今迄のあらすじ

アスカは地球を守るために派遣された正義のクリプトン星人。日夜頑張るけれどあまり感謝はされない。
科学の進んだ今の地球では、有り難迷惑の正義の味方。一方シンジは、いまではケーキ屋を営む天才
スナイパーゴロゴ13の跡継ぎであり伝説の捜査官ゲンドウの長男という正邪両道のサラブレッドである。
この2人がひょんな事から恋仲になったから色々と世の中に要らぬ波紋を投げかけている。
一方、かぐや姫の子孫である月読族レイは男を虜にするニンフィット能力を持つ元スーパーアイドル。
今はアスカに恋する普通の女の子。
アスカとシンジが正式に結婚する事を知り、アスカを取られまいと総動員体制でシンジを誘拐。
その間に恋を成就させようと図った。ここにレイとアスカのミラクルスーパー大戦の火蓋が切って落とされた。
超能力を復活させた両者の戦いはエスカレートするばかり。シンジを発見、月読族本部を急襲するアスカに
対惑星攻撃用収束大出力レーザーとウナゲリオン12機が一斉に襲い掛かる。
激しい戦いが続くが、ついにアスカの頭部にウナゲリオンのパンチがヒットした!!




戦闘が始ってから1時間近く。さすがのアスカもふらふらになり始めた。汗が滝のように流れ、目に流れ込む。


「く、くそーっ。こいつら、疲れるって事をしらないのかしら。もう。」


一瞬の緊張の途切れ。はっとした瞬間、視野の僅かに外側からウナゲリオンのこぶしがアスカを捉えた。


ぐわん!


「ぐっ!!」


アスカは、激しい衝撃をうけてくらくらと意識が遠くなった。
ゆっくりと放物線を描いたあと、力尽きた小鳥のように地上に向かって落ちていく。殺到するウナゲリオン達。


「アスカぁぁぁぁぁぁっ!!」


閉じ込められていたシンジは、部屋のモニターに向かって絶叫した。
ウナゲリオンの手には真っ青な顔をしてぐったりとしたアスカが握り締められていた。



レイvsアスカ ミラクルスーパー大戦
<後編>
written
by こめどころ




そのとたん、パチン!と音を立ててボールが割れた。
超能力で維持していたものが、アスカの失神で弾けたのか、それともタイムリミットなのか。
何れにせよやっと自由の身になった。
全体重をボールの壁に押し付けていたシンジは部屋の中に転がり出た。
そのまま監視カメラの死角になる所まで転がり込んだ。
制服の上着の裏布を破りとる。それをドアの鍵穴に貼り付け靴紐を引き抜き中から細いコードを引きぬいた。
そのコードをまた襟のカラーに繋ぎ、その端のプリント配線の起動スイッチを押す。

ばしゅっ!

小さな音がし、鍵とノブが弾け飛ぶ。プラスチック爆薬の一種らしい。
電池として使った後のカラーの縁を剥がすとそのままピンと真っ直ぐに伸び、
プラスチック製の小型のナイフになった。
廊下に走り出たシンジは、音も立てずにいずこへか走り去った。


「アスカを捕獲しました!」


ウナゲリオン隊より入電があった。レイはアスカを生け捕りにできた事にほっとしていた。
いくらアスカといえども対惑星用の収束レーザーが命中していたら、ただでは済まない。


「なんてことをするのですか。アスカにもしものことがあったらどうするのです。」


マヤは、鼻で笑った。


「おやおや、色ボケしちゃった子はこれだから困る。もともとあなたはクリプトン星人を撲滅し我々月読族の既得権益を守るために派遣されたんじゃなかったかしら。」

「そ、それはそうだけど。別に今、我々の権益が侵されてるわけではないではありませんか。」

「言われなかったのかしら。クリプトン星人の脅威はその繁殖力だと。クリプトン星人は同じ種族同士では子供を残せない。だから地球にやって来てそこで伴侶を捜し繁殖する。子供は1人平均7人。その子供も平均して5人の子供を持つようになる。」

「う・・・、すごい子沢山なのです。」

「そう、その上、惚れっぽいから、早婚だしね。私なんかもう適齢期が終わりかけて・・・げふん、ごふん。まあ、そういうことよね。アスカの子供が7人として35人のクリプトン系人が孫の代に産まれ、その子は175人に増えてしまう。その子供は875人よ。次の代には何と5000人を越すのよ。そして次はもう25000人に、次は12万5000人、次は62万5千人・・・。そんな調子で繁殖されたら我々はどうなるのよ。月読族は只でさえ出生率が低いのに。」

