As.−Treat me nice

guttersnipe/crud』

komedokoro & すけっち・ぶっく


 

 

 

 

 

2019-12-31

ごみごみしたビル街の一角。先日降った雪がいじいじとビルの谷間で黒く煤けたまま、溶け残っている。連日寒い日が続いており、夜ともなると出歩く人々は少なくなる。その中で賑やかなのは、Barや風俗店が並ぶ歓楽街であった。いつの時代も、金を握った男が行く場所は同じであり、それを頂こうと手ぐすねを引く美女達が待ち構えていると言う構図は変わる事が無い。ただしこういった店にいる人々全てが望んでそこにいる者ばかりでは無いという事も、いつの世も変わらぬ事だった。
目立たないがしっかりした作りのレンガタイルの張られたビル。その12Fと13Fにその店はあった。完全会員制のその店はその筋のお兄さん除けに伊達にそう名乗っている訳では無く、本当に会員制の店だった。しかしそこにいる『おんなのこ』達のレベルが高いという事は密かに知られた事実で、その為、若いサラリーマン等も、この季節は乏しいボーナスを握りしめて何とかつてを辿って入店してみたいと願う、その道では有名な一見さんお断りの店であった。

 

その店の13F東南角の個室。そこは店のナンバー2が占める事になっている部屋だった。現在はまだ年端も行かぬ高校生ほどの若い娼婦がその部屋をつかっている。
長く細い絹のような黒髪と、芳香を放つミルク色の肌に魅せられた男達が予約を入れ続けるが、中々整理券も手にはいらない程、その少女には人気があった。名前を教えないその店では、その少女は、2号室にいる事から弐号と呼ばれていて、結構我が儘も聞いてもらえる立場を店で占めていた。

 

その少女。本名を、斐琉・明日香・ランヅフートと言った。

 

 

 

 

明日香は、ずっと待ち続けていた。少年がやって来てくれるのを、毎日、毎日。
冬休みの間は稼ぎ時だ。15日に公務員のサラリーが出て、20日から25日の間にはボーナスト給料が大抵の会社で支給される。そして25日には殆どの会社では一斉に休みが始るのが最近の通例だった。懐の豊かになった男達がつてを辿り、ここにやって来る。紹介者がいないと入れない明日香達の店も、この時期だけは夜昼なく客が引っ切り無しで、断わりきれなかった客が回されてくる事もある。ふと部屋の中を覗き見て明日香に見愡れ、どうしてもと頼んでくる客もいる。

 

この商売には、年末も正月もない。それでもこの店はオーナーがしっかりしていて入店審査もしてくれるし、しっかりと病気の検査も客に強制してくれる。店で働く「おんなのこ」達の検査も毎日行われ予防薬も支給される。傷があれば、休む事ができる。この店の「おんなのこたち」はまだ増しな扱いを受けていたと言える。だが、忙しい時期にはどうしても客の数は増える。一晩に3人。一日通せば5人は最低でもこなさなければ成らない。5人の客は明日香にとってギリギリの数だった。
それ以上をこなすと次の日は起き上がれないほど疲れる。まるで打ちのめされた様に肢体が言う事を聞かないのだ。4人目からは、完全に身体が感覚を失って、ただ感じた振りをして、早く終ってくれる事だけを祈る。それだけの男達が自分のまだ若くて白い身体を揉みしだいて汚濁を吐き出し、通り過ぎていく。

 

もし、こんな時にシンジが来てくれても、客の一人としてしか会う事ができない。
それどころか、前の客たちの匂いが残る部屋で、上気した顔で会わねばならないかも知れない。それは今の明日香に取っては死ぬほど辛い事だった。だがそれでも、会いたいと望まずにはいられなかったのだ。

 

クリスマスイブの夜。シンジが訪ねて来てくれるのを、密かに期待していた明日香。
ひょっとしたら、シンジ君といっしょに過ごせるかもしれない・・・と。
ほんの少し、少しだけ惣流さんが拗ねでもしてくれたら・・・と。

 

そう自分が願っている事に気がついた。

 

そんな、先ずあり得ないであろうシチュエーションを胸に思い描いていたのだった。
出かけていく時の顔。明日香は身にまとった華やかなコート、清楚で可憐な服装とは逆に泣きそうな目をしていた。いつもは賑やかに声をかけてくる店のお姉さん達が気の毒そうに、しんとしていた。

 

 

ばっかみたい・・・そんな事、なんで期待して待ってんのよ。
あたしのことなんか、あいつは絶対見てる訳が無いじゃない。
あいつは・・・あいつはあいつのお姫様の為に一生懸命なんだから。
あたしは、あの子の為の踏み台。練習台にしか過ぎ無いんだから。
それを、あたし自身が、そう望んだんじゃない!
時々、あっちのアスカから奪い取って、ちょっと優越感に浸りたいだけだった筈よ!

