『お父様と私』

【そのにじゅう】 作・何処


「碇君、どうしたの?」
「え?あ、ああ、綾波。大丈夫だよ、少し戸惑ってただけだから…」
「碇、新体制とはどう言う事だ?」
「…我々は既に新しい世界に…裏死海文書後の世界に居ます冬月先生。何が起こるか解らぬ、ならば明日は自ら作らねばならない。」
「…そうだったな。既に我々は自分の足で歩かねばならんのだった。伊吹君、大丈夫かね?」
「…は、はい。お見苦しい所を…もう平気です…」
「無理するな。赤木博士、こんな時だからこそ皆に…パイロット達に発表しよう。」
「宜しいのですか?」
「ああ。碇、構わんな?」

「新参号機が稼働に成功したのだ。懸念は既に無い。昨年度より申請していた予算案の議会通過により、来年度弐号機より事故喪失者のサルベージ試験を行う。」
「え!」「し、司令、ママは既に回収されて…」「…」
「シンジが初号機から回収された事がヒントだった。コアからの再生…推定だがコアには搭乗者のデータが…肉体のみならず記憶や精神、恐らく魂までもが記録されているのだろう。だとすればデータが残っている限り再生回収の可能性は有る筈だ。弐号機の中の母を感じたと言うアスカ君の説明も後押しとなった…再回収の可能性をマギは約64%と試算した。」
「最高88%、最低46%と回答は別れたけれど、確率は高いわ。私達からアスカに少し早めのクリスマスプレゼントよ。」
「幸い本年度の予備費はかなり節約できた。スケジュール消化も順調、準備も前倒しで行えば、調整次第で予算執行前…早ければ年明け後には目処がつくだろう、未だ確実では無い事と君の誕生日に間に合わなかった事が残念だった、おめでとう。」

祝福の「おめでとう」コールに次第に我に返り、シンジとレイに支えられ号泣したアスカは、涙を流しながら笑顔で皆にキスして廻る。冬月とゲンドウにキスをした後、彼女は不思議そうな顔でゲンドウに問い掛けた。

「あの…司令、一人見慣れない方がおられるのですが…」
「ああ、紹介が未だだったな。春日椿君だ…昨日から秘書として臨時採用した。」
「只今ご紹介に預りました春日と申します。ええと…アスカさん?日本語お上手ねぇ、しかもお若いのにあの…何でしたか」
「エヴァンゲリオンです。エヴァンゲリオン弐号機の専任パイロット、総流・アスカ・ラングレーと申します!そして彼女が同僚のパイロット、綾波レイです!」
「…初めまして、綾波レイです。」
「春日さん、ほら言った通り二人とも可愛いでしょ!」
「ええマヤさん、本当に…」

「ネルフ科学技術班班長兼、技術開発部総括主任本部長赤木リツコです。そして彼女は作戦部部長、葛城ミサト二佐です。」
「初めまして、葛城ミサトです。そして彼が…ほら、シンちゃん。」
「あ…碇シンジです。エヴァンゲリオン初号機のパイロットを…あ、あの…?」
「…ご、ごめんなさい…泣いたりして…うっ、ううっ…」
「…シンジ、彼女はお前が未だ赤ん坊の頃一度だけ会った事がある。春日君は唯の血縁だ。お前の叔母に当たる…そして四年前亡くなった彼女の息子さんの名も…真司だったそうだ。」
「…そうでしたか…」
「…そ、そうだわ、今度皆私の寮へ遊びに来なさいな、賄いさん歴半年の腕見せてあげるわ!」
「賄い?ですか?」
「ええ、半年前、碇の本家から頼まれまして。ゲンドウさんに唯さんの死亡届に印を押させる様にと体良く送り込まれましたの。」

「…碇、貴様未だ行方不明で処理していたのか…」
「父さん…」

「印を捺して頂くまで帰れませんので職種は問わないからと斡旋して頂きまして。でもまさか碇の家で寮住まいの方が居たとは…あ、失礼しました。しかし…本家のつもりで邸宅にお住まいだろうからとすっかり居候する気で来ましたから正直驚きましたわ。」

「え?シンジ、あんたの実家って何?」「さ、さあ?知らないよ。」
「私と唯は恋愛結婚だ。だが唯の…碇の実家は名家だった。私は婿養子になる事と相続権を放棄する事を条件に唯と結婚した。だから唯が消えてからは疎遠だった。」

「お恥ずかしい話ですが、先代が倒れ相続権で揉めまして…言い方は何ですが、要は面倒事の後始末役に相続権も身寄りも無い私に白羽の矢が立った次第で。」
「ひぇ〜、時代劇みたいね〜」
「主婦向けメロドラマとも言うわね…」
「?アスカ、綾波?どう言う事?」
「あー、シンジ君は解らないわよね。アスカ、レイ、貴女達ミサトに感化され過ぎ。」
「言うわねリツコ…」
「?」
「ち、ちょっと待って、春日さん、寮住まいって…司令が?ですか?」
「マコト、そう言えば俺達司令の家知らなかったな…俺てっきりジオフロントに住んでる物かと…」
「…俺もだ。」

「ええ、司令や一階の皆さんはワンルーム一部屋ですが、他階の皆さんは2Lの相部屋でして。私は保安部の女性職員の方と同室で…ミッション系の学校で寮生活してた頃を思い出して楽しんでますわ。」

「…碇、さては息子を引き取らなかったのは…」

「冬月先生、皆疲れている様です。一息入れましょう。春日君、お茶の準備を頼む。私はトイレに行く。」
「あ、おい碇!…仕方ない奴め、全く何と不器用な男だ…」
「クスクス…はい、皆さんお茶にしましょ。」

【次回、インターミッション2、サービスしちゃうわよん♪】


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