「自分を省みないで高望みしすぎるんじゃないかとおもうのですがー。」

「 慎重といって欲しいわね。それでも貴方みたいに、あんなぱっとしない男は選ばないわよ。」

「し、シンジ君はあくまでアスカちゃんの恋人さんで、私には関係ないのですっ。」


レイが真っ赤になって否定する所に、アスカを詰めた細長いカプセルが運び込まれてきた。
完全冷凍睡眠加工されている。


「あ、アスカちゃんっ!!」


凍った肌が真っ白になっている。青白い唇。
乱れたままの金の髪が拘束された腕を交差した胸の上で渦巻いたまま凍っている。
目は閉じられ、長いまつげの先に霜が張り付いている。レイは余りの事に、きっとしてマヤを睨みつけた。


「やっとの思いで捕獲はしたけれど、打撃のショックと疲れが回復すればまた元の木阿弥。そうなったらどうしようもない。こうしておくのが一番いい方法なのよ。それに。」


マヤは悪魔のような笑みを浮かべてレイの耳元でささやいた。


「こうしておく間に記憶を操作してシンジの事を忘れさせてしまうか、貴方を愛しいと思うようにしてしまうことだって、ね。」


レイの心臓が飛び跳ねた。それは自分で封じていた禁断の考え。
アスカをすっかり自分のものにしてしまう悪魔の処方箋。




「暗い・・・・さむい・・・・。どこなの、お母さん・・・・・・。」

「頑張って・・・・。自分を手放しちゃ駄目。・・・・想いを自分から手放しちゃ駄目。」

「シンジ・・・・どこにいるのシンジ・・・・。」

「もうすぐ。もうすぐ会えるよ・・・・・。もう少しだけ待って。もう少しすれば、また動き出せるようになる・・・・。」

「あなたは・・・・・だれ。」

「わたしは・・・・・わたしは・・・・・。」


暗黒の中。どろどろとした眠気の中。アスカは懸命にもがいていた。
あきらめちゃだめ。手放しちゃ駄目。がんばって。




こっちか。いや、あそこに立ち番が向こうをむいているという事は守る方向がこちら側という事。
斜め前方にはトイレらしい部屋があって、先ほどから数人が出入りしている。
士官クラスは全て女性だ。士官に変装するのが有利なのだが女装は自信がない。
やってみればシンジは結構似合うのだが、自分でそれと認めたくないというところであろうか。
また1人女性士官が入っていく。シンジはやむを得ずその後にすばやく続いてその部屋に入った。
ほんの3分ほどでシンジが出てきた。こういう時の変装の仕方も祖父から充分に訓練されている。
もともと自分でも恥ずかしいと思っているくらい、シンジのシルエットは細い。また、顔の方も中性的である。
月読族は地球人、特に縁の深い日系の容貌を持った者が多い。
シンジが襲った士官も日系の容貌である。髪も短かかった。
願ったりかなったりであったが服やスカートの腰のサイズまで殆ど変わらなかった事に
シンジは屈辱感を覚えていた。
無事に戻れたらウエイトリフティングをやろう、とシンジは決意していた。
少しは男性的なシルエットにならなくちゃ。

この基地の内部は完全に防衛上の理由から迷路化してあるらしい。
奪った制服のポケットには、ナビゲーターと思われる機器が入っていた。
行き先を押して押すと、角角で矢印が出る。全体図を捜し出し、そこと目処を付けた部屋を一つ一つ捜していく。
おそらくは、この小型の脱出艇らしい物が独立してついている上部構造の部屋に責任者がいるはずである。
綾波レイがどの程度上層幹部であるのかは分からないが、この一帯に近い事は間違いないだろう。
拳銃型の武器を手に入れたシンジは、落ち着いて捜索を進めていった。
目盛りを一番低くすると、パラライザーとして使える。
日本語か英語を解する者も多く、進みながら少しずつ情報を増やしていく。




「さて、レイちゃん。アスカも片付いた事だし、まずは日本にかえってやるべき事をやってしまいましょうか。」

「やるべきこと?それはなに。」

「月の腰抜け長老達が、今迄手をつけなかった事。地球の直接支配よっ!!その手始めに我々の最重要な資金源である日本を完全支配下に置くのよ。」

「えええっ。そんなことをしたら、地球と月の惑星間戦争になってしまうのですうう!!くるくる〜〜!!」

「レイ。あなた、また人格転換してるわよ。」

「も、もしかしてマヤさんは、月読族過激セクト、ムーンライトセレナーデのメンバーなのでは。」

「そのとおり。直接支配により、徹底的に地球から資金と資源を吸い上げ、地球に寄生して爛れた安逸な日々を送ることをやめ、自分達の持てる力で自力で発展していこうというのが我々の究極の目的。」

