レイvsアスカ ミラクルスーパー大戦
<前編>
written by こめどころ




奥様ご存知ですか?最近馬車道通りの碇ケーキ店に外国の女の子が売り子で入ったでございましょう?

ええ、ええ、あの金髪で青い目の可愛い女の子でございましょう。
最近は外国から働きに来る人が多ございますからね。

でもあの方はただの外国人じゃないんでございますのよ、ご存知でした?

見たところ、東欧とか北欧とかあちらの方のお方でありません事?
大変元気もいいし働き者な感じの子ですわよね。


奥様ご存知ないから。ほら、正義の味方と称して暴れまわっていた凶暴な宇宙人がおりましたでしょ。

ああ、あのクリプトン星人とか言う・・・。
20世紀の遺物のような正義の味方はゴジラと何ら変わらないとか言われてましたわねえ。

あの子は何でもそのクリプトン星人じゃないかという噂、お聴きになった事ございまして?

ええええっ。そんな歩くガスタンクみたいな危険物が町内にあるのは困りますわねえ。
いくら居住の自由があるといっても。

第一、そういうのってあれでございましょ。不法入国とかいうんじゃありません事?
警察もなにをなさってるんでございましょうねえ。

本当ですわねえ、職務怠慢とか言う事ではないんでしょうか。
わたくし、断固としてたくの人から警察に意見してもらいますわ。







からんかららん。




「あ、いらっしゃいませえっ!」


店の中に入って来たいかつい数人の男達は、余りに場違いなピンクとホワイトの壁に囲まれたケーキ屋の内部に当惑を隠しきれないようだ。

そこに、金髪で青い瞳の、ふりふりだらけのドイツ風民俗衣装に身を固めたアスカに声を掛けられてますます緊張したようだった。


「あ、あんたが、アスカ・ラングレーさんかね。」

「はい、そうですが。」

「君には不法入国。不法滞在。不法就労の疑いがかかっている。任意同行を求めたいのだが。」

「ええっ。わたしに?たしか、地球とクリプトン星の間には、
正義の味方派遣に関する相互取り決めがあったはずだけど。」

「君は今、正義の味方として活動をしているかね。」

「い、いいえ・・。でもそれはもうそれができないって事なんだししかたのない事なんじゃ・・・。」

「そこから先は署で聞かせてもらうとしようか。」


男達はカウンターの中にまで入って、アスカを取り囲んだ。そして、アスカの細く白い手首を掴む。


「いやっ。なにするのよっ!」

「駄々をこねるんじゃない。」

「私は何も悪い事なんかしてないわよ。」

「わかったわかった。犯罪者はみんなそう言うんだ。」

「いやっ、だれかっ!」


有無を言わさず引きずっていかれそうになる。スーパーアスカだった頃のアスカではない。必死で逆らうけれどもまったく抵抗になっていない。

クリプトンの女性は、ええと、なんて言うのか、ある出来事を境にその超能力を全て失ってしまうのだ。悲鳴を聞きつけて誰かが表に出てきた。

奥から出てきたのは妙齢の黒髪の女性であった。ダイナマイトバストとでも言うのか、はちきれんばかりの健康的な胸がゆさゆさとゆれている。


「私の妹になんか用事でも?兄さん達。」

「えっ。妹?」


といったとたん、そいつの顔にはもうパンチがしっかりと入っていた。


「がふっ!!」


不幸な男はケーキの入ったショーケースをきれいに飛び越えて脳天から店の床に突っ込んだ。

慌ててうち懐に手を突っ込んだ男はその形のまま、手刀をみぞおちに受けて悶絶していた。くるりと白目をむいてそのまま崩れ落ちた。


「貴様っ。」


残りの男達はアスカから手を放すと飛びすさって体勢を整えた。

奥に続く暖簾を背にした二人が悲鳴を上げる。

にゅっと突き出た腕が二人の首筋を後ろからワシ掴みにしていた。二人は足をばたばたさせながらゆっくりと宙に掴み上げられた。

