「うわああーーーでっけえなあああっ!!」


「これが海かあぁ!」


暫く前から、変な匂いがするといって大騒ぎしていた明日香と小丸は、僕を急かしながら砂丘の斜面を、
駆け上っていった。もう、小丸なんかは途中から服を脱ぎ捨てて水泳パンツになっている。
どういう「海」を想像していたかは分からないが、どこまでもどこまでもが海という状態をきいて、頭の中は
おそらくそれでいっぱいになっていたに違いない。
明日香にしたってそれはおんなじで。今更海なんて・・・という態度を示そうとして、完全に失敗していた。

レンタカーを借りて来た僕の周りを一番飛び跳ねて回って、一番荷物を積み込んだのは明日香だった。
町内に住んでいる高校の友人から、いろいろな浮き輪や海で遊ぶグッズを思い切りし込んで来て、町まで
飛んでいって、山のような荷物を持って帰ってきたりした。おかげで僕は、結局荷物を積みきれなくなった
レンタカーを取り替えに行く羽目になった。この量じゃワゴンじゃなきゃ無理だよ・・・。はあ。

まあ、そんな訳で、二人は期待に満ち満ちて、砂丘のてっぺんに走っていって叫んだ。


「海だああーーーーーっ!!すごいなあああーーーーっ!!!」


僕は大満足だった。そうだ、都会近辺のちんけな海とは違う!
こっちの海は巨大で砂浜は大きくてさらさらで、海に潜ったって、どこまでもどこまでも透明な青い世界が
広がっているんだから。
僕が明日香と小丸の尾お荷物を抱えてよろよろと砂丘のてっぺんにたどり着いたとき、二人はもうとっくに
遥か向うの波打ち際で、ばしゃばしゃと飛び跳ねていた。明日香なんか、ワンピースを脱ぐのも忘れて、
そのまま、ずぶぬれではしゃいでいる。まわりにいる人たちが、笑っているのがこんな遠くからでも見える。
ぼくは、かーーっと赤くなって、全速力で妖狐姉弟のところにむけて走っていった。




海の青、空の青、赤い水着と青い瞳





written by こめどころ
painting by penpen




僕がひいひい言いながら駆けつけると明日香は笑って、汗をハンカチで拭いてくれた。
だが、すでにそのハンカチもびしょびしょだ。


「明日香、これじゃあ駄目だよ。せっかくの服まで・・・。」

「いいのよ。どうせ下に着てるんだから。」


そういうと。彼女はいきなり胸のボタンを一気に外すと、水色のワンピースの裾をめくりあげて脱ぎ捨てようとした。
周りの男達がおおおっと歓声を上げる。胸のとこで水着がひっかかったのを無理矢理脱ごうとして乳房の下半分が
ちらちらと揺れる。


「こ、こらっ!明日香!だめっ!」


僕は大慌てで、ワンピースを掴むと下に引き降ろした。


「なにすんのよっ!!」

「なにすんのじゃないよっ。おっ、おっぱいの下半分が 、見えちゃいそうだったんよっ。」

「なによっ。もごもご言ってないで、はっきり言いなさいよ!」


言えたらこんなにどきどきしてるもんか・・・。見回すと周りにいた男の人たちがシーンとしてこっちを見ている。
僕が、じっと睨んでたら、はっとしたようにみんな海や空の遠くの方を眺めている振りをした。なかには気の毒に
一緒の彼女にばれて、天誅を加えられてる人もいた。ほら、あそこにも。・・・・あれえ?


「このお、鈴原っ。あんたって人は!」


「か、かんべんしてえな。きれいな子がいたもんやから、つい見とったら向うが勝手にやなあ。」

「やあ!鈴原君とえーと、委員長じゃないか。君たちも来てたんだ。」

「あっ、あんたは転校生やないか。」

「碇くん!!」


委員長はたちまち真っ赤になってしまった。鈴原と一緒のとこを見られたのがよほど恥ずかしいらしい。


「あら、珍しい組み合わせね。硬派のスズハラ氏と、teacher doll の委員長の組み合わせなんて。」

「そ、そっちこそ!皆に怖れられている惣流明日香氏に恋人発覚!なんて学校新聞の
ゴシップ欄にのっちゃうわよ。

「女性週刊誌みたいなこと言わないで頂戴よ。」


この二人、日頃からあまり仲が良くないようだった。


「へ、このおなごはんは、本当に惣流明日香はんでっか?随分イメージが変わるもんですなあ。」

「どうかわったって?どうせろくなことを・・・。」

「いや、ちょっと可愛いのを鼻にかけて、つんつんした嫌なやっちゃなあと思うとったんやがな、
そうやって碇と一緒にいると何や、こうしっとりしてるっちゅうか、しおらしいと言うか・・・・。

