2020-01-19 深夜


薄暗い部屋の中。少女は決断を迫られていた。男は黙したまま、部屋の隅においてあったジュラルミンケースを取り上げた。酷薄そうな薄い唇がひらくと、爬虫類めいた声が響いた。

 「おまえは、自分が気づいていないだけで、全てを持っている。お前がが私に同意するのなら、全てのキーを解き放ってやろう。私に全てを委ねるのならば。」
「私に、今さら惜しむべき何があると言うの、叔父様。」


 明日香は、この男をじっと見つめた。私を唯一必要としてくれる男。私の秘密も知らない事も、全てを知っている男。この男は私を媒介としておそらく別の野望を遂げようとしているのだ。


「そのケースの中に全てが入っているとでもいうの。」


明日香は、赤い唇を舐めながら笑った。冷えきった眼差しが男を見つめていた。


「その通りだ。おまえはおまえが得るべき全てを得ればよい。私は私の得るべき全て
を得るだろう。」
「そのケースが、さっきの男との契約の結果なのね。」
「そうだ、おまえがおまえ自身で、購った物だ。おまえはこれを得る権利がある。そして拒否し10000クレジットを持って、町を出て行く事もできる。この金があれば、まともな町でまともな教育を受ける事もでき。母親もそれを望んでいたのだろう。むろんそうという事なら、私が保証人になってもいい。おまえの選択だ。」

 男は、カントリーバーから、ブランデーとグラスを出した。氷を入れ、そこに酒を注ぐと、そのひとつを明日香の前に置いた。

 「いささか陳腐だが、事が成ればこれは美酒となり、失敗すれば毒杯となるだろう。これがおまえと私との最初の、一枚目の契約だ。」
「道端の、小娘の淫売に残り全ての人生をかけてしまっていいの。叔父様。」

 濡れたように潤んだ瞳で、明日香は男を見上げた。男は口の端に笑いを浮かべた。そして、意外と真摯な口調で言葉を紡ぎ出した。

 「私は、真の、世界最強、最高の若き淑女と契約を結ぶつもりなのだが。」

 斐琉・明日香・ランヅフートは、手を伸ばしてグラスを取った。優雅な指先で琥珀が揺れている。揺らめく酒の面に自分の青い瞳が映っている。ここから先の人生を自分で掴み取る。仮初めの人生をここで終らせよう。

明日香は静かに目を閉じ、そしてそれをあおった。
火焔を飲み込んだようだった。

 

 

 

 

 



As.−Treat me nice

『糸巻き戦車のゴムが巻かれはじめる』

komedokoro


 

 

 

 

 

2020-01-20  5:40


目が覚めると、隣に寝ているレイが、それに反応したように寝返りをうった。灰青色の髪。こんな髪の色は滅多にはない。まだ良く眠りこんだままのようだった。大きなクイーンサイズのベッドは、彼女と一緒に寝てもまだまだたっぷりとしている。アスカはベッドを滑り出すとカーディガンを羽織って廊下を挟んで部屋の正面にある彼女の想い人の部屋にするりと身を入れた。中はアスカの部屋とは違って、真っ暗だった。
元々納戸用に設計されているのだからやむをえまい。第一、この部屋には天窓以外のもついていなかった。後ろ手に引き戸を閉めると、鍵をかけた。


