未来の過去、過去の未来

2話 あの暑い夏の日へ







そして、二人の生活が始まった。

幸い、食料や住居には困らなかった。 建物はそこら中にあったし、ヒトはもういないのだから。
衣類に関しては、更に困らなかった。 というより、必要がなかったと言うのが正しいだろう。 もともと、自分の半身に裸を見られたところで恥ずかしくは無い。 その上、この世界は常時適温に保たれているらしく、防寒の意味でも衣服を着用する意味がなかった。
それでも最初のうちは今までの習慣もあって着ていたのだが、もうひとつの理由―それが一番大きいのだが―によって、結局衣類は投げ捨てられることになった。


「ねえ…、しよ」
「うん」
二人が唾液を交換する。 少女の口から零れ落ちた唾液が顎から垂れ、なだらかな乳房を通ってきめ細やかな肌をした腹をなぞってゆく。 口づけと言うより、互いの口腔を犯し合っていると言った方が正しいような、そんな接吻。
「ぷはあっ…」
かれこれ5分ほど続いただろうか、少年から口を離した。
「ねえ、もう我慢できないよ…。 いい?」
少年が言い、少女の秘部に手をやる。
「ひぅ、ん…! う、うああ…」
既に少女の秘芯は濡れそぼっており、少年の愛撫によって淫らな音を発していた。 その上、つい1時間ほど前に行った性交の際に少女の膣内に残った少年の精液も、潤滑剤として少女の性感を高める役目を果たしていた。

「入れるよ…」
二人は後背位の体勢になり、少年は少女の秘裂へ己の分身を突き立てた。
「うぐっ…、ふ、深いっ…、んふぅ」
何百となく性交をしてきているとはいえ、本来は14歳の肉体なのだ。 膣は浅く、後背位になると、少年の亀頭が子宮に擦れてしまう。 しかし、最近はそれすらも快感に変わってきている自分をもまた、少女は感じていた。
「ああっ、奥っ! 奥が擦れて…、っはああ!」
休みなく繰り返される少年の激しい抽送に、少女は軽い絶頂に達してしまったらしい。 四肢の力が抜け、肩を地面につける格好になる。
「ぎっ、あ、ひっ、えああ」
だが、少年の動きは止まらない。 少女が、もっと激しい行為を求めているのを知っているから。 中性的な顔立ちをした少年の額に、汗で黒髪が張り付く。
「あっ、そこ、そこ深い、いっ! は、あ、あ、ひぐっ…!」
「またきつくなってきたよ…、あっ、はあっ、はっ、はっ」
少年の激しい息遣いと、少女の絶叫とも悲鳴とも言えるような喘ぎ声。 二人の肉体がぶつかり合う音と、体液が混ざり合う卑猥な音と香り。 それらが混ざり合って、二人の性感を急激に高めてゆく。
「あっ、あっ、ふうっ、はん! ぼ、ボク、ボクもう、ひんっ、あああああっ!」
「僕ももう、あっ、はあっ、だ、出すよっ! はっ、はっ、はあああっ!」
「「あああああああっ!」」
二人は同時に果て、少年は少女の中へ白濁した液体を放出した。