「ど、どうせわたしは今、濡れてるわよっ。海ではしゃいだからね。」


明日香は、真っ赤になって後ろを向くと僕に言った。


「慎二が大声でしかったりするから、こんな訳のわかんない奴に、しおらしいとか言われちゃうん
じゃないのよ。」

「しょうがないだろ。それとも明日香は、鈴原におっぱい見られてもよかったのっ。」

「おっぱいおっぱい言わないでよっ。」


明日香はますます真っ赤になった。


「げ、あの惣流が真っ赤になってるで。こりゃあ、あの二人できとるな。」

「あの二人って、7月頃出会ったばっかりでしょう?なんでそんなに早くあんなに仲良くなれるのよ。」

「しかも呼び捨てやでイインチョ。アスカ、やて。」

「シンジ、ですって、きいた?私だって恥ずかしくて言えないのに・・・。」


どうやらこの二人も恋人同士としては初心者のようだった。僕はちょっぴり優越感・・・。
そこに早くも泳いできた小丸が、明日香との間に駆け込んできた。


「姉ちゃんなにやってるんだよ、早く脱げよっ。」


いきなりスカートをめくりあげると、ぐいぐいと引っ張った。


「きゃあっ!!こら、小丸っ。」


ずるずるっと、一度に背中までワンピースが引き上げられ、きれいな脚と格好のいいお尻がまるだしになった。


「きゃあああ!こらっ、小丸!!止めないと怒るわよっ!!」


中でもごもごと叫んでいるアスカ。そのとたんに、スポッとワンピースが脱げた。
はっとして胸を見ると、見事に赤い水着のブラが外れている。明日香はワンピースでとっさに胸を抱え込んで、
その場に伏せるようにしゃがみこんだ。
今度こそ、周囲の男達は総立ちになった。慎二は目の前で花火が爆発したような顔をしている。



「きゃああああっ、慎二ぃっ!!はやくとめなおしてえっ!ばかあっ!!」


男達は暫く誰も動かなかった。否、動けなかったのである。クラスの超絶美少女である明日香が目の前でなにもかも
曝け出してしまったのだから無理もない。
みな、ハナジの跡も生々しく、シーンと座り込んでいる。


鈴原トウジの顔にはさらにハナジの跡の他に、第2次天誅のこぶしの跡がくっきり残っている・・・・。


「ひ、ひどいやんか。委員長!わいがなにしたっちゅうねんっ!!」

「しらないっ! 死ねばいいのよっ!バカッ。」


トウジは、すがるような視線をこっちに投げかけてきた。(「センセエ、なんとかしてえな。」)って目だった。
けれど、僕は、悪いと思ったけどそっぽを向いた。こっちはこっちでそれどころじゃなかった。

女の子っていろいろ手がかかるしわがままだしって聞いていたんだけど、今迄明日香は、そんな事なかったんだよね。
自分のことは自分でしっかりやる、その上僕の面倒まで見てくれる、感心するくらいの模範的な女の子だったんだ。
それがどうだろう、海に行こうかって言ったとたんに、表情が急に変わったなって思ったら、ばたばたと買物して来て、
赤ちゃんみたいに甘え出した。
挙げ句の果てがさっきの騒ぎ。女の子ってなに考えてるのかさっぱり分からないや・・

委員長・・・。洞木さんも、普段のいかにも学級委員長って感じとまるでちがうなあ。
でも、僕には分かる。洞木さんはトウジが明日香の身体をデレーンとみていたのが悔しくてしかたがないんだ。
それはぼく自身が、明日香の身体を他の男どもに見せたくないって思っているからすぐわかった。


