『お父様と私』

インターミッション【或る男の独白】 作・何処


対使徒戦役初戦における初号機の暴走は予定通り行われた。パイロットがサードチルドレンであった事を除いて…

永遠を求め人の魂をコピーせんとしたゼーレのマギプロジェクト、それを流用したダミープラグシステム、これが私の切り札だった。
人の生存本能と闘争本能を入力し、パイロット、つまりチルドレンを乗せずともエヴァンゲリオンを起動させ得る方策であるとゼーレを説き伏せ開発を強硬し、私は直接開発を指揮した。だがその実験は常に失敗した。何故なら…
既にダミーシステムは完成していたからだ。完成をゼーレに秘匿する為、無為な実験は繰り返され、初号機の暴走はパイロットであるサードチルドレンに同調した初号機がその生存本能により行われたとされた。

零号機のエントリープラグにはナオコ、初号機にはユイ、弐号機にはキョウコのコピーが入力されていた。実験の失敗とはその実、私の理論検証であったのだ。
既にLCLからの肉体回収とマギシステムによる魂の再構成、保存記憶の再インストール技術は完成していた。ユイとキョウコとナオコ、東方の三賢者が開発したのだから当然だろう。
入力データの再生による人体復元…サルベージこそゼーレが望む物だった。だからこそサルベージは常に失敗しなければならなかった。

それを知っていた三人…ユイとキョウコは故意にエントリープラグに消え、ナオコは自殺を装い姿を消した。
日本でのサルベージは計画通り失敗、慌てたネルフドイツの行ったサルベージ試験は不完全な形で行われ、当然の結果として失敗した…だが、エントリープラグとマギ、保存記憶再インストール装置がある限り三賢者は永遠に存在するのだ。
レイによるダミープラグ試験中の事故による負傷は計画の修正を強いる事になった。予備…サードチルドレンの選出の必要が生じたのだ。やむを得ず私は息子…シンジをネルフへ召喚し、初号機パイロット、サードチルドレンへ任命した。
そして時を経ずして使徒の来襲…ギリギリのタイミングだったが、計画は僅かな修正で発動し、無事使徒の殲滅に成功した。

ユイとキョウコのサルベージは成功した。弐号機が到着したと同時にリツコ君や冬月すら知らぬ様に行われた互換試験や起動試験の名目での肉体サルベージとその後の保存記憶の再インストール、マギシステムによる魂の再構成は名と顔を変えたナオコの手によって完璧に行われた。

再会した私達は改めて今後の対応を協議した。ゼーレが得た裏死海文書…【保存記憶再現装置】に残された終末の記憶は、試練たる使徒による生命の改変によって、崩壊した恒星…超新星のバーストフラッシュによる終末の回避と、始源の海と言う永遠の牢獄に囚われた人々の絶望的な未来を示していた。
そして裏死海文書はこうも示していた。使徒を倒しきれば、初めて我等『人』はその未完成な存在を赦される。自ら未来を造る権利を得、『終末』に挑む自由を得るとも。
老人達は生に飽きながら死と自由を恐れた。全ての始源への回帰、そして自らは再臨により永遠を得る為に、使徒殲滅に依って行う世界の再構成を我意により変革する事を望んで、サードインパクトと言う聖杯の祝福を受けるつもりだった。
使徒を倒したる原罪者エヴァンゲリオン同士を相争わせ、最後に残る一体の贄によって取り行われる聖杯召喚の秘技こそゼーレの目的だったのだ

我々四人はサードインパクトの阻止、発生した場合のゼーレの介入阻止と人類の保護を目的に動きだした。
マギの最深部に極秘に設置されている三組の対アンチATフィールド対策済みコールドスリープ装置に入る三人。彼女らは最後の保険だ。私自身は偽の記憶…ユイへの狂信的執着に全てを掛けた愚かな男…を上書きし、敵味方、自らまで全てを欺く駒となった。

第一の誤算はファーストチルドレン…レイだった。サードインパクトの鍵となるべくエヴァの自意識をリリスのボディにインストールし、ユイの魂を元にした人造の魂を吹き込んだ人造人間。エヴァンゲリオンに最も近い者。
彼女はシンジ…サードチルドレンに恋をしたのだ。
シンジに対する思慕の念は自爆すらいとわない激しい物だった。つまりレイに近い初号機の喪われた筈の自意識もシンジを慕っていたのだ。ダミーを受け付けない自我の発生は完全にイレギュラーだった。