「あうあう〜〜。でもそれって、最初の地球を支配ってとこでは、今の長老と変わらないのではありませんか〜。どうせやるなら、地球を当てにしないでドカタ仕事から自分達の手でやるべきです。自分達だけは優れているからきれいな仕事から始めていいなんて言うのは、絶対欺瞞なのです〜。ラーメンは自分で作るから美味しいのです〜。くるくる〜。」

「うっ。只のボケかと思っていたら、結構痛いとこを突いてくるじゃないの。いいのよっ!地球人は奴隷として生まれついているんだから!!ラーメンだって美味いお店で作ってもらう方が美味しいじゃないのよっ。」

「それは、自分で働いたお金を使うから満足があるのです〜。他人をランク付けするのは、選民思想といって一番悪い考え方だと学校で習ったのです。自ら働かぬ者は滅びるのです〜。そして自分もランク付けされるのです〜。私は自分をランク付けされたくないから、他人もランク付けしません〜。人は皆、意思に反して誰かに支配されてはいけないとアスカちゃんも言っていたのです〜。」

「ばか!そのアスカと戦ってるのは誰なのよ!」

「わたしは、わたしは、やっと気がつきました。私はアスカちゃんに、置いて行かれるのが怖かったのです。アスカちゃんを祝福したら、もう私を振向いてくれることがなくなるだろうと思ったのです〜。もうひとりはいや、とおもったとたんに・・・。」


レイのルビーの瞳に、みるみるうちに涙が盛り上がっていき、ぱらぱらと床に落ちた。


「そうおもったとたんに、碇くんが、アスカを連れていってしまう碇くんが、憎くて仕方なくなったのです・・・。」


レイが、泣き出したとたんに、不思議な波動が本部の中を走りぬけた。
レイは涙をふりきると精一杯の大きな声で叫んだ。


「碇くん〜〜〜っ!!」

最上階から下へ3階目で警備員と撃ち合いになっていたシンジは、はっきりとレイの声が聞こえたような気がした。


「綾波!! どこにいるの!」

「シンジ君!はやくここに、ここに助けに来て、アスカが、アスカが捕まっているの!!」

「わかった! すぐにいくよ!」


方向が分かったシンジは、もう迷わなかった。
両手に新しい銃を持ちかえると、20人近い警備兵の壁を、一気に撃ちまくりながら突き抜けた。
警備兵はことごとく身体中が麻痺して倒れ伏した。


「言うことはそれだけ?レイ。あなたの強大なニンフィットの能力は惜しいけれど私達に同調しないなら返って脅威になる。悪いけど死んでもらうわよ。勿論アスカにもね。馬鹿な子。思い通りになってくれるアスカと楽しく暮らせたのに。」


マヤは、銃を腰から引き抜いた。目盛りは最強。一発で身体の半分が灰になるエネルギー量だ。
レイは自分の後ろにあるアスカのカプセルを守るように立ちはだかった。


「最後に、もう一度だけチャンスをあげる。私の仲間になりなさい!地球を支配し、永遠の月読族の世界を作るのよ!」

「いやです。そんなことをしたら、アスカが悲しむもの!」

「・・・・じゃあ、死になさい。」


マヤは引き金を引いた。シャッターが開き、シンジが引き金を引くのとが、殆ど同時に重なった。


シュボッ!!

グワーン!!



シンジの銃の光がマヤの銃を弾き飛ばしたは、ほんの、何千分の一秒だけ遅れた。


「きゃああああっ!!」


レイの胸が、レーザーを受けて激しく輝き、四散した光が周囲の機械類を破壊して激しく爆発した。


「くっ!!」


マヤは身を翻して、次の部屋に駆け込んでいく。レイに駆け寄って抱き起こすシンジ。


「レイ!レイッ!!」

「碇くん、アスカの、アスカのカプセルは・・・・。」


見ると、カプセルの表は真っ赤になって表面の溶けた金属がその内部に流れ落ちている。
レイはそれを見て真っ青になり声が出ない。同時にそのカプセルが激しく火を噴き出した。
内側に張り巡らされた断熱材やコード類に火が入ったのだ。


「あ・・・あの中に・・・アスカが。」

「なんだってっ!!」


そのとたん、溶けたカプセルを貫いて、細い腕が突き出された。中にいる人物が、思いきり伸びをしたのだ。


「ふぁあああああーあああ。よっく寝たああ。」


顔や手に粘りついた溶けたカプセルを水飴のように振り払いながら、炎の中に金髪の少女は起き上がった。
それはまるで伝説のフェニックスの様にシンジとレイの瞳に映った。
激しい炎がアスカの頬を包む時、アスカの顔は上気し、明るい笑顔が輝くように2人に向けられた。
炎に包まれたまま立ち上がったアスカはカプセルからこちらに向かって踏み出した。


