As.−Treat me nice

『Parlor boarder』

komedokoro


 

 

 

 

 

2019-12-31 18:57pm 第3新東京シティ/車中


「まさかいきなり撃って来るとは思わなかったな。野蛮な女だ。」
「でも凄いですねFさん。あんな距離から拳銃に正確に当てるなんて。」
「昔とった杵柄というやつだろうな。一度習った事はなかなか忘れないというからね。40mちょっとといった所だが、 銃の性能が格段に上がっている事にも大分助けられているな。」


赤いマントコートの少女は、まだ呼吸を弾ませたまま言い、男は答えた。
だが男が言うように手振れの自動補正やら火薬の改良による初速のUP、工作精度の飛躍的向上*と言う事を差し引いても、超一流と言っていい腕前であるのは確かだ。(*セカンドインパクト以後自衛が常識となった世界では正規ヤミを問わず、拳銃などの小火器は飛ぶように売れた為、新製品の開発や改良が一気に進んだ。)

Fは一見さえない中年の男なのだが、射撃の腕といい、身のこなしといい、その辺の警官やヤクザなど、及びも付かない腕前だった。


「昔そんな事をやってたんだとすれば刑事さんだったとか。」
「さあ? 逆に殺し屋でもやっていたのかも知れんな。どちらにしろまともな人間であったとは思えないね。まあ、あんたには色々借りもあるからな、早めに借りは済ませておかないと。」


男は薄く笑った。借りがあると言って、実際そんな事を欠片程も思ってはいない。
幾ら知り合いのかわいこちゃんに頼まれたとは言え、黙ってドプ掃除をするはめになるのはまっぴらだった。そうで無ければサードインパクト以後、記憶を失ったままの人間が生きて来れる訳は無い。


「あの・・・約束通り何処かで休んで行きましょうよ。出来たら他所の街のホテルがいいから。」
「ああ・・・そうさせてもらおう。しかしおまえさんも辛い事だな。そうまでしても会いたかった男の見返りにとは・・・。」

男の、その台詞を悲鳴をあげるような勢いで遮って女は叫んだ。膝の上で握りしめた拳が震えている。


「言わないで。お金であなたを動かすならとんでもない金が必要なんでしょ。そのくらいのこと、あたしだって知ってる。あたしの持っている物で、一番価値のある物を差し出すのはしかたないことだわ。同情なんてまっぴらよ。」
「そうだな・・・ビジネスライクにいこう。お互い知って欲しくない事だけは山のように持っている身だ。ま、今夜はあんたに楽しませてもらうさ。」


そういうとFは自嘲的な笑いを浮かべた。
それは明日香の方にしても同じ事だった。


「何だ・・・その荷物は。」


ふと男はコンビニの袋に目を止めて尋ねた。外側が紙、内側がポリのなんの変哲も
無い袋だ。


「お醤油と味醂と屠蘇散・・・オードトワレとヘヤリキッド。」
「変な買い物だな。いや、家庭的な買い物と言うべきか。」


明日香はリキッドの蓋をくるくると外すと指先を押してけて匂いを嗅いだ。
シンジの匂い。そう思っただけで身体が熱くなる。


「ふう・・・。」


しっかり蓋を閉じると、ポリ袋の中にしまいこんだ。




通り過ぎた2人のタクシーをある角から追尾しはじめた空タクシーがあった。
空タクシーは2、3kmごとに次々交代しながらごく自然な様子で、前を走る車を追跡して行く。タクシーに付いた事故防止の為の距離センサーと視覚センサーは、交通管理センターのパトロールカーと比べても遜色ないものだった。加えて、首都全体の車の流れを監視し一括管理するのは、いまや民間に転用の進んだMAGIシステムあってのモノだった。Fと明日香が滑り込んだホテルには、ものの10分もしないうちに組織の手の者が到着していた。そのホテルの防犯管理集中システムはあっという間にハッキングされ、空調と防犯モニター等のある総合管理室が乗っ取られた。そこに入り込んだ男達の顔に野卑な薄笑いが浮んでいる。


