この場合の二人     こめどころ



2.正義の味方ってどんな人?




 男子部2−Aの強面鈴原トウジが、女子部2−Fの惣流アスカに股間一撃で葬り去られたという衝撃の
事実は、あっという間に県立第3新東京西高等学校――通称西高の中を駆け巡り、誰一人として知らぬ
者のない事態として近隣の学校にまで――尾ひれがたっぷりついて――瞬時に知れ渡った。

鈴原トウジをよく知る人間は、彼が女生徒に手を上げるような人間かどうかをよく知っていたので最初
相手にしなかったが、相手が惣流アスカだと知ると、妙に納得するような傾向が見られた。

そういえばあの二人は同じ高校だったな。考えたら今までよくぶつからなかったもんだよ。―――と。

それは惣流アスカをよく知る人間の間でも同じことだったらしく。

――まぁ、今まで何事も無かったって言うのが僥倖であったと言うべきなんでしょうねぇ。
にしても、どうして今まであの二人が互いの事を知らなかったのかその方が不思議よ。

などという会話が女生徒同士の間で密やかに交わされていたようだ。

つまり、今回の一件については今まで幸運にも互いを認識せずそれぞれのテリトリーの中である意味平和
にやって来たのにも関わらず、ある生徒との関わりから男女の『2大巨魁』の間でついに戦端が開かれた
と言う―――タラス河畔の戦い(751年/現在のカザフスタン、ウズベキスタン、キルギス三国の境辺り
で唐とイスラムのアッバース朝が戦った東西交易路の奪い合い)にも匹敵する戦いであるとかないとか。

まあ、世間はかたずを飲んで二人のこれからを見つめていたのだ。

敗戦の将、黙して語らず、と言うわけでもないだろうが、一方的に女ごときに負けたとされているトウジの
近辺で勢い付いたのは彼の腕力の前に鳴りを潜めていたチンピラどもだ。
気の弱い、押しの弱い、事なかれ、と3拍子揃ったような『生贄』の匂いというのは遠くからでも分かる
ものらしい。
このところ急に、校内での「暴力事件」登下校時の「事故」が急増している事にまず養護教諭が気がついた。


「このところ、保健室の利用者が急速に増えています。憂慮すべきことです。」


職員会議で彼女は発言した。


「しかも私が在室していない時の利用者が増えています。急増しているのは主に1年の男子生徒です。」

「まあ、慣れてくる頃ですから部活でのすり傷きり傷程度が増えてもそう気にすることはないんじゃあ。」

「部活の時間は事故も多い。私はその時間、常に待機しております。利用者はわたしのいない昼休みの後、
5時間目の最初に集中しています。あとは音楽美術の時間など教室移動の後ですね。
部活と関わりがあるとは思えません。なのにでている薬品が傷薬とシップです。これはいわゆるカツアゲが
行われているのではないかと危惧しています。」

「校内の盗難も増えています。今の話が本当だとするとカツアゲをされて十分な金がないと盗みを強要され
るという事が確かに考えられますね。」


だがこういう話は一部の熱心な教師が問題提議しても学校全体としては暫く様子見と言うことに成りがちだ。
そういう被害にあった連中が駆け込んでくるのが、結局は回りまわってトウジのところ。
彼が「今度なんかやらかしたら停学」というのには、こういう背景がある。


