『お父様と私』

【そのにじゅうろく】 作・何処


「…てゆうか…派手なお迎えだったよね…」
「…確かに派手だったなぁ…」
「…いいのかな…あんなんで…」

VTOL機の貨物室内、轟音に消さそうな三人の会話は降りて来た人物の姿に止まる、その人物を彼らは敬礼で迎えた。

「皆ご苦労、本機はこれから戦自演習場へ稼働試験中の新型多脚式戦闘車両試作機を払い下げ受領に向かう。」
「「「まさか!?」」」
「そうだ。トライデント計画はじきに制式化される。既に搭乗員保護装置は実用化された。だがパイロット養成はこれからだ。その試作機をネルフは引き取り、これより運用する。」

「…やはり俺達が乗るんですね…」
「…しか無いだろ…」
「適任は他にいない。君達が乗れ。」
「…その為に私達を拾ったのですね…」
「嫌なら降りろ。止めも追及もしない。」
「…命令ならば拒否のしようが…」
「これはネルフ司令としての命令では無い。碇ゲンドウ個人の願いだ。」
「それは!」
「君達は既に自由だ。自らの道は自ら決めろ。総責任者は私だ、私が総ての責任を負う。」

VTOL機の貨物室内、轟音の中、無言の少年達。

「…にしても遅いな」

またもや第三新東京総合病院、第五診療室。男が操作するデスクトップの画面を覗き込む煙草をくわえた女が男の懐からライターを探し出して手に取る。

「未だ計算半ばです。データ検索も同時進行で進めてますからもう暫くお待ち下さい。」
「…ああ、そっちじゃない。いや、そっちも大切だがそろそろ喧しいのが…」

煙草に火を着け紫煙を上げて悦に入る女が片目を閉じて応える。

「彼女ですか、今席を外して貰ってます。」
「あっそ…あー其処らはもう頭入ってる。その先B114からF319が再計算で…気になるかいうちのEカップ?中々美人だろ?」
「第三新東京総合病院第五診療室長神鷹ナオミ博士の部下としてなら非常に興味在りますが…さて、後は結果待ちです…俺も煙草貰えます?」
紫煙を女が片目を閉じて吐き出し、無言で煙草を渡し火を着けて応える。

「さて先生、人払いも済み、時間も少々空きました…。」
「…ま、そうだな。」
「で…まあこの際です、又親交を深めませんか?」
「…買い置きのコーヒーが無い…又買わせんと。」
「へ…スルーですか。こう言うシチュエーションも中々背徳的で良いと思いませんか?」
「ほほう…で、君はどんな所で欲情をそそられたのかな?」
「…網タイツですか。」
「言うねえマコりん。正直で非常に宜しい。」
「…そこを撫でながら確認しないで頂きたいんですが…」
「時間が無いんだから仕方無かろう。じき喧しいうちのEカップが…」
「人をブラのサイズで呼ばないで下さい。大体普段人散々待たせた挙げ句ブッチする人が偉そうにしたら駄目です。」
「あら噂をすれば来たよ。」
「おや残念。」

「ネルフ対外協力対策室民間支援部医療課より通達がありました。使用許可証交付及び主演算機へのハイパーリンクインターフェースコンバーターの貸し出しと接続に向かう途中事故で到着が遅れていた作業員は後5分程で到着されるそうです。ネルフの日向マコトさん。」

「おっと動かない。」
「やれやれ、済まんなEカップ。こう言う事らしい。」
「日頃の行いですね。」
「…先生、この際どうでも良い事ですが…人選考えた方が良くないですか?」
「正直過ぎるのも考え物だぞEカップ。査定は覚悟しろよ。」
「先生人の事胸のサイズで呼ばないで下さい。貴殿の目的は何です。ここは病院ですしVIPも入院はして…」
「時間稼ぎはこれ位で。私はブルークルセイダーの」
「…ネットで流れてますがそこ壊滅してます。」
「参りました、雇われの野良犬です。此方の患者さんと先生、そしてこのデータが目的です。」
「やはり。」
「さあ、先生こちらへ、貴女もその場から離れ…あれ?」

「…なあ…何時も思うんだが…なんでお前普通の看護師な訳?」
「それは秘密です。さあ先生から離れて。そう、両手を…きゃっ!」
「最悪これさえ確保すれば良いとクライアントの依頼でしてね、Zippoは差し上げます。又夜のお誘いお願いしますよ先生、では失礼!」
「ああ、期待しないでるよ。」
「待て!…逃げたか。先生無事ですね。…お疲れ様でした。」
「ふん、あらあ逃げたんじゃ無くて引き上げたんだ…女の子相手の仕事とは言え情にほだされるたぁ甘いよ坊や、精々長生きしな…ご苦労。ほれあいつの置き土産の盗聴機と発信器付きZippo。ラジオトレーサー首筋に塗っといた。薬物煙草で気付かぬ程度軽度麻痺しとる割に動きが良い…若いって事だなEカップ。」
「だからカップで呼ばないで下さい…後は此方の仕事です。お疲れ様でした。」

「しかし恋人の名前で表情が変わるのは頂けんなEカップ、だから看護師か。ま、適職だ。」
「!」

「しっかし日向君だったか?君の何処がお気に入りかねえ…学士持ちは兎も角無愛想だし突っ慳貪だし訳解らん知恵はついてるし突っ込みキツいしEカップだし…あ、だからか。」
「だから人をブラのサイズで判断しないで下さい。そろそろ来ます、足隠して下さい。品性疑われますから。」
「固いなぁEカップ。お前も彼氏に網タイツ位サービスしてやれ。」

「…生足の方が好みです。」
「そらおごっつぉうさん…来たか。」
「お待たせしました、ネルフ諜報部の青葉シゲルです。付近に潜伏中の突入部隊は鎮圧、支援部隊は既に無力化しました。爆発物の処理も終了、現在安全を確認中です。」
「…マコト君じゃ無くて残念だったなEカップ。」
「はい。少し期待してました。」
「ん、正直で宜しい。」
「?」

VTOL機の貨物室内、轟音の響く中少女が口火を切った。

「…乗ります。私達に今出来る事を私はやります。」
「一宿一飯どころか命まで拾われてるしな。」
「一度死んでる訳だし、ま、もう一働きするか。」
「礼は言わん。一つだけ命令する…死ぬな。」

身を翻し乗員室へ昇る長身の後姿に迷いは無い。その男を彼らは敬礼で送った。

【にじゅうななへゴー!】


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