「シンジ、いれて。」


そう言うと、少年は目をつむったまま布団の端を持ち上げてくれたので、少女はその隙間にカーディガンを脱ぎ捨てて滑り込んだ。冷えた足が彼の足に触れると腿で腿を挟み膝から下を絡ましてくる。女の子の冷たい脚を温めてくれるつもりなのだろう。
男の子の足は例えようもなく温かかかったので、少女は喜んでその動きに身を任せるように、少年にしがみついた。鼻先を脇の下に潜り込ませると、シンジの腕が降りてきて頭を抱え込まれた。くるりと身体を半回転させて背中側から抱きかかえられる。
こうすると、身体がぴったり密着してとても温かい。彼等が『3点ねんね』と呼んでいる、背中側からのだっこ。耳と頬とおでこを同時に抱きかかえる寝かた。視野が全て遮られアスカにはシンジの匂いと自分の心臓の音しか聞こえなくなる。明るい所でも目がシンジの腕の陰になって寝やすいのだ。シンジの開いている手がアスカのお腹に差し込まれてそこを撫でてくれる。温かくて、自分が縁側の日溜まりでお腹を撫でられている猫になったような気がした。自分のお腹、さらさらしてる。身体中から集まって来た眠気が、思わずあくびになって口から出た。ちょっと恥ずかしい。シンジの片方の手をお腹の上で押さえ付ける。とろりとした幸せの時間。半分眠ったような状態のまま、矢張り半睡状態のシンジのもう一方の手がアスカをまさぐって行く。うなじの後れ毛をシンジの唇が優しく、くすぐったくなぞっていく。

アスカは幸せだった。





2020-01-20 午後のひととき。 

恋仲になって以来、いつでも2人は一緒に丸まってくっついている。やたらと眠くなるのが恋人達の習性なのだ。抱き合って眠る事で次第に互いの身体が馴染んで行く。
呼吸や体温を交換する事でまるで身体の組織まで入れ換わりでもすると信じているかのように。場所を構わず色々な所で丸まるので、もし昼間でも家人がいたらさぞ邪魔にされただろう。けれども、幸か不幸かこのマンションには大抵シンジとアスカしかいなかった為、彼等は我が世の春を謳歌していたのである。


しかし、アスカが昏倒させられた一件以来レイが同居するようになり、ミサトも少し保護者としての自覚が出たのか、なるべく家にいるようにしたらしく、奥の部屋からしょっちゅう持ち帰った業務についての苦悶のうめきが聞こえるようになっていた。
そんな状態ではやっと結ばれたばかりの2人には身体をあわせる事も躊躇われる。それどころか、ごく一般的な日常にも困った事が現れてきてしまった。


そうなって一番大変なのはシンジ。まず、大抵は2人分ですんでいた食事が常時4人分必要になった。お弁当も、である。その事については量的に大変と言っても大した事はなかったが、問題はその買い出しである。2人分は手に下げても大した量ではない。だが4人となり、食べ盛りの高校生3人となると車がないと買い出しは無理だ。その上、30過ぎても身体だと言い切る食欲にセーブの掛からない大柄の成人女性と、毎日5kgもの新鮮なイワシかマアジか何かが欲しい大型ペンギンまでいるのだ。だが、
このうちには、暴走スーパーカーはあっても御買い物車はない。あったとしても3人の高校生は誰もまだ運転できない。


「おかしいじゃないのよ。エヴァンゲリオンのパイロットが、なぜ軽自動車すらも、運転しちゃいけないの!」


実際ネルフの内部で移動に使われる電動自動車などはすいすい乗りまわせるのだから確かに技術的に問題はないのだが、だからといって許可がおりるはずもなかった。それに、12月4日以降はシンジとアスカは18才。免許を取りに行けばいいのだが、貯えも何もない3人にそんなお金もなければ、真面目な高校生としては教習に通う暇もなかった。レイは受験。シンジは家事。アスカは・・・


「そ、そりゃア、あたしが一番ヒマだけどさあ・・・」
「決定ね。」


ミサトが決めつける。シンジまでもが口添えする。


「アスカ、いいじゃないか。今回はミサトさんがお金、出してくれるんだし。」
「だって・・・けどさ。」


煮え切らない。俯いてぶつぶつ言っている。ミサトにはピンときた。


「あっ、分かった。その間シンちゃんと別行動なのが嫌なんでしょ!」


図星を指して来る。まっ赤になって飛び上がるアスカ。こんなとこが可愛くて仕方がないシンジ。見え見えじゃない・・・と思っているレイ。


「どきっ!」
「まあいいじゃない。確かに教習の間は寂しいけど、取ってしまえば、シンちゃんと夢のドライブを楽しめるのよ〜。」
「そ、そうか。ドライブねぇ、うん。まあ、いいかな、教習所いっても。へへ〜。」