首筋を走る頚動脈がしまる。二人の目の前がスーっと真っ暗になっていく。


「かっ、かはあっ。お、落ちる・・・。」


二人の抵抗がやむ。身体から力が抜け、ぶらんとその手足が垂れ下がる。


「あ、あわわわあああ・・・。」


たった一人残った男は、部屋の隅にしつらえられた喫茶部に紗の訪問着を着た美しい婦人がいることにやっと気付いた。


「うちに乱入して、嫁を攫っていくとはいい度胸をした方達ですね。一体どういう事なのですか。」

「ゆ、誘拐じゃありません。任意同行を求めただけなんです〜。」


ぶら下げた二人を投げ捨てると、暖簾を掻き分けて白い作業着姿の男が顔を現した。そこには犯罪者の顔があった。


「ひ、こ、ころされるっ。」

「なにを人聞きの悪い・・・。おまえ、多田のとこの若い奴か。」

「は、はいっ。た、多田署長は我々のとこのしょちょうですううっ。」

「帰ったら、奴に言っておけ。本件については本庁の専管事項だ。所轄は一切関与無用とな。」


そういうと、ゲンドウはくるりと後ろを向いて再びクリームを混ぜるために調理場に戻っていった。

一分間に泡立て器を600回転させるという技が、先ほどの驚異的な腕力に結びついているのであろうか。


「あ、あなたすてき・・・・。」


その後ろ姿を、上気した頬をして、ためいきをつきながら見送るユイであった。そして、脱力して座り込むミサト。


「ち、違う。この二人にはついていけん・・・・・。」



「たっだいまあ〜〜〜。」


店の扉を開けて、シンジが塾から帰ってきた。


「あああ〜〜〜ん、しんじい〜〜〜。さみしかったあ〜、怖い事もあったんだよう〜〜〜。」


両手を挙げてシンジを出迎えるアスカ。ひしっと抱き合ったまま、一本の飴になったようにくっついて離れない。


「こいつらもまたああ〜〜〜。」


ミサトの握り締めた鋼のケーキはさみが、溶けたようにその形を変えていった。


「でていってやる。はやくでていってやる。身が持たん〜〜。
おらあああ!!いつまでもたもたおねんねしてんだ!早くかえんなさいよ!!」


伸びている刑事達を蹴り飛ばすミサト。完全な八つ当たりである。一人生残った刑事は仲間を車に押し込み急発進して所轄署に戻っていった。

彼は、例えどんな事があろうとも、ここには2度と来ない事を堅く決意していた。




「クリプトン星は正規に国交をしているわけではないからなあ、
地球がまだひとつの政府になっているわけではないからね。」

「でも、そういうことでは、アスカの身分はいつまでも不安定なままでしょう?加持さん。」

「正義の味方派遣に関する相互取り決めっていう条項があるだけだものなあ。
まあ昔はそれでも一人くらい紛れ込ませる余裕があったんだよね。」

「いまだって手がいろいろあるでしょ。超法規的措置とかさ・・・。あんたの法務局で何とかなんないの?」

「無理言うなよ。追い出すのと違って受け入れはいろいろ大変なんだ。
まあ、二人がちゃんと結婚するって事なら日本国籍を与える事は何とかね。」

「わたしは、シンジさえ良ければいつだってお嫁に来ますけど。」

「おーおー、アスカちゃん可愛くなっちゃって。ひゅーひゅー。」

「よせよ、かわいそうじゃないか。2人とも真っ赤になっちゃって。」

「私の方がよほど可哀相よ。いつもいつも見せ付けられるばかりでさ。
あんたっ。私との事は一体どうするつもりなのよっ!!」


胸座を掴んで揺さぶり、そのままぎりぎりと首を締め上げて行く。さっきの刑事達ならとっくに行っちゃってるだろうに加持は涼しい顔だ。


「まあ、こうやってじゃれあってるのが楽しいもんでついなあ。悪かったとは思ってるんだこれでも。」

「そういうことは、態度で、示してから、言って欲しい、わね。」


全日本合気道選手権優勝者のミサトが力いっぱい締め上げてもびくともしない。

