『お父様と私』

【そのさんじゅうよん】 作・何処


夜の第三新東京繁華街。雑多な人混みの中、ご機嫌な様子で歩く女性逹の一団。

明日はクリスマスだというのに外出禁止令が出されていたが、夕刻には解除され、町の雰囲気もどこか浮かれ気分だ。

潰れたと思しき女性を背負う男性や千鳥足のサラリーマンらしき中年男性の群れ、何やら歓声を上げ騒いでいる学生らしき若者逹。
そんな中をチョッカイを掛ける雄共を軽くいなして歩く女性逹…引率の二人と未だ年若い三人組の一団だ。

彼女逹から少し離れてOLらしき二人組が化粧品の話をしながら歩いている。

「だからぁ、今はリップも又流行りがキャンディレッドに帰ってるんだってぇ!」
「でもさぁ、ウィズ&ウィッチって赤系イマイチなんだょぉ!ステファニーヒルズはたっかいしー、やっぱ美生堂かな〜」
「よっしゃ!来週は気合い入れて行くぞ!あのボケニブ今度こそ落としたる!」
「頑張れ!」

コンビニに入る女性一団を追い越し、彼女逹は先の角を曲がり携帯を取り出す。

「あ、もしもし?八嶋です。夜分すいません。すこし飲み過ぎたみたいで…ええ、波津瀬ちゃんと今西口のコンビニあたりです。…あ、迎え来てくれるんですかぁ!助かった〜!明日早出なのについ…すいませ〜ん。…煙草ですか?もー禁煙五日目なんですよ!…違います!二日目過ぎがきついんです。後は惰性で…あ、はい。判りました。じゃ待ってます。」

通話を終え、八嶋と名乗った彼女は連れに語りかける。笑顔だが目は笑っていない。

「迎え来るって。」
「そ。今メールチェックしたけど他は駄目ね。」
「チケット無駄かな?」
「…タクシーどうする?」「…電鉄だっけ、断るしか無いね。波津瀬ちゃん悪い!」
「未だ時間有るよ。もう一件行く?」
「…やっぱ煙草吸うか…」

波津瀬と呼ばれた彼女は息を飲む。

「…喫煙席有る店にしなきゃ…」

「…駅前はあれだしね…」「…ナンパが困るわね…」「帰るか。」

「…不味くない?迎え来るんでしょ?」
「安月給にお付き合いはご免なさいだわ。」
「…あーやだやだ。使われ者の末路ね。」
「精々働いてもらいましょ。義理は果たしたわ。」

そんな彼女らの会話を盗聴中の偽装通信指揮車内…

「…気付かれましたね…」
「ま、普通気付くわな。」
「は?」
「次々に仲間が押さえられ、目と耳が潰されても作戦継続なぞ不自然さ。」
「…諜報部は再教育ですか…。」
「…ま、気付かず引っ掛かる程度じゃ役に立たん…彼女逹の照会は?」
「骨格と声紋、指紋と唾液のDNA鑑定、どれも整形跡は無いですね。二人共前科有りません。」
「やるねぇ、葛城に連絡しとくか…」
「必要無いわ。」
「葛城…作戦部長自らお出ましか?」
「仕方ないわ、本部は臨戦体制とは言え未だあたしの出番じゃ無いし。珈琲貰うわね」

ポットから紙コップに黒い液体を注ぎ、モニター画面を眺め二佐は胃袋へ流し込む。

「この二人?」
「ええ、歩き方から見れば二人共相当訓練を積んでます。しかし内調や戦自じゃ無いですね。」
「マーシャルアーツ。それもマリーンかデルタ上がりね。」
「押さえますか?」
「銃刀法は無理だぜ、ペーパーナイフやスタンガンでしょっぴく訳にはいかん。会話も証拠になる台詞は無い、それにこっちの手の内は明かしたく無い。」
「恐らく情報屋…泳がしましょう。下手に手を出せば後が厄介だわ。」
「しかし…捕縛者大半警察に引き渡すとは思い切りましたね、ネルフの警察権行使して軍事裁判にかけるのかと思ってましたが…」
「碇司令よ。無駄飯に掛ける程ネルフの予算は潤沢では無いそうで。税金分国家に働いて貰うそうよ。」
「ひでえ…」
「下手に全員捕まえれば遺恨が生まれ、無策に泳がせれば禍根が残る…」
「かと言って簡単に殺せば新しい敵対者を生む…厄介ね…」
「さて、今の嬢ちゃん達の追尾は本部に任せてこっちは襲撃部隊の後始末だ。」

同時刻ネルフ本部。

「は、判りました。では加持査察官にその旨連絡…」
「加持さん、大丈夫ですかね?」
「大丈夫だろ、念の為葛城さんに応援率いて出てもらったし。監視状況は?」
「尾行車両は変わらず。追尾車両はトラック二台、乗用車が四台です」
「トラックには武装歩兵か空挺機動歩兵車両…タイヤの様子からすれば武装歩兵だ。」
「こっちは貸し倉庫から戦闘ヘリを二機押収した…しかしマギの目盗んでよくもまあ…」
「戦闘ヘリ?!ど、どうやって!?」
「N2破壊跡の補修時に工事車両に紛れて搬入したらしい…最も部品バラして送り込んで適当な車庫なり倉庫で組み上げりゃ分かりはしない…」
「…未だ有るだろうな…通常二機二隊で予備が二機…後四機か…」
「戦自が叩いた部隊…今だ捜索が続いてる。」
「最悪第二波襲撃か…しかしたかが医療技術になんでそこまで…」

「“たかが”じゃ無いからよ。」

「「赤木博士!?」」
「早いですね先輩、もう箱根から?」
「戦自のVTOLに便乗してきたわ。彼女…神鷹ナオミ博士は有名よ、遺伝子治療医学の革命児。彼女の人体再構成理論は現時点でも実現化すれば全ての基礎疾患や欠損障害、外傷の治癒迄が可能となるわ。そしてこの技術は…不老不死を実現する可能性が有るの。」
「え?」「まさか!」
「不老…不死…」
「彼女の人体再構成理論は要約すれば一度臓器をLCL状態に還元し、再構成させる訳、その時遺伝子情報を修正してやれば遺伝子疾患は無くなるわ。」
「…治癒では無く再構成。つまり欠損した四肢や臓器を作り直す訳ですね…」
「待てよ、それと不老不死がどう…まさか?」
「人体ごとLCLに還元して再構成…サルベージ!」
「再構成データを保存しておき定期的に肉体をサルベージ…確かに不死だ。」
「問題は記憶ね…」
「う〜ん…シンジ君と過剰シンクロしたエヴァ自体がシンジ君のデータバックアップになってたから出来た訳だし…」
「でも生体培養槽のクローニングでは遺伝子の劣化は避けられない、それにいくら速成しても数年はかかる。…成る程、確かに狙われるな…」

【さんじゅうごへごー!】


<BACK> <INDEX>