「ガス準備よし。」
「OK。次の『調整』までは少し間がある。その間はこれでお灸を据えてやろう。人形が余り勝手をされては困るんだよ。」
「室内ガス濃度、規定量です。」
「死にかけた爺さんが立ち上がってひ孫を強姦するような興奮剤だ。どうかな。」


モニターに、淫靡で陰惨な光景が写し出されはじめた。かなり音量を絞ってあるにもかかわらず、女の血を吐くような悲鳴や絶叫が響きはじめる。
男のリミッタ−が弾けるとどうなるか。それはもうSEXと言える代物ではなかった。暴行そのもの。それどころか際限なくエスカレートして行くようであった。


「こ、こりゃあ、ひどい・・・死んじまわないといいが・・・」
「う・・・げっ。よくもあんなことを。」
「見ていて余り気持ちの良いもんじゃ無いな。えらい仕事を引き受けちまった。」









2020-01-01   01:50  シンジ達のマンション


「なんかまだ頭がふらふらする。」
「もう大体済んだから、アスカはこたつに入っていなよ。」


屠蘇散を味醂に漬けながらシンジはアスカに声をかけた。
カウンターのこちら側では、レイが出来上がった料理を、シンジの指示通りお重に詰めている。黒豆、田作り、鬼がら海老、松葉銀杏、栗金団、カズノコ、伊達巻、蒲鉾、錦卵、出し巻き卵。2の重は塩車海老、牛肉のごぼう巻き、柿巻、筆生姜、ローストビーフ、昆布巻。3の重は筑前煮、筋子、五色なます、蕪菊花・・etc.
更に別建てで用意されているのがマグロと鰤、鮹の刺身と苺、羊羹、いくら・・・お雑煮の準備も万端だ。冷蔵庫には西瓜までつまっている。


「碇君、此の煮物に入っている、鱗の付いたたまねぎみたいなのはなに?」
「ああ、それは百合根だよ。ユリの球根。」


シンジはアスカをこたつに入れて横にしながらレイの質問にも答える。
そうしながら、また、


「怖くないように今日は一緒に寝てあげるからね。」
「ありがと・・・シンジ。」


などと言う会話も小声で交されている。


「食べられるの?それとも飾り?」


レイが不思議そうな顔をしている。よほど百合根が気になったのだろう。


「つまみ食いして御覧。うす甘くて美味しいよ。お砂糖で練ってお菓子にする事もあるくらいなんだ。」
「シンジ、あたしも食べたいな。」
「うふふ、アスカは食いしん坊だね。」
「ちがうわよ。ちょっと興味があるだけよ。」


柳眉を逆立てかけた所に薄切りにした物をレイが運んで来てくれた。仰向けのまま口の中に入れてもらってもぐもぐしている。薄い甘味がある。僅かに苦味が残る。


「うん、悪くないわね・・・。」
「だろ? 煮物はみんな同じ味になっちゃうからね、少し味が変わった物を入れてみたんだ。」
「シンジが・・・作ってくれたから、かな。」


アスカは、「貧血で倒れた」事などすっかり忘れて、にっこり微笑んだ。







2002-01-01  06:40 am 明日香の街の入り口


明日香はホテルに入った後、明け方近く、ようやく街に戻って来た。


街の入り口にFは車を停めた。その中で降り際に再び挑まれた。ショーツを剥がされ、人目も構わずに後ろから突きまくられた。人の目を感じると獣以下の扱いにもかかわらず明日香の身体は喜びに打ち震えた。Fの最後の迸りを吸い上げ、明日香自身、何もかも忘れ高い叫び声を上げ、恥も外聞もなくもっと注いでくれるよう男に求めた。それが煩かったのか、Fは剥ぎ取ったショーツを女の口に乱暴に突き入れた。苦痛か喜びか、ドアに縋るように激しく肩で息をする痴態を曝け出す。男は少女に加えた最後の陵辱に満足するとドアを開け、ゴミのように明日香を突き落とした。車は泥飛沫を上げて走り去った。