バケモンだこいつ。と息を切らせながら彼女は思うのであった。


「これ、うけとってくれるか?」

「へ?」


濃いえんじの小さなケースを渡された。中を開けると・・・。


「きゃああんっ!!おねえさん、おめでとうっ!!」


アスカがミサトの首に飛びついてしがみついた。大粒のジュエリーがついた、婚約指輪であった。


「あ、あんた、これ、こんなもん渡しちゃったら、もうとりかえしつかないわよっ!いいの!?」

「おやおや。受け取ってくれるもんだと思っていたんだがな。」

「ううん。」


ミサトはかぶりを振った。このへらへら男と付き合い出してから何年経ったんだろう・・・。

加持は、その指輪を摘み上げると、ミサトの左手を取った。


「随分長い事、またしてしまったな。すまん。俺にはおまえを幸せにできる自信がなかったんだ。」

「ばあか。あんたに幸せにしてもらおうなんて思ってないわよ。
私はわたしのほうで勝手にしあわせになるんだから。」

「そうだな。おまえはそういう女だったよな。」

「私だって、あんたを幸せにしてやるわよ。あんたがいやだといってもね。」


そう言うと、ミサトは加持の首にしがみついて唇を合わせた。アスカとシンジは声もなく、呆然と二人の「大人のキス」を見つめていた。


「す・・・・すごい・・・・・。」

「あれに比べたら・・・・私達なんてまるでお子ちゃまよね・・・・・・。」






いよいよアスカとシンジが結婚する事になったというニュースは次の日の1時間目の間には、学校中に知れ渡っていた。

祝福する者、ほぞをかむ者、泣き出す者、笑い出す者、写真の売り上げを計算する者、この機会に告白しようさせようとする者、色々である。

正規の卒業を堂々と行い、そしていつまでも一緒に暮らしていくためにどうしても必要な事なのだという説明が後からついて回った。

ここで収まらないのが、アスカファンクラブ名誉会長、綾波レイであった。


「アスカちゃんがこんなに簡単に結婚しちゃうなんてしくしく。
この際シンジ君には暫くおひきとりねがっておこうかしら。そう長い事じゃなくても・・・。」


綾波レイ。元月読族スーパーニンフィット。男の心を自在に操る超能力を持つ。但し誰かを好きになっている時はその能力は失われている。

とはいえ今でもその勢力は結構学園内で無視できない。いやこういう時のために維持してきたともいえる。


「日向っ、青葉っ。」

「はっ。」

「御前に。」


天井裏にずっと潜んでいたのであろうか。影のようにレイの周囲にふたつの影が。


「いい?シンジ君をね。ごしょごしょごしょ。」

「はいっ、承知いたしました。」


教室の喧騒の中、誰にも気付かれずにふたつの影は消えた。



仲良く手をつないで下校する、シンジとアスカ。今日は別になんという事もないのだが、ぞろぞろとその後を高校の同窓生50人ばかりがぞろぞろとついて歩いている。

なんとなくあきらめきれないという気持ちなのかもしれない。しかし、彼らにとって人生は過酷であった。

何かに躓いて、アスカが転んだのだ。


「あっ、いたあ!」

「アスカッだいじょうぶかいっ。」

「う、うん。ちょっとすりむいただけだから。」

「ちょっとじゃないよ。ばい菌が入ったらどうするんだ。」


シンジは、アスカの靴の踵を持って、ふくら脛に手を添えた。


「はああ〜〜〜。」


一斉に男子生徒がため息をつく。アスカの白いふくらはぎは、彼らにとって天使の象徴のような物。

憧れてやまぬ物なのである。熱いため息をつくのも無理からぬ事であろう。

一方シンジファンの女子生徒達も、姫を護る騎士のようなシンジの男っぷりに熱い吐息をはくのであった。

(どういうわけか、アスカと付き合い出してからシンジは急にモテモテになり始めた。
可愛い彼女に愛されているという自信が彼を変えたのであろうか。それが周囲に輝きを放つらしい。)

