に、冬月の表情が渋くなり、年齢によって重ねられた顔面の皺を更に深くして行く。
眼前では、今まさにエヴァ弐号機が使徒の一方に投げられんとしている所であった。

それだけでも持病の頭痛―これはネルフに来た時以来だが―が悪化しそうだと言うのに、2、3列程前の席で起こっている事態を見、冬月は鈍く響いてくる痛みをはっきりと感じる事と為った。


言い争う二人のパイロット、碇シンジと惣流・アスカ・ラングレー。 その間には、碇シンジの双子の妹という事に為っている子供が居る。 冬月の横に居る男、碇ゲンドウの嘗ての妻―ユイ―と瓜二つの子供が。
委員会に報告されない、いや、正体すら分からぬ子供。 23番染色体のみが違う予備パイロット。 碇ゲンドウの一存で飼う事になったそれは、何時毒を撒き散らすか分からぬ蟲の如き嫌悪感を冬月に味わわせる。



「君達の仕事は何か解るかね」
ゲンドウの重く太い声が二人に投げられる。 一瞬少年と目を見合わせたアスカは、続いてゲンドウの方を向き、答える。
「エヴァの操縦です」
それを聞いたゲンドウは僅かの間の後、答える。
「違う、使徒を倒す事だ」
そう言い残すと、ゲンドウは椅子から立ち上がり、冬月とレイを伴って明るい廊下へと
出て行った。


レイがその時二度、三度振り返って何を見ていたのかは誰も分からなかったが。




自宅に帰り、鍵が開いている事に不審の念を抱きながらドアを開けた双子の目に映り込んで来たのは、様々な大きさの段ボール箱だった。 それも大量に、玄関から続く廊下へと並べられている。
「何だ、これ?」
隣に居る少年の声に横を向いた少女は心の中で、哀しく苦笑する。
そうか、“あの”少女がまた来たのか、と。


その時、廊下の奥、ちょうどリビングの辺りから紅い頭が覗き、アスカが姿を現した。
「あらアンタ達、もう帰ったの?」
やや大きめの段ボール箱を両手で抱えながらアスカが言う。 どうやら荷物を運び込んでいる様だ。 そして、その荷物が運ばれて行く場所は―
「ああっ、僕の荷物!」
少女の前を歩いていた少年が頓狂な声を上げた。 少女は少年の白いワイシャツの肩口から前を覗く。 其処には、ドアの前に積み上げられた少年の荷物。
情け無い顔をした少年に向かい、アスカは事も無げに言う。
「アンタ男なんだからどこでだって寝られるでしょ? シヲリの部屋取る訳にも行かないし。 ま、諦めなさい」
項垂れる少年と、僅かに頬を上気させる少女。 と、更なる声が玄関から聞こえて来た。

「あら、アスカもう来てたの?」
そう言い、上がり込んで来た女は葛城ミサト。 彼女は少年と少女を確認すると、再び口を開いた。
「二人も居るのね、丁度良かった―」
我関せずと言った様子のアスカと、何が起こっているのか未だに把握できていない少年。 そして、これから何を言われるのか知っている少女に向かい、ミサトは続ける。
「―これから、三人には暫く一緒に住んで貰います」




赤、青、緑、黄色。 色取り取りの円が並べられた2枚のシートの中で、少年とアスカが忙しく動き回っている。 ツイスターゲームのように見えるそれはしかし、円自体が光るという点で通常の物と異なっている事が確認できた。
少々音の割れた電子音と共に黄色の円が光る。 二人は右手をその円の上に乗せる。 次は緑に右足、ついで左足を青に。 だが、10秒程後に少年が倒れ、滑稽なダンスは終演を迎えた。
「アンタ、もうちょっとうまく出来ない訳?」
呆れ半分、怒り半分の表情で立ち上がったアスカは少年を見下ろしながら言う。
「しょうがないじゃないか、こっちだって一生懸命やってるんだよ…」
そう言った少年だったが、やはりばつが悪いのか、言葉に力が無い。