「・・・・これって、嫉妬っていうのかな。」


いささかショックだった。そういう感覚って僕には無縁だって思っていたから。でもそうじゃなかった。僕は単に今まで
好きな子がいないってだけだったんだ。お金を持ってなけりゃ落とさないっていうのと同じだね。
まあ、どたばた ひと騒動あったけどとにかく僕らは準備を終えて、海に駆け込んでいった。ざばざばと膝に感じる抵抗
それに引き倒されたみたいに海に飛び込むと、思いきり泳ぎ始めた。
僕のクロールは荒っぽいけど結構速いという自信があった。いい天気が続いていたので透明度も高い。
暫く泳ぐと海底は2mくらい下に見えるようになった。砂地のほとんどは海藻に覆われて、その上を小さな魚の群れが
稲妻型に方向を巧みに変えながら通り過ぎる。
尻尾だけが黄色い魚。下に潜っていくと、今まで突き出していた棒状の物が一斉にすっと姿が消えた。
下半分だけが黄色い、変わった魚だ。星フグがよろよろと泳いでいる。蟹が海藻の隙間を走り抜ける。
腰につけていた水中眼鏡とシュノーケルを付け、鼻から息を吐き出して水を追い出すと、海の中に身体を落として、
水面を足で叩いた。水温がぐっと冷たくなって気持ちがいい、見る見るうち海藻の林に入り、中でお腹をくすぐられる。
方向を変えて浜の方に目線をやると、黄色い海パンの男の子が、僕に向かって手を振った。小丸だ。
盛んに上を、持っていたヤスで指す。ばちゃばちゃと水面に赤いビキニの白い体が見える。
どうやら、明日香はのんびりと、犬かきを決め込んでいるらしい。
僕と小丸は合図をし合って明日香の後ろにゆっくり回り込んでいきなり、襲い掛かった。
小丸は、勢いよく海上へ飛び出して叫び注意を引く、僕はそこで明日香を抱きしめる。よーし、1,2の3!!


「わあああああっ!!」

「きゃぁああああっ!!」


明日香は思った通り、小丸の方へ身を上げた。僕は斜め後ろから明日香の腰にしがみついた。
ずぼっと海の中に、僕らの身体が沈み込む。

あ、あれっ??明日香?明日香が動かなくなっちゃったよ!

慌てて海面に持ち上げる。水中眼鏡セットを押し上げる。

ざばっ。

海面に顔を出すと小丸も見てたのか青い顔をしてる。明日香はすっかり、くたあっとしてしまって動かない。


「ね、姉ちゃん、びっくりして気を無くしちゃったんだ。」

「気を失ったぁ?このくらいのことでか!」

「ほら、たぬき寝入りってあるでしょ、突発事故があると、気を無くしちゃう習性って、犬属にはあるんだよ。」

「こ、こまったな。どうすればいいんだろ。」


僕らはとにかく浜に向かう事にした。小丸は先に行かせて、さっきの鈴原兄ちゃんを呼んでこさせることにした。
僕は、明日香の顎を片手で支えると、横泳ぎで引っ張ってゆっくりと泳ぎ始めた。
こんなにもろい習性があるなんてきいていなかったから、心配でどきどきする。

浜辺まで40mほど、向うから鈴原君と洞木さんが、ゴムボートを漕いでこちらに向かってくる。


「おーい!いかりいい!」

僕もそれに応えて手を振ろうとしたとたん、明日香がいきなり身体を捻って僕に襲い掛かってきた。


「わっ!がばぼっ!!」


海の中に引きずりこまれた僕は、目をらんらんと光らせた明日香と対峙していた。
頭の中で明日香の声が響き渡った。


(「慎二〜〜〜。よくもやってくれたわねえ。覚悟はいいわね。」)

(「い、いやあ・・・そういうつもりじゃなかったんだよ、ちょっとびっくりさせようと思って・・・!」)

(「いいわけ無用っ!」)


明日香は、身体の側面に手をぴったり付けると、身体をくねらせるようにして、凄い速度で僕のまわりを回り出した。
白い体と真っ赤な水着が目の中に残ってくらくらする。水面の光の揺らめきが明日香の肌に映っている。
あっという間に後ろを取られたかと思うと、僕はいきなり首を捻られて、明日香の顔がアップになった。

ゴボゴボゴボッ!