次の瞬間、その熱いため息は、悲鳴に変わった。

シンジは周囲の事など何も目に入らぬかのように、うっすらと血の滲んだ可愛い膝に唇を押し当て、その傷口を優しく舐め始めたのであった。


「し、シンジ、いいよ。汚いよそんなとこ舐めたら。」


可憐に赤く頬を染めたアスカが、シンジの頭を抱え込むようにして、膝からシンジの唇を離そうとするが、シンジはかまわず舐めつづける。

一生懸命拒むアスカ。だがその表情は本当に幸せそうだ。2人の周囲5mにはぽわわ〜んと、ピンクのフィールドが出現したように見えた。


「ああああああああああああああああああ!!!!」

「きゃあああああんん、いやああああああん!!!」



まさに文字通り血の叫びが湧き起こった。このとおり、字まで赤くなってしまった。



心臓が、内臓が、ちぎれるように切ない。血の涙を流しながら、次々と気を失いその場に倒れていく追跡者達。

 

ゴロゴロとそこら一面を転がりまわって胸を掻き毟る者。

自らの制服を引き裂いてその辺を駆け回る者。

電信柱やブロック塀に頭から突っ込んで血飛沫と共に悶絶する者。

民家の屋根に駆け上って遠吠えを始める者。

抱き合ってあたりもはばからず泣き喚く者。

ほうぜんと歩き出してどぶ川に食い倒れ人形と共に身を投げる者。

お菓子屋に押し入って当たるを幸いケーキを口に詰め込み始める者。

包丁で腹を切ろうとする者。

教科書を燃やす者。

花火を打ち上げる者。

クラッカーを鳴らす者。

歩道橋からバンジージャンプをする者。

警官から拳銃を奪おうとする者。

はらわたのちぎれるような叫びを残して血を吐いて倒れるものその数を知らず。


まさにこの世の地獄絵図が展開されたのであった。


「あああ、天よ!我に命を与えながら、何故イカリにも共に天をいだかせたのかあああっ!!!」


三国志でこういう台詞をはいていた方がいたようですが。

その阿鼻叫喚の様を、電柱のてっぺんに立って見ている青葉と日向。


「ううむ、話には聞いていたが、これほどとは!
見ろ、あのピンクのフィールドに入った鳥は地に落ち、犬は悶絶しているぞ。」

「天を恐れぬ所業、もはやゆるせぬな。毒ガスまで発生させるとは・・・!」


真面目に納得している日向にずっこける青葉。顔をうかがうが冗談で言ったのではなさそうだ。


「すぐさまレイ様にお伝えして、手を打って頂かねば犠牲者が増えるばかりなのは、火を見るよりも明らか。」

「同感だ。すぐさまあのようなまね、やめさせねばならぬ。だが・・・・。すこしばかりうらやましいのう。御同役。」

「しかりしかり。我々とて、いつかはレイ様にあのようなことを・・・・。」


二人はしばし妄想にふけった。そして思い出したように学校に向けて走り出したのであった。

今はまずこの下積みの生活を一刻も早く抜け出す手柄を立て、レイに認めてもらう事が彼らの大命題であった。




スーパーマーケットにいつものように買物をしていたシンジはピクリと耳をそばだてた。

シンジは、小さい頃から店で忙しい両親のために買物と料理を一手に引き受けていた。

ミサトも一時期手伝っていたのだが、そのうち余りにも実力に差が出てしまったためシンジの専任になってしまった。


「あらぁ、それじゃそっちのお店に行って見ましょうか。」

「開店大売り出しは、ものがいい上に安いんですから行かなくては損ですわね。
それにそこは生鮮食品が特に・・。」

「どこにあるんでしたっけ、そのお店。」

「歩くとちょっとありますけれど、天王寺グラウンドの西側に。」

「ああ、以前鉄道病院が建っていたとこですわね。」


二人の主婦はそこへ行く事にしたらしく店をでていった。シンジは買ってあった物を棚の間をすばやく走りまわって返した。

外へ飛び出すと、さっきの主婦達がのんびりと特売布団の品定めをしている。


「もうそろそろ夏布団の準備をしないといけませんわねえ。」

「奥様、安いようでも夏蒲団はまだまだ下がりますから買ってはいけませんわ。
衝動買いは主婦の大敵ですわよ。」

「そうですわね。安月給でやりくりするのも大変ですわ。」

