『お父様と私』

【そのさんじゅういち】 作・何処


『ホビー1、ホビー2、こちらラビット!現在予定通り進行中、あと二分で到着!』
『ホビー1了解!』『ホビー2了解!』

「…よおし…連中気付いてないな…タイミング間違えるなよ、交換作業が始まると同時にいくぞ!」
「「「了解!」」」

ソニックブームの轟音が響き、山の向こうに二つに割れた土煙が立つ。暫くすると紫の巨人がゆっくりと山を越え歩いて来た。
田園の中にポツンと大型トレーラーが二つの従者を従え佇む。紫の巨人…エヴァンゲリオンはその隣に片膝を立て座り込む。

『じゃお願い!』
『準備良し!』
『交換作業開始!』

「始まった!」
「作戦開始!機関始動!」「ステルス解除!全速!」
「勧告を通信!『聞こえるか所属不明部隊!こちら戦略自衛隊試験大隊第5小隊!所属不明機体及びエヴァンゲリオンに告ぐ!機体を捨て直ちに投降せよ!繰り返す!機体を捨て直ちに投降せよ!』勧告終了!」
「チャフスモーク射出!ロケットランチャー斉射!」「自動回避モードセット!」
「ECM.ECCM作動!ステルスモードON!ダミー発射!」「無人戦闘車A、B投下!地雷射出!」
「ようし!用は済んだ、さあ逃げろ!」
「「「了解!!!」」」

『何っ!いつの間にっ!大尉!』
『バッテリー装着が先だ!』
『し、しかし…』
『戦自だと!?ちっ!張り子がでしゃばるんじゃないよ!』
『ラビット!後十秒待て!』
『あと少し…野郎、邪魔しやがって!フォックスはどうした!』
『今連絡を…電波妨害!?やってくれたわね!』
『機銃掃射!?無駄な真似を!』
『構うな!取り付けが先だ!』

『装着完了!』
『行けラビット!』
『了解!…何!?バッテリー残量66秒!?どう言う事!?』
『!さてはさっきの攻撃で喰らい込んだな!』
『…ラビット、作戦中止だ!』
『!しかし!』
『稼働データは手に入れた!後は貴様が生き残れば半ば任務は成功だ!先任将校として命令する、直ちに機体を捨て脱出しろ!トイ2!ラビットを俺が拾う!援護しろ!』
『畜生!』
『トイ2了解!』
『こちらフォックス1!どうしグワッ!』
『どうしたフォックス1!』
『地雷だ!対人だが厄介だぞ!フォックス2、援護を頼む!』
『了解!』
『くそっ!ここまで来ながら…』
『こちらトイ1!ラビットは回収!これより全機離脱する、遅れるな!』
『『『了解!』』』

「…覚えてなさいよ…」

「ボギー、離脱していきます…」
「ダミーと地雷に自爆命令、無人戦闘車A、B回収。」
「了解…しかし何だかな…」
「いかさまって感じだな…」
「…あたし逃げろって命令初めて…」
「ネルフは正規の軍隊じゃ無いからな、気楽で良かろう?」
「…トレースはどうします?」
「なあに、戦自の追撃隊に任せるさ。」
「しかし戦略自衛隊試験大隊第5小隊って…名乗って良かったんですか?後で問題になりません?」
「受領書読んでみな、この機体自体はネルフ所管だが輸送は戦略自衛隊試験大隊第5小隊が請け負っている事になっている…つまりこいつがネルフ本部に到着するまでは戦自の所管だ。」
「げっ!」「有りかよそれ…」「きたな…」
「解釈の違いさ。これが大人の事情って奴でね、覚えておくんだな…しかし三人乗りの機体に四人はキツいな…」

「加持査察官より連絡…目標はエヴァンゲリオンを放棄、北西へ離脱…」
「…非常管制室を占拠した部隊は?」
「…侵入杭より離脱した模様です。」
「ダミーを爆破、侵入杭を塞いだと思わせろ。」
「…了解。」
「しっかし…流石ネルフの最高位、伊達の司令じゃ無かったわね…」
「使徒と司令、どっちが手強いですかね…」
「…同等じゃないか?」
「じゃあ、もしやり合うならどっち?」

「「「「「「使徒!」」」」」」

「…ねえ…」
「…何か…」
「…一人多くない?」
「…確かに…」
「…まさか…」
「…」
「「「「「…」」」」」
「…やれやれ、立ちっぱなしは腰にくるな…医務室へ行ってくる。後は頼むぞ。」

「「「「「…副司令〜!?」」」」」

さて、ネルフ第三独身寮。一人の女が入浴中…

「…お風呂は命の洗濯よねぇ…」

天井を眺め一人呟く。肩まで伸びた髪を指先に絡め、誰にとも無く言葉を紡ぐ。
「…ミサトちゃんやリッちゃんとお風呂入ったのも昔話か…そうよね…未だあの娘達が小学生だったものね…大きくなったわ二人共…レイちゃんも多分…」

その目に涙が浮かぶ。

「…貴女がシンジを守ってくれてたなんて…レイちゃん…綾波君…葛城博士…有難うございます…貴方達に私達は…いつまでも頼ってばかり…シンジ…アスカちゃん…もう一人のレイちゃん…ごめんなさい…貴女達を私達は道具に…」

嗚咽が浴場に響く。

「皆…幸せになってね…」

『シンジ君、連中は参号機を放棄して脱出した。回収部隊を今から飛ばす。現在増加バッテリーパックと予備エントリープラグの搭載作業中だ、後20分で搭載作業は終了出来る。搭載が終わり次第迎えを寄越すから君も行ってくれ、散歩して帰って来ればいい。シンジ君、頼んだよ』
『了解しました…エヴァで散歩…何だかなあ…』
『しかし君も役者だねえ、あの通信は拍手物だ。』
『…後ろでアスカがお腹抱えて笑ってましたよ…』
『いやいや、こっちも愉しかったよ、しかし…ネルフ入って役者の真似事するとは思わなかった…。』
『そう言えばマヤさんが“日向君が一番の役者よ、も・皆騙されてたんだから!”って…リツコさんやミサトさんに聞いてもニヤニヤするだけで教えてくれなかったんですけど…』
『…聞かないでくれ…』
『?』

数刻後、ネルフパイロット控え室…

「…あんた、止めなさいよ…」
「…アスカが止めれば?」
「…止められると思う?」
「…がんばれ。」
「…レイ、あんたね…」

「ただい…二人共、何の話?」
「「勝負よ!」」
「(…聞いちゃ駄目だ…)そ、そう、頑張って二人共…」

持ち込んだ携帯ゲーム機を対戦ケーブルで繋ぎ二人の少女が白熱中。 …平和だ。

【そのさんじゅうにへいくよっ】


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