なるほど!と思った途端に急に表情が弛みきる。笑いが止まらないまま、鼻歌を唱いながら、もう地図付きの旅行案内なんかをマガジンBOXから引き抜き、眺めている。
『るるぶ東海地方編伊豆特集』なんて書いてあるやつ。


「温泉巡りの後は純和風旅館で極上の近海魚と珍しいフジ壷のお味噌汁。伊勢海老の地獄焼きの翌朝は海老の頭を使った菊味噌汁に舌鼓、かぁ。いいなあ、これ。」


ぶつぶつ呟いている。免許取得にどのくらい時間がかかるか知っているのだろうか。


「分かりやすい性格の人だったけど、ますます分かりやすくなった、セカンド。」


レイは独り言を呟いたが、無論聞こえる程声に出しはしなかった。







2020-01-20 同時刻、新小田原市の小さなビルの一室。


少しずつ捜査の輪を絞める度に敵集団のメンバーと思われる人間が増えて行く。これは中枢に近い所に敵の首謀者が存在している事を示していた。これ以上捜査の輪を絞めることは、敵に過ったタイミングでの暴発を招き元も子も無くす怖れがある。敵の
準備が何処まで進んでいるのか分からないまま暴発すれば、逆にこちらが一気呵成に潰される可能性もあるのだ。彼我の勢力比が互いに分からないか向うが一気にひっくり返す準備が整ったと思うその瞬間までのタイムラグが成否を分ける。こちらが遅れているのに既存勢力の構造体の能力を向うが過大評価している間になんとか追いつけなければアウト。分の悪い賭だ。その上向こうにはジョーカーを創りだせるカードをとられてしまった。こっちには切り札がもう3枚残っているだけ。そのうちの1枚は
もう使えない切り札だ。残り2枚、1枚でも奪われたらその瞬間敵としてジョーカー諸とも消し飛ばさなければこちらの負けだ。だがそのボタンを誰が押せる?


「発見した連中はどう処理している。」
「消せば向こうに知れる。当たり障りなく部署移動をして本部から引き離している。」
「巣を作ってそこに追い込んでいるのか?だがそろそろそれも限界か。」
「ここから先は中枢部だ。下手に動けば暴発を誘導する。」


絞り込みができても、手を出せない。事の性格上、上司への報告すらも躊躇われる程なのだ。彼等の上司が首謀者かも知れないではないか。記憶誘導、洗脳と言う手段は人としての組織の切り崩しにはこれ以上の手段はない。自分自身にすら自身が持てない今日ただ今、この自分の意志が自分自身の物であると誰が保証できるといのか。


「とにかく我々は最初の指示通り動く。全ての情報を暗号化圧縮して加持に送れ。」
「わかった。加持と連絡がつかなくても手が回っていない所はカバーに入らんとな。」
「無論だ。だが・・・もう少し手が欲しいな。」
「たっぷり人手があった事など一度も無いさ。」






2020-01-22  午後15:00


「腕を出して。」


明日香が腕を差し出すと細い注射針が血管に射し込まれた。それが引き抜かれて2秒としないうちに身体に震えが走った。腰の裏の脊椎から上に向かってボッとした熱さが走り抜けるのと同時に、体内の血液の温度が上がったようだ。続けて数本の注射が
投与され、その度に怖気のような物が身体の中を駆け回る。素肌の上に貫頭衣のような白衣を被っただけの姿にもかかわず、身体中から汗が噴きだしてきた。身体中に繋がれた測定機器の針は一斉に振れた。ゆっくりと腰掛けた椅子から伸びた赤いレシーバーを頭に取り付けると、正面に据わった白衣の女性の声スピーカーからではなく、頭の中に直切響いた。高いキーンとした音と低いボーと言う二つの音が頭に中に聞こえている。