「危ないとこだったね、レイ。」


マヤが引き金を引く直前、目を醒ましたアスカは一気に放熱して凍結を解除し、
レイの身体の前にスクリーンを展開し、レーザーを弾き飛ばしたのだ。
レーザーは四散して周囲の機器を破壊し、カプセルをも破壊したが、アスカには関係のない程度のことであった。


「アスカちゃん、アスカちゃん!ごめん、ごめんなさい!わああああーーん!!あんあんあん。」


レイが、立ち尽くしたまま、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらアスカに泣きながら謝った。


「いいよ、もう怒ってない。あんたの言ってたこと、カプセルの中で眠っていながら全部聞こえてたの。いいのよ。あんたが、私を庇ってカプセルの前に立ちはだかってくれたこと、忘れない。これからも、あんたは私の一番の親友よ、ね。」


レイは、それを聞くと両手で顔を覆って、また激しく泣き始めた。アスカは、にっこりと優しく微笑んだ。


「アスカ。よく無事でいてくれたね。よかった。」

「ありがとうシンジ。あなたがレーザーガンを弾き飛ばしてくれなかったら、レイの胸に当たるエネルギーを完全に弾ききれなかったかもしれない。助かったわ。」


シンジはアスカを腕を広げて抱きしめようとしたけれど、まだ炎に包まれているのであきらめた。
アスカの超能力はすごい。
でもなぜ急に超能力が復活したんだろう。アスカだって、もう超能力は使えないっていっていたのに。

緊急避難コールが基地に響き渡る。低い男性の合成音が響く。

「こちらは、最終コントロールアダムである。自爆装置の作動により通常コントロールコンピューターイブはダウンした。これより緊急事態をアダムがコントロールする。」

緊急事態において命令で動く通常コンピューターは停止、
自立判断型コンピューターが目覚める様になっているらしい。

「自爆装置が稼動した。自爆装置が稼動した。基地構成員は10分以内に全ての施設から待避せよ。この警告は全てに優先。この警告は全てに優先。自爆装置が稼動。自爆装置が稼動。基地構成員は10分以内に全ての施設から待避せよ。」

「マヤの奴、やりやがったわね!」


アスカが歯ぎしりする。


「レイッ、あんたはシンジと一緒に残りの緊急脱出艇で逃げて。私はマヤを追うわっ。」

「アスカちゃん、マヤはウナゲリオンの起動、コントロール装置を持っているわ。それに対惑星用大出力レーザーも。」

「大丈夫。寝ている間に超能力の元と色々相談したから。」


基地の中は緊急脱出装置に向かう人々でごった返していた。
アスカは床をぶち抜くと基地の下まで一気に潜り、基地全体を持ち上げた。
この基地は巨大な地下空間に設置された大型の宇宙戦艦だったのだ。


「うおおおおおおおりゃああーーーーーっ!!!」



宇宙船を持ち上げたアスカはそのまま、エネルギーの巨大な渦巻きを作り出しそれを地下空間の上空に放った。


ずおおおおおおお!!!

天井が巨大な円錐形に見る見る削り取られていく。
そのまま宇宙船を抱えて地上まで脱出したアスカは、砂漠に宇宙船を着地させた。
全ての出入り口から、零れ落ちるように月読族の作業員たちが必死に脱出する。


「ぴーー!自爆装置が稼動した。自爆装置が稼動した。基地構成員は3分以内に全ての施設から待避せよ。自爆装置が稼動。自爆装置が稼動。基地構成員は3分以内に全ての施設から待避せよ。5・4・3・2・1・ぴー!自爆装置の解除が、できなくなりました。残存艦艇内人数127名・・・。脱出可能性27%・・・ぴー!」


ぴーーーーーーっ!


甲高い警告音がして、ついにカウントダウンがはじまった。


「自爆装置はカウントダウンに入ります。30・・29・・28・・27・・26・・25・・。」


すでにその時、アスカは遙か高々度を飛行していた。秒速はすでに周回軌道速度を凌駕している。
ウナゲリオンの飛行速度では、到底追いつけない秒速30km、時速10万Km、光の速度の30%の世界である。
この速度ではすでに質量は衛星級にまで膨れ上がっている。
アスカの超能力は最強力にセットされて軌道上に並ぶウナゲリオン達に向かい、一直線に突っ込んでいった。
地球の衛星軌道上に真珠の首飾り状に並んだウナゲリオン部隊は12の白熱球と化して並んだ。


「きたわね・・・。」


月を飛び立った月読族過激派、ムーンライトセレナーデの迎撃用宇宙戦艦部隊、戦闘機が
アスカに襲いかかるべく急接近してくる。その数、数千機・・・。
アスカは片端から戦艦部隊を叩き潰しながら対惑星戦闘用レーザー本体をめざす・・。





「誰か助けてくれーっ!!」


宇宙船の最上層部で残された100人余が必死で叫んでいる。
シンジはそれを見て再び脱出艇に乗り込んで舞い上がる。


「碇くんっ。」

「綾波、もういちどいってくるよっ。」

「駄目っ、まにあわないわっ!!」

「後悔したくないんだ!」


最上階で救出を開始するシンジ。時間がない。レイは、はっと気がついた。このコンピューターは男性型思考。
それなら!