「しまるところはしめて日毎安くて良い物で華やかさを演出し、
貧乏を家族に感じさせず豊かな気持ちで過ごさせる。ここがポイントね。」

「麦田さんといっしょにお買物に来ると勉強になりますわー。」


シンジの主婦(夫)根性にめらめらと火が点く。この人、プロだなっ。歩き始めた二人の後を密かに付けるシンジであった。

ほどなく鉄道病院跡地に着く。立派な建物が建っている。

「ビックコマース セカンドインパクト」

いかにも従来の価格体系を根こそぎ破壊しようという意慾に満ちたインパクトに満ちた店名である、がすこし悪趣味かもしれない。

大勢の主婦が出たり入ったりしている。みんな山のように買い物袋を抱えている。よほどお買い得になっているらしい。

主夫シンジは、ぶるっと武者震いをすると、店に突撃を開始した。


「わああああ、これはすごいや!」


最新鋭の保冷棚、つやつやの野菜達、きらきらした目の魚達、弾けるような肉類がシンジを両手を広げて迎えてくれた。

シンジの目を持ってしても見比べる必要がまったく無いほど新鮮な食品たちがそこには並べてあった。

そして各種の添加物、育成された農場、使用した農薬、どのようなアレルギーの人に向かないか、取れた漁場、保存の仕方、絞め方に至るまでが至れり尽くせりで記載されている。

勉強を欠かさない賢い主婦には、最高の店であるし、一般の主婦にとっても安心で清潔で経済的で・・・。もう涙が出そうな店だった。

小一時間でシンジは両手いっぱいの買物をしてしまった。


「よし、いまだわね。」

「ああ。よーし、みんな行くのよっ。」


レジをほくほく顔で出てきたシンジを、主婦達が取り巻く。


「な、なんですか。」

「碇シンジ君ね。」

「そうですけど。」

「君にうらみはないけどこれも仕事なの。悪く思わないで欲しいわ。」


わっと主婦達が襲い掛かった。シンジはけしてケンカが弱い方ではない。むしろ高校生としては、格段に強いほうだろう。

何と言っても彼の祖父はあの有名な13ナンバーのスナイパーであり、彼はその後継者であった事もあったのだ。幼い頃から祖父の厳しいトレーニングを受けている。

そしてまた、あの凶悪犯顔の父ゲンドウも、泣く子も黙るといわれた鬼の第4機動隊を皮切りに刑事部刑事課長として、日本中の行政犯、凶悪犯罪者を若くして震え上がらせ、警察疔の怪物と言われた神懸かり的に優秀な男であった。

そのゲンドウががのちに妻となるユイとの運命的な出会いの後、嫌がらせ的に出されたケーキ屋の跡を継ぐなら結婚を許すという条件のためにあっさりと警察を退職してしまった事は、また別の機会に語るとして、息子シンジにハードトレーニングを課した事も言うまでもないだろう。

いわば、シンジは正義でも悪の道でも、その方面のサラブレッドであったのだ。世が世なら世界征服ぐらいしたかもしれない。

そんなシンジがあっさりと捕まってしまったのは、相手がおばさん達とは言え一応女の人たちだった事もあるのだが、なんといってもこの超一流の食材を乱闘で駄目にしたくないという、いじましい主夫根性にあった事は言うまでもない。

敵の弱みを突く、見事な作戦であったと言えよう。<そうかあ?

とにかく、シンジはぐるぐる巻きにされてパネルバンに食材と一緒に押し込められた。


「よーし、作戦終了だ。」

リーダーらしき人の言葉で、みんないっせいに顔の変装を毟り取った。その下から現れたのはいかつい顔顔顔・・・。


「ムーっ !!ムギャムギャギャーーーッ!!」


シンジが何か叫んでいるがもはや手後れという物である。男達はかつらを取り、スカートやブラジャーを脱ぐと、サングラスやワイシャツ、黒いネクタイ、黒い背広の上下などに着替えた。

ガラガラガラッ。広い駐車場の出入り口の高いシャッターが閉じられるともはや外からは何も見えない。そのとたんにスーパーマーケットはぱたぱたと解体されていった。驚くべき事にそれは映画のセットのような物だったのである。スーパーがなくなると、その後ろにとまっていた、大型のトレーラーが資材、食材、各種機器をすべて、何一つ残さず運び去っていった。