そして第二の誤算はシンジだった。初号機と融合してしまい、サルベージに失敗するも、初号機のコアがシンジを再構築し、復活させたのだ。
シンジがサルベージされた事により老人達はサードインパクトを自ら起こす事を決意し、量産型エヴァンゲリオンの建造とロンギヌスの槍のコピーを始めた。LCLから帰還する術を得た(と思った)からだ。

第三の誤算は零号機と二人目(実は一人目の)レイの喪失だった。零号機を失った事により私はサードインパクトを制御する術を無くした。新たなレイは未だ自我を覚醒せず、ナオコのバックアップも無い。
今や残された手段はアダムを用いたリリスへの融合により直接サードインパクトへ介入する事…

そして第四の誤算…レイのバックアップボディの喪失。リツコ君の母親へのコンプレックスと嫉妬心はナオコの想定を超えていた。
ナオコは私が抱く事で彼女の劣等感を緩和し、レイの存在による嫉妬が彼女を私に執着させると判断していたのだ。しかしそれはあくまで記憶を上書きする前の私に対する感情だった。

今や私の手駒はダミーを拒否する初号機とシンクロ出来ないパイロットの弐号機、自我の目覚めぬレイ…追い詰められた私は手駒を必要とした。リツコ君に処分させたトリプルを回収していた私は同じく回収していた戦自の少年兵達とを自らの手駒にしたのだ。
彼らは壊滅した南米で密かに建造中の量産型エヴァンゲリオンとコピーされたロンギヌスの槍を探るべく日本を出た。しかし時間は私を待ってはくれなかった。
最後の使者…フィフスチルドレンの到着である。

サードインパクトの後の復活の可能性研究の為ゼーレが育成していた使徒と人間の結合体である彼の出現は老人達が自ら予定を早めた事…量産型エヴァンゲリオンの完成を意味していた。
最後の使者ダブリスの撃退後、最早サードインパクトは止められないと判断した私はアダムを我が手に宿らせた。ユイに会う為と言う偽りの記憶のままに…

結果として私は失敗した。自我に目覚めたレイに拒否され、シンジを護らんとする初号機に私は補食された。ユイとの再会による記憶ロックの解除が成された私には今や為す術も無く、後事は息子のシンジ、プラグ内のユイの意思、初号機とレイに託されたのだ…

サードインパクトは誰も想像していなかった事態を引き起こした。
時間の凍結と逆行…我々は最後の使徒戦の最中に全ての人が喪われた1ヶ月の記憶を持って引き戻されたのだ。
混乱の中、フィフス…ダブリスたる実験体、渚カヲルの手により初号機と意思を無くしていたシンジは回収された。セカンドチルドレンも心身喪失状態のままではあったが、初号機、弐号機を擁す我々は渚カヲル…彼の協力によりゼーレの陰謀の阻止に成功した。誰一人死ぬ事も無く。

混乱が終息に向かい、時が経つにつれ驚くべき事実が判明した。星座が違うのだ…
マギの予想推定は、我々はサードインパクトにより補完され、地球ごと静止時空内に約一万年を過ごした後、時間を1ヶ月逆行して復活したとの判断だった。我々は気付かぬ間に『来るべき終末』…超新星のバーストフラッシュによる滅亡をも乗り越えていたのだ。
事情を知る二人は未だ人事不詳心身喪失のまま。レイの提案により二人へのサイコダイブが行われ事実が判明した。

サードインパクト時、シンジは皆との再会を願い、初号機はユイの意思も加えて一万年を凍結した後の復活を決めた。
凍結した時空、恐るべく遅延する時間の中でシンジは破壊された弐号機のエントリープラグからセカンドチルドレンを救出するも、補完され意思の共有された世界の影響で、セカンドチルドレンの意識に触れ、その自我を取り込まれていたのだ。

その後、皆の努力によりセカンドチルドレンとシンジの意思は回復した。私は密かにコールドスリープカプセルに眠る皆を起こし、状況を説明した。
ユイとキョウコは再度眠りにつき、コアからの回収が行われるまで待つ事にした。ナオコは新しい人生を謳歌すると新しい顔と名前で意気揚々とネルフを出ていった。
そして全てが終わり、今、新世紀が始まる…

【本文につづく】


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