「・・・おねがい!爆破を止めて、叔父様!!」


自立型コンピューターアダムは、こんなお願いをされたのは初めてだった。
しかも、彼のセンサーはそれが大変な美少女であることに瞬時に気がついた。


「・・・・レイの、レイの何もかも叔父様にあげる・・。だから、だから爆破をやめてぇ。レイ、泣いちゃうから・・・。」


身体をくねらせ、必死でかわいらしく、色っぽいお願いを繰り返すレイ。
この時点で地球人のファンがいたら全身の毛穴から爆発したように大量の血をふきだし、
出血多量で即死していたに違いない。
計算上、アダムは、爆破をして自分が得る利益と賞賛。爆破を中止して得べかりし利益を計算した。
ああも、こうも・・・。


「あっ、レイもうだめ・・・!あははあああん。叔父様、わたしをどうにでもしてえ!」(どうしろっていうんだ?)


レイの背後から、でんでろでんでろとおどろおどろ線のような陽炎が立ち昇っている。
ニンフィット能力フルパワー全開!!

きゅいーーーん。電源がダウンしていく。


「10・9・8・7・6・5・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・・・・・・。自爆は回避された。」


レイの強大な二ンフィット能力は、かちかちのコンピューターの回路保護にも役立ったのだ。
男性型思考でさえあれば無生物であっても支配下においてしまうようなニンフィットは、
月読史上レイが初めてであった。


「やったああっ!」


飛び上がって快哉を叫ぶ周囲でレイを見守っていた人々。
当然と言えば当然であったが男子構成員は全員ハナジを流しながらレイの奴隷と化していた。
但し、ニンフィット能力とは何の関係もない。単に余りのレイの色っぽさに、くらくらとのぼせただけだ。
シンジがそこに救出した人々と舞い降りてきた。
歓声と共に迎えられ、そしてレイとシンジも抱き合って喜び合う。


「綾波、ありがとう!君のおかげだよ。」

「碇くん、わたしのおかげ、っていってくれるの、わたし、わたしあんなにひどいことをあなたにしたのに。」

「何言ってるんだ。そんなこと気にしてないよ。友達じゃないか。綾波はいつだって大事な友達だよ。アスカにも、僕にもね。誰にだって、悲しくて暴走しちゃう時はあるさ。」


シンジは、にっこりと笑った。レイは自分の顔が上気するのを感じた。
きゅんっっ!!胸の奥が、悲鳴を上げそうなほどに切なく痛んだ。


「え?なに?」


レイは、この痛みの正体に気がついていた。だから、うれしかった。
その時レイは、その痛みを自分でコントロールできる程度に、自分は大人になったんだなと思った。

レイとシンジは、いまや完全にレイの支配下に入った月読族地球本部のコンピューター「アダム」に尋ねた。


「アダム!アスカは今どうしてるの?ムーンライトセレナーデ側の対応を列挙せよ。」

「月側は、前面に戦艦、攻撃機など7000を展開。紡錘状に厚くなって、アスカの視界を奪う作戦だ、レイ。」

「視界を奪う?大艦隊を展開してまで、なにをしようというの。」

「理由はこれだ。レイ。

「大口径レーザー。これと同じ物が地球衛星軌道上と月の衛星軌道上にあって・・・・。アスカがあぶないっ!!」

「レイッ、急いで月基地のレーザーを撃つんだ。」

「砲撃は3方向。月と、地球、月軌道上から行われる。ここからすぐに狙えるのは軌道上の物だけだが、誤差修正をやっている時間が足りない。微調整で済ませられるほどに手段を考えて欲しい。」


アダムを支配下においておく為にレイはずっとフルパワー状態である。しだいに体力が落ち息が上がってくる。
たっているのもやっとという状態である。見ているだけでも苦しそうだ。
その場に付き添っている月読族の技術者女性たちが、レイを支えている。