めくり上げられたままの赤いマントコートと清楚な柄のスカートの裾に、溶けかけた雪が泥染みになって広がっていく。口の中に突っ込まれたショーツを吐き出し、ポケットに入れる。むき出しになった白い腰と臀部を曝したまま、明日香は全身を震わせながら呼吸をし、動けないままでいるしかなかった。身体が動かない。
俯いたままの長い金髪がばさばさに乱れて地べたに広がっている。
周囲の、朝早い屑拾いや配達員が見飽きて離れて行く頃、やっと明日香は動き出した。四つん這いでポリ袋を引き寄せ、中味を確認する。割れている物は無い。

・・・よかった。

立ち上がろうとすると音を立てて膣口が開いた。股間を満たしていた精液が溢れ出してくる。ポケットからショーツを掴み出し、ごしごしと抉るように拭うと、そのまま道ばたに棄てた。
青い瞳には焦点が無かった。他人の目にどう映っているかも意識に無い。スカートとコートを膝まで引き降ろし、やっと、という様で歩き出した。もう2度と脚が閉じれなくなるのではと思う程の激痛があった。その痛みが明日香の意識を少しずつ戻らせた。
膣の中もアヌスも裂けているのかもしれないと少女は思った。血の伝わる感触。
ほんの数分の道を数十分かけて歩いた。壊れた人形のように。
何もかも奪われ、全てをしゃぶり尽くされて。
自宅のある古い市民住宅の階段を登る為に、何回も脚を踏み外し数段転げ落ちた。
他人が見たらひどく酔っぱらっているように思えたかも知れない。



シンジの家の住所は前から知っていた。


もともと最初はシンジの部屋の窓を、外から眺めていたいと思っていただけだったのだ。双眼鏡を持って遠くから眺めていよう。もしかしてシンジが顔を出せばいいなと思っていた。

けれど・・・明日香は思った。

その窓の灯りをみている自分を、客観的に考えているうちに、次第に堪らない気分になって来た。シンジに会えない時間が長くなればなる程、日々、次第に追い詰められた気持ちになってしまったのだった。

そこでもうひとつの計画を立てた。万が一シンジが出てくるような事があったら少しだけでもいい。話がしたい。偶然を装って。その時明日香はもう遠くからではなくて、マンションの前に立って窓を見上げている自分を想像していた。

その考えはエスカレートして、さらにシンジに抱きしめてもらったり優しい言葉をかけてもらいたいと言う要求に育った。ちょっとそこまででいい・・・並んで歩いてみたい。ほんの・・・その角まででいいから。

・・・その為にはどうしたらいいだろうか。そうだ、惣流アスカと自分が何処かで入れ替わってしまえばいいのだ。染めた髪を元の金髪に戻し黒のコンタクトレンズを取ってしまえば誰に見分けがつくというのだろう。

・・・そうなった時の姿を知っているのは店のオーナーと叔父様だけだもの。
誰に気づかれる怖れもないわ。そう・・・シンジでさえ見分けは付かないはず。


その時間を少しでも長くする為には仲間が必要だった。惣流アスカがやって来れば、全てはぶちこわしになる。誰かにその間、アスカを押さえていてもらう必要がある。
屈強な護衛を黙らせる必要がある。そこで選んだのがFであった。
Fの要求は噂で知っていた。金だけではない。求める物がそれほど欲しい物なのか、もう一度考えさせる為もあって、Fはそういう苛烈な要求を課すのだという。

Fの女の抱き方は酷薄なものだった。完全に、とことんまでモノとして扱われた。
そう。自分が金で買われた人形なのだと言う事を、いやと言う程思い知らされた。

部屋のドアを開けようとした。鍵がぶるぶると震え、穴に刺さらない。両手を揃えてやっとの思いで差し込んだ。そんな些細な事にも、自分がついさっきまでされて来た事がだぶって四肢の先にまで震えが走る。息を荒げながらドアを開け、奥腿まであるロングブーツのチャックを引き降ろす。青白い奥腿は、思った通り血と愛液にまみれていた。その自分の行為が刺激となり再び性感を激しく揺さぶられる。精一杯可愛い格好をして出かけただけに、痛々しい様子に輪がかかって見える。
明日香の身体中が火を噴きそうなまでに昂っている。欲情がおさまらないのだ。


