イルシオン(1) 
 
  漂着した少年


         作 こめどころ








気がつくと僕はベッドに横たわっていた。

裸だったが寝床は暖かかった。海獣の分厚い毛皮が数枚上と下にあって、
背中から腰を覆うように柔らかい別の感触があった。
毛皮じゃ無い、なにか柔らかい皮をなめした様な、優しい肌触りだ。
そこから全身がほくほくと温められているんだ。
なんだこれ。ひどく心地よい。
その瞬間、短剣が僕の目の前で美しい輝きを放っていた。

「ダマスクスの短剣よ。きれいな斑紋でしょ。」


お、女の子?綺麗な中央ローマの言葉だった。
すると、この背中にぴったりくっついている暖かな感触って。
ごくり、と喉が動いた。これをごまかすには。


「これがダマスクス鋼か…微かに青味があるね。」

「あんた、変わった子ね。びっくりしないの?」


子って、僕はもうこれでも18歳だぞ。


「いや、殺す気なら寝てるうちにやるだろうし。今になって殺さないだろ。
それよりは裸の女の子がペッタリくっついてる方が僕にはよほど」


肩を掴まれて、後ろを振り向かされた。
綺麗な髪と目をした女の子が互いに触れ合うほど目の前にいた。
僕を一晩中ずっと温めていてくれたのだろうか。
女の子の匂いが湧き上がって僕を包んだ。僕の身体は実に素直に出来ている。
むく、むくむくむく。 ま、まずいよこれは。恩人に対して。
当然だけど、彼女は半目になって僕を冷ややかに見たわけで。


「なによこれ。いい態度じゃない。」

「わざとそうしてるわけじゃない。
男の生理現象を知らないってわけじゃないだろその年で。」

「悪かったわね、『その年』で。」


しまった。2重に逆鱗に触れたっ。


「知らなくはないけど、所かまわずおっ立てる奴を赦す気はないのよね。
それに、まだ小母さん扱いされる年齢じゃ無い。」


そう言ってソーセージを切るような手つきをした。


「ま、まさかね。ははは。」


どっと冷や汗が流れ出た。女の子への口のきき方には帝都も辺境も無いってことか。


「十数える間に、そこの服を貸すから出て行って頂戴。」 

「こ、このままで、出て行くの。せめて着替えてから。」

「ひとーつ、2,3,4,5.」

「お、おいっ!速すぎっ!」


ベッドから跳ね上がるとドアを蹴破って飛び出した。直後に剣がドアに突き刺さった。
荒っぽい奴、あれでも女かよ。ま、なんとなく背中がいい思いできたからいいか。


「おい、早く着替えろ。」


目の前に武装した男が5人立っていた。


「俺たちは男の裸は嫌いなんだ。」

「まさか、オカシラに指一本触れなかったろうな。」

「お、おぱーいの感触くらいは憶えてるけど、背中で。」

「そのくらいならいい。飯だ。早くズボンはけ。」


燃える帆と船体。血まみれで浮いている兵たち。
飛び込んで泳ぎ続け、最後に波間に沈んだ。
あの後、ここの浜にでも打ち寄せられたってわけか。運が良かったのかな。
あの女の子、カシラだったんだ。道理で威勢も度胸もいいわけだな。


「それに、いい女だったような気がするし。」


栄養不良のかすかすのオートミールと、塩の利きすぎたカマスの切り身。
こいつらいつもこんなもん食ってんのか、辺境は哀れだな。
そこにさっきの5人組がやって来た。カシラが呼んでるって。
飯も食わせてもらったし、昨夜のやや未熟だが十分な暖房の礼もある。
ま、情報収集とか海路の知識のおすそ分けに必要な程度には付き合ってやらないとね。
さっきの部屋に戻るのかと思ったら、森の中に進んでいく。
潮風。こっちは多分海辺の方だな。何だ、潮風の中に血の匂いがする。


