『お父様と私』

【そのさんじゅう】 作・何処


『緊急警報!緊急警報!SR発令!C、D級職員は避難して下さい!繰り返します、SR発令!C、D級職員は避難して下さい!本部内にテロリストがB兵器を散布!バイオハザードの為デルタユニットは閉鎖!防護服着用の上緊急対応職員は…』

「ちっ!予定と手順が違う…仕方無い、マリ、出番だ!」
「了解…てゆうか何?予定より少し早いわ。」
「囮の一匹が悪さをしたらしい…全く余計な事を…」
「あら、役に立って邪魔扱いは可哀想よ。多少の誤差は有るわ…混乱する分楽よ。」
「ま、確かに…SLBMが全弾迎撃された時点でプランBだ、そこのトイレの横のロッカーに非常用防護服が入っている…俺はここまでだ、地図は頭に入っているな?」
「当然!あたしが乗り込んだら直ぐに発進口を開けて射出よ、非常操作室は?」
「少し待て…ヘッ!警報で避難中だったとさ!制圧前に入れ違いで空になった所をあっさり占拠したそうだ!」
「余計な事のお陰で手間が省けたわね…偽装は?」
「冷却水タンクの配管を爆破、狙いを特定されない様に数ヶ所同時だ。水没区画の侵入坑は脱出後爆破予定。地下水脈から侵入されるとは思わなかっただろう…」
「殻…外郭のひび割れなんて判らないわ。出して。」
キャリーから下ろされたスチールロッカーが開き、少女が舞い降りる。拳銃をホルスターに仕舞い、防弾チョッキの内ポケットから眼鏡を二本指で抜き出し、着けると傍らの男にウインクしながら告げた。
「ご苦労様、では後宜しく!」
「おい防護服のロッカーは…」
「トイレ!行ける時に行っておくの!」

「…これか…資料通り。」エントリープラグ脇に立つ少女は手早く着衣を脱ぐ。下から現れた豊かな肢体を包むプラグスーツはネルフの物よりかなり装備が多そうだ。
「さあて急ぎますか。」
防弾チョッキの胸からフェイスカバーを出し、内背中のジッパーから取り出したビニールバックに脱ぎ捨てた服を仕舞い込む。眼鏡をプラグスーツの胸ポケットに仕舞いフェイスカバーを着用、プラグスーツの上からホルスターを脇に下げ、エントリープラグへビニールバック手に入り込む。ゲージ内は非常灯のオレンジに染められているが、やはり薄暗い。
「予想どおりスクランブル体制…個体情報欺瞞装置も正常作動…いけるわ。稼働チェック…よお〜し事前研修通り…うちの諜報部門も中々良い仕事するわ…」
エントリープラグが収納され、電源が入ると一斉に通信が入り出す。
「…ま、一応礼儀として専属パイロットさんにはご挨拶しときますか…」
『ピッ…聞こえるか!直ぐに降りろ!君は誰だ!その機体のパイロットは僕だ!』
「それはごめんなさいね、でも今からこの機体は私の物、じゃあね初号機パイロットさん。」
『待て!その機体を…ブツッ』
「さあて非常管制室は…これか。」
『マリ!用意はいいぞ!内臓バッテリー残量は通常五分、全力で一分三十秒だ』「了解、打ち合わせ通り第三新東京を45秒で離脱、30秒の全力走行の後14秒で通常歩行へ移行、後29秒で第一目的地到着、60秒でバッテリー搭載後目標海域へ移動、回収予定は1700秒後、他機の発進を一分抑えて。」
『予定通り一分十五秒制圧する、心配無用、射出するぞ!』
「カウントスタート!」
『エヴァンゲリオン初号機、発進!』

さて少し時間を遡り、ここは田圃の真ん中、一台の大型トレーラーが停止中。周りに二台の【安全第一】と書かれた黄色の工作機械らしい物が…作業帽子に作業服姿の男二人が車止めと三角コーンを並べている…

キコキコキコキコ…
振り向く二人の前に学生らしい制服姿の少女が自転車に乗って近づいて来る。
「あのー、すいませーん!ここ、通れませんか?」
『ワタシ・ニホン・センシュウ・クル!ハタラキ・マナブ!』
「…済まんな嬢ちゃん、こいつが故障しちまって。今連絡して回収車が向かってる。積み荷が危険物質でな、問題は無い筈だが一応規則でね。悪いが迂回してくれないか?」
「あーん!近道だったにー!…ね、所で…そちらの方は…」
「ああ、彼はインドから働きに来てるラジーニ、優秀な男だぞ!」
『ハシメマシタ・ワタシ・ナマへ・ラジーニ・イウ。』
「へえ、ラジーニさんですか…インドの方ですか、目青いんですね!私初めて見ました!」
『アチラ・アツイ・サムイ・ヒドイ!ニホン・ヨイ!ウドン・ソバ・テンプラ・ダイフク・ドレモ・エエト…オイシー!』
「あ、甘い物好きですか?たい焼きとか食べました?」
『OH!タイヤキ!ベリーナイス!ニホン・スイーツ・サイコーネ!イマガワ・オオバン・ドッチ?キンツバ、ミタラシ、アー!オナカスク!』
「へー、私、インドってカレーしかイメージなかったから以外でした!」
「へえ、ラジーニがこんなに話すなんて初めてだ、お嬢ちゃんが可愛いからだぜ。この真面目一辺倒な男にしちゃ珍しい。」
「可愛いだなんて、そんな…」
『コラ!カラカウ・ワタシ・ヨクナイ!コレ・イジメ!ヒドイヨネー!』
「あーっ、ひっどおーい!からかったんですかあ!もーっそうやって子供だからってー!」
「いやいやすまんすまん、ついな…」
『アヤマル!コレ・ブシドー!』
「いや本当〜に済まん!俺が悪かった!この通り!」『ソーソーソレデイー。』「…お前が言うなよ…」
「ぷくくっ…アハハハハッ!おっかしーっ!アハハハハハハハハ!」
「クッ…あっはっはっはっはっはっは!」
「ワハハハハハハハハッ!!」

「…あっ!やっばーもう時間!友達ん家行ってる時間無いや!あーん帰らなきゃ!」
『キヲツケテ!』
「寄り道するなよ!」
「分かってまーす!松さん、ラジーニさん、じゃお元気で!」

『…ご苦労。』
『…冷や汗ものでした…』
『…息子の嫁は日本人にしよう…』
『…家の嫁見ると考え直した方が良いですよ…』
『…隣の芝生か。後五分だな、搭乗!』
『了解!』

工作機械が空挺機動歩兵用二足歩行戦闘車両に変形。
「…先行者と違うぞ…」
『何か言ったか?』
『いいえ大尉殿!』

【さんじゅういちへつづきます。】


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