EVANGELION : LAGOON

Welcome to H.S.D. RPG.
CAR-BATTLE in TOKYO-3, 2015.
by N.G.E. FanFiction Novels,
and RACING LAGOON.


Episode 22. Pain













 新東京医科大学の3階廊下を歩いていたアスカは、よく知った声に振り向いた。

「アスカ先輩、昨日首都高で見ましたよ、アスカさんの車、やっぱ速かったっすねえ」

 そう楽しげに話す男の名は秋月マサキ。アスカの後輩に当たる研修医だ。
 彼が先代から12使徒の名を襲名したのはつい最近のことだ。

「あれ、やっぱりアンタだったの」

「そっすよ、俺もようやく乗りこなせてきたかなって感じなんですけどね。もう最高っすよあのGTO、マジ感動って感じです」

「事故んないようにだけは気をつけてね」

「わかってますって」

 夜の病院は人も少なく、リノリウムの床を叩く足音が不気味なほどに響く。

 楽しげに歩いていくマサキの背を見つめながらアスカは思っていた。
 クルマに乗るだけで楽しかった、あの頃。今の自分はどうだろう?気を負いすぎなのではないか?マサキを見ていると思う。GTO、白のGTO。彼にとっては憧れのクルマのはずだ。ようやくそれを手に入れることができて、今彼はまさに至福のときにあるはずだ。

 横浜戦争などという走り屋たちの抗争とは無関係に…

 12使徒である彼も決して無関係ではないはずなのだが、今の彼の姿を見ているとそんな不安など吹き飛んでしまいそうだ。

 翻って自分を見つめてみればどうだろうか。アスカは今、新たなチューンをされたFDを乗りこなそうと必死になっている。思い通りに行くことなどなかなか無く、試行錯誤の繰り返しだ。
 それすらを楽しんでもいると思える、12使徒秋月マサキ。
 彼と自分と、どちらが走り屋として上なのだろうか?

 キャリアや腕ならアスカが圧倒している。
 しかし、走り屋として純粋に走る事を楽しんでいるのがどちらかと言われれば答えは迷ってしまう。楽しく走れればいいのか、それとも決められた目標をクリアしなければならないのか。マサキとアスカの違いはここにある。

 医師の仕事はハードだ。深夜の当直もあり、急患などが入れば休みの日でも出なければならない。
 そんな中でアスカもマサキも、わずかな時間の走りを楽しんできた。
 FD3S。免許を取って走り出してからずっと共に過ごしてきたパートナーだ。

 NERVによって新たにチューニングを施され、このFDは10年前の最速伝説にまた一歩、近づいている。首都高のロータリーロケット、惣流キョウコFC3S。彼女が持っていたシャーシセッティングを移植され、FDはさらに高次元の走りを手に入れている。
 それは今までのFD、他のFDとはまったく別物と言っていい。もはや後戻りはできない、FDの姿は見た目だけで中身はほとんどが入れ代わり別物のマシンになってしまった。
 500馬力のパワーと最高のシャーシ。自らが求める完璧な姿を目指して、立ち止まることなく走り続けていかなければならないのだ。

「ママが見てるのよ…無様な姿は晒せない」

 今夜もアスカは首都高へ出撃する。
 裏手の駐車場で待つFDの元へ、アスカは決意を新たに歩き出していった。










 いつものように首都高に上がるインターチェンジを通り過ぎながら、アスカは高架を照らす街灯の列をぼうっと眺めていた。
 気を抜いてなどいられない、それなのに集中が乱れる。
 疲れているのか?連日の走りで、すこしは休んだほうがいいのではないのか?
 アクセルを踏み込み、迷いをねじ伏せる。

 FDはほとんど瞬時にスピードに乗り、景色を塗り替える。

 瞬くセンターラインのきらめきと共にコースはうねり、FDはそこを泳ぐようになめらかに走り抜けていく。一般車を無闇に煽らない、無駄のないライン取りで環状線を周回する。

 速い。

 FDの速さはもはや完璧に近い。
 それなのに、アスカの心には一抹の迷いが消えずにいた。

「……シンジ…」

 江戸橋JCTを直進し湾岸へ向かう。

「アンタがいなくなってから、もう何日になるのかしらね…
綾波も、マナも、ずっとアンタを待ってる……
…走り続けてれば、こうやって走り続けてればきっとアンタにめぐり会える…

