『お父様と私』

【そのよん】 作・何処


ひとしきりアスカと談笑するゲンドウ(こんな事態はエヴァの起動確率より低いとレイ以外の全員が確信している)に、一同の視線が恐怖心混じりの奇異感から安堵感混じりの好奇心に替わりつつあるその時、ゲンドウが身を改めて一同を見渡した。
ゲンドウの無駄に鋭い(と言うか超電導起こしそうな冷たい)視線に全員が瞬時に背筋を伸ばす。流石総司令。エヴァのATフィールド以上の威圧感(心の壁)。
《う…、逃げちゃ駄目かな…》
《碇君、声出てる。》
《ちょ、何びくついて怯えてるのょシンジ!父親でしょアンタの!》
…小声で囁き合う子供達。だが大人達は長年染み付いた反応で声も無く硬直中。無理も無い…

「さて、」
(ビクゥッ!!!!!)
「本題に入ろう。一体何の用で皆、此処に来たのか理由を聞こう。」
「「はっ!」」
「…葛城君、赤城君、今は私は勤務時間外だ。楽にして構わん。」
「「「「は…はぃ√!?!!」」」」
「ん?」
「あ、い、いゃあの…はあっ?ぁ、ああっ!ってあいえ違います否そうじゃなくてあのそのええとは、は、は、ははははいっ!!」
「…《嘘…嘘ょこれは嘘、有り得ないわ完璧に有る筈すら無いわ、マギの対司令会話想定だってこんな事態は…ああ母さん助けて…私は一体どうすればいいの…》」
「…に…逃げたい…助けて母さん加持さんカヲル君…」
「あ…案外まとむぐっ!ムゴモゴ!」
《《あ、アスカっっ!!自爆する気!?》》
「…(皆、どうしたのかしら…不思議…普通に話せば良いのに…それとも謙譲語や修飾語だったのかしら…ならば言葉通りに受け取ってはいけないのね…ああ、欧米では日本程謙譲語が無いから…だからアスカは解らなくて止められたのね…成る程、学校の勉強は役に立つわ…)」
「…ぁ…ぁのし…司令?そのぉ…も、もしかしてですが…しご、否お仕事中は…もしやひょっとしたらですけれど…わざとと言うか無理してと言うか…対人対応、かなりと言うか無茶苦茶変えてません?」
「…いや、特に変えては無い。」
「あ…そ、そうですか…そうなんですか…」
「最も、公私の区別は付けている。それも付かん様なら役職の責務放棄だからな。」
「あ…あ、あ、あはははははははそそうですかそうですよねその通りですわねあははははははははっ。」
「無様ね…」
「と…父さん…もしかして…この間の僕の電話…し、仕事中だった…のか…な…?」
「…ああ、そういえばシンジ、お前から電話があったな。執務中だったから切ったが、その後連絡が無いので忘れていた。…何か用だったのか?」
「い、いや何もって痛っ!」《バカ、何やってるのよ用なら有るぢゃないのこんな時滅多に無いんだからちゃんと言わないと駄目じゃないの!》
「こほんっ!あ、え〜と司令、実はアスカの事でなんですが…」
「ああ、そう言えば義務教育を無事卒業予定だそうだな、おめでとう。リハビリで復学が一年遅れてしまったのは残念だが、制度上仕方無いのだ。アスカ君の能力からすれば無念だったろうが納得してくれ。」
「理解はしますが納得は出来てません。(お、お陰でシンジと一緒の学生生活が…一年もお預けだったのよっっっっ!泣けるわっっ!)」
「全くだ。だが理解して貰えただけでも感謝する。」「…あ、ありがとうございます…」
「それで、現状は?」
「司令、アスカの進学についてですが、欧州連合は然るべき機関へ研究員としての配属を、米国は弐号機と共にアメリカネルフへの配置を、日本政府は名誉国民として日本に帰化の上政府外交顧問への就任をそれぞれ要望として文書で出して来ています。」
「ふっ、問題無い、想定の範囲内だ。その程度どうとでもなる。」
「それでドイツのご両親ですが、やはりネルフからの退役と早期の帰国を求められておりまして…特にお母様が熱心に…」
「退役は認められん。だが帰国については一時帰国として五年で九十日を認めよう。その際は公費での帰国が出来る様取り計らうべく既に各機関と現在調整中だ。」
「ご配慮有り難うございます。そして本題ですが、本人の口から説明させます。さ、アスカ、貴女の正直な気持ちを言いなさい。」
「み…ミサト…シンジ…。」
「うん。」
「大丈夫、アスカなら出来るわ。」
「さ、私達がついているのだから、安心なさい。」
「アスカ…頑張って…」
「さ、言っちゃいなさい、アスカ、正直に。」
「レイ…リツコ…ありがとう…」