後から鈴原君に聞くと、外から見てると、まるで僕の足が攣って、明日香と一緒に沈んでしまったように見えたんだそうだ。
鈴原君と洞木さんは、慌てて僕らを助けようと海に飛び込んだ。必死になって水中であがいている僕のところに泳ぎつくと。

・・・僕は、明日香に首と頬を押さえられたまま、熱烈に唇を奪われていた。がばがばと空気を漏らし、ぴくぴくと痙攣しながら。
僕の網膜には、キスする直前の、手を広げた嬉しそうな明日香の顔が焼きついていた。青い瞳の、僕の明日香・・・。
僕は気が遠くなりながら、そっとアスカの細い腰に手を回した。信じられないほどそこは細くて、でもしっかりと女の子である事を
主張しているくらくらするような筋肉のつきかたをしてるわけで・・・。




僕は、明日香や鈴原くん達の声に目を醒ました。なんか凄くいい夢を見ていたような・・。
まだはっきりしない頭で、うっすらと目を開け、ぼんやりと3人のやり取りを聞いていた。


「まああああーーーったくやっとられんわなあ。」

「ライフガードに絞られたのは結局私たちなのよ。この埋め合わせは分かってるでしょうね、惣流さん。」

「だって、先に仕掛けてきたのは慎二なんだよ。私は仕返ししただけで、何も悪いことはしてないんだよ。」

「あーーあ!そうでしょうよ。裸の女の子にしがみついたのも冗談なら、気を失うまでキスしてたのも冗談、と。」

「うらやましいことでんな、けっ。こっちは、こんなとこまで荷物持ちに来た挙げ句、手えひとつ握るでもなくてやなぁ。あわわ。」

「鈴原っ、あんたそういう気持ちで私と海に来てるのっ?!」

「やっ、ごめん。イインチョッ!そないなわけではなくてやな。」


「ね。どうしてなの?」

「え?」


明日香に問い掛けられて、鈴原君と洞木さんは明日香の顔を見た。


「二人は好き同士なんじゃないの?洞木さんは鈴原君が好きだから2人で行きたくて海に誘ったんじゃないの?
鈴原君は何で付いてきたの?洞木さんが好きだから一緒に行こうと思ったんじゃないの?」

「えええっ!」

「そっ、それはやの、あのその。」

「みんなそうなの?好きでも好きじゃない振りをしてるべきなの、それが正しいの?」

「そんなことっ、・・・ないと思うよ。」


洞木さんはちらっと鈴原君の顔を見た。顔が上気していた。


「私は、私は慎二のことが好き、いつでも慎二のことを見てたいし、慎二と一緒にいたい。」

「・・・それは・・・好きなら、好きって言えた方がいいと思う。惣流さんはもう言えたんだ。よかったよね。」

「どうして洞木さんは言わないの?!」

「だって・・・。」


明日香は、真剣に二人に尋ねていた。その真剣な目に気おされたのか、うろたえていた二人も座り直した。
もうここまで問い詰めちゃったら、同じ事だったけど、洞木さんは涙ぐんで言った。


「怖かったから・・・。そう、私、怖くて言えなかったのよ。もしトウジが私のこと何とも思ってなくてただ付いて来て
くれてるだけなんじゃないかって思うと、怖くて何も言えなかったのよ。私なんて、今風の軽いのりのいい感じの子じゃないし、
まじめすぎて堅物で融通利かなくて、鈴原は、もしかしたら惣流さんみたいに、神秘的な美人が好きなんじゃないかと思うと、
胸が詰まって。もう何も言えなくなっちゃうのよ。」


ぽた。涙が洞木さんのあごから垂れた。


「今日、惣流さんと碇くんを見た時、一緒にいられるのを見られたくないとも思ったけど。ほんとはこんなきれいな人の横に
いるのが嫌だった。トウジがあなたの方を見るたびに胸が苦しくて、焼きもち焼いて、私って汚い・・。」