 

は!あんなぼうや。
馬鹿シンジのことなんか・・・。
馬鹿シンジ・・・。 

 

『僕なんかしょっちゅう、馬鹿シンジ馬鹿シンジ言われててさ。』

 

「シンジは気づいてない。この馬鹿シンジって言う言葉の中にどれほど惣流さんの想いが詰まっている事か・・・ずっと気が付かないままでいればいいのに。」

 

別に、豪華なドレスや高価なアクセサリーなんて無くてもいい。年相応の女の子らしい格好で、シンジ君と手をつないで、色んな店を冷やかして、どこか、ちょっと雰囲気のいいレストランで食事して。ちょっぴり、お酒なんかも飲んでみたりして。色んな話をして、二人で笑いあってみたい・・・
腕を組みながらの帰り道。少しずつ、今の時間を惜しむように無口になって、少しでも、お互いのぬくもりを感じたくて、歩みも自然に遅くなって・・・
二人で示し合わせたように寄り道した公園で、シンジ君が、あたしにそっと差し出してくれるプレゼント。
安物だけど、なんて、はにかみながら差し出されたプレゼントが夢の様で、嬉しくて、泣きたくなるほど嬉しくて、涙がこぼれるのが我慢出来なくて、それを見て、慌てるシンジ君に精一杯の笑顔を浮かべて、

 

・・・ありがとう、シンジくん。

 

そういってあたしはプレゼントを開けてみる。
なんだろうな。小さな赤い石のついたピアス? それとも趣味のいいブローチかな?
予想に反して、それは指輪だったりするの。嬉しくて、それをすぐはめてみる。
ぴったり。
今は右手にはめているけど、一人になったら、左手にはめてみよう・・・なんて、
思ったりして。そんな二人を包むように雪がさらさらと降ってきて。
何となく寄り添って、何となく二人で見つめ合って・・・くちびるが重なって。
そっと、抱きしめてくれるシンジくんの温もりに、心も、身体も、寄り添うように委ねて、二人で、雪を見つめてる。いつまでも、見つめてる・・・。

 

このままで・・・ああ・・・

 

そんな事を胸に思い描いていたかもしれない、と明日香は思う。
かなわぬ夢。・・・かなわない夢だとわかっていた。
ずっとシンジがここに来ない所を見ると惣流さんと上手くいってるに違いなかった。
・・・だとすればもうシンジはここには二度とやって来ないかも知れない。

 

あたしは淫売だもの・・・シンジは、悩みを聞いてあげてる、ただの・・・客。

 

 

年末の昼。2日ぶりに家に帰った。冷え冷えとした空気が明日香を迎えた。

 

 

・・・あたしの心みたいね。

 

6時半には、また店に出なければならない。
そっと母の部屋のドアをあける。随分やつれてしまった母の顔が見えた。薬を惜しがり、また飲まなくなっているのではないだろうか。明日の朝はまた薬の数をチェックしなくては。ジャガイモとベーコンとブロッコリーと、にんじんと、ミルク。バターを入れて本物の胡椒を混ぜる。『叔父様』が時々ボストンバッグに持たせてくれる、
日本では珍しい高級食材のお陰で、食卓は豊かだった。それを闇市で交換するか売るかするだけで月の食料が賄えるほどだったからだ。母の為にも叔父様には可愛がっていただけるようにしないと。それに、叔父様は実際いい方だし、最近では会社で接待する高級客相手の仕事も回してくれるし、夏には別荘に連れて行ってくれた事もあった。どうしてあたしを特別扱いしてくれるのかは分からないけれども、しつこくしないし、優しく扱ってくれるし、客としてこれ以上の人はいないから。
そう明日香は思っていた。

 