みんな、そう思ってるのよ……

そう信じて、走り続けてるのよ……」

 再び現れた。
 白のGTO…

 湾岸での勝負だ。












MAXIMUM SPEED ATTACK

WANGAN

          HIGH SPEED DRIVING RPG


Asuka L. Sohryu(NR)  FD3S RX-7
vs.  
Masaki Akizuki(Apostles)  Z16A GTO


御月様に住むうさぎさんは
何で餅つきしてるのかな。
俺は爆走したいから爆走しています。













 GTOを従えて湾岸に合流する。

 もどかしい。
 今までとは勝手の違う足回りは、そう簡単に慣れさせてはくれない。

 GTOの白紫色のプロジェクターヘッドライトが瞬く。

 上昇していくスピードメーターに気持ちが追いついていかない。

 焦っちゃダメだ。詰まる息をこらえながら道の先を見据える。
 250km/h。タイヤの接地感がない。まるで氷上を滑走しているかのような感覚…

 踏み込め。踏み込めない。

 GTOの後方からさらにもう一台が現れた。
 青いRS。綾波レイ。
 この勝負を見届けるというのか…

 左車線に連なったトラックをパスし、GTOがラインを変えてオーバーテイクの態勢に入る。曲面の巨大なボディが震え、狂おしいまでの加速がはじまる。
 後方のRSもそれを追うように加速。懐かしい、FJ24の咆哮が轟く。
 FDも負けてはいられない。5速、250km/h、まだまだ先はある。踏み込め、300km/hオーバーの世界まで。

 オールクリア。

 果ての見えない最高速の世界へ……










 僕はいつしか、大黒PAにZを乗り入れていた。

 平日の夜…
 週末のお祭り騒ぎも、今夜は一休みだ。

 代わりと言っては何だが…
 PAの隅に、普段とは趣の違うチームの姿が見えた。

 リーダーらしきスキンヘッドの男が僕に向かってくる。彼の向こうには数名の男たちと3台のGT-Rが見える。

 僕は思い出していた。そのうちの一台に見覚えがある…

 横浜GP予選に出ていた、パールホワイトの34R…

 …湾岸GALE、矢吹テンセイ…

「……あんたが碇どんか?
おうおう、よく来なすった……
おいどんは大黒WAVESの村丘シンゴという者でごわす」

 そう名乗ったスキンヘッドの男は、BODYSHOP MURAOKAの社長村丘ダイゴのひとり息子だそうだ。

 主に走りよりもドレスアップに振ったファッション系のチームを率いているらしい。そして対照的に湾岸アタックを主体にした走り系のチームである湾岸GALEリーダーの矢吹とは本拠を同じにするチーム同士として良い仲のようだ。

 矢吹の姿は一目で分かる…

 いつも、目深のフードをかぶったロングコート姿だ…
 隠した眼光の奥から僕を見ている…

 村丘シンゴは僕に矢吹を紹介した。

「……こいつはのう、矢吹テンセイというんよ。よか名前じゃ……
おいどんが名前を付けたんよ……

……BayLagoonTowerのそばで倒れておるのを見つけて、おいどんが手当てしたんよ。

……口もきけんこやつが元気になるにつれて、あっという間に湾岸最速になっちょるんよ。今じゃ湾岸GALEというチームのリーダーをつとめちょる。
はやい男がリーダーになるのは当然たい……

……こやつの過去は、ようわからん。
じゃが、碇どんの噂を聞くとなぜか騒ぎ出すんよ……

こやつ、碇どんになにか言いたいんよ……

ここでひとつ、こやつとバトルしてもらえんかの?」

 矢吹はずっと黙ったまま、小刻みに指先を震わせ僕を見ている。

 僕はバトルの申し込みを受けた。
 Z、34Rがゆっくりと湾岸線上りへの合流路を走っていく。

 先行する34Rがハザードランプを3回点滅させ、バトル開始の合図をした。

 同時に、誘い合うように加速していく僕たち。

 言葉なんて要らない…
 走る、それだけでいい。
 共に走ることでわかりあえる何かが、納得できる何かがあるなら…迷うことなんてない。迷わず、走りぬけ。
 湾岸の直線はどこまでも長く伸び…果てのない、僕たちの意識の狭間を見せている。