「トウジ、また一発やっちゃったんだって?」

「あちゃー、もうセンセの耳にまで入っとるンか。こりゃ吉田のとこにももう・・・」

「そりゃ当然だよ。地獄耳だからね――生活指導の吉田は。」

「困ったもんやのう。」


そう言いながら不適にニヤリと笑う。


「こりゃあ、鈴原っ!」

「言ってる側からご登場かいな。ええかげんにしてや。」


髭面の大男が、制服の首の後ろを、がっしりとつかんでいた。有無を言わさず生活指導室に引きずっていく。


「朝から悪いが話を聞かせてもらうぞ。」

「センセ、鞄頼むわ。ケンスケ、英語の上田センセにはお前からあんじょうゆうといてや!」


投げて寄越した鞄をシンジが受け止める。ケンスケに尋ねる。


「ねえ、トウジは1年生の取られたお金を取り返しに行ってやったんだろ?
何でそのこと先生に言わないのさ。」

「それができてりゃ、不良、停学なんて言われないで済むんだがな。まぁ、あいつの美学に反するんだとさ。」


何時も通りの醒めた様子でケンスケは笑う。


「美学ってガラじゃないくせにさ。どこかで聞きかじってきたんだろうな。」

「でもどうして?」

「ぶん殴って金を取り返してきたとしても、生徒同士の仁義破ってタレこみできるかいってことさ。今時。」

「自分が停学になっちゃっても?」

「そこがあいつらしいとこでさ。まあ、今回で3回目だ。そろそろまた停学1週間だな。」





「ねえ、また生活指導室に呼び出されたんだって?」


朝の教室は、まだ外気と大して変わらないほど寒い。
鞄を席に置くなり、お下げの女の子は教室の一番後ろに座っている親友に声を掛けた。


「そうよ。でも情報はやい!どこで聞いたの?」


窓際の席で登校時に買ってきた肉まんを食べているアスカ。既に2個目。
誰が持ち込んだのかこの教室には電子レンジがある。
教室がまだ寒いので余計美味そうにほかほかと湯気が立っている。


「あ、おいしそうね。」


ヒカリが手を伸ばして残りの3個目を取った。


「これはね、雑誌買ったときの紙袋に入れてちんするときれいにふかふかになるのよ、って半分だけだよ。
これあたしの朝ごはんなんだから。」

「相変わらずね。あなたのおうちは。」


2つに割った肉まんを半分アスカに渡し、残りにかぶりつく。


「なるべく早起きしてあたしが朝食作るんだけど、お弁当も4人分つくらなきゃだし、どっちかを優先となれば
お弁当を作らなきゃならないでしょ。」

「お父さんとお母さんと、弟子のミサトさんとあなたの分。まぁ大変よね、毎朝となると。」

「うんうん。そうなのよ。」

「校内一の強面お姉さんが、毎朝家族のために台所に立ってるなんて誰も思わないでしょうね。」

「その上生活指導部だもんね。朝7時35分に来いだなんて。」


お下げの女の子が叫ぶ! その息もまだ白い。


「そんなに早くから来たの!」


アスカは大あくびをしながら応えた。
冷たい空気が入り込んだのか、すぐにコートとぐるぐる巻きにしたえんじとからし色のマフラーの中に首をすくめる。


「登校時間には、もう一人似たようなやつをとっ捕まえなきゃならんから早く来いって言われたのよ。」


お下げの娘は笑いをこらえて言う。


「それって、こないだの被害者の2Aの鈴原トウジでしょ。気になった?」

「よしてよ。ああいう直情径行の単純馬鹿は趣味じゃない。」

「そうかなあ…で、今回は何で呼び出されたの?」

「ほら。あのセクハラ体育教師の新島。」

「ああ、あの直ぐに鉄棒とかの補助とか言ってお尻触ってくるあいつ!」

「聞いてよ!
昨日はとうとう前のほうにも触られたって泣き出した子が出てね、1年生が体育授業ボイコットしたそうなのよ。」

「それって、大ごとじゃない?」

「そこまでしても、校長は指導熱心な余りとかってPTAに言ったらしいわ。もう馬ッ鹿じゃないのっ!!」

「出たわけね、アスカの馬ッ鹿じゃないの、が。で、生活指導部の吉田先生はなんて?」

「で、吉田先生が言うには、その筋肉馬鹿。あいつがね、昨夜暴漢に襲われて曝し者になったんだって。
電信柱に下半身丸出しで縛り上げられてたらしいわよ。傑作!まあ、天誅が下ったと言う所よね。」