「こりゃ、アカンかもなあ」
少年と少女が暫く学校を休んでいるのを心配してやって来たトウジが呟く。 隣で胡坐をかいているケンスケも、同様に渋い顔をしている。
大体がして、見て行けとミサトに言われたならある程度は形になっているものと思ったのだ。 そもそも使徒を退治できなければ人類が滅亡してしまうのだから。
それが、この程度とは。 これなら小学生の運動会の方が余程まともなのではないかと思わせられる状況がかれこれ30分程も続いているのだ、彼の言葉も至極当然であり、そしてその原因が碇シンジにある事もまた、自明であった。



壁に寄りかかりながら眺めていたミサトは考える。
幸い、零号機も先の使徒戦での損傷の修復は済んでいる。 ならば初号機を外し、アスカとレイで行くべきか。 だが、彼女らの連携がきちんと取れるとはとても考えられない。 シンクロ率の高い初号機を使い、シンジとレイという組み合わせも考えられるが。 しかし、そうなるとシンジの動きの悪さがネックになってくる。
と、その時ミサトは思い出した。 確か―


「シヲリちゃん、あなたシンジ君の代わりに入ってみて」
そう、彼女も初号機にシンクロ出来た筈だ。 しかもそれ程少年と遜色無いシンクロ率を挙げていた記憶が有る。 ならば…。




その場にいる全員が呆気に取られながら二人を眺めていた。
「こりゃ凄いな…」
思わず、ケンスケが声を漏らす。 一糸乱れず動く二人の少女。 その踊りは、各々の手足がまるで繋がれているかのように。

間の抜けた電子音と共に二人の舞が終わる。
「…ねえシヲリちゃん、練習してたの?」
ミサトが戸惑ったような声で少女に尋ねる。
「いや、別にしてませんけど…」
少女は躊躇いがちに答える。 そう、“ここ”では練習していないのだ。 昔、何ヶ月か前の“今”にしていたのだから。
「そう…。 まあ良いわ、これで目処が立ったし」
心持安心したミサトの耳に、アスカの声が聞こえてくる。
「結構やるもんねえ、アンタも。 初号機にはずっとシヲリが乗ってた方が良いんじゃないの?」
ついぞ褒められた事など無かったアスカからの言葉に、少女はくすぐったそうに下を向きながら答える。
「そ、そんな事無いよ…」




そして皆が気付かなかった。 少年が消えていた事に。 少女でさえも。





初めに異変に気付いたのはレイだった。
既に時間は午後6時を回っていた。 お礼と称した夕食を皆に振舞おうと、少女がエプロンの紐を背中に回し、結び始めたその時、仄小さい声で誰に話すでも無く発せられたレイの言葉が少女に聞こえた。
「碇君が居ない」


その瞬間、少女は走り出していた。 まずシンジの部屋へ、そして部屋の中を見るとすぐ、少女は玄関へと向かった。
シンジの部屋は、いつもと変わらなかった。 机の上に有るべき、S-DATが無いだけで。



折から、雨が降り始めていた。 温い空気の中、雫によって舞い上げられた埃の匂いを感じながら、少女は走る。
噛み締めた奥歯が耳障りな音を立てている。 そして、少女は自身を詰る。


少年と共に、少年の隣で生きて行くと決めた筈なのに。 未来を見ないと、見てはいけないと識っていた筈なのに。
何故、明日を、ヒトを見たのだ。 此処に居てはいけないモノであるのに、どうして。
自分の愚かしさに反吐が出る。 本当に大事なものは、己で護らなければならないのに。 それが、世界中の人々を踏み台にして生きた自分の学んだ事であるのに。