「その二つの音をハミングさせて頂戴。やり方はあなた自身で試して把握して。」
「頭に中の二つの音を合わせて行く?どう言う事?」
「説明はできないわ。人各々だから。でも能力はあなたには備わっているはず。」


はずといわれても・・・そう思いながら舌打ちするような気分になった途端高い音が下がって低い音が上がった。


『ん?』


疑問に思った途端再び変調する。だが意識的にやっても変わらない。二つの音を意識に取り込みつつ意識から消すような感じ・・・取り込んで溶け込まして、自分自身の一部にしてしまうような感覚に近い。30分も格闘しているとかなり自在に操れるよう
になった。そこから音が3つに増えた。それも同様に取り込めるようになる。実験が終了する頃には198の音階が操れるようになっていた。感覚が研ぎ済まされたようになっているのを感じる。


(音階が200近くもあるなんて思ったことなかったな。)


そう思った途端、実験者の白衣の女性がモニターの向う側で面白そうに微笑んだ。


『すごいわね。こっちには全く同じ音にしか聞こえてないのよ。ただサイクルを変えているだけなんですもの。今日が初めてなのにたいしたもんだわ。』
『さすがは明日香ですね。』
『そうね。司令もさぞお喜びになる事でしょう。神経系とのハーモナイズは既に万全だということね。予測通りの完全な結果だわ。』
「あ、あのっ・・・」


少女はその2人の会話に割り込んだ。


「さすがは明日香とか言われても、私は何もやった事がある訳ではないし。」
『ああ、そうね。あなたはまだ何も知らなかったわね。』
『その時がくればわかるわ。あなたの中にどれほどの力が眠っている事か。』
「眠っている、力?」
『今日はそれだけでいいわ。家にお帰りなさい。』


モニターはそう言うと、切れた。ドアが開いて看護士が入ってきた身体身張り付いていた端子が次々と引き抜かれ、残っていた誘導ゼリーも綺麗に拭き取られた。立ち上がった途端に身体が震え出した。いつも男に抱かれた後に襲われる、あの酷い欲情と同様の震えだった。思わず肩を抱いて白衣姿のまま、狼狽えたように周囲を見回した。
男が薄い笑いを浮かべて部屋の角にもたれて立っていた。


「お、叔父様・・・」
「どうした。いつもより少し激しいとは思うが慣れた疼きだろう。」





2020-01-22 午後1時


シンジとアスカは隣町の自動車教習所にやってきていた。


「なにこれ、たかが自動車の運転を習うのに何故こんなにお金が掛かるのよ!」
「僕に怒らないでよ。」
「ねえ、他に行ってみましょうよ。もっと安いかも知れないよ。」


アスカが腕を引っ張る。だが、シンジは溜息をついてアスカに説明した。


「こういう教習所の価格は決まってるんだ。一定の価格にしないと過重労働や、古い整備不良の車を使うかも知れないから、基準を公に決めているんだよ。」
「なにそれ。それって何の努力もしない教習所程儲かるって事じゃ無い!」
「しかたないよ。日本では何ごとも一緒がいいてことになってるんだ。」
「じゃあなに、あんたは一定の能力を持った子供がうまれないと不公平だからって、女の子をくじ引きで引いて結婚相手をきめる制度でも納得するって分け?」
「そういう制度だったらアスカに割り当てられなくても良かったのにね。」


珍しくギャグを言ったシンジは、ぶっ飛ばされて瞬時に口を塞がれた。天空がぐるぐると回っている。天国がすぐ身近に感じられるシンジであった。


「何ですってエエエッ!もう一遍言って御覧なさいよっ!」


身体を重ねて以来、アスカはすっかり前のアスカに戻ったような気がする。ミサトに言わせると、まあ、色々我慢してるからって事らしいんだけれど。良く分からない。
シンジは何とか立ち上がるとパンフレットを手にとった。普通免許取得コースは、全部で2780クレジット。馬鹿にできない金額だ。