「わ、わいが悪かったんや!わいが一番卑怯者だったんや!」


鈴原くんは、浜辺に響くような大声で言った。


「わいも同じ気持ちやった。イインチョとは古い付き合いや、でもこないな、いい女はわいの回りにそうはいないんや。
わいはずっと、イインチョに、甘えとった!!ごまかしとった!ずっとこないなずるずるした曖昧なままでいたかったんや。
それもこれもわいに度胸がなかったせいや。すまん!イインチョ・・・いや、洞木、すまん。本当に悪かった。」


「ス、スズハラ・・・。それほんと・・・。」

「こないなことで嘘付くことがあるかい!たった今、本当のわいの気持ち、言うたるからな。イインチョ、まっとれや!」


鈴原君は、だーーーっと、浜辺に走っていくと、こちらをくるりと振向いた。


「まっ!!まさかあの馬鹿!!」


洞木さんがはっとしたように立ち上がった。明日香は自分が焚き付けたと言う意識がないから、きょとんとしている。
浜辺で、鈴原君は腰に手を当てて、大きく胸を張り、大声で叫んだ。


「あ、だめえ。」

「わたくし、県立名賀尾高校2年A組、鈴原トウジは、洞木光さんが好っきでありまーーーーーすぅぅぅっ!!!」


浜辺全体が、好意の笑いで満ち溢れた。


「よーっしっ!!」
「がんばれっ。わかいの!!」
「いいぞっ!!」
「決めろよっ!!」


大きな声援が雨あられと飛んでいる。その中を、トウジは堂々と胸を張って返事を待っている。
名賀尾高校伝統の白昼告白ってやつ。でも最近やる奴を聞いたことがない。
これに今度は告白された方が応えねばならないのだ。手に汗握るシーンである。


「ほらっ、洞木さん。」


浜辺全体から、彼女!彼女!彼女!と大きなシュプレヒコールが湧き上がっている。
みんなこんな馬鹿なことをやってきたのか?この県の人たちは。
名賀尾高校出身の人も多いし、この伝統を県下で知らない人はいない。


「がんばって、ヒカリ!!」


明日香が洞木さんを立ち上がらせた。


「わたし・・・やるわっ、明日香、あんたに負けないでのろけてあげるっ!」


可愛い青色の控えめな水着の女の子が立ち上がったので、浜辺の歓声は、ひときわ大きくなった。
そしてシーンと静まった。

洞木さんは、トレードマークのお下げを解くと、胸を張ってすっくと浜のスズハラ君に向かい、立った。


「スズハラさんっ。ありがとうございま−−すっ!!」


凛とした、いつものよく通る涼やかな声が浜辺を抜けていった。
一瞬、間を空け、大きな歓声が浜辺を包んだ。
いろいろな人たちがよって来て、鈴原君と洞木さんを祝福していった。ジュースやら、お小遣いをくれる人まで。


「すごいわ。ヒカリ、鈴原君。これでもう堂々たる恋人同士よね。鈴原君、男らしかったよ。ヒカリも立派だった。」

「いやあ、てへへへへ。」


あまりカッコよくない笑い声を上げる鈴原君。


「明日香のおかげよ。ああも正面から問い詰められちゃうとなんか、逃げられないって気持ちになっちゃったわ。」

「わいもや、もうこれ以上委員長に恥じ描かされへんって思うたら、なんや根性すわってしもうたわ。」

「ううん、そんなことないよ、ヒカリ。私ももっとがんばらなくっちゃって、思ったよ。」


明日香は立ち上がると腕をぶんぶん振り回した。そ、そんなに張り切らなくたっていいのに。


「せやかて、惣流と碇はもう恋仲なんやろ。なにをこれ以上頑張るんや?」


洞木さんもそうだそうだと言うように肯く。


「本当はね、まだ慎二は最後まで私を受け入れてくれてないんだ。
私、必ず慎二に抱いてもらって、いい子供を生みたいと思っているんだけど、まだだめなの。」

「「だ、抱いて、だいてもらううぅぅっ?!!」

「こ、こどもをつくるううっ!? どっ、こどもをつくるってえええっ!?」

「抱いて欲しいって頼むと、慎二は必ず駄目って言うの。」


あまりのことに、二人とも真っ赤になると、鼻血を吹いてくらくらと砂地に折り重なって倒れた。
明日香は倒れているヒカリの肩をぐらぐらと揺さ振った。


「ねえねえ、教えてよヒカリ。そんなにおかしな事なの?抱いてって頼むのってそんなにいけないことなの?!」

(「ぁ、明日香〜〜!たのむよぉ〜〜。僕は気付かない振りをしつつ頭を抱えててしまった。」)