「だいじょうぶなのっ、綾波。」

「大丈夫。私が必ずアスカを守ってみせる。わたしの・・・大事な初めてのお友達を。いい、碇くん、あなたは射撃手になって。肉眼で衛星を狙うの。誤差修正だけなら、途中からの計算ですむ。先ず、できるだけ正確にアスカを狙って。それは向うも照準しているはず、そこから逆算して衛星をアダムに撃たせる。星の裏側でも、反射ミラーでこのレーザーは射撃可能だから。はやく、はやくっ。ぐ、ぐぐぐっ。」

「分かった、綾波。アダム僕に指示を!!」


スクリーンに全速で飛行中のアスカが大写しになった。地球の大気でがめんがゆらゆらと振れる。
存在点を示す輝点が、3つに揺れて、激しく揺らいでいる。


「この3っつの点がアスカと2つの衛星の位置だ。この3っつが一緒になった瞬間を選択することで、起動計算が瞬時に行える。だが、この3円の重なりがずれていれば、レーザーは大きくずれる。出力自体はこの基地のものが圧倒的に大きいから、僅かに拡散はできるが限度がある。修正可能範囲は、この3円でいえば、面積の5%にしか過ぎない。また、連続性も循環性もないから我々コンピューターでは対応が不可能だ。射撃タイミングを決定する因子がない。」


「自分を、信じるんだ、シンジ。」


爺さんの声が聞こえたような気がした。
いつか、俺はその射撃スコープの中にアスカを収めたことがあったな。あの時はアスカを殺す為に。
今度はアスカを救う為に・・・。
アスカ。がんばるよ。でも、もしだめだったら・・・・、一緒にとおくまで旅をしような。

シンジは、周りで手に汗を握っている人たちから見ると、まるで無造作に引き金を引いた。


「あっ!!」


そこにいた全員が叫んだ。

その瞬間、大型スクリーンで捉えられていた、2つの衛星軌道レイザー砲がまばゆい輝きをあげた。


「やったああっ!!」


沸き上った歓声のさなか、叫び声が上がった。レイがついに血を吐いて倒れたのだ。


「綾波っ!!」

「大丈夫。まだ大丈夫だから起こして・・・・。」


真っ青な顔のまま、レイは歯を食いしばって立ち上がった。
スクリーンでは何も知らないアスカが前衛の艦隊を叩き伏せている。
艦隊を潰すたびに、少しずつ、蟻地獄に引きずり込まれつつあることを、アスカは知らない。
ひたすら、戦っている。レイを、自分の心の分身である親友を縛り付ける者を除く為に。
地球に迫る、月読み族過激派、ムーンライトセレナーデの野望を叩き伏せ、愛する夫、シンジを守る為に・・・。


「アスカは、アスカは私の親友、誰にも渡さない。あの人が不幸になることも許さない。」


レイは最後のパワーを振り絞る。月基地側から、コントロールを取り戻そうと、
アダムに対し、激しいハッキングがかけられているのだ。
正気を取り戻せという命令に従おうとするアダムの「意思」を、
レイのニンフィット能力が、がっちりと押さえ付けているのだ。
常人ならとっくに精神崩壊を起こすような恐ろしいまでの巨大パワーが逆流し、奔流となってレイに襲い掛かる。

レイの脳裏に、自分に初めて笑い掛けてくれたアスカの明るい笑顔が浮かぶ。
何の裏もない、きれいな笑顔だった。
それが自分だけにの為に降り注いでいる太陽のように思えた。
自分には愛を与えてくれる人も、与える人もいないと思っていた。

だから、自分には心がないと思っていた。

それが、あの日に変わった。アスカという太陽があれば、自分の心にも愛があることを信じることができた。
だから、一生懸命、この学校に転校してきた。

アスカと手を繋いで帰る自分・・・・・・。
一緒にお弁当を食べる自分。・・・・・・。

こっそりと、笑う練習をしてみた。何回も。上手く笑えたような気がした。
その笑顔で、アスカに笑い掛けてみた。
叫んでみた。
彼女は、何十倍、何百倍もの、輝くような笑顔で私をだきしめてくれた。

私の命は、アスカちゃんにあげる!