「それでなんて言い訳したの?」

「何時もの通り泣き落としよ。
ひどいあたし何にもしてないのに!ってうるうる泣いて。もう帰っていいぞって。」

「アスカ嘘泣きうまいものね。」

「でもなんで、いつもあたしだって露見しちゃうのかなあ。ヒカリ。」


ため息をつくお下げの女生徒。


「アスカ、あんたどんな格好で行ったか知らないけどさ。
その髪と目は隠しようがないって事くらい分からないのかなぁ?」











さてそれからさらに数日後のこと。掲示板に人が群がっていた。



  2A鈴原トウジ  停学一週間を命ず   学校長



「やっぱりこう来たか。しゃーないな、家で一週間寝て暮らすか。」

「校長も甘いな、こりゃご褒美にしかならないだろうよトウジには、なあ、碇。」


苦笑するしかないシンジ。その時彼の目に隣の掲示が目に入った。同時に直ぐ隣で騒ぎが起こる。



  2F惣流アスカ  停学1週間を命ず   学校長



「いい――っ! これはいったい何の冗談よ!離せヒカリ、校長のヴァカッ!ひっぱたいてやるっ!」

「アスカ駄目―ッ!早まっちゃ駄目―ッ!」


必死でしがみつくヒカリをひきずって、校長室へ向かおうとするアスカ。


「おい、あっちにも似たようなのがいるぜ。」

「ありゃあ、こないだの外道女や無いか。ケッ、なんや女の癖に停学かい、この暴力女が!」

「お前が言うなよ、トウジ…。」

「あっ、この間のカチカチ馬鹿じゃんっ!どうせ煙草かなんかケチな校則違反で喰らったんでしょ!不っ良〜」

「アスカ、あんたも同罪なんだよ。」


一人だけ突拍子も無い声を上げたのは碇シンジだ。


「えっ、惣流さんが停学?何かの間違いじゃないのっ!?」


思わず大声で叫んでしまった碇シンジ。みんなのあきれた視線が集まる。
アスカの暴力指向は事の善悪とはまた関わりなく結構有名だったからだ。


「さすがよ・・・さすがあたしのシンジだけの事はある。あんただけはあたしを信じてくれると思ってた。」


アスカの発言に、もっとあっけに取られる周囲。


「あ、アスカ?いつの間に『あたしのシンジ』なんて?」


失言に気づいたアスカ自身も真っ赤になっている。これでは衆人環視のもとで大告白したに等しい。


「そ、そんなこと言ってないわよ!言ってな〜〜〜いっ!!」


だが、その時5人ほどの小集団が掲示板を見てもっと大きな声を上げた!


「な、なに〜〜〜っ!!」「信じられなーーーいっ!」「どういう事なんだっ!」


その生徒たちの見る先には墨痕鮮やかにもう一枚の紙があった。



   2H綾波レイ   停学一週間を命ず    学校長



「綾波レイって、自治会長の綾波レイ?
あんな優等生が何で停学処分なの?あんたたち何か知ってる?」


アスカが今にもつかみ合おうとしていたトウジに向かって尋ねる。


「知らんわ、こっちが聞きたいくらいや。おい、そこのお下げ、なんか女同士の連絡網で知らんのか?」

「し、失礼ねっ! あたしは洞木ヒカリっ、ちゃんと名前で呼びなさいよっ!」

「あ、ああ。じゃあ洞木、なんかあんた知っとるか。」

「さあ、こういう事があれば必ずどこからか漏れるもんだけど。今朝アスカの他まだ誰にも会って無いから。」

「ちょっとあんた、何であたしには女同士の情報網でって聞かなかったのよ。」


何かカチンと来たアスカはトウジにからむ。


「女同士の連絡網は、おのれには回って行きそうも無いと思うたからや。」

「ちょっと!それってどういう…!」


お下げの洞木さんが制さなければまたつかみ合いになっただろうがそこはさすがに友達だから扱いは心得た物。
ぐっと後ろからアスカの長い髪を尻尾のようにつかんで引き寄せた。


「アスカッ、今はそんなことより綾波さんのこと優先でしょッ。」

「あう、そう、そうよね。憶えてなさいよ鈴原トウジ!いずれこの(侮辱の)決着身体で払ってもらうわよっ。」


一方トウジも後ろからケンスケに腕をがっちり固められている。
地味なケンスケだが、趣味のサバイバルゲームのために、日頃から匍匐前進やら木登りやらで野山を駆け回り、
パワートレーニングにも余念が無いから結構力があるのだ。


「おのれこそ!惣流アスカ、逃げるなや、お前の方も身体に染みこむまで(礼儀を)たたっこんだるわ!」


興奮してる二人は気づいてないが、周囲の友人は何となくどことなく啖呵の台詞が恥ずかしい。
とにかくすぐ隣で声を上げたきりぼそぼそと額を寄せ合っている連中に尋ねるのが早道のようだ。
そう思ったシンジは早速声を掛けた。