少年は、意外とすぐ見つかった。 自宅からほんの少しの所にある小さな公園。 疎開が始まり、小さな子供とそれをあやしていた母親の笑い声も聞こえなくなった寂れた場所で、少年はベンチに座っていた。
それ程強くは降っていない雨に静かに打たれながら、俯き、小さくなっている少年。
表情は黒髪に隠れて窺う事は出来ない。 が、少女にはその顔を鮮明に目の前に浮かべる事が出来る。 現実から逃避し、何も映さぬ瞳。 その瞳は、嘗て少女がしていたものと同じであったから。


恐る恐る近づく少女。 何時から気付いていたのだろう、少年は小さな、しかし有無を言わせぬ強い調子で独り、呟く。
「来ないでよ…」
その声に、少女の足が止まる。 自分に拒絶されたミサトはこのような気持ちであったのだろうか、と自分を静かに嘲笑しながら。
だが、それでも自分は少年に触れなければならないのだ。 少女は、少しずつ歩を進める。


少年がこちらを向く。 その顔に少女は恐怖する。
少年の表情は兄妹への親愛、愛人への愛情、親友への友情、その全てが入り混じっていた。
そして、裏切られた事への憎悪、此処へ存在する意味を脅かす者への嫌悪もまた同様に。


それでも少女は僅かな期待を込め、少年へと言霊を投げかける。
「あ、あのさ…」
その言葉と同時に少年へと伸ばされた少女の左手はしかし、少年の激昂と共に弾き返される。
「シヲリに、シヲリに何が解るって言うのさ!」
少年の目は涙に濡れていた。 その涙は悔しさと、少女へ理不尽な怒りを向けてしまった己に対して。
少年は立ち上がり、出口へと歩いて行く。 少女は、少年の背中へ掛ける言葉を持た無かった。


独り残された少女は思う。 打ちひしがれた少年からの、どんな責めをも甘受しようと。 この濁った心で良ければ、全てを捧げよう、と。

だから、少女は泣く訳にはいかなかった、頽れる訳にはいかなかった。
あえて少女は空を見る。 濃い灰色をした空を。 舞い降りる雫達が、悲心を洗い流してくれることを願いながら。





少年は、ただ歩いていた。 当て所も無く。 何も考えず、考えられずに。
段々と強くなる雨が靴の中に滲み込み、濡れた靴下が踏みしめる足に張り付く。 耳に差し込まれたイヤホンからは少し前―少年が此処に居なかった頃だ―流行った女性ヴォーカルの声と軽いリズムの音楽が流れていたが、それも少年の心に雫を落とす役目を果たさなかった。
彼は後悔していた。 少女を、妹を詰ってしまった事に。
解っていたのだ、自分の力が足りないだけだと。 だが、悔しかった。 守らねばならぬ少女に見せる、己の姿に対して。
その怒りを少女へと向けてしまった自分へ対する、やり場の無い憤りを胸に抱え、少年はただ歩いていた。
その時、少年の後ろから声が聞こえた。
「お、シンジ君じゃないか」
振り向いた少年の目に、無精髭を生やし、長い髪を後ろにまとめた男―加持リョウジ―
の姿が映った。




「…で、君は逃げ出してきたって訳だ」
加持の言葉に、思わず少年は立ち上がって反論する。
「そんな、逃げ出してなんか!」
だが、他の客の好奇の目に晒され、少年は顔を赤くして座りなおす。
繁華街から程近い喫茶店に二人は居た。 と言うより、加持が半ば無理やり連れて来たのだ。 少年は勧められるままホットココアを飲み、気付いた時には顛末を話し始めていた。