普段のFの温和さとはまるで違う、荒々しく、残忍な抱き方に苛(さいな)まれた。
どうしたら人間をここまで自分の思うままに扱えるのだろう。全ての羞恥心と誇りと正気を、粉々になるまで打ち砕かれ奪い取られた。正気を失い、狂気に至るまでいたぶられ続けた。情けないとか、悔しいとかいう気持ちさえ残っていない。精神も肉体も完全に制圧されきり、男に隷属し、どんなにはしたない事でも、嬉し涙を浮かべて額(ぬか)づき受け入れてしまった。屈従を強いられたのではない。神経の一本一本が、細胞の一個一個が、奴隷のような扱いを歓喜と共に受け入れてしまったのだ。
Fにとって明日香は、未経験な生娘となんら変わらなかったらしい。加えて明日香の躯体の鋭敏な感覚と、どんな責めも受け入れてしまう生まれながら媚体が、この場合は裏目に出た。愛撫ではなくそれはまさに調教と暴力と言っていいような物だった。
普通の娘であれば、とうに気を失ってしまうような仕打ちを、嬉々として快楽として飲み込みなお媚態を示す、白く柔軟な匂い立つ躯体が明日香自身を裏切ったのだ。


部屋のベッドに仰向けに転がり、いまだひくひくと反応を繰り返す、明日香の細身の身体。悦楽を拒否できないように訓練された、あさましい肢体。


・・・・立ち上る濃厚な淫靡な性の香りが、脱ぎ捨てられた真っ赤なマントコートやアンゴラのゆったりとした純白のタートルネックセーターに染込んでいく。
できるだけ、できるだけ可愛らしく少年の目に映るようにと、それだけを考えて用意した服にも。濃灰のチェックのミニスカートにも、柔らかなミトンの手袋にも。
そんなもの全てに・・・染み込んでいってしまう・・・わくわくしながらつけた、愛らしい、明るい赤のリップは男に舐めとられ、最上等のインナーはスペルマにまみれ、可憐なショーツは道ばたに叩き付けられた。
もう何も、どこにも残っていはしない。


金色の髪の間から見える青い目は、無表情なまま、ぼんやりと天井を眺めていた。
・・・と、明日香の唇から嗚咽が漏れる。


「くっ。」


その嗚咽は次第に激しくなっていく。
堅く目が閉じられると、止めどなく、涙が両方の目尻から流れはじめた。


「くっ、くくくっ、ぐすっ、えぐ、うっ、うううっ。」



・・・それでも、まだ。あたしは・・・シンジの事が・・・好き。
・・・よかった。まだあたしはシンジを好きだという気持ち。持ってる。
・・・まだ、手放していない。・・・まだ・・・

・・・絶対に・・・この想いだけは・・・



明日香は、大事に持っていたポリ袋を堅く抱きしめた。
踏み敷だかれた百合が震えているように見えた。








2020-01-02  02:20am 旧東京 都下 立川City


正月2日、深夜2時過ぎ。31日から不眠不休で、情報収集と基地攻略の準備を整えていた旧ネルフ本部保安諜報部のメンバーは、ミサトの指示の元、自衛隊基地を望む、国立緊急災害病院2号館、高層20階の屋上に集結していた。小さな消音エンジンが付いた巨大な翼のハンググライダーが、ステルス塗料で黒く塗りつぶされている。


「出して!」


ボッと一瞬だけエンジンが火を噴き、黒い翼が5機、ふわりと宙に浮んだ。ボボッと更に数回かなり高くまで高度を上げる。そのまま旋回し、立川の繁華街の上空でビル風の上昇気流を捕まえる。さらに数回旋回し高度を稼いだ。


「状況−−−ザ−−高度、800m−−−高度確保せり−−」
「状況。ただいまより突入開始。状況終り−−−」


翼の幅が狭まり滑るように低空に落ちると、既に基地の内部だ。地面すれすれの高度20m程を滑空して行く。目的としている将官用の新しいビルの近くで3、4mまで高度を落として身体を支えていたベルトを切り離す。ごろごろごろ・・・っと身体を丸くしたまま着地。軽くなったグライダーは再び高度を20mに上げて旋回、リモートコントロールに切り替わり、駅の方向へ飛び去って行く。
無言のまま、ミサトの元に屈強な男達が集まるミサトは位置を確認するとさっと手を振り降ろし方向を示す。先頭に定められていた男が走り出す。ビルの陰にたどり着くとその壁に張り付き、自動ライフルを構える。その男が頷くのを確認し、再び3人が走り出す。残りの一人が後方を警戒したまま暫く残り、ややあって走りだす。
無事5人は将官居住用ビルにたどり着いた。