「今日から早速受講できるんですか。」
「先に座学を2時間受ければ後はゆっくりいつでもできます。」
「めんどうねえ。あたしとにかく2時間の講習受けちゃうわ。」


その後実技は2時間。アスカは張り切って車に乗り、御機嫌で空ぶかしをしている。
さっそうと乗り回しはじめた彼女を見届けシンジは笑いながら教習所をあとにした。
今日の晩御飯の買い出しの為だった。

アスカはそれきり姿を消した。

必死の捜索も全く無駄に終った。それも何時もの事だった。







2020-01-25 10:20am 旧戦略作戦部作戦参謀部室。


またも繰り替えされたロスト。諜報保安部は詫びの換わりにテープを提出してきた。
それは紛れも無く明日香の声が録音されたテープ。アスカが無惨に性的蹂躙を受けている証拠だった。
もぐもぐとした男の声に続くアスカの声。

「お、お願いッ! つら、貫いて下さいっ! ああ、もう、これ以上焦らされたら死んじゃうッ!」

切羽詰まった、気も狂わんばかりの懇願。
焦らし尽くされてもう全ての誇りを投げ棄てた叫びだ。

「ぐっ、ぐううっ、あくぅ。」
「お、お願い・・・はや・・く。お願い、早く与えてっ。」
「あっ、あふうっ、あふっ。・・・気が、狂うっ。狂っちゃうッ!」


身体を打ち付けあう音、淫微な体液の飛び散る音が混じる中、次第に追い上げられて行くアスカの激しい息遣いと悲鳴。そして絶頂を迎え、全てを失う絶叫。


「あっ、あはああーーっ、もっと、はやく・・・早く入れてえっ。」
「あ、あはあああっ!きゃあああぁぁぁぁーっ!ぎゃああああぁぁぁぁぁーっ!」


絶望のうめきと歓喜が混じる、どうしようもなく哀しい吐息が続く・・・


「ああ・・・はぁ・・・」「ううっ・・・うううっ。」


暫く聞いていたミサトは、激昂して再生装置を机を叩き付けた。


「何よ、これはっ! こんな物を提出してきてどうしようと言うのっ。」


「とある敵の隠れ家とおぼしき施設の盗聴記録をやっと回収できた物です。アスカ嬢である可能性が非常に高いと確認できれば、そこを押さえる根拠になります。声紋も一致しました。言うまでも無く今の我々は同時多数の攻撃をかける余裕が無い。これ
で目標とすべき施設が絞られた訳です。」
「だから、見捨てるままにしたと言うの。あの子はまだ高校生なのよっ。」
「重々承知しておりますが、そこはあなたも御理解いただけるはず。蛇の道は、」
「蛇と言う訳ッ!」


パシッと言う音が部屋に響いた。


「ご・・・ごめんなさい。」
「いえ。心中お察し致します。」







2020-01-22 午後18:30


ハーモナイズ試験が終った直後に場面は戻る。

試験直後、明日香はどうしようもないほどに、火照り昂っている躯に気づいた。目の前がぐるっと回ったかと思うと、男に向かって駆け寄ろうとしている足に、情けない程呆気無く淫液が伝った。そればかりかぽたぽたと床に垂れたものまであった。


「あっ・・・」


余りの事に明日香はしゃがみ込む。膝が諤々と笑っている。男は歩み寄ると明日香の両膝に手を差し入れ、脇にも手を通して少女を抱え上げた。


「正気に戻るまで今日は抱いていてやろう。」


明日香は切ない息を荒く吐きながら、こくこくと頷いた。いつもとは桁が違う。純粋な薬物が直接静脈に投与されたのだ。その疼きたるや、常態で耐えられる物ではない。
初めて会う人達ばかりの場所で、余りにも情けない色情に狂った姿を見せられない。
必死に奥歯を噛み締める。だが殆どのメンバーは明日香の痴態など見なれているのだ。