「ぎゃあっ!」


数人が一度に悲鳴を上げて倒れた。まさか刑場か、まずいな、剣の一本も持ってないぞ。


「た、助けてっ。」


後ろ手に縛られたまま突き転がされると、片足を踏まれもう片方の足を杭に縛り付けられる。


「や、やめろおっ!」


叫んだ途端、今度は5人一緒に逆手に持った剣が地面に向かって突き通された。
声を上げたもの、そのまま泡を吹いて気絶したもの。股間が血まみれだ。
むごいことに、そこには睾丸の袋がいくつも転がっている。
血がさほど出ていないということは前もって根元を縛り上げていたと言うことか。
ギリシア商人は奴隷にこういう処置をして売買すると聞いたことはあったが見たのは初めてだった。
こうすれば故郷に帰ることも、妻子の元に戻ることもあきらめるから、いい奴隷になるのだと。
性格が温和になるとか、逆らわなくなるとか。だが、人のやることではないと思った。
いくら蛮族相手とはいえむごいことだ。


「ショックだったか。坊ちゃん。」


さっき、カシラと呼ばれていた女だ。人を坊ちゃんなんて呼ぶほどの年かよ。
見た目にたいした差はないだろ。おそらく同い年か、少し下かもしれない。
銀色の魚鱗鎧に鎖帷子なんか着てはいるが、カシラやるほどの実力があるとは思えないな。
僕の目つきはかなりふてぶてしく見えちゃったかもしれなかった。

その目つきが気にらなかったのか「おかしら」は横にいた若いのに何かささやいた。
やっておしまいとか何とか言ったに違いない。
皮の甲冑を着込んだそいつは僕の前に歩み寄りにらみ付け、大声で怒鳴った。
そこにあった荷物から人が離れ遠ざかった。
その中から何本かの剣をつかみ出し、こっちへ来いと呼んだ。
こりゃあ、僕らの船の積荷じゃないか。襲ってきたのはこいつらだったのか?
だがこの去勢された男たちは僕の知っているガリア兵たちではない。

小屋の横にはこの辺りで交易をしている商人と思しき者たちがいた。
そうか、これは市なのか。
その荷に近づいてかき分けると、僕の甲冑と剣もあった。
剣を取りその男に向かって「これは僕の剣だ。」と言った。
男は女を振り返る。女が鷹揚に肯くと、「腰に付けろ。」と言ったのがわかった。
そして剣を抜いた。応じてこちらも抜く。
むこうの鉄剣は、質は悪そうだが肉厚の重い剣だ。
当たったら鎖の甲冑を付けていても骨が砕けるだろう。
しかし当たらなければなんと言うことは無いと思った。剣には自信が有る。
振りかぶって切りつけて来るのを2−3度避けて打ち据えた。
筋は悪くないが何と言っても技術が段違いだ。
4度目に剣を絡ませて高く跳ね飛ばし、首に剣を突きつけた。
男は悔しそうにしていたが引き下がった。
周りにいた男たちは歓声を上げて囃し立てるだけだった。
しかし男の剣が飛んで勝負が付くと殺気立って詰め寄って来た。


「待ちなさい!」


女は叫ぶと、僕についてくるように言ってさっさと歩き出した。
男どもは不満げに見送ったが手を出してくる者はいなかった。


「また、助けられたって事か。」


豪奢な金髪が目の前で揺れている。男たちの心服振りから見て、ただの女ではない。
この野蛮な世界でここまで男が言うことを聞くとしたら、剣の腕か、巫女か、血統か。
あるいは女そのもので、男同士を競わせ、その上に立っているのか。




朝の小屋に共に入った。寝間は片付けられさっぱりとした様子に片付いている。


「酒か?それともヤギの乳でも飲る?」


大の男にヤギの乳を勧めるか、普通。


「ワインをもらおう。」


「そうか、あたしはいつも乳を飲むわ。
父上もそうだったし、兵たちにも昼は乳か水しか許可していない。」


そういう考え方もある。ワインと言えども泥酔していれば兵はものの役に立たない。
できればそうしたいが、飯時に一杯程度は許さないと不満からサボタージュが始まることもある。
それもまずいから手加減が難しい。
この村のぶどう酒は中々うまかった。渋みも少ないし芳醇で甘みもちょうど良い。
ワインがうまいと言うことは文化レベルは低くないと言うことだ。
だからこそギリシア商人と交流が有るということだな。