「悪かった、悪かったよ。 だからそんなに興奮するもんじゃないさ」
苦笑を浮かべながら謝る加持に、少年は毒気を抜かれ、憮然とした表情を作る。

―ミサトの奴、面倒な仕事押し付けやがって―
そう思いながらも加持の表情は柔らかい。 歳の離れた弟と会話する事は、彼にとっても良い気分転換になっているらしかった。


「用が無いんなら、僕帰ります」
そう言って再び立ち上がりかけた少年を、加持の言葉が釘付ける。
「何処にだい?」
「……」
少年の声無き声を解したのだろう、加持は更に続ける。
「例えば今君が自分の家に帰ったとして、どうするつもりだい?」
「それは…」
俯き、小さな声を絞り出す少年。
「だから、俺の話をちょっと聞いてみないか、って事だ」
打って変わって薄い笑いを浮かべ、軽妙な調子で言葉を綴る加持に抗う術も持たず、少年は席に着く。

加持は煙草に火を付け、窓ガラスに流れる雨の雫を眺めながら少年に問う。
「君は、人と話すのが好きかい?」


「…それが、シヲリと関係あるんですか」
押し殺した少年の声に眉を動かす事無く、加持は紫煙を吐き出し、答える。
「苦手なんだな、人と言葉を交わすのが。 だから、そうやって誤魔化そうとする」
「な…!」
眼を大きく見開いた少年に対し、加持は言葉を少年に差し出す。


「いいかシンジ君、これだけは覚えておけよ。 大事な人に伝えたい、本当に大切な事は、口で言わなきゃ伝わらない。 好きとか、嫌いとか、幸せだとか、不幸だとか、嬉しい、悲しい、そういったもの全部だ。 『眼を見れば解る』、あんなのは嘘も良いとこなんだよ。 …そりゃあまあ、ある程度は伝わることも有るけどな。 でも、本当の本当に大切な、伝えたいことが有るんなら、言葉にして伝えなきゃ、相手の心には届かない」

俺は失敗したからな、と加持は嗤う。
自分は大事な、護りたい人間を失ってしまったから。 あの時、愛していると伝えていたら。 それは青春の終わりの苦い想い出。

「…ちょっと喋り過ぎたかな。 ここの勘定は払っておくから、もう少し考えると良い」
加持は、いつもの調子でそう言って、伝票を振りながら出口へと歩いて行った。



―こりゃ、シンジ君に嫌われたな―
たまには、雨に濡れながら帰るのも良いものだ、と。 加持は空を見上げた。





少年は、走っていた。 傘を忘れてきた事にも気付かずに。 雨に打たれるその眼は、少女やレイが未来を見た、黒い、澄んだ夜空の様で。

加持の言葉に穿った見方を出来る程少年は大人では無かったし、また、加持に嫌悪を抱く程には少年は子供では無かった。
少女に、謝らなければいけない。 それだけを思って、少年は走る。 その行為は言わば少年の単なる自己満足に過ぎないものであったし、その事に少年は気付いていなかったが。
それでも、いや、だからこそその行動によって少年の内部は透き通り、少女やレイの様に少年へ惹かれる者が居るのかもしれなかった。



扉の前に立つ少年。 少女に責められる覚悟は既に、出来ている。 だから、少年は迷わず扉を開けた。
謝ろう。 少女に、悲しい思いをさせてしまった事に。 自分の全てを以って。
「ただいま…」



しかし、その言葉を聞くべき者は、今、此処に居なかった。





数時間前。

灰色の河が、天を流れている。 それは濃い灰色となり、薄い灰色となり、左から右へと緩やかに、全てを包み込む様に。
少女は、雨に打たれていた。 己の不甲斐無さに唇を噛み締めながら。
部屋着にしていたクリーム色のTシャツとデニムのホットパンツが雨に濡れ、裾から水が滴っている。 それでも、少女は動かなかった。 まるで、こうする事が少年への償いであるのだ、と言わんばかりに。 それは、空を牧師とした懺悔だった。



その時、少女の上に後ろから傘が差し出された。
「…別に心配したわけじゃないのよ、コンビニの帰りに見かけただけなんだから!」
振り向いた少女の目に映ったのは、アスカ。
「ほら、帰るわよ」
そう言って少女へ傘を渡し、出口へと向かって歩き始めたアスカだったが、後ろから少女が付いてくる気配が無いことに気付き、振り返った。