あとには、もとの鉄道病院の解体跡が残るばかりである。

シンジを載せた、小型の保冷車も、いずこへとも無く走り去っていった。




「ほらっ、ここに入るんだよっ。」


シンジは縄を解かれると、手荒く部屋の中へ突き飛ばされた。

たたらを踏みながらシンジが周囲を見回すと信じられないような豪華な作りの部屋であった。真っ白なふかふかの絨毯。

細かい宝石を繋ぎあわせた贅沢だが嫌みのないシャンデリア。淡い色の壁の前には美しい彫像が並んでいる。

ギリシア風のエンタシスの列柱が並ぶ回廊式の庭園に面した広い部屋の中には、噴水から小川が庭園に向かって流れ出している。

その庭園には花々が咲き乱れ、小鳥たちが少女の回りに群れて遊んでいる。その光の中の少女が立ち上がる。

淡い絹のローブをまとい、身体の線が微かに透けて見える。その衣装が少女の細いはかなげな線を一層引きたてている。

光の中に溶け込んでいってしまいそうなその様子に、シンジは思わず手を伸ばすと、声を掛けていた。


「き、きみは・・・?」


その少女は、小鳥を指に止まらせたままで静かに振り返った。淡い、青みのある髪、光を受けて煌き、不思議な陰をその中に宿している紅い瞳。


「綾波さん?綾波なの?」


レイは、何も言わずにそこに佇んだまま微笑んだ。そして、シンジに向かって、その細い腕を真っ直ぐに差し伸べた。

こっちに来て、というように。この腕をとって、というように。

どこかで、微かにハープシコードの音が聞こえている。ああ、きれいな旋律だなあ、と想いながらシンジは、レイの方に一歩踏み出した。

そよ風が吹き、わずかに4,5本の前髪がレイの額に落ちた。その紅い瞳の前を、青白いまでに白い細い指が通り過ぎて、それをかきあげる。


「碇くん・・・。きて・・・。」


その絹のローブは何か香料が焚き込んであるのか、不思議な香りがした。かすかな沈丁花のような。姉さんとも母さんとも違う香り。アスカとも違う香り。

これが・・・。綾波の香りなの?

もう一度風が吹いた。絹のローブが舞い上がった。綾波の白い肩がシンジの目線の中に入った。





その日とうとうシンジは家に帰ってこなかった。












レイvsアスカ ミラクルスーパー大戦<中編>へつづく。


あとがき

えー、またしてもこめどころでございます。
今度のお話しは・・・レイVSアスカ。ええ?なんだってえ?
という向きもございましょうが、我慢してお読み頂ければと・・・。
まだ、連載にするべきかどうか決めてないのに、もう半分書いてしまいました。
どうしょう。このまま書き逃げっていう方法が取れなくなっちゃうのが、連載の怖いところなんですよね。
なんかレイちゃん怪しい雰囲気に書いちゃったし。
今度こそ殺されるか知れんな。アヤナミストの方達に。上下くらいにしておいた方がいいな、きっと。

こめどころ


『超少女ミラクルスーパーアスカ』、『月よりの使者ミラクルスーパーレイ』に続く待望の新作!!
こめどころさんから、“スーパーシリーズ”のレイアス大戦物を寄贈して頂きました。(^o^)

地上に舞い降りた二人の天使、ついに激突!!流石こめどころさんだと思うのは、
トリガーがシンジ君を取り合ってではないという事ですね。一体結末はどうなるんでしょう?
いまから凄く楽しみですね。ぜひみなさんも、こめどころさんに励ましのメールをお願いします。

それにしても・・・・後半の妖しげなレイちゃん。ドキドキです。もう自分は弱いんですよ。
シンジ君羨ましいなぁ。ううう、彼女のニンフィットの魅力は永遠ですね。(*^^*)

それとぉ〜周公瑾提督の名台詞まで出てくるとは・・・・個人的には大好きです。こういう小ネタは♪

 

2008/05/13 アスカの旗の下に 2nd Flagへ再録

こめどころさんに感想メールをお願いします。m(__)m

 


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