しかし少年はすぐに肉棒を引き出した。 その肉棒は放出したばかりだというのにいきり立ち、精液と愛液に塗れていた。 そして少年は少女に言った。
「はぁっ、はぁっ、ま、まだ足りないんだ…もう一回」
「っ、うんっ…。 じゃあ今度はこっちに…」
と少女は、ピンク色に色付き、ひくついている自分の肛門を広げた。
「んっ、いくよ…」
淫猥に濡れている自分の肉棒に、滑りを良くする必要が無いと判断したのだろう、少年は亀頭を菊門に押し当て、徐々にめり込ませていった。
「ひぎぃっっ! がっ、はあっ、うんっ…さ、裂けちゃうっ…!」
肛門に肉棒が割り入ってくる感触に、少女は悲鳴を上げた。 だが、少年の挿入は止まらない。
「あ、ああ、き、きつい…」
亀頭を潰されるような感触が、膣とはまた違った快感をもたらしてくれる。
「ぎっ、う、ふ、ううん…はあっ!」
拡がった肛門と直腸に、苦しみの中から快感を見つけ、酔う少女。
「う、ん…、全部、入った…。 動くよ」
「あああっ! うう、あああ」
少女の声は既に返事になっていない。 倒錯的な快感に、既に頂に到達してしまったようだった。
「ふっ、ぐっ、ぐっ…」
肉棒を万力で締め付けられるような感触が少年を襲う。 押し潰されそうな快感が
寄せてくる。
「え、えあ、あああああっ、んぁ…」
少女は濁った意識のままで、それでも更に快感を求め、腰を振っている。 陰茎によって引き摺り出される肛門の周りの肉がグロテスクに蠢く。 腸液に塗れた肉と屹立した男根が奏でる光景は少年の興奮を頂点へと連れて行った。
「あっ、ああっ! また、また出るよ…っ! あ、あああああっ!」
陰茎から精液が多量に迸った。 二回目だというのにその量は減るどころか、更に増えているように少年には思われた。
「えあっ! ぅん…ひぐっ! あふっ、ひぃっ、ああっ、ゃあああああっ!」
噴出した精液に刺激された少女は、もう一段上の高みに上り詰め、意識を失った。

二人は食事と睡眠以外の時間をすべて性交に当てていた。 飽きることもなく、
それどころか当初より段々激しさを増していくようだった。


それが三月ほど続いた頃だろうか。



突然、少女が消えたのは。





青い空。 白い雲。 照り付ける陽射し。
あの赤い世界とは対極に位置する世界に、少女はいた。
「夢…?」
自分は第壱中学校の女子制服を着ている。 あの爛れた生活の間に、いつの間にか女でいる事に慣れてしまったのかと、苦笑しつつも久しぶりの陽光の感触を愉しむ。
…そうか、自分は先程まで半身たる少年と性交していて、いつものように気を失ったのだ。
「あっ、んんっ…」
快楽の余韻を思い出した少女の中心が疼く。 もう一度少年と愛し合おう、そう決めた少女は目覚めようとした―筈だった。

「…あ、あれ?」
目が覚めない。 それどころか、コンクリートの焼ける匂い、風が運んできたむせ返る様な緑の匂い、どれも本物のように感じている。 そう、赤い世界ではついぞ感じることの出来なかった、かつての匂い。


―そして突然、少女は理解してしまった。 これは現実なのだと。 夢などではないのだと。 何故かは分からないが、自分はどうやら、あの、暑い、苦しい世界に、また戻ってきてしまったのだと。
「あ、ああああっ!」
だが、現実を理解することが必ずしも良い結果を生むわけではない。 自分の半身と片時も離れない生活を送ってきた少女には、この凄惨な事実を受け止められるほどの心の強さが有ろう筈も無かった。

あの頃のような、濁った瞳で虚空を見る。 手に入れられそうだった仄かな希望―例えそれがかりそめのものであったにしてもだ―を奪われた少女には、辛過ぎる現実だった。 余り遠くない所で戦闘機のジェット音が聞こえる。 いっそ、それに殺してもらいたいと少女は思った、その時だった。

「き…君?避難しなくていいの?」
自分の半身の声が、後ろから聞こえたのだ。 振り向いた先には、紛う事なき少年の顔。 少女は、少年の顔を認識した瞬間に飛びつき、抱きしめていた。
「逢いたかった、逢いたかったよ…」
少女は少年の耳元で囁く。 もう離れたくない。 少年さえいれば、他に何も要らない。 少女は、いつものように少年へと接吻をし始めた。 絶望から希望へと、ジェットコースターのように揺れ動いた心に動かされ、少女はより深い感触を求めて、少年の口腔内を犯す。
「ふぅっ、うん、んむっ…」
少女の暖かい舌が、少年の口内を陵辱してゆく。