「あ、あのう、済みませんが。綾波さんのお友達の方ですか?」

「え?ああ、僕等は自治会の役員の者です。」


―――うっ、執行部の面々か。さすがになんか頭よさそう・・・特にこんな風に5人ずらっと展開されると。

意味もなくちらりと劣等感を刺激されてすくむシンジだったが、勇を振るって。


「あ、あの、会長の綾波さんが停学処分ってどういうことなんですか。」

「そのことについてはいろいろありまして・・・ああ、そこにいらっしゃったんですね。
あの惣流さんの一件で、 とばっちりを食ったといいますか。」

「ええ?惣流さんと?」


自分の名前を聞きつけて、アスカは身を翻して駆け寄った。ヒカリもくっついたまま。


「ちょ、ちょっと待ってよ。何でレイがあたしのとばっちりで停学処分なのよ。」

「レイって、アスカあんた綾波会長となんか関係有るの?」


ヒカリがびっくりして叫ぶ。


「あんたみたいな子が、あの冷静沈着、沈思黙行、ぶっちぎりの優等生で、全国模試ベスト10常連。
弓道部部長、 校内素敵なお姉さま投票不動の第1位、市内女子高校生神秘の美女ランキングNo.1、
大和撫子の権化、あの文武両道、容姿端麗の綾波レイとどういう 関係が有るってのよ!」

「あんたみたいな子って、あたしはその正反対って訳ぇ?それはないんじゃないの?」


ヒカリのきんきん声に耳を押さえながら、アスカは苦笑しながら言い返す。
シンジもトウジもケンスケも執行部の面々も噴出す。そのまま笑い出す。


「あ――っ!みんなひどおいっ!幾ら温和なあたしでもしまいにゃ気を悪くするわよっ!」

「惣流さん、わかったから。でもどういう仲なの会長と。」


シンジが割って入る。目尻にちょっと笑い涙。


「レイはね、あたしの母さんの親友の娘なの。だから小さい頃から一緒によく遊んだのよ。幼馴染って奴ね。
なぜか高校になってからは疎遠になったけど、小学校の頃はいっつもくっついてたもんよ。」


何となく自慢そうなんだけど、できのいい友達で、自分とは格が違うと言ってるのと同じなんだけどなぁ。
そう思ってまたシンジは苦笑する。
惣流さんて、こういうちょっとあどけないとこも凄く可愛いな。―――と思ったのだった。

だが他の面々は、―――高校生にもなってこれじゃあ、普通の女の子だったら引くに決まってるし。

―――そう思っていたのはいうまでも無い。

更にヒカリは、じゃあ、今アスカの親友である私っていったい何?とも思った。ご愁傷様。


「えへん、で続きいいですか。」         


大分話の腰を折られたまま待っていた委員がやっと口を開いた。


「あ、ハイお願いします。」

「先日、体育の新島先生のセクハラの一件で、緊急7役会議(会長、議長、副会長、書記局長、会計委員長、
運動部委員長、文化委員長)を開いた結果、生徒自治会としても抗議を申し入れようということになりまして
次の日全員で生徒指導室と校長室に伺ったわけなのです。
生活指導の吉田先生と校長先生が一緒に面会してくれて 昨日の夜、新島先生は暴行を受け、精神的肉体的に
多大の被害を受けた為、今日はお休みしてると言われたんです。」

「当然の報いだわ。」


アスカが大きく肯いた。


「で、校長が――PTAにも説明したが、新島先生は生徒の指導に熱心すぎるあまり行き過ぎた部分がややあった
かも しれない。だがそれは生徒側の誤解だ――とおっしゃったんです。
そのようなあやふやな一女生徒の訴えで前途有望な 青年教師の未来を封じてしまってはいかがなものかと。」

「綾波さんがひどく怒って、生徒一人の誤解ではなく1年女子全体が問題にして授業ボイコットまでしている。
何故この事を公にしないまま一方的に新島先生の言い分だけで押し通そうとするのか。
これを 誤解と強弁して事を覆い隠しても、このような抑制の効かない人間は必ず同様に事を繰り返す。
教育委員会に正しく報告し、処分を受けさせる。矯正研修を受けさせて、もし見込みがないなら早期に別の
職業に転換させることが、結局本人のためになると思うと意見したのです。」

「校長はそれを聞いて激怒しました。裁量権者はこの私だと! ごっこ遊びの自治会長ごときの指示は受けないと。
生徒が教師をリンチに掛けるなどもってのほかだ。全裸リンチ事件は犯人の当ても有る。
その生徒には厳罰をもって望む。と言ったんです。」