ぷしゅっ。

微かな音がして5Fのベランダにアンカーが打ち込まれる。べたっと6Fのベランダ底部に張り付いた。自動拡張型のアンカーが、視角センサーを使って柱を取り込み、固着する。ロープが2本垂れ下がり、先頭者がロープにカラビナを噛ますと、見事なスピードで登って行く。ベランダの暗がりに潜み、ターゲットを確認する。紐が2回引かれ、ターゲットが確認されると2名を下に残し、ミサトともう一人がビルを一気によじ登っていく。ガスを封入。室内に侵入した。部屋の灯りが消えた。


「ターゲットの部屋の灯りが消えました。」


部屋の主、福生基地所属 J・メイアン大佐は、突然消えた室内灯に顔をしかめた。
福生基地は多摩地区でも更に奥まった位置にあり、調布の自衛隊に出るのにかなり不便な為、所属の違う基地ではあるが立川に居住している。この基地は本来の目的が、緊急災害時の首都機能をまかなう為の拠点として計画された為、水道、電気等を自家供給できる。その為福生にくらべると快適性は数段上であったことも理由のひとつである。もちろんワイフと子供達の要求も強かったのだ。そのかわり福生で与えられていた庭付き380平米の一戸建てという居住空間は望むべくもなかったが、週に1、
2度帰ってくるだけの彼にしてみれば、家族がそれでいいと言うなら、なんら問題は無かった。むしろ仕官クラブでの、芝刈りからやっと解放されて助かったよ・・との発言が本音であったろう。・・・ブレーカーが落ちたか?そう思って立ち上がった途端足元が揺らいだ。ガスかッ?と思った時には既に床に倒れていた。ワイフと子供達の声もしない所をみると、皆すでに気を失っているようだ。身体の大きいぶん自分が後になっただけだろう。
カーテンの後ろから2名の人影が現れ、自分の顔の前に屈み込んだ。顔に呼吸マスクを押し当てられ、暫くすると意識が清明になった。

「J・メイアン大佐ですね。いえ、エミール・F・ナ−ランド合衆国韓国総領事館所属2等武官。それとも米国防総省防諜システム部ロヨンファーバ主任と申し上げた方が宜しいかしら。」
「何を言っているのか・・・よく分からんな。」


声帯を使わずに息だけで答える。先日受けた胃カメラ検査の咽頭麻酔剤のようだ。
ドイツ語なまりの英語・・・か。


「時間が無いの、答えて頂戴ね。女子供の血を見るのは嫌だしさ。赤木リツコを知っているわね。」
「知っている。先日あるグループが運び込んで来た物を受け取った。」
「協力的じゃん、その調子で頼むわ。依頼組織名は?何処に連れて行ったの?」
「向うの組織の名はネルフJ。転送先は御殿場だった。部下に命じてゴルフ場で受け渡した。先方はやはりネルフJ。部下の話では若い女性が2名で受け取りに来たのでボルボのステーショナリーワゴンに積み換えてやったと言う事だった。」


あっけにとられる程簡単だった。秘密でもなんでも無い風だった。


「やけにあっさり白状したわね。」
「どうせ無理にでも白状させるんだろう。自白剤を使われた後の悲惨さは良く知っているからな。」
「さすがね。拷問に耐えるなんて事は馬鹿のやる事よ。行く先は何処?」
「尾行は高崎で巻かれた。そいつらは3ヶ月の減棒処分にしてやったよ。」
「いい上司よね。御殿場から高崎ねえ・・・何処へ向かったのかしら。」
「彼女達が乗っていた車は、柏崎で発見されている。」
「高崎から長岡。柏崎から・・・」
「おそらくは、長野だろうな。当初の目的地を避けよう避けようとしてそういう事になる。素人の良くやる間違いだ。」
「松本か・・・松代。」
「ネルフJという呼称が伊達では無いとすれば、しっくりくる話だな。」
「そうね、ありがとう。わるいけど記憶だけは消させて頂くわ。」
「催眠剤とバトラミドとストラか? 進歩のない事だな。」