「中々やるじゃない、優秀な男は好きよ。」


要するに試されたと言うことか。


「奴隷の市と言うことか。」

「ついこの間の戦の捕虜たちだ。
我々の趣味ではないが去勢した方が高く買えるというのだからしょうがない。
女たちもこの後売り払う。そっちはさらに高く売れることもあるからな。
そんなことはここではいつものことだが、腕の立つ戦士はめったにいるものではない。
それなりの尊敬も受ける。」

「あの程度はローマの軍人であれば誰でもこなす。」

「謙遜か。ま、貴族の坊ちゃんでも、いい剣の家庭教師が付いていればな。
スパルタ、スキタイ、スペインのフェニキア人あたりか。身のこなしも良いしな。」


僕の槍と剣と騎馬の教師の出身を見事に言い当てた。
ただの娘ではない、それだけに警戒もする。


「ここから森を騎馬で3日行けばローマの砦に出る。海から行けば大体7日でガリアに着く。」

「 帰してくれると言うのか。」

「おまえを引き止めて我らに何か得があるのか?殺すより、むしろ帰して恩を売るほうがいい。
まぁ身代金を取ると言う手もあるが、おまえは捕虜ではなく客人だ。
私たちにも礼儀はある。一応だけどね。」


初めて歯を見せて笑った。まだ子供だが将来は美人になるだろう。
といっても大して年が離れているとも思えなかった。
だが男の年は剣の腕で決まる、僕は立派に一人前として男の間で認められていた。


「僕らの船の荷は?」

「焼け焦げたまま浜に流れ着いただけだ。
随分やばいところを抜けたようだな。死体はこっちで丁重に埋めた。」

「礼を言う。」

「気にするな、ただあの船とその中身は慣習により我等が商人に売り払う。それでいいな。」

「寄り付き物は浜の所有、それはどこも同じルールだろう。」

「ほう、ローマの貴族にしちゃまともに話が通るじゃないの。あんたの荷物だけは返してあげる。」

「それは助かるな。どう身を振るにせよ武装がなくては話にならない。」


敵も分からないまま、一方的に敗れたのは悔しいがそれに反論はできなかった。
大体こんな場所で待ち伏せに会うこと自体がおかしいのだ。
親父の跡目争いなんてものに興味は無かった。
大体他の兄妹はみな由緒あるローマの市民だが僕は違う。
僕は本来親父の妹の子であり、その妹はローマが敗走した戦で敵の手に落ちてしまったのだった。

助け出されたときに抱いていたのが僕。異民族の子だ。母はすぐ死に、父に引きとられ養子となった。
フェニキアの売春街に売り飛ばされていたところを保護されたのだ。本当の父など判るわけがなかった。
おまえはわしに恩義がある。それを返せ、とよく父は僕を励ました。それでいてスマートに遊べとも。
だが、その父も老いた。兄等の勢力が強くなっている。
ローマの相続制から言えば僕の母の財は父が預かる形をとっている。
いずれ僕が成人すればその財は戻って来る。
それは父の財の約三分の一にもなる。財は兵となり、具体的な力となる。

「帰っていい。馬も武装も返してやる。だが今戻ればおまえ、命が危ないんじゃないのか?」

「何故、おまえにそんなことが判る。」

「わかる。我らも平和に暮らしているだけではないからな。ここは小さな領国ではあるが兵は多い。
情報も色々入ってくる。情報が早かったから我々は度々の小競り合いに勝ってきた。」