「ぐっ、ぐううっ、あくぅ。」


身体中を火炎が巡る。そのまま廊下に出るとがらんとしたベッド以外何も無い部屋に連れ込まれた。ベッドの上に投げ出された瞬間、その衝撃で絶頂に達してしまった。


「どうした。今日は随分昂っているようだな。」
「お、叔父様・・・」
「何だ。言いたい事があるなら早く言え。」


奥歯が震えたようにカチカチと鳴った。これほど男の精を欲した事はかつて無かった。
娼婦としてでは無く、一匹の獣になっているのが分かる。愛しい少年の影も、Fに植え付けられた男への恐怖も瞬時に消えてしまっていた。
堪えきれずにベッドから転がり落ちた。男の足に縋り付き、涙を流して叫んでいた。


「お、お願い・・・はや・・く。お願い、早く与えてくださいっ。」
「そんなに欲しいか。うん?これが2番目の契約だ。お前が、私を絶対に裏切らない、いや、裏切れ無くするためのな・・・」


背筋から胸から、全身から汗が噴き出している。足が諤々と痙攣して、腰が勝手に蠢く。数秒を経ずして、そのうずきが脊髄を駆け上がって脳を貫くような衝撃が叫び声を上げさせる。


「お、お願いッ! つら、貫いて下さいっ! ああ、もう、これ以上焦らされたら死んじゃうッ!」


立ち上がろうとした瞬間、何か熱い塊がブシュッと音を立てて自分の中から噴き出したのが分かった。「ひっ!」身体の内容の一部が熔解し、噴き出したかと思った。四つん這いになったまま身体を震わせてその衝撃に耐える。白衣が乱れるに任せ、男の股間に夢中で顔を埋め、尻を抱きしめ乍ら、口でファスナーを降ろす。両手がベルトとホックを外す。荒れきった呼吸が男のモノに吹き付けられ、下着の上から固くなった男の幹をさらに甘嚼みする。見る見るうちに男の下着が唾液と涎でびしょびしょに濡れそぼる。


「あっ、あふうっ、あふっ。・・・気が、狂うっ。狂っちゃうッ!」


男自身の匂いに脳がジンと酔ったようになり、後頭部が痺れる。だらしなく顔が緩んで両手がモノを抱えるようにしてむき出しにすると、自分自身の喉の奥まで、えずき乍ら突き立てしゃぶりはじめる。片手が白衣をびりびりと裂いて男に目に白い躰を惜し気も無く曝す。ひっきりなしに擦りあわされる大腿部はもう恥さらしにぐちゃぐちゃに濡れそぼっている。喉の奥まで男を受け入れてそれでもみあげ乍ら、乳首と淫部を自分の、淫液に塗れた両手の指でいじくり回し続けている。その様は既に色情に狂った雌そのものであった。


「あっ、あはああーーっ、もっと、はやく・・・早く入れてえっ。」


のたうち、まだ少女らしい線が残る腰を打ち振る度、淫液が飛び散る。服従を誓いひたすら男を求める。壁の中に埋め込まれた電子センサーが明日香の反応を全て記録している事を彼女は知らなかった。これもまた、男の組織が必要とする重要な試験であるということを。脳の深層にまで打ち込まれる服従と隷属のキーとなる物である事を。

男の上に打ち跨がらされたアスカは、必死で腰を淫らにうち振る。快楽と忘却、狂気のような陰火が燃え上がって全身を包んでいた。絶頂に到達する度に強烈な電磁パルスが脳に撃ち込まれて行く。隷属の証、明日香は傀儡となる。男の怒張が、強烈な淫楽と共に衝撃と、自らの高い叫び声と一緒に身体を貫き通して行く。激しく頭を振り、腰をわななかさせる。汗と叫び、涙と涎、淫水と発情した体臭が辺りに飛び散る。契約の証としての快楽の引き換えに。明日香の絶叫。