苦笑いしてミサトは立ち上がった。プシュッと圧搾注射器の音。


「撤収するわよ。」


ベランダに潜んでいた男が立ち上がり、降下の合図を下に送った。


『−−−ザザ−−−作戦終了。』


病院の屋上で待ち受けている日向の元に連絡が入った。
合図がありしだい、『近くを運行中の某タンクローリー車が、ハンドルを切り損ねてゲートに衝突。爆発炎上、混乱に乗じて脱出よ。』というミサト好みの派手な事故と逃走劇が起る手筈になっていた。


「全く・・・こんな事をしなくても、施設内の下水路地図と病院への地下直行通路のパスが手に入っているんだから何処からでも脱出できるのに・・・」


日向は肩を竦めて溜息を付いた。実際には爆発時点より前に、偶然尋ねて来た客が事件を発見、通報により既に地下通路はシャッターが降ろされ武装兵により封鎖されていた。恐るべきミサトの天運というか、直感と言うかしか、無い。
日向は再び自己嫌悪に陥る事になる。





「お疲れさんだったな。」


奥の部屋から出て来た男が声をかけると、倒れていたメイアンは、むっくりと身体を起こした。出て来たのは東洋人だ。だらしなく背広を着崩しているが、人によってはかっこいいと言う奴もいるかも知れない。


「まあな。バトラミドとストラはいい薬なんだが、拮抗剤を前処置しておくと、全く効果が無いのが欠点だ。この辺が素人の詰めの甘い所だ。制圧ガスもSHYではなぁ。せめてOMIかVISTAFCAを使うべきだったな。指導したくてうずうずしたよ。」


シャツの袖ボタンが一個無くなっている。それが薬剤のタブレットだったようだ。


「この道35年のあんたにかかったら、誰だって素人だろうさ。いつまでもお若い事で結構ですな。まぁ俺と最初にやり合った頃と見た目は全く変わらない化け物だからな。」
「体力だってまだ若い連中には負けんさ。ふむ、本国のホタル(事務屋)どもが何か企んでいるようだが、あいつらは現実が全然見えておらん。今回は事前に将軍の耳に情報が入ったから良かったが、場合によっては合衆国全体の存亡に関わる。」
「ま、合衆国だけでは無いがね。『耳』も大忙しだな。」
「Generalからは感謝していると伝えてくれとの事だ。時機を見てまた頼む。」
「へいへい。」


くたびれた中年男は、ソファに座り込むと、さっきまで大佐が飲んでいたスコッチをグラスに注いで2杯程引っ掛けた。


「うん、これで旧交を温めあったという雰囲気が出来た。」
「なぜ、そんなしょぼくれた格好をしているんだ?」
「今のミッションにはこいつがいいのさ。それともこの形(なり)ではDIAの沽券に関わるかな?『ボス』」
「そうだな、『Parlor boarder*』」


2人は嫌な笑いを浮かべると握手を交わした。


「じゃあ、そろそろ引き上げる。」


そう言って玄関の非常ベルを押した。警報が鳴りはじめた。


『どうしましたっ!』
「J・メイアン大佐自宅に侵入者だ! 警備局に連絡しろ!救急車をまわせっ。」


インターフォンに向かって叫んでから、もういちど目を見交わした。


「じゃあな。」
「ああ。」


その途端、第1ゲートに巨大なな火柱が上がり、地響きとともに爆発音が轟いた。思わず飛び出すと、煌々と輝く炎で空が真っ赤になっている。こんな事をやらかすのはあの黒髪の、行き当たりばったり出たとこ勝負が信条のネルフの元戦略作戦部長に決まっていた。


「あの、馬鹿・・・」
「おうおう、派手に燃えとるな加持。反撃の狼煙と言うやつか?」

 

 

 

 

 

As.-trat me nice-20 Parlor boarder  2002-05-10

* Parlor boarder【特別寄宿生】この場合加持が特殊な複重諜報員である事を示す。