何かも分かったような表情。


「れっきとしたローマ貴族の資格を持つお前がバルト海を航海しゲルマニアの奥地にやってくるには
いろいろな理由が有るだろう。
それがお前の仕事だったとしても、それに漬け込んでお前が帰ってこない方が都合のよい奴がいたはずだ。
そうじゃないか。第一我々にはあんな沖合いに出せるような大型船を持っていない。
お前たちを襲ったのは、ガリア人の海賊だろうよ、つけられていたんだ。」

「それは確かにおまえの言うとおりだろうな。心当たりも有る。」


この娘は、確かにただに蛮族のカシラというだけではない。
自分達より強大な敵との戦いの仕方を知っている。


「ただ戦の方は蛮族同士だからな。ローマやその属領の兵に数と早耳だけで勝てると思うのか。」

「だから、おまえが隠れ住むだけの間力を貸し私の兵を鍛え、用兵法をおしえてくれ。
それで公平な取引だ。助けた恩義を返せ。」


苦笑した。こいつ女の癖に父と同じことを言う。
僕だって将として戦は5回経験しているし、その全てに勝ってきた。
親父のいないところで自分の力を試したいという、男子たる者の夢もある。


「わかった。暫く厄介になろう。」


そう言って頭を下げたが、女はそれを制した。


「もうひとつ、こちらからお前への条件がある。」

「まだ何かあるのか。」


一瞬、口ごもったように見えたが、それを振り払うように言い切った。


「おまえの、子種をよこせ。」


危うく、ワインを吹き出しそうになった。どこからそんな話が出た。


「父に言われていた。おまえはローマの子だと、できればローマの子を産めと。」

「ローマの子?」

「父はローマの軍団の将だった。母はトラキアの王族に連なっていたという話だがよく知らない。」


トラキア、その昔は広大な版図と多くの民衆を抱えていた高い文明を誇った民族。
大量の金銀と装飾品と美しい美術品。その兵は勇敢で猛々しく死を恐れず、その女達は
夫が死ねば自らもその傍らで死を選ぶ。いまでも特殊な死生観を持ち、多くの墳墓が残っている。
ヨーロッパ最強の民族にして、最も高度な文化を謳われた民族だ。
そのトラキアの王族とローマの将の間に生まれ、スキタイやゴート人の居住地を突破し、この
ゲルマニア深くに自らの領域を打ち立てている少女、その眷属たちの力は群を抜いていると言える。


「おまえも何かの血が混じっているようだが一応ローマ貴族の息子なのだろう?」


ギリシア系トラキア人なのか、彼女のターコイドブルーの瞳はその流れゆえか。
コンスタンティノポリスからブルガリア、黒海沿岸にかけてはギリシャ人が多くいる。
だが言葉と習慣が違うためバルバロイ(野蛮人の意味)とされてきたこともある民族だ。
海沿いの多島海に点在するギリシア人から見てもマケドニア人など奥地のギリシアはバルバロイだ。
その昔定義されたバルバロイは今はローマ領内に住み、ローマの市民権を持っている者もいる。
だが互いに差別心を持つローマ人と対立することも多い。
バルバロイ出身であることに誇りを持つ者も多く、同時に軍幹部や下級官吏を務める者もいる。
逆にそれゆえ、胸の内はなかなか複雑なのだろうと推察できる。
とは言え、彼女はローマ人と結ばれよという父の言葉に従う決意が有るのだろう。


「父の許可なしに結婚はできない。」

「別に、正式に結婚などしてくれる必要はない。種をもらえればそれでいい。」

「種を貰うだけなど。きみの父がローマ人であった事の証は?」

「これだ。」


ベッドで僕に突きつけたダマスクス鋼の短剣。
その柄には鷲の翼の文様が彫りこまれ、半分削られた様に残っていた。
ローマ人でも将で無ければこの意匠は許可されない。しかもおそらくはかなり古い家のもの。
何故その男はこんな辺境の果てに住み、トラキア人の妻を迎える事になったのかは知り様も無い。
恐らくはスキタイやゲルマンとの戦いの中で敵味方共に知られた戦士だったのかもしれない。
もしそんな男がローマを何らかの理由で追われれば、ゲルマンはその男を受け入れる事もあるだろう。
ゲルマンでは、異民族であろうとも、強い男には最大の尊敬が払われると聞いている。