更に別の役員が言った。


「では女生徒は、どうなってもいい、我慢していろと言う事ですか。そう 校長に綾波さんはおっしゃったんです。」

「生徒に罰を与えることの方が先だとって、校長は取り合いませんでした。」


その時の悔しさを思い出したように声が震えていた。


「そうなんです、日頃から制服たくし上げてパンツをちらちらさせるようなミニスカートなんぞはいてるから
若いもんが劣情を刺激されることになる。身から出たさびだって、そこまで言ったんです。」

「どうせこんな事をやらかすのは真っ赤に髪を染めた不良娘か番長気取りの劣等生に決まってるって・・・」


番長なんて死語だろう。感極まって、書記の一年生が泣き出す。


「そしたら、会長が・・・」

「どうしたんや。」

「あなた、失格って、いきなり校長先生の横っ面をこう、パ―――ンと。校長椅子ひっくり返して倒れて。」


トウジが首をすくめた。


「こ、校長をかいな。そこまではワイでもようやらんわ。」

「止めようとした吉田先生の股間も、がしって・・・蹴っちゃって。」

「がしっ?」


アスカが聞き返した。


「ずん、じゃなくて。」

「がしっ、です。」


文化委員長のバッジをつけた女の子は少し赤くなりながら笑って言った。


「うわあ、もろに股関節まで行ったわね。」

「アスカ、そんなことまで解説しないでもいいんじゃ・・・」

「アスカと鈴原くんを処分するなら、私もそうしてくださいって、そのままさっさと学校早退しちゃって。」

「なんや、ワイはカツアゲした奴ぶん殴ったせいじゃなくて、丸出しリンチ事件のホシかもしれないってことで
休学だったんかいな。まあ、どっちでも休学は同じやからいいけどな。」

「どうせお前は休学がなくなることのほうが困るんだろ、トウジ。」


ケンスケが混ぜっ返す。


「阿保抜かせ、学校行きとうて切ないくらいやわ。」


笑って言う。あくまで男鈴原、のんきな物だ。


「そうと決まればこうしちゃいられないわっ! ヒカリッ、シンジッいくわよっ!」


アスカが走り出した。慌てて後を追う2人。走りながら、息を切らせてシンジが叫ぶ。


「ねえ、アスカ、学校はっ?」                     

「あんたねえ、仮にもあたしとお付き合いしてるんでしょ。可愛い恋人の一大事にゆっくり授業受けたい?」

「あ、べ、別に。あ、もしかしたら生まれて初めて学校さぼるんだなっ、すごいや。」

「あんた馬鹿ぁ?いまどき学校サボるのも初めて? ちょっと飼いならされすぎっ!」

「そ、そうかな。」

「あ、あのアスカ、私も行かなきゃいけないの?」

「親友じゃなかったっけ?ヒカリッ!」


にっこり笑ってアスカが叫んだ。ヒカリもその笑顔につられてにっこり笑ってしまう。


「あーもう、私が行かないともっと暴走しそうだし。しょうが無いわね、貸しよっ!」

「お、俺も行った方がいいのかな・・・」


ケンスケが、トウジとアスカ達のほうを見比べながら言う。


「あたりまえやっ。まあ、わしは休学だからどっちにしろこのまま早退や。行くでっ!」


「ぼ、僕らはどうしようか・・・・」


役員の面々も迷っている。
その中で、一番小さな、さっきまで泣いていた書記の1年生がきっと顔を上げると 鞄をつかんで、
猛然とトウジたちを追って走り出した。


「あっ!小松崎さんっ!」

「ええい、俺たちも行こうっ。」


執行部全員が走り出した。
校門であっけに取られて最初のアスカやトウジたちを見送った先生が声を掛ける。


「お、おいっ!おまえたち、もう直ぐ授業が始まるぞっ!」

「生徒会役員、本日全員早退しまあっすっ!」



駅に向かって、アスカとシンジ。そしてヒカリ。その後を追ってケンスケとトウジ。小柄な書記の一年生、
その後から、さらに6人の役員たち。

合わせて12人の少年と少女が、登校してくる生徒たちの流れの中を勢いよく逆行して行った。








この場合の二人『正義の味方はどんな人?』  こめどころ2004-10-26





つづく。