一方、少年は戸惑っていた。
つい最近、もう何年も連絡がない父から「来い」とだけ書かれた手紙を受け取ったのが始まりだった。 気が乗らないままに来てみれば、突然の避難警報によって停止する列車。 何事かと思って外に出たところ、ふらふらとしながら空を見つめる、制服を着た少女が居て、警報が出ていることを知らないのかと思い声を掛けてみただけなのだ。
その少女に、口内を犯されている…。 平均以上に奥手で、対人恐怖症気味な少年は、接吻はおろか、女子生徒と親しげに話した記憶すらほとんど無いのだ。 突然の口付けの衝撃はしかし、少年の理性を急激に奪う麻薬となって彼の脳内を駆け巡っていった。
「んっ、うんん…」
少年が少女の舌におずおずと答える。
「はんっ、うむぁ、あん…」
少女はその返答に喜び、ぬめる舌を執拗に少年の舌に絡めてゆく。 少年にとって、初めての接吻の衝撃は甘美過ぎた。 自分の器官を犯される快感に、少年の陰茎は痛いほど勃起し、先端から出る大量の体液が下着を濡らす。 しかしまた、それは少女も同じだった。 元々、少年と性交しようとしていたのだ。 半身を見つけたことで更に高まった性欲から導き出される愛液は、下着を濡らすだけに留まらず、内腿を伝って垂れ、その先の白い靴下が透けるほどになっていた。
「ん、んぁっ…!」
少女が少年の陰茎に触れた。 学生服の上からでも、硬く、太くなっているのが分かる。 しかも多量の先走り液によって、黒いズボンは既にぬめっていた。 少女は恍惚とした表情を浮かべながら、少年の陰茎を愛撫する。 と同時に、自身の秘裂を弄び始めた。
「ふ、ふあぁっ、で、出ちゃうよ…っ!」
真っ白な意識の中で、少年はうわ言の様に呟く。 少女の接吻によって破裂寸前だった陰茎に、学生服のズボンの上からとはいえ、直接刺激が加えられたのだ。 今までに性的刺激と言えば自慰行為しか経験の無かった少年にとって、他人の手による奉仕は今までにない快楽となって襲い掛かった。
「ああっ、待って…!」
少女は一旦愛撫を止め、少年のズボンを下ろした。 少年の白いブリーフは、既に陰茎の色まではっきり分かるほどに透けていて、少女の興奮を煽るだけの意味しか持たなかった。 少女はもどかしそうにブリーフを下ろすと、透明な液が溢れ出ている陰茎を、喉の奥まで躊躇うことなく差し入れた。
「はああっ、もう、もう出るっ…、あああっ!」
少女が口淫を始めてから数瞬後、余りの快感に耐え切れなくなったのだろう、少年の陰茎は少女の口から撥ね出し、放出された精液は少女の顔面を覆った。 と同時に、自慰行為によって既に限界近くまで到達していた少女も、少年の精液を顔面に受けるという被虐的な経験に痺れ、背徳的な絶頂に達した。
「はああっ、んっ…、ぼ、ボクもっ、はあん、ひっ、あああああっ!」


しばらく後、顔を洗ってきた少女は、疲労のためか眠っている少年の違和感に気付いた。
「髪…」
少女の記憶に拠れば、自分の半身はもっと髪が長かった筈だ。 自分は肩近くまで伸びているのに、今ここで寝ている少年は最近切り揃えたかのような髪。 しかも、少年が着ている制服は、自分がかつて通っていた中学校、第壱中学の物ではない。 どちらかといえば、そう、先生のところに居たときのような…。

そこで少女は気付いた。 晴れた日、列車に乗った自分、避難警報、戦闘機。 そして列車に乗って来た自分ではない自分。 もし、この世界が前の世界だと同じだとしたら―


果たして少女は異形の怪物を見た。 それはほんの少し昔、自分が見た光景と全く同じ
だった。


第三使徒、襲来。



そして少女の、二回目の物語は始まった。






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