「…まだ、ここに居るよ」
少女のその言葉に口を開きかけたアスカだったが、少女の表情を見、口を閉ざした。


―そんな顔されたら、何も言えないじゃないの―
少女がただ悲しみに暮れていただけだったら、アスカは黙っていられなかっただろう。 だが、少女の眼に宿っていたのは悲哀や、落胆では無かった。 そこに見えるのは、決意、そして覚悟。 その眼は奥が見えないほど黒く、空を映したように濁ってはいたが。
初めて少女のその眼を見たアスカは、一言声を掛け、帰っていった。
「気が済んだら、帰って来なさいよ」
と。




一時間程後、自宅に戻った少女が見たのはボストンバッグを抱えたアスカと、何処かへと電話を掛けているミサトだった。
「―じゃあ、そういう事だから」
ミサトは、受話器を本体へと戻す硬質な音と共にアスカの方を向き、言う。
「良し、シヲリちゃんも帰ってきたことだし、準備できたら行くわよ、アスカ」
「え…?」
状況が掴めずに居る少女に、アスカが継いで言う。
「今からアンタと一緒にネルフへ行くのよ、ユニゾンの特訓しにね」
「悪いけど、もう余り使徒が来るまで時間が無いの。 次の作戦はアスカとシヲリちゃんのユニゾンで行くことに決まったから、シヲリちゃんも準備して。 …あ、でもその前にシャワーでも浴びて来なさい。 風邪引いちゃうわ」
ミサトの言に、シヲリは戸惑いながら問う。
「え、お兄ちゃんじゃ…」
ミサトは仄かに笑みを浮かべつつ、少女を諭す。
「シンジ君には私から言っておくわ。 暫く此処には帰れないと思うけど、そんな長くはならないから、我慢してね」


そして、少女達は彼の地へ赴く。 独り、少年を残して。





同時刻。

「碇、これで良かったのか」
薄暗い司令室の中、冬月が問う。 主語は、碇シヲリ。
「ああ」
冬月の方に振り返りもせず、ゲンドウは答える。 その眼は、正面を見据えたまま、微動だにしない。

「なら構わんが…何故、今になって許可を出したりしたんだ」
それは、突然と言っても良かった。 シンクロテストすらまともにさせず―作戦部から、と言うより葛城ミサトから再三の要求が出ていたにも関わらず、だ―にいた少女を、今になって何故。 作戦部長の要請が有ったにしろ、冬月にはそれは理不尽な決定に思えてならなかった。
再びゲンドウの口が開く。
「…老人達への薬だよ」
「そうか」
冬月はそれを信じる訳では無かったが、これ以上詰問しても望んだ返答が得られぬと悟り、口を噤んだ。


その薬は、死へと誘う毒薬である様に冬月には思えてならなかった。 そしてその効果は老人達だけでは無く、自らも蝕まれる毒である様にも、また。





第七使徒は、倒された。
アスカとシヲリのダンス。 その華麗さと強さとは、オペレーター達、そして、赤木リツコを驚嘆せしめるに充分であった。 そう、嘗て少女が経験した舞とは万倍も異なっていて。


「…シヲリ、良かったね」
笑顔を見せる少年に、アスカと共に本部へと帰還した少女はこちらも微笑で答える。
「うん」


それは己の仕事に忙殺されていたミサトを責めるべきなのか、そのミサトに任せた少女を責めるべきであるのか。 おそらくそのどちらでも無く、また、誰が悪い訳でも無いのだろう。 ただ、残酷な事実だけが其処に横たわる。




少年へ、今日の緊急連絡まで連絡は無かった、と言う事実が。




勝利に酔う皆は、少年の笑みの浅さに気付かない。
赤い靴を履き、踊り続ける少年。 彼の脚を切る者は、未だ居ない。






<前へ> <目次> <次へ>