『お父様と私』

【そのきゅう】 作・何処


ここはコンフォート17。
リビングに敷かれた布団の中、静かに眠るレイは珈琲の薫りと料理の音、そして静かに聞こえる女性同士の会話に眠りの国から呼び戻された。

見慣れた天井、壁の時計は未だ七時前…着ているのはレイ専用の青パジャマ…ちなみにアスカは色違いの赤…彼女はぼんやりと自分が何処にいるか思い出す。横を見ると、寝ていた筈のリツコは既に起床した様だ。
(昨夜は楽しかった…司令のご飯も美味しかった…リツコさんもミサトさんも久々の三連休だってはしゃぎ過ぎだったけど…ふふっ、子猫…可愛かった…アスカはもう夢中だったし…ミサトさんはなつかれてた…リツコさんはともかく碇君は…そう、あれは才能かも…それにしても…碇君の笑顔…うふっ、可愛かった…うふふっ、うふふふふ…うふふふふふふっ…)

布団から身を起こしたレイ。少女の笑顔は何故か少し赤かった。
「おはようございます。」
「あ、レイおはよう、朝からご機嫌ね…ほれリツコ、これお願い。」
「ええ、もういいわね…まあ、レイったら又成長したんじゃない?胸きつくない?」
「…未だアスカより小さいです…中々成長しなくて…。」
「まだまだこれからよん!あたしの実体経からして間違い無いわ!要は経験よ経験!」
「ミサト朝から何馬鹿な事口走ってるの!…この情緒障害な女はほっといて、体感的には成長してるんでしょ?貴方の場合比較対象がおかしいのよ、十分平均値以上ね…よくここまで成長したわ…」
「ええ…碇君が好き嫌い克服するようにって料理を教えてくれたり、アスカが『女の子は可愛くなる義務があるのよ!』って色々知らなかった事教えてくれたし…私、今やっと幸せって何か知ったのかもしれません…。」
「レイ…」
「前は食事とか無頓着で外食か栄養食品やレトルトみたいな生活だった…司令や碇君の手料理を食べて、初めて解ったんです…食事は嬉しいって。ああ、私の為にご飯を作ってくれる人がいるんだって…」
「ご、ごめんリツコ、目にゴミ入ったみたい、顔洗ってくる。」
「ミサトったら…火は止めていきなさいよって、あらいやだ、煙が目に沁みちゃったわ。レイ、皆を起こして来てくれる?」
「はい、リツコさん。」
「…ごめんなさい…レイ…でも、良かったわね。(…家族の朝食か…羨ましいわミサト…)」

「アスカ…起きて…」
「うふふ…アルテミスおいでぇ…シンジぃあたしもちゅう〜」
「アスカ…。」
「えへへ…朝御飯は目玉焼きぃ…」
「ふふっ…『アスカ、今朝はミサトカレーだよ』」
「嫌ーっ!!って…あれ?レイ?何でアンタが…ってそっか泊まったのよね…何て起こし方してくれんのょ〜最悪ょ〜」
「起きたでしょ?」
「他の起こし方だってあるでしょ!あぅ〜せっかくの余韻がぁ〜」
「そうね…『シンジ〜あたしもちゅう〜』ですものね。」
「!(**)!?あぅあぅあぅあぅ…」
「クスッ(アスカ可愛い…)早く着替えて。碇君起こしに行きましょう。」
「う…うん…」
「大丈夫、二人の秘密だから。」
「ぁ…ありがとレイ…」

「お帰りミサト…」
「う、うん…有り難うリツコ…未だ目赤いかな?」
「飲み過ぎたせいね…多分あたしも赤いわ。」
「…お互い涙脆くなったわね〜、でもそれでいいのよね?」
「…ええ、そうね…。」
「キャーッ!!このエッチスケベヘンタイッッ!!朝から何て物乙女逹に見せんのよっエロシンジっっ!!」
「しっ、仕方無いぢゃないか!朝なんだから!!」
「碇君…どういう事?」
「「わわわっ何でも無い何でも無いっっ!!」」

「…わっかいわね〜…」
「…元気ね…三人共…」

一方、こちらジオフロント、ネルフ本部第一食堂…

「…あら?貴方、あそこの若いお嬢さん、さっきから此方を見てる様な…。」
「ん?ああ、発令所のオペレーターだ。ああ見えて学士持ちでリツコ君の一番弟子だ。」
「じゃあ今挨拶を済ましてしまいましょう。構いませんね?」
「ああ。早い方が良かろう。」

席を立った司令が見慣れぬ知的美女と共にこちらの席へ向かって来る事態に、伊吹マヤは半ばパニックになった。それでも携帯の電源を切ってポケットに滑り込ませたあたりは流石、伊達にリツコの部下をしてはいない(一応誉め言葉)。

「おはようございます」
「おはよう。」
「ぁ、ぇ、あ、お、おおおはやうございますぅっ」
…噛んでる噛んでる…

「伊吹君、紹介しよう。今度司令部付き臨時秘書として来て貰う事になった春日椿君だ。今後顔を合わせる機会も多いだろう、発令所では先輩として面倒を見てやってくれ。」
「只今ご紹介に預りました春日と申します。長い事、実務より離れておりましたもので、何かと色々ご面倒をお掛けするかと存じますが今後どうぞ宜しくお願い致します。」
「あ、いいいいえこちらこそわざわざ丁重なご挨拶痛み入りますっっ!伊吹マヤと申しますっ!」
「これから苦労を掛ける。苦労ついでに施設の案内を頼まれてくれないか…良いかな春日君。」
「ええ、私は構いませんが、こちらのお嬢さんに悪くありません事?お仕事の邪魔をしては…」
「いえっ!丁度仕事明けですから!時間でしたら大丈夫です!!是非ご案内させて下さいっ!!」
「じゃあお願いしますわ。宜しいですか碇司令?」
「それは構わんが…勤務明けなのに無理を言ってすまん。午後からの会議があるので11時には司令室に案内して来てくれたまえ。政府のご機嫌取りだから大した事は無い筈だ。では宜しく頼む。」
「はっ!了解しましたっ!」

立ち去るゲンドウの背を不動の体制で見送るマヤ。
「…伊吹さん?」
「…」
「あの…伊吹さん?」
「は、はぇっ!?あ、あ、しっ、失礼しましたっ!で、ではご案内させて頂きますっ!」
「…クスッ、そんなに緊張しないで、伊吹さん。貴女が先輩なんですから。」
「あ、は、はいっ、え、ええと春日さん、じゃあ先ずは…」
「ご飯食べてからにしましょ?未だ手を付けて無いようですし…」
「え…ああっ!す、すいませんっっ!」
「私も食後の一杯をお願いするわ。時間は未だあるし、ご一緒にお話ししません事?」
「ええ、喜んで!なんかお恥ずかしい処見せちゃってすみません。」
「ふふっ、これから宜しくね、伊吹さん。」
「あはっ、そんな…マヤでいいですよぉ。」
「じゃあマヤさんと呼ばせて頂くわ、ね?」

マヤ撃沈(ランランルー♪)。すいません春日(仮名)さん、正直貴女が怖いです…

【とーとーとー。】

追記・何処は嬉しくなるとついやっちゃうんだ!まだまだ続くよ!


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