「あ、あはあああっ!きゃあああぁぁぁぁーっ!ぎゃああああぁぁぁぁぁーっ!」


身体中を諤々と痙攣させる。腰が幾度も幾度も快楽に跳ね上がる。泡を噴き乍ら、男の身体を太股が力一杯引き寄せ、締め上げる。膣壁がねじれたように男根に絡み付く。


「パルス打ち込み完了です。」
「ドーパミン放出コントロール異常なし。」
「いいじゃない。明日香は完全な御人形として我々の傘下に入った訳ね。後はアスカとの最終同調・・・どんな事が起るのかしらね。ふふふ。」
「先輩、明日香とアスカは、私達の持っている御人形とはちょっと違うって・・・」
「そうね・・・その辺りの違い、興味のある所だわ。」
「その為にも、正確な同調データ、欲しいですね。」
「大丈夫。明日香が落ちた以上、アスカはもう私達の手に落ちたのも同義なのよ。ここから先、ミサトに守りきれるかしらね。」


モニターには無惨に汗にまみれ、ぜいぜいと息を弾ませた明日香が、ベッドから頭を床に着かんばかりにずり落としている姿が映し出されていた。股間から流れ落ちた白濁した液体が腹と胸を伝い、首筋を経て頬と額にまで垂れて来ている。乱れた髪、焦
点の無い瞳。白い下腹はひっきりなしにびくびくと痙攣を繰り返している。

「不様ね。ああはなりたく無いものだわ。」
「わ、わたし・・・」


ああなる程愛されたい、と思ったが口には出せなかった。





2020-01-22  午後22:00 明日香の店にて


一見喫茶店のような入り口から、Fが入ってきた。


「よう。」


声をかけたが、女達は誰も応えない。明日香が彼に酷い目にあわされた事は、すでに皆に知れ渡っていた。


「あんたね・・・よく顔を出せたわね。」
「ま、待てよ。俺とあんた達の仲じゃ無いか。」
「なまじあんたに気を許していたから腹が立つのよ。セカンドにあんなことをしてここに出入りしよって言うのはどう言う神経なのよっ。」


明日香はこの店のナンバー2が使う部屋を占有している。其れ故店の関係者は彼女をセカンドと呼ぶのは、前にも話した通りだ。


「こういう事に限って大事な事は伝わらないもんなんだな。あの時、俺もセカンドも薬を噛まされちまってたって事は聞いて無いのか?俺はあのあと2日ほど虚仮猿になってしこしこやってたんだ。それでも外にふらつき出して、女の子を強姦して回らなかっただけでもほめられていいくらいなんだぜ?」
「何、そんな強力な催淫剤なの?」
「ああ、中和剤を入手した時にはもう腎虚で死ぬ一歩手前で、色っぽい閻魔の娘が股を開いて、おいでおいでしてたんだぜ。」


女達はやっと納得がいった。


「それでわかったよ。明日香は病院で急性薬物中毒もあったんで腎臓、肝臓の透析までしたんだよ。」
「肝透析まで! 明日香もかなり強烈にやられていたようだからな。」


女達はFを取り囲んだ。


「な、何だ・・・怖いな。」
「あんたがセカンドにやった事をチャラにはできないよ。ちゃんと落とし前はつけてくれるんだろうね。商売ができなくなる程したんだ。安くは無いのは分かってるね。」
「わ、わかってるさ。ここの暮らしも長い。」


・・・Fは溜息をついた。やれやれ、こいつらとの約束じゃバッくれる訳にもいかんな。あいつとの約束を破って浮気をしちまった付けかぁ?まあ、どうせならあのくらい可愛い娘でよかった。これが人3化け7じゃあ救われん。ま、近親相姦みたいで後味が悪いんだがなあ。


カン!と額をスプーンで叩かれた。


「痛えよ。」
「今、ろくでも無い事考えてただろ! 全く男ってのは。」


・・・どうして女ってのはこう勘がいいんだ!

 

 

 

 

 

As.-treat me nice- 22『糸巻き戦車のゴムが巻かれはじめる』2020-06-10