「あああああああああああ〜〜〜っ!!!」


全ての力を出しきり、さらにその上の力を振り絞るレイ。全身を突き抜けていく激痛に叫び声をあげて耐える。
額の血管が切れる。内臓から出血し、口や耳、その瞳からも赤い血が吹き零れる。


「碇くん、いまっ!!月基地レーザー基地を撃って。アダムッ全ての能力を集中しなさいっ!!」








マヤは全軍に指令を下した。


「ウナゲリオンは、全機破壊された。いまやクリプトンの脅威は目前にせまっている。アスカを叩き落とせ!!月読族の、次の千年紀は我々と共にある!!たたかえっ!!」


7000機余りの高速攻撃機が一斉にアスカに襲い掛かった。その中心を突っ切ろうとアスカが突き進む。
赤い彗星のようにアスカが荒れ狂う。戦艦の主砲をもろに食らっても、ちょっと顔をしかめるだけだ。
守るべき者の為に発動する、クリプトン星人のミラクルスーパー能力は、レイとシンジと、全ての地球人を
守りたいと負いう、アスカの強い意志に触れて、フルパワーで発動していた。
2万枚近い特殊装甲で守られた戦艦が、一撃で木っ端微塵になっていく。


「たああああああああっ!!アスカフルパワーキーック!!」


「照準をアスカに合わせよ !」

「誤差修正!」

「エネルギー充填、150%、160%、170%・・・・。」

「攻撃隊、射線軸から散開せよっ。対惑星レーザー発射せよ!」

「発射します。」


オペレーターがスイッチを入れる。まばゆい光とともに、レーザーが発射された。
戦っている攻撃機が一斉に軸線上から散開した瞬間。アスカの目に月面が映った。

チカッと月面で何かが輝いた。


「あっ・・・。」


瞬間アスカは目も眩む光の奔流に包まれた。
宇宙空間に、巨大な新星のような輝きが渦巻き、四散した。
糸を引いてレーザーの残留エネルギーが、四方に拡散しながら通り過ぎていった。


「わ、私・・・生きてる。」


生まれて始めて、生命の危険に身が竦んだアスカは、自分の手足を確認した。バリアが良く耐えたものだ。


「アスカッ、アスカッ。」


ハイパー通信機からシンジが呼んでいる。艦隊が四散した為、混線がなおったのだ。


「大丈夫なのっ?アスカっ!!」

「う、うん。不思議だがほんとうだ、って。どこもなんともなかったようね。」

「収束レーザーでアスカを撃ったんだ。そのエネルギーで互いに打ち消しあって助かったんだろうとおもう。」


(作者は科学知識がないのでこういう事があっていいのかどうか知らないのだが、そういうことらしいです。
現にアスカは助かっているし、まあいいでしょう(^^)。生きてると言うことが大事な事実です。)<イイノカオイ。


「そんな、いきなり発射して?誤差修正をしないとすぐに数百kmもずれてしまう宇宙空間で同一軸線上に、一気に照準を合わせただなんて!!」


それは、シンジの天才的射撃技術があって始めて為し得ることであった。
しかし驚いたのは月読族過激派の連中である。
対惑星レーザーの直撃を食らって無傷などと言う化け物に対し対抗手段がある訳がない。」