彼女は魔物6
〜海の青、空の青、赤い水着と青い瞳〜




ゲンドウから使ってよいといわれていた海辺のバンガローは、海水浴場を望む小高い丘の上にあった。

こんもり茂った木々に囲まれた少し古風な建物は、2階建てで、芝生とバラを中心とした庭がある。
そして、バラの外側は、きいちごやブルーベリー、こけもも、グミなどの食べられる実がなる潅木に囲まれていた。


「ここは・・・・なんか覚えがある場所だなあ。」


シンジは、ぼんやりと一階のテラスの椅子に水着のまま椅子に座り込んで庭を眺めていた。
肩に引っかけたバスタオルで顔を拭いた後も、髪の毛からはぽたぽたと滴が垂れてくる。
庭の木々の間からは海水浴場が見渡せて、浜が岬のところで消えていくところや、反対側の松の林に遮られる所までが見える。
青い海が、青い空に溶け込んでいくところ。
このまま、ここから船出していきたくなるようなそんな気持ちに、男の子を誘(いざな)う。


「おーい! にいちゃーん。」


小丸が表の階段を駆け上がって、潅木を割って庭に飛び込んできた。小さなバケツにはヒトデやらウニやらなまこやら・・・。
と、思う間もなく木の根っこに引っかかって、ひっくり返り、戦利品を芝生にぶちまけてしまう。


「あははは。そこは僕もよく転んだんだ。」


シンジは言いかけてはっとする。ここは、何回も遊びに来ていた、あの、田舎の別荘じゃないか。
そこに、小丸が入り込んできた先の、ちゃんと階段を上りきった先から、明日香が現れた。
真っ赤な水着の上に朝着ていた水色のワンピースを羽織り、白いつば広の帽子を被っている。
ビーチパラソルの上に干しておいたのでうまく乾いたらしい




「あれえ、ここなんか、覚えがあるような場所だわねえ。」


シンジの脳裏に出し抜けに昔の記憶が甦った。あ、あああ、


「明日香っ!! きみ、木登りあっちゃんじゃないのっ!!」

「え?木登りあっちゃんて・・・・ああああーーーーっ!!もしかしたら、あなほりしんじいいーーー!!!」


二人の間を風が吹きぬけた。ばさーっ、スカートが風に舞い上がる。


「うわああああっ!!」

「きゃああああっ!!」


明日香は下に何にもつけていなかったんだ。




「君って人は、何でそういつもいつも、お尻出して歩いてるのっ!!」

「だってしょうがないじゃのいのっ!!女の子の水着は小さいから、砂が入って気持ち悪いし、痛いし大変なのよっ!!」

「みんな我慢してるじゃないか!」

「男のわかんないとこで苦労してんのよっ!!洞木さんだって・・・。」

「きゃああ!明日香ってば、言ったらいやああっ!!」


洞木さんが叫ぶ。


「へ?ということはイインチョも今はスカートの下は・・・。ぶはああっ!!!」


血の気の多いトウジがハナジを流して、にへらっとしたとたん、委員長の蹴りが飛んだ。
哀れな鈴原トウジは階段を荷物と一緒に転がり落ちていった。











つづく。続くったら続くっ!!




後書き:

今回ちょっと長くなりそうです。
その上前回からの間も開きすぎなのでここで一旦途中までのお話しをしましょう。
シンジ君の夏休みは、金毛碧眼3尾の狐、惣流明日香のおかげで大変な騒ぎになっています。
狐の神社に連れ込まれたり、お風呂でのぼせてひっくり返ったり、大事件が起こったり。
今度は、同窓の友達達まで巻き込まれそうです。
そこへもってきて、昔の懐かしい記憶に絡む洋館風の古い別荘。明日香がここにも絡んでくる気配ですが。

次回は、この続きになります。それではまた読みに来てくださいね。尻尾ふって明日香も待ってまーす!!


明日香: ・・・・こめどころの奴。これ以上恥ずかしいことばかりやらせたら・・・殺す。(バキッ)





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