WANGAN TRIAL


Tensei Yabuki(WG) BNR34 SKYLINE GT-R V-SpecII


俺には帰る場所なんかない
暖かい温もり、平和な日々を捨て
走る、最速の彼方へ












 湾岸最速のGT-R。おそらく800馬力近くに達するであろう、Diablo-Zetaをも凌ぐ加速だ。僕はZをスリップストリームにつけ、34Rを追走する。

 息もできないほどの激しい加速に身を委ねながら、僕は不思議な懐かしさを感じていた。こうして走っているとどこか安心できる…
 走ることが楽しみ…
 そんな、素朴なことなのかもしれない。
 矢吹は身元も分からず、村丘がずっと身の回りの面倒を見ているらしい。
 それでも、こうして深夜のSTREETに出れば彼も立派な一人の走り屋だ。
 昼間は村丘の工場で黙々と働き、夜にはGT-Rを駆って湾岸を走る。

 走ることが楽しみ…

 僕も、矢吹も、誰もが同じなんだ。

 それは【声】さえも同じなのかもしれない…
 僕の中で確かに息づいている…

 思い出していた。

 いつか、相原さんが僕に語ってくれた言葉…
 白いテスタロッサを背景に、彼女の詩がつむがれる。

「速いのね、あなた……
なにを求めて走っているの……?

私?そうね……
自分がありもしない幻想を追いかけて走ってることはわかってるわ……
このまま走り続けてもなにも残らない、ってことも……

だけど……
それが首都高っていう場所の不思議……
永遠にループするメビウスの輪……
何年も走ってるとね……いろんなものを見るのよ。

いつか見たような過去の景色……
あるかもしれない未来の映像……
生まれ来る人たちの泣き声……
死にゆく人たちの叫び……

そして……

死んでいった人たちの怨嗟の呻き……

人には超えてはならない領域がある……
なんとなく、わかるわ。

それを知ったら……もう戻れない……
人の領域には、二度と帰れないの……

私はもう、ここから離れられない……

時が絶たれるまで……

永遠にね……

また会えるのかしら……
あなたに……

その時には……

どこで会うことになるのかしらね……?」

 12使徒の中でも最古参の彼女は、10年以上走り続けてきた老練の走り屋だ。
 わかっているはずだ。限界を自覚しながらも、なおも囚われ続けている自分を…
 首都高という走りのステージを、降りるときだと分かっていても離れられない、そんな自分を…

 白いテスタロッサと、白いGT-Rがオーバーラップする。

 矢吹も同じ事を思っているのだろうか…

 行き倒れになっていた自分を助けてくれた村丘への感謝…そして、敬意…

 走り続けていくしかできないんだ。
 振り返れば、そこには穏やかな日常がある。
 いつでも戻ってこれる、それは錯覚だ。いつしか自分の背後には何もなくなり…懐かしさという幻影だけが残っている。

 それでも僕たちは走る…

 果ての見えない、最速の彼方へと。たどり着いたところでそこに何があるのかは分からない。だけど、止められない。
 綾波先輩も、惣流も、誰もがわかっていたはずなんだ…
 それをわかって、なお走り続けられる者たちだけが今、ここに残っている…

 僕はもう止まれない。

 【声】はもう一人の僕だ…

 10年前と現在とを繋ぐ、たった一つの鎖…
 おそらく矢吹も現役であったであろう頃の、最速伝説…

 【声】はゆるやかに…
 …語りかけている…

 ……甦る横浜最速伝説……

 スリップストリームから抜け出し、34Rにノーズを並べる。
 わかっているはずなんだ…
 僕たちが走り続けていく、その先を…










 湾岸線下り、海底トンネルへFD、GTO、RSが3台立て続けに突入していく。
 光の激流は切ないまでにボディを叩き、視界がぶれる。

 GTOを抑えて走れない。アスカの頬を汗の滴が滑り落ちる。

 でも、ここで引くわけにはいかない…
 負けるわけにはいかないんだ。

 息が上がる。

 初めてだ。走っていてここまで追い詰められるなんて…

 RSがバックミラーに閃光をきらめかせる。レイが見ている。
 負けるわけにはいかない…負けた姿を晒すわけにはいかない。

 FDのエンジンが唸る。
 もうひと踏み、あともうひと踏みすればFDは更なる加速を見せてくれる。そのはずだ。だが、踏めない。
 勇気がないから、じゃない。
 これ以上踏んだら本気でヤバイ、そう直感が教えている。