「いっ、いきてるぞ、何も、傷一つついていないぞ。」

「ばっ、ばっ、ばけもんだあ〜〜〜っ!!」

「にげろ!皆殺しになるぞ。」


散開したまま我先に逃げ散っていく。


「あっ、こらっ!にげるなああーっ。みんなもどれえっ!!」


マヤの叫び声が空しく宇宙に響き渡ったのであった。


「勝ったのはいいけど、なんかすごーく納得できない気分・・。何よ、この天下の美少女を捕まえてバケモンとは。しっつれいしちゃうわ!!」


一人、膨れているアスカ。
こうして、またしても宇宙の平和は守られ、宇宙にはいつもの日常が戻って来たのであった。

そして、三人の間の友情も。










それから3,4日後の、放課後のお話し。
シンジとレイは、校門近くの公園でアスカを待っていた。


「ぁ、戻ってきた戻ってきた。あすかちゃーんここよーっ!」

「おまたせっ。お医者さんの予約の時間通りにいかなくてさ。またせたわね、ごめん。」

「医者って、歯医者さん?アスカちゃんを待つのは楽しいくらいだもの。全然気にならないわ。」

「じゃあ、買物を済ませて帰ろうか。」


歩き出しながらシンジの胸を過ぎるのはいつぞやのマーケットであった。


「あーあ、それにしても、このあいだの、あの最高級食材おしかったなあ。」

「何いってんのよ、よりによってそんな情けない手段で捕まってただなんて、恥ずかしくて人には言えないわね。」

「にこにこ。食材が必要ならいつでも寄付しますう〜、シンジ君。」

「ちょっとお、レイ。なんであんたがシンジを名前で呼ぶのよ。そう呼んでいいのは私だけなのっ!!」

「アスカちゃん、ま、君付けて、遠慮してるじゃないのよお。ね、ね、アスカちゃんは呼び捨てなんだしさ。」

「なんかなっとくできない。ぶー。」

「ははははは。」


苦笑いするシンジ。そのシンジが思い出したように言った。


「そう言えば、聞こう聞こうと思ってて忘れてたんだけど、何でアスカの超能力が復活したの?」

「私も聞きたいなあ。暫くシンジがサボっていたので、処女膜が復活したの?なんて投書まで来てたのよ。」

「それで、断線してたのが繋がったとか? ひとをなんだとおもってんのよっ!がうっ!!」

「まあまあ・・・・。みんな不思議に思ってたって事さ。」


「へっへえ。それは今夜発表しようと思っていたんだけど、今聞きたい?」

「うん。」

「わたしもききたあい。」

「うーん、騒がないことと、人に言わないことを約束できる?」


こくこくこくこくこく。肯くレイとシンジ。


「本来この能力は、女性として身を守る為に、発達したのよ。男としては家族や妻の安全を守る為って事かな。無くなるのは、まあ、旦那さまが危険だし、ってことかなあ。だから今回の復活はね・・・。」


シンジはごくっと生唾を飲んだ。



「はーい!!私アスカ惣流ラングレーは、めでたく妊娠4ヶ月を通告されたことをここに宣言しまーす!!」



「ええええええええーーーーーっ!」



シンジとレイを押しのけるように、周り中の繁みや、マンホールや、トイレの屋根や、池の中から。
後をつけていたファンクラブの人々が叫んだ。

まさに文字通り血の叫びが湧き起こった。このとおり、字まで赤くなってしまった。


心臓が、内臓が、ちぎれるように切ない。血の涙を流しながら、次々と気を失いその場に倒れていく追跡者達。

ゴロゴロとそこら一面を転がりまわって胸を掻き毟る者。自らの制服を引き裂いてその辺を駆け回る者。
電信柱やブロック塀に頭から突っ込んで血飛沫と共に悶絶する者。民家の屋根に駆け上って遠吠えを始める者。
抱き合ってあたりもはばからず泣き喚く者。ほうぜんと歩き出してどぶ川に食い倒れ人形と共に身を投げる者。
お菓子屋に押し入って当たるを幸いケーキを口に詰め込み始める者。包丁で腹を切ろうとする者。
教科書を燃やす者。花火を打ち上げる者。クラッカーを鳴らす者。歩道橋からバンジージャンプをする者。

警官から自殺の為に拳銃を奪おうとする者。
はらわたのちぎれるような叫びを残して血を吐いて倒れるものその数を知らず。
まさにこの世の地獄絵図が展開されたのであった。


全員が合唱のように声を合わせて叫んだ。

「あああ、天よ!我に命を与えながら、何故イカリにも共に天をいだかせたのかあああっ!!!」



アスカがとっさに、レイとシンジを小脇に抱え込んだとたん、3人は爆発音と共に天空に急上昇していた。



「ああもう!大声出すから赤ちゃんがびっくりしちゃったじゃないの。」


それからアスカはにっこりシンジに微笑んで、ウインクをした。。


「ね、ママを守ってくれる良い子で元気な子でしょ、パ・パ。」

「だあああっ!!」


シンジとレイが思いっきり仰け反った。











レイ&アスカスーパーミラクル大戦<後編>大団円/終


後書き

すみません。得意の妊娠落ちですね。(^ ^ )
この後アスカちゃんはめでたく繁殖に成功。げふんげふん。おめでた続きで10年後には第一話のような
幸せいっぱい状態になるわけですね。ケーキと、可愛い子供と、愛する旦那様に囲まれた生活。

ところで、その時レイはどうしてたんでしょうねえ。まあ、そのうちどなたか書いて頂けるといいのですけど。
それではみなさま、またいつかお会いしましょう。

こめどころ


素敵な大団円ですね。三部作、こめどころさんありがとうございました。(>_<)/
どきどきはらはらさせられましたが、最後はアスカちゃん、シンちゃんに幸せな日々が戻ったのが
嬉しく思います。これからどんどん繁殖ですか(笑)。幸せな夫婦生活なんでしょうね。
それにしてもてっきり超能力の復活は、愛故にだと思ってましたが、・・・愛の結晶故になんですね。
こめどころさん風の素敵なLASエンディングだったと思います。

でも・・・・・マヤちょん。悪役でもいい味でてますやん。新しい一面でした。これも収穫かな♪

そして個人的に・・・・これは柴の一番の感想です。
レイちゃん最高!!
基本的にはLAS物語ですが、レイちゃんの成長物語だったように思います。輝いていました。
みなさんは如何でしたか、ぜひこめどころさんに感想を送ってくださいね。

こめどころさん、お疲れ様でした。そしてありがとうございました。

 

2008/05/13 アスカの旗の下に 2nd Flagへ再録

こめどころさんに感想メールをお願いします。m(__)m

 


TOPページに戻ります。