「きみの名前は。」

「アスカリーセ・アスキトラメル・スバルトコス。皆アスカと呼ぶ。あなたは?」

「シンジ・マウエリア。今のところ氏族名は勘弁しておいてくれるかい。
どこか遠くの異国では真実と言う意味だと聞いた。それでいい?」

「承知したわ。」


突き合わせていた視線が緩んだ。僕とアスカは息を付いた後、これからの事を想像した。
正式ではないが、初めて妻を迎える。それがこのローマでは絶対に会うことは無いタイプの娘だ。
野生と力に溢れ、暴力と戦いと血を恐れず、男と対等に渡り合い、平気であごで使う娘だ。
いや、かつての共和制ローマは、こういう娘達に支えられていたのかも知れないと夢想しそうになった。
アスカは女中を呼ぶと、寝床と風呂、食事と酒の支度を命じた。2人のための宴だ。

甲冑を脱ぎ、女中に導かれるまま風呂に入った。身体を擦る木の枝の感触が心地よかった。
こざっぱりした服を着込む。何故男物の服がこの家に有るのか。あるいは彼女の父の遺品か。

食事をしながら様々なことを話した。アスカも僕自身も饒舌だった。
僅かな時間で相手の事が知りたかった。
生きてきた経緯を知り、互いの身の上を知り、我がことのようにそのことが胸に沁みていく。
今まで、こんな感覚を憶えたことはなかった。

アスカの褥は柔らかい。今朝の毛皮も今夜のキルトも。
小さな動物の毛皮を同じ形切り揃え、丁寧に紡いだものだ。いっそうきめが細かい。
薄暗がりの中にろうそくが揺れる。
肩からローブを落とすと薄絹をまとっただけの全身が薄明かりの中に現れた。
その光でアスカの翳りが揺れる。今朝はただの漂流者と看護者だったから何も感じなかった。
冗談半分のじゃれあいが2人の間にはあっただけだった。

だが今は身体を交し合う間際の若い男女だ。彼女もそして僕自信も緊張している。
ベッドに腰を下ろしたまま、アスカをただ見ているだけの時間。
その乳房を腕で隠そうとする女。まだ17,8か、それ以上にはなっていまい。
同じ年回りと言うことだ。今になって、スマートに遊んでおけと言う父の言葉を思い出す。
友人の武勇伝を総動員する。兄の自慢話、下男たちの話す与太話。
自分自身の経験など殆どありはしないが、その乏しい経験と聞いた話で何とかするしかない。
瞳を泳がせていたアスカが急に唇を噛むとつかつかとその格好のまま近寄ってきた。


「蛮族の娘なんか抱きたくないって言うのっ。」

「いや、そんなことは無い。」

「じゃあ、さっさと。だ、抱け。」

「じ、じゃあ。」


手を伸ばして、頬に触れ、とにかく引き寄せてキスをした。これなら妹にした事がある。
相手の頬が熱いのに驚いた。掌にあごを乗せて唇を割ると舌を絡ませた。
背から腰にかけて、片手を滑らせる。なんという曲線だ。
優しい背中から細い腰へと急なスロープがある。そこで彼女のローブを脱ぎ落とした。
自分が身に付けていたものも全て脱ぎ捨てた。
アスカが視線をそむけた。その彼女をもう一度抱き寄せ、両脇を撫で下ろしていく。
その先は指が沈むほど柔らかい尻があり火の様に熱い腹部があった。

自分の高ぶったものがアスカの柔らかい下腹部に熱く堅い高ぶりとして押し付けられ包まれていく。
身体に沈み込んだように、その感触が快感に変わっていく。
丸い胸の先端を、唇に含みゆっくりと舌で舐る。女にしかない胸の膨らみ。
その、青白いほどの穢れの無さはまるでアルプスの孤峰の雪のようだ。
成人近くなって女性の胸に触れたのは初めてだ。
指先がまるでクリームかメレンゲに触れた様な感触を伝えてくる。