 どうしてだ…

 このエンジンに載せ替えてから、300km/hを出すことなどたやすかったはずだ。それなのに今は、こんな速度域でさえ思うように走れずに喘いでいる。
 すべては自分のせい…自分がこのマシンを操りきれていないから。

 赤木博士から、FDのシャーシに手を入れると聞いた時自分は期待に胸を躍らせた。これでさらなる速さを身につけられる、FDをより速くできる。母キョウコの領域へ近づくことができる。そう思った。

 それがどうだ?
 軽量化されたシャーシはトラクションの不足を生み、500馬力のパワーを生かしきれていない。セッティングのせい?マシンのせい?
 違う。
 自分がまだ、このFDを操る術を身につけていないからなんだ…

 最高速は甘い世界ではない。

 アクセルを踏み込む、アスカの右足がかすかに震えた。
 ここから先、走り抜けていけるのか…

 トンネルを抜けた先に大井の左が待ち構えている。

 思い出すのは、母キョウコと共に走っていた10年前の日々。
 自慢の赤いFCの助手席に座り、遊園地のジェットコースターを楽しむかのようにキョウコの走りを味わっていた、中学生の頃の自分…
 あれから10年。
 今は、自分がキョウコに代わってステアリングを握っている。
 愛すべき母が身を置いていた世界…
 それはこんなにも厳しいものだったのか、アスカは今更に打ちのめされていた。

 涙さえが零れ落ちそうだ。

 ついにGTOがFDに並んだ。
 見ないで。見ないでくれ。お願いだから見ないで。

 弱い自分の姿を見られたくない、アスカは必死でステアリングを握り締めた。

 キョウコはこのエンジンと足回りで、首都高最速の名を手に入れていたんだ。今更、自分がそれを受け継ぐことができなくてどうする?
 誓ったはずだ。
 母キョウコの走りを受け継ぐと。そう誓って、このエンジンを積んだはずなんだ。そしてFDをさらなる高みへと上らせた。禁断のチューニング…シャーシまわりの大幅な軽量化と、そしてNERVオリジナルのサスペンションシステム。それはFDをさらに速くさせる事を約束してくれるはずだった。

 それを操りきれなくてどうする?

 叫びだしたい衝動を必死でこらえる。





 夢。

 淡い光を振り払って、その先にあるものを確かめようとする。
 怖い。だけど、進まなきゃいけない。
 そんな強迫観念に誘われる。

 聞こえてたノイズはシャワーの音だった。

 床を叩く水音に混じって……流れ落ちる血が、排水口に吸いこまれていく。

 掻き毟る。
 皮膚に爪を立て、切り裂いていく。

 風呂場の床に何度も嘔吐する。もはや吐き出すものは何も無く、黄色い胃液だけが床を溶かし、湯に薄められて流れていく。

 吐き出す血は自分のものじゃない。

 シャワーのつまみを全開までひねる。
 吹き出す湯は床の水面をかき乱し、光を散乱させる。

 水面に映りこんだ影を見たくない。

 背後を振り返る勇気がない。

 だめだ。振り返ったらダメだ。
 音も聞いちゃダメだ。耳を塞ぐ。
 それでも、直接頭に響いてくる。

 バスルームの床にしゃがみこんで膝を抱え、凍えてる。

 背中に冷たいものが当たった。

 悲鳴はのどを絞り、声さえ出ない。

 天井からぶら下がる女の足が、アスカの背中をそっと撫でた。
 濡れたロープが軋む音が、振り子時計のように規則正しく響いてる。

「どうして…
どうして、死んじゃったのよ…ママぁ!!」

 トンネル出口の闇が加速度的に迫ってくる。

 大井コーナーへ向けてブレーキング、旋回姿勢からさらに加速。
 だが、アスカの心の揺らぎをFDは見逃してはくれなかった。

「!!」

 トラクションが抜ける。失速する。

 視線の軸と、車体のベクトルがずれていくのがはっきりと体感できた。まっすぐ伸びていくはずの道路が横にずれ、そして遠ざかっていく。

 スピン…?