「碇司令、私、この国の高校への進学を希望しています。ご存知かと思いますが両親の意向とは違います、そこで司令に私達にお力添え頂きたくこちらへお伺いしました。」
「進路の理由は?」
「はい。私、最近漸く自分が只の中学生…子供なんだと理解してきました。確かに私はエヴァンゲリオン弐号機パイロットであり、大学次席卒で、軍でも優秀な成績を修め士官待遇の地位をも得ました。しかし…やっぱり私は幼なかったんです…。」
「…続けたまえ。」
「…はい。わ…私は…私は…」「…アスカ…」「だ、大丈夫よシンジ…」
「私は、自分の未熟さに堪えられず、弐号機とのシンクロを自ら断ち切りながらそれに気付かず仲間を…シンジをき、危険に晒し…れ…レイを…貴女をむざむざ…ヒック…」
「アスカ、それは」「黙ってレイ。お願い」「…はい、赤城博士。」
「…わ…私…それに堪えられず…認められず…逃げて友達にも…う…ぅぇ…シン…シンジに酷い事言って…せ、せっかくママを感じたのに…又…ううっ…うえっ…」
「…(シンジ君…黙って手を握ってあげるなんて…もう貴方は一人で立ってるのね…ゲンドウさん、やはりシンジ君は貴方の息子ね…)」
「グスッ…あ…あの私の赤い海にシンジを取り込んでしまったのも…リハビリの時、シンジに…シンジに当たり散らしたのも…わ…私の…弱さと幼い心から…私…今のままでは…又同じ間違いを…だから…もう一度、この歳までに学ばなければならなかった事をきちんと学ばなければならないんです…グス」
(もう少しよ…頑張って私の妹…アスカ。)
「だ…だから…お、お願いします碇司令…わ…私…ここで…レイやシンジや友達と一緒に成長したいんです!皆と同じ時間を過ごしたいんです!シ、シンジと離れたくないんです!!!…うぅぇぇぇ…」
「司令、私からもお願いします。アスカを…私の妹の希望を聞いて下さい。」
「司令、いえゲンドウさん。私からもお願いします。」
「お願いします…司令」
「父さん…」

頭を垂れた一同、アスカの泣き声が暫く続いた。ゲンドウが手元のコーラを持ち立ち上がり、口を開く。

「子供には保護者が必要だ。そして子供は保護者の許しの中で可能性を探すしかない。君の親権者はこれから再び君の保護者になろうとしている。君はそれをどう思う?」
「…はい…今なら解ります…パパももう一人のママも私を愛してくれてます…でも…私は、私が変わる為にもここにいないと駄目なんです!」
「ならは言おう…人は過ちを犯す。それは無知と恐怖により行われる。自らの愚かさを知る事の出来る者、恐怖を知り尚立ち向かう者、己を変えようとする者を子供とは呼ばん。皆頭を上げろ。アスカ君、自らの信じた道を歩め。今の君にはその資格がある。」
「「「司令!」」」「ゲンドウさん…」「父さん!」
「「「「「あ、ありがとうございます!」」」」」

「誰も巣立つ鳥に枷を掛ける事は出来ない。ただそれだけの事だ。」
『pipipipipi…』
「私だ…ああ…うむ…今来客中だ、少し待て…又掛ける。」『pi』
「すまん、少し待っていてくれ、すぐ戻る。」
「は、はい!」
「シンジ」
「上出来だ。良くやったな。」
…笑うゲンドウにアスカとレイ以外は、再び瞬間凍結した。
【つづくんだまた。】


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