『お父様と私』

【そのにじゅうはち】 作・何処


「加持査察官…」
「現場じゃ南米式で行こう。いちいち遣り辛いだろお互い。」
「了解…てゆうか…本当にここで良いのですか?お迎えに来て頂いて何ですが…」
「…確かに。一面田んぼと山…」
「本部は工作員が入り込んでるって言うし、碇司令は自ら囮役だし…」
「…いいのさ…俺達はあくまでも遊軍、出番が無いに越した事は…!」
「!どうしましたK!」
トレーラーの運転席に座る少年達は、後ろの仮眠スペースに陣取る査察官の反応に身構えた。イヤホンを外し男は三人に鋭い視線を向け話しだす。

「今ネルフ本部にSLBMが撃ち込まれた。国連軍が全弾迎撃に成功したが…使用弾頭はN2だった。空母の艦載機が数機甲板から弾き飛ばされ哨戒ヘリ一機が墜落、駆逐艦一隻が小破だ。」
「N2弾頭!?」
「SLBMって!?何で戦略原潜が!?」
「何処の国だ!?ってひょっとして戦争か!」
「落ち着け!未だ続きがある。」
「つ、続きって」
「ネルフの要請で近海を警備中の戦略自衛隊護衛艦は近海上の偽装商船を臨検、BC兵器を発見した。」
「嘘っ!」
「何だって!BC兵器?!マジかよ!」
「嘘だろ!そんな物使えば自軍も…あ!」
「「「まさか!?」」」

「気付いたか。」
「片や非正規戦闘、片や軍隊…」
「遣り口が違いすぎる、これは単一組織では無く複数の…しかも相互対立の可能性すら…」
「N2弾頭にBC兵器…テロリストごとネルフ…いやネルフごとテロリストを殲滅する気…」
「いい線だ。お前達いざとなったら作戦課で使って貰え。政府より派遣された戦略自衛隊は第三新東京市郊外にてゲリラ部隊と現在交戦中だ、こいつらの本命は第三新東京総合病院に設置されたマギとの直接リンク回線。それと同病院神鷹ナオミ博士及び入院患者山岸マユミの拉致。だが工作員は拉致に失敗、付近に潜伏中の突入部隊、支援部隊は共に鎮圧、ウイルスは既に無力化。爆発物処理も終了、現在の所ひと安心て所だ。」
「…問題は別口ですか…」「N2弾頭にBC兵器、囮としては十分だろ?」
「「「まさか!?」」」
「ネルフで一番重要な、ネルフをネルフ足らしめる要…」
「そっちか!」
「盲点だ…」
「…良く思い付くわ…確かに盲点ね…」
「皆、今迄待機ご苦労、恐らくこれからこの新型多脚式戦闘車両の出番だ。」
「…乗ります。今出来る事をやります。」
「さあて一つ働いて拾い主にいい所見せるか。」
「俺達ゃリビングデッドさ、ゾンビの底力お見せしよう。」
「稼働試験中戦自演習場で破損、廃棄処分がこの機体の公式記録だ。払い下げ品だがどうせ書類上はスクラップ、使い捨てても構わないぞ。一つだけ命令する…三人共死ぬなよ。」
「ぷくくっ!司令とおんなじ事言ってるし。」
「最初は感動したけどなぁ。」
「二番煎じに聞こえる。役者の差だな。」
「やれやれ、碇司令に美味しい所は持って行かれてたか…そろそろだな、搭乗!」
「「「了解!」」」
身を翻し荷台に駆け登りシートを外しだす三人の乗組員、彼らの後姿に男はそっと敬礼した。

『…ブルークルセイダーの』
『…ネットで流れてますがそこ壊滅してます。』
『参りました、雇われの野良犬です。此方の患者さんと先生、そしてこのデータが目的です。』
ネルフ作戦室内、沈黙の中、録音が流れる。

『ふん、あらあ逃げたんじゃ無くて引き上げたんだ…女の子相手の仕事とは言え情にほだされるたぁ甘いよ坊や、精々長生きしな…ご苦労。ほれあいつの置き土産の盗聴機と発信器付きZippo。ラジオトレーサー首筋に塗っといた。薬物煙草で気付かぬ程度軽度麻痺しとる割に動きが良い…』
無言のネルフ幹部達。

最初に重い口を開いたのは冬月だった。
「…諸君の意見を聞きたい。」
「…囮。」
「間違い無いな。」
「囮だろ」
「発言も行動も甘い…子飼いを使わない時点で既に二の線です。」
「ブルークルセイダーは確かに危険なテロ集団ですが、選民主義の彼らは外部の人間を使う事は無いです。第一今の会話に出た通り既に壊滅状態です。」
「そうだ。だとすれば奴等の狙いは何だ?」
沈黙の中、答えは皆同じ。

「N2弾頭SLBMにBC兵器…相当大きい組織ね。」
「戦略原潜に偽装商船…成る程、ならば狙いも判る。」
「N2弾頭にBC兵器引き換えか、なら十分だ。」
「計画は実行されているわね。搭乗員は養成済み、既に本部に侵入されたと見るべきよ…」
「パイロットを予め養成、テロ計画を利用してネルフ本部に侵入させ、奪取か。良く考えたもんだ…」
「…非常事態に備えて碇がこれを置いて行った。」
「司令が?」「え?」「何ですが?」「先輩、解ります?」「さあ、何かしら?」
「今から再生する。皆注目しろ。」

『皆ご苦労、この映像を見ているならば私の予測が当たったのだろう。恐らく今回の黒幕の狙いはエヴァンゲリオン。それも初号機。だが奴等は初号機とシンクロ出来るパイロットが二人だけとは知らん。そこで私はパイロット互換性のある参号機の外装を初号機と交換した。敢えて奪取させ、奪回する為に。S2機関がエヴァ初号機には無い証拠になる。恐らく奴等も交換電源は用意してある筈だが、それは南米組が押さえに向かった筈。私の出来る事はここまでだ。後は君達に任せる。では諸君の健闘を祈る。』
「な!!」
「ひ、ひでぇ…」
「そりゃ無いだろ…」
「…ご、極悪…」
「…ゲンドウと言うより外道ね…」
「…参ったわ…マギだって碇司令には勝てないかも…」

「…にしても遅いな」

もうすっかりお馴染み第三新東京総合病院、第五診療室。煙草をくわえた女がライターを…懲りないねぇ。

「…やっぱZippo貰っときゃ良かった…」
「お持ちしましたよ神鷹博士。」
「やっと来たか、しかしお前も猿芝居が得意だね。」
「でなきゃ加持先輩の後釜のトリプルなぞ務まりませんよ…で、どうです?」
「順調だ。ほれ碇から報酬と入院許可証。安心しろ、妹は治るぞ。」
「…感謝します…」

【にくいあんちきしょうへいっちゃうんだ!】

…もとい、【ああん!いっちゃうぅ!…ブツッ!】


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