 終わった。クラッシュだ。この速度では立て直せない。

 アスカがそう諦めた、次の瞬間に激しい衝撃がFDを打ち据えた。
 我に返ったアスカの視線の先を、青いRSが走り抜けていく。
 ギリギリのスピードで突っ込んできたRSが、スピンしかけたFDのボディを支え、受け止めた。FDはグリップを回復し、ゆっくりと速度を落としていく。前方に、走り去っていくRSとGTOの姿が見える。

 RSのテールからアフターファイヤーが飛んだ。

「助けてくれた…助けられた……?」

 呆然と呟いた。RSとGTOは既に道の先に消え、法定速度に落としたFDは一般車の流れに溶け込んでしまった。

 路側帯にFDを停め、RSと接触した左フロントをチェックする。フェンダーとドアパネルがへこんでいるがそれ以外にダメージはない。しっかりと造りこまれたFDのボディはあの激しい接触にも耐え、アスカを守ってくれていた。

 助けられた。それも、あの綾波に。しかも、後輩の見ている前で…

 アスカは煙草を取り出し、火をつけ、ひと息吸い込むとすぐに捨てた。

 悔しさとも悲しみともつかない微妙な感情が宙に浮いている。
 後悔なんて、してもどうにもならない。事故らなかっただけ幸いと考えるしかない。

「!シンジ…」

 中央分離帯越しに、その車が走り抜けていくのが見えた。一瞬だったが、それでも見紛うことなどない。

 紫色のZ32…Diablo-Zeta。

 碇シンジ…
 帰ってきたのか。

 一緒に走っていたのは湾岸GALEの34Rだ。

 シンジが帰ってきた。

 感情の高ぶりはとどまるところを知らない。

 高速道路の騒音が、かき消してくれる。
 FDに縋りつき、アスカは泣きじゃくった。何年ぶりだろう、涙を流すなんて。
 惨めな自分を見せ付けられて、悔しいから。
 憧れの彼が、手の届かないところにいると思い知らされて悔しいから。

 シンジ…

 今すぐにでも抱かれたい。
 同時に、殺したいほど憎らしい。
 どうして自分たちを置いていなくなってしまったんだ。どうして今頃戻ってきたんだ。戻ってきたのなら、どうして自分のところへ真っ先に来てくれないんだ。

 海底トンネルに児玉するDiablo-Zetaの咆哮が、いつまでも耳に残っている。お願い、消えないで。しゃくりあげながらアスカは必死で思い出を手繰り寄せようとした。
 最初の出会いはMNAとNRの交流戦で。レイが手にかけて育てた走り屋の卵、公道デビューを飾る彼。そう言われて、あのZ32を見た。最初は大したことない、と思っていたのが、日を追うごとにどんどん思いは募っていった。幾度ものバトルを潜り抜け、そして、やがて彼が10年前に憧れていたあの碇シンジ本人だと気づき…
 今や、想いは疑う余地もない。

 叶うなら、添い遂げたい。
 シンジがマナを選んだのは分かっている。それでも、自分を見ていてほしい。おなじDiablo-TUNEを受けた者どうし…拒む理由なんてないはずだ。

 涙を拭うと、アスカは再びFDに乗り込み発進した。

 とことんまで打ちのめされて、それでも自分は生きている。
 走ることが、生きること…

 もう一度、確かめたい。

 夜も深まっていく湾岸道路を疾駆しながら、アスカは悲しみに酔っていた。

 それはもはや後戻りのできない、底の見えない闇へと踏み込んでいく事を表していた。














予告


DARKNESS GP。それは横浜最速伝説の再来。

【声】に操られ彷徨うシンジは、レイ、アスカ、マナとの再会を果たす。

ついに動き出すNERV、そしてWON-TEC。

それは誰にも気づかれない小さな、小さな別れの始まりだった。



第23話 別れ


Let's Get Check It Out!!!







<前へ> <目次> <次へ>