『お父様と私』

【そのじゅうご・表】 作・何処


「…と、ゆう訳なのよ〜、チルドレンの身分を隠しての中学生活ってのも中々楽しいわ!ね、レイ、あんたも学生生活楽しんでる?時間は有効に使って楽しまなきゃ損よ!」
「ええ、楽しいわアスカ。でも…やっぱりアスカも一緒に同じ学校に通えればもっと楽しかったと思うわ。ね、碇君。」
「いい事言ってくれたわレイ!そうよその通りだわ流石ね素晴らしいわ良く解ってるじゃない!」

「あ…うん。け、けどさアスカ、怒らないで聞いて欲しいんだけど、僕らはやっぱりこれで良かったんじゃないかなって思うんだ。」
「え?えええっ!?」
「?碇君?」

「退院した後、アスカも僕もお互いの依存性…だったよね?から抜け出してなかったよね?」
「ええ、それで?」
「もし、あのまま一緒に高校まで進学してたら逆に…僕達は今こうして並んではいなかったんじゃないかな…。」

「そ、それは…そう、そうね。もしかしたら私は強制的にドイツのパパやママに引き取られてたかも知れないし、シンジもエヴァンゲリオン正規パイロットとして国連に徴用されたかもね…」

「?碇君、アスカ、何故そう思うの?」
「あー、レイには説明しないとね。私にシンジは一度精神を無理矢理同調させられてたけど、それをレイやカヲルのお陰で無事回収出来た。そこまでは判るわよね?」
「ええ、判るわ」

「あの後意識を回復した私の情緒不安は物凄く酷かったのも覚えてる?」
「ええ、私、アスカが壊れたのかと…実は碇君の心をアスカの精神世界から引き戻した時、アスカの精神を護るのに失敗してたのかと…貴女を傷付けてしまったと思ったわ…」

「あー、違う違う。その頃の私はね、シンジの全てが私の物じゃ無くなって怖かったのよ。精神世界でのあたしはシンジの全てを共有したし、シンジもあたしの全てを知った筈よ。」
「う…うん…」
「そう…私達は知っている…本来そこはとても満たされた世界だわ…一つになる…そこはとても気持ち良い世界の筈なのに…」

「…あたしの精神世界はあの赤い海…あんたに対する行き場の無い嫉妬と反感があの姿、エヴァンゲリオンへの怒りと憎しみがあの十字架、世界全てへの絶望があの赤い海。他者への恐怖と拒絶に満ちた世界で、私のシンジへの依存心と反感、独占欲と嫉妬がシンジの精神を捕え、私の心の牢獄へ縛り付けたわ。」

「怖かった…あの世界の絶望が…人の持つ心があんな世界だなんて…信じられなくて…」

「ま、普通そうよね〜、でも、多分私は嬉しかったのよ。歪んだエゴが満たされてた訳だから。私以外にシンジが目を向ける事が無いし、私もシンジの他には全てが不要だったからそれで良かったの。私だけの宝物を手に入れたって狂った喜びの中にいたのよ…憎しみの裏側で、自分でも気付かずに。」
「…そう…そうだったのね…」

「で…私は言うなれば赤い海って子宮でシンジって羊水に浸かった赤ちゃんだったのよ…生まれたての赤ちゃんが泣く様に私はシンジから抜け出して怖くて寂しくて悲しくて…今だから判るわ。もしあの後シンジにべったりだったら未だに私の精神は這い這いの赤ん坊のままだったわ。」

「…リハビリ期間はつたい歩きの時期だった訳ね…。良かったわね、今のアスカはしっかりと自立した精神の持ち主ですもの。碇君、良かったわね。」
「うん。」
「でも、言うならば取り上げてくれた助産婦綾波レイさんや産婦人科渚カヲル医師の腕が良かったからあたしもシンジもこうしてられるのよ、本当に名医と腕利きで助かったわ〜。」
「アスカ…」

「…有り難うね、レイ。」「いえ…いいの。碇君もアスカも大切な人だから…。」
「あたしも、レイとシンジは大好き!シンジだってレイとあたしが好きなの!なんたって私達は同じ心になったのだから!お互いの記憶や感覚全部を共有するなんて有り得ない体験をしたのよ!私達の絆は親子や夫婦を越えるわ!」
「ええ、本当にそうね。」

「レイ、だから私は私が好きなあんたも、シンジが好きなあんたも、全部認めたげるわ!」
「アスカ、私…嬉しいわ。とても…」
「学校での事、ヒカリに聞いてるわ…シンジの面倒見ててくれて有り難う、レイ。」
「どういたしまして。」
「え?あ、あんたも成長したわねえ…気の効いた返事返すようになったわ。」
「実はリツコさんの真似。ミサトさんとの会話はとても参考になるわ…打ち解けた友人同士の会話…聞いてて楽しいわ…」

「そ、それはどうかと…」「あ、あたしもシンジに同じく…」
「そう?でもアスカはミサトさんの影響は大きいし、私はミサトさんの友人のリツコさんの真似が一番良いのかなって…どうしたのアスカ?」

「嫌…嫌…ゴミ女は嫌ガサツは嫌年増は嫌嫁き遅れは嫌冷血は嫌マッドは嫌ビール女は嫌猫狂いは嫌ミサトカレーは嫌…」
「…何時もの事だよ綾波、それよりできればカヲル君をクリスマスに呼びたいんだけど、時間取れるか聞いてみてくれるかな?ほら、保安上の都合って事で僕もアスカも彼と直接連絡は取れないんだ…」
「ええ、わかったわ。司令風に言うなら『奴も喜ぶ。』って事かしら?」
「ぶはっ!?」
「レイが…レイが冗談を言った!?しかも面白い!?」
「…ねえ碇君、私、今、とても失礼な事言われた気がするわ…こんな時、どんな顔をすればいいのかしら…。」
「え?あ…と、父さんなら『問題無い』の一言で済ませるんじゃないかな、は、はは、だ、だから気にしないでいいんじゃないか…な…ははは。」
「…そう?なら良かったわ。ありがとう碇君。」
(ああ、父さん、今初めて父さんの言葉が役に立った気がするよ…大人は大変だったんだね父さん…有り難う父さん、取り敢えずなんとかなったよ…)

…失礼だなおい。

【裏へまいりま〜す】


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