「う、うう。」


目を閉じたまま、触れ合うところ全てから経験したことの無い快楽が押し寄せてくる。
アスカもまた、しっかりと目を閉じ、震える声を漏らし、足をがくがくと震わせている。


「立っていられない?」


呟くと、ええ、と言うように頷いた。抱きかかえようと膝裏に手を回す。
内腿から膝まですっかり何かで濡れそぼっている。


「いやっ、触わるな、自分でできる。」


激しい拒否にかまわずベッドの上に運び降ろした。
その濡れた場所を遡ると奥腿から湧き上がったもので、濡れているのだ。
こんな女の生理を聞いたことは無かった。
濡れ光る腿が火に揺らめき、綺麗だと思った。そこから芳しい香りが放たれている。
これが何なのか尋ねようとアスカの顔を見ると、彼女は顔を覆っていた。
唇だけが不自然に赤い。先ほどキスをしたときの変わった味はこれか。
アスカの身体に沿って横たわると、指先を彼女の股間に降ろす。


「あ、あっ!」


急に魚のように身体が跳ねた。女にはもう一箇所違うところがある。
ここと、男の場所を合わせると子ができることは知っていた。
優しく何回も指でさすってやれば女は従順になる、と友人が言っていたのを思い出した。
多分、ここのことだな。
濡れた谷間の両側を2本の指でさすってやる。アスカは声を殺して身悶えしている。


「い、やっ。やめ…」


全身が色づいている。いや、熱く火照っているのか。
身体を起こし、僕の身体に背をもたせかけた。金色の髪が両胸の脇を流れ落ちた。
両手を使って、乳房と股間を同時に撫でさすると悲鳴と共にアスカは仰け反った。
濡れた部分を指でゆっくりと往復させると、肉体がさらに反り返った。


「はっ、うん。あ、ぁぁあ。」


割れ目の中に指をくぐらせ突端に触れる。


「ひっ!」


アスカの身体が飛び上がった。その後身体を丸めて屈み込んだままだ。


「どうした。大丈夫か?」


荒い息だけをしながら、アスカは僕を見上げ、悔しそうに口を開いた。


「お、憶えてなさいよ。こんなにしてっ。」

「何のことだよ。」

「あんたはぁっ!」


身体をすくめた途端、さっきの突端を指が突いてしまった。


「はっ、あっ!」


がくがくとアスカの身体が痙攣し、息を詰まらせたような悲鳴を上げた。
とにかく、ここを攻めていればアスカは僕に逆らえないようだった。
だとなれば、ここを攻め続けるしかない。次第に抵抗は弱まる。
父親の日頃言っていた言葉を適えようとしているのか。その父の夢を適えようと耐えているのか。
その健気さを思いやるとこの気の強い娘の誠に胸が熱くなるのを感じた。
スライドさせる度、さらのその弱々しい抵抗が繰り返され、彼女の身体から力が抜けていく。

寝床に倒れ伏したアスカ。極端に細い腰と豊かで切り上がった尻。
そして乗馬で鍛え上げられた輝くほど健康的な腿と長い脛。
細い腰とわき腹から続く胸の美しいカーブに突出している、丸く半円を描く乳房。
ローマの娘にも劣らない清楚な横顔。
この娘の美しさは、まるでビロウドに輝く野生馬のようだ。
捕らえたばかりの若駒のように誇り高く抗い、汗で体躯を輝かせている。
輝く肌は丁度黒馬に近い。この娘の全てを自分のものにしたい。と本気でその時思った。
初めて娘を所有したいという願望を抱いた。今は仮初の交わりだが、いずれこの娘の愛を獲得するのだ。
その上で、本当の妻として迎えよう。
今は、この野生馬に刻印を当てよう。僕の妻であるという証を刻もう。


「あっ、だめ。」


倒れ伏したアスカの腰を持ち上げるとゆっくりと密やかな翳りの奥にあるものに
自分をあてがった。もうこれ以上耐え切れないほど硬く雄雄しく反り上がるもの。
これでアスカを貫くことに何のわだかまりも無い。
おまえが求めた通りのもので、おまえを貫こう。腰骨に手を当て尻を持ち上げた。
濡れそぼった奥に彼女のものが見えた。
何度も強い反応を示したのでそこはもうしとどに濡れていた。
それだけでない。少年のような顔立ちに似合わず、完熟した果実のように柔らかく僕を迎え入れた。


「だめ。だ…めぇ。」


夢の中を彷徨っているのだろうか。いまだ、次の瞬間には処女が手折られることに気づいていない。
また少し身体を進め、途中で一気に押し進んだ。


「ああっ!」


正気づいたアスカは身体をひねろうとしたが、僕の両足と腰が彼女の両腿を硬く固定していた。
両肩を褥に押し付けると、腰が高く上がった。もうアスカの抵抗は意味をなさない。
その間の彼女の中心を、僕の張り切った肉茎が容赦なくどっと貫いた。
ずるっと、僕はアスカの腹の奥に飲み込まれた。


「ぐ、ぐうっ!」


一気に抽送を繰り返す。残酷な気がしたがそうしないと約束が果たせない。


「い、痛いっ。止めて、いやぁっ。」

「我慢するんだ。もう少しだ。」

「バカッ、許さないっ!あ、ぐううっ!」


僕の内圧はぐんぐん上昇して、爆発寸前になった。


「行くよっ、アスカ、さぁ、種をあげるっ!」

「バカッ、こんなにして、ひどいっ!」

「何だよ、今更うらまれてもこまるよっ。」


今更止められない。


「とにかく、出すっ!」

「いやっ、出すなぁっ!」

「あ、ううっ!」

「馬鹿、駄目だってば、あっ、何っ、ひっ、ああっ。」


僕の種が奥に届いた途端、アスカは身体を震わせて引きつった。
奥まで挿し込まれていた僕を、周囲の壁が絞るように締め付けた。


「ぐ、うううっ!」


あまりの快感に2度目が爆ぜた。そしてたちまち3度目が爆ぜた。


「あっ、駄目、駄目えっ!あ、ああああっ!」


一緒に何回もアスカも爆ぜているのか。そこから先はよく覚えていない。
男と女の交わりがこんなに凄いなんて思いもしなかった。
僕らは、大きく胸を上下させながら、もうピクリとも動けないほど力が抜けきっていた。
それでいて、体中がひどく敏感になっている。
ちょっとアスカの指が触れるだけでまた射精しそうになる。
もう4度(最低でも)も出したのに、股間のものは硬く立ち上がったままだ。
よほど相性が良かったのだろうか。

窓から中天に冷たい光を放つ月が輝いていた。


「馬鹿。気が付いてるの?」

「何だよ馬鹿って。僕にはシンジって名前が。」

「じゃ、馬鹿シンジってことね。」

「こっ、この馬鹿アスカッ!」

「ふん、真似しかできないのね。オリジナリティーが無い男なんてサイテー。」


うつ伏せになったまま、悪口を言い続ける。
思わずカッとして腕を取って仰向けにひっくり返した。
…何だよ、そんなの、ずるいじゃないか。
そんなに目を潤ませて、泣いてるなんて。


「馬鹿。」

「馬鹿じゃない。」

「馬鹿よ。ひどい目にあわせたもの。」


今度は両頬を押さえて、唇にキスをした。


「ごめん。辛かったよな。」

「痛かったわよ。」


アスカの目から、長く尾を引くように涙がこぼれた。


「ずるいよ。そんな事言われたらもう怒れないじゃない。」

「今夜は、これから先は、もう優しくするから。」


頬にキスをしながら、僕はアスカと約束する。ここからはもう、愛撫だけでいい。


「2人で、頑張ろう。この国のために。」

「うん。」


そう言って、月に輝いているアスカの乳房の先端を口に咥え軽く舐め続けた。
ふうっと、彼女の口から長い息が漏れる。
手下の前と僕の前。 同一人物とは思えない、なよやかさと甘えた口調。
アスカって一体どんな性格なんだろう。 同じ人物とは思えないじゃないか。

肌を併せる事は心地よい。身体のあちらこちらに唇を寄せた。
寄せた唇を動かしながら、舌で彼女の身体を隙無く舐めていく。
それが途切れると、今度はアスカが僕の身体に舌を這わす。身体が反応してしまう。
びくびくと、皮膚だけが感応し、わき腹がひくつく。腿が勝手に震える。
髪の中に指を入れ、梳いていく。アスカの小振りな頭を撫でる。
上げた顔の目のまつげが煙っていて、視線がはっきりしていない。
半分開いた濡れた口唇。 その頭が僕の下半身にもたれかかる。
アスカは起き上がると暖炉の鍋から湯をくみ出し、甕の水を足してタオルを絞った。
自分の身体を清めた後、別のタオルを再び絞った。


「あ、仰向けになりなさいよ。」


言われるままに従う。僕はまだ屹立したままだ。
いきなりその樹茎が湯で絞られたタオルに包まれた。
僕の横に座り、汚れを綺麗にふき取ると、アスカはそこにキスを捧げた。
それはトラキアに伝わる性技の一つだったのだろうか。
小さな舌が僕の茎を舐め上げ、そして口に含まれた。
その光景が頭の芯に突き刺さるほどの刺激となってさらに僕を高ぶらせる。
僕の上に乗り出したアスカの下腹と輝く片腿を引き寄せ、再び内腿に溢れてきた粘液ごと舐め上げた。
血の味がした。不潔だとも汚いとも思わなかった。僕のために流した神聖な血。


「ひっ!」


咥えていたものを離し、頭と背筋とが弾けた。
わしづかみにした腿の筋肉がアスカへの刺激となり、がくがくと身体を撓らせ、鳴く。


「あ、あっ、だめ、溢れるっ。」


翳りの中心を引き裂くように開くと、羞恥と刺激で彼女は身体をねじりながら抑えた悲鳴をあげた。


「だ、だめええっ!ぐ、ぐうぅっ!いやあっ。」


構わず、その立て溝に舌を這わす。音を立ててしゃぶりつくす。


「は、恥かしいッ。止めッ、そんなの嫌、そんなの、あ。ひっ。」


その声で真っ赤に火照っているのが解かる。
痙攣を繰り返し、こらえきれなくなって叫び、僕の樹茎にまた唇を落とす。
その繰り返しが僕ら二人の肉体を互いの身体に溶かし込んでいく。
腕を絡めあって、身体をむさぼり、互いの精液と愛液を飲み込み、まぐわい続けた夜。

夜半の寒さに、暖炉に燻る火に薪を数本くべた。
火が燃え上がり、互いの身体を明るく照らす。
僕らは素肌の上にそれぞれ毛皮を羽織り、炎の前で身体を寄せ合った。
アスカの身体、弾けるような弾力のある、美しい女性らしい筋肉。
僕の身体、そのアスカを十分に包み込める鍛えた身体を持っていることが誇らしい。
暖炉の前の、海獣の敷物の上で、僕らはまた愛し合う。
飽くことなく、アスカの全てを愛撫し、アスカの細い声を楽しんだ。
炎を映す肉体の輝きを賛美する。僕の逞しい男茎をその可憐な唇が包む。
その喜び、その幸福感。
初めて知る、愛するものを腕に抱く喜び。守るべきものがいる誇らしさ。


「シンジィ。」


艶めくアスカの呼びかけ。その喉笛に軽く歯を立てるように愛撫した。
僕の胸に当てられた手のひら。長い髪が流れ落ちる感触。
その湧き立つ匂い。同じ匂いになって、僕らの愛撫は止むことが無かった。















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イルシオン(1) 2008−01−15

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