シンジへの気持ちは気持ちとして、「叔父様」との関係を壊す事はできなかった。
同じように、母にためにも自分が生きて行くためにも勉強をするためにも今の仕事を止める事もできなかった。同じ理由からこの貧民街の子供・・少女たちは買うお客が付く年になれば皆娼婦になる。明日香は幸せな部類だった。最初から今の店が誘ってくれたので、男が付く事も無かった。
大抵の娘は、恋人がそのままポン引きのちんぴらになり下がり、地回りの裏の男達と自分の分をピン撥ねする事に耐えて生きて行く。年頃になれば親が店に何がしかの金と引き換えに貸し出したり売り払う事もある。酷ければ道端でいきなりレイプされて
遠くへ売り飛ばされたり、薬漬けにされて売春組織に飲み込まれる娘もいる。値段も安いし、ホテル代も自分持ちだ。病気の対策も、避妊も何もしてもらえない。
男達は女を暴力と麻薬と貧困に、逃れられない自らと一緒に結び付けておく。
何度も流産し闇の医者にかかり、身体をグチャグチャに壊して子供のできない身体になる。強い麻薬に自ら手を出したり、男に打たれたりして稼ぎ続け、30過ぎには老婆のようになって救護院で死んで行く。

 

何処かの偉い議員か何かが、小学校にやって来た時の事が忘れられない。
その男は、民生委員や教師達が、この子供達に教育を受けるチャンスと継続できるだけの保護を訴えた時、その男は自分達を前にし、指をさして言い放った。

 

「汚い水を沸かせば、澱が浮くだろう。その澱をどうするって? こいつらは澱だよ。汚水の中の澱が出たんだよ! 汚水を沸かしたってしょうがないだろ。」

 

級友達は意味が分からずにぽかんとしていた。だが明日香にはその意味が分かった。
どんな手段を取っても、この町から抜け出さなければ、当然認められている権利すら与えられる事は無いのだと。もともと世界的な権利条約が結ばれた20世紀末の繁栄していた時期ですら、『国民が等しく高等教育を受ける権利』の調印を、世界中で只
2カ国、留保したのが、この日本とマダガスカルであった事も明日香は知っていた。
奨学金も、学生寮も、税的援助もなくその頃ですら平均的生活者の家庭の子弟が都市に出て、高等教育を受けようとすると収入の70%を失う国だったのだ。
それを当たり前と思ってきた国家が、今さら何かを与えてくれるはずも無かった。
まして自分はクオーターで、父親のいない私生児で、国籍すら怪しい。

 

だから明日香は高校に入ると娼婦の館に自分を売った。早熟なクオーターの身体は、15歳でも十分勤まると言われた。最初の仕事は、薬を飲んで布団で眠っている仕事だった。夜寝て、朝起きる。それだけの仕事だった。深い眠りに沈んでいる間に、自
分の身体を誰かが鑑賞し、愛撫して行く。時々身体が汚れていたり、油で光っていたりする事があったが、それだけのことだった。
半年ほど経って暫くすると、仕事の、内容が変わった。ある朝起きると、股間に痛みがあった。トイレに行くと水が赤く染まった。明日香の処女は下水に流れて行った。
相手も分からず、何の感慨もなく、多分そういう事だろうと。所詮お姫様のように夢を見る事など許されないのだ。それから毎朝、身体が汚されるようになり、起きて直ぐシャワーを浴びる習慣がついた。
明日香は自分の身体が、もうとうに変えられてしまっていた事に気づいた。胸や腰の形がどんどん変化し始め、ところどころに残っていたボーイッシュな身体の線が、街に立つ女たちと同じように曲線のみの肢体に急速に変化していった。髪は柔らかく長く女の甘い匂いが薫る。目は潤み、唇はなにかを求めるように厚みを増し。頬は薔薇色に染まり、首は長く細く優雅にうねり、乳房が丸く膨らみ、腰がゆったりとSの字を描くようになった。全身の高低の線と、はち切れんばかりの輝く大腿部が、真っ白な内ももが、幾重にも重なった曲線で構成される尻が、男を誘い、狂わせる形状へと変態していった。そうして、16歳の誕生日を迎えた。
最初の男はこの地区の警官だった。何の経験も無いはずなのに最初から絶頂に導かれた。身体が勝手に、いつの間にか成熟させられていた。だから明日香は破瓜の痛みを知らない。それがこの店の女の子の育て方だったのだ。何も分からないまま明日香は色々な形で弄ばれた。恐ろしさに泣叫びたかったが、悲鳴を上げたり逆らったりしては成らないと厳重に言い含められていた。呆然としたまま半分気を失って全ては終った。警官はこれで明日香を認知した。非合法でも何も言わなくなる。そこからが、本当の娼婦へのスタート点だった。店の教育係が半月程かけて様々な基本技術を教え込まれ、各種の変態行為(明日香にはそうとしか思えなかった)を修得させられた。
16の誕生日を過ぎた最初の正月。明けの3日に、初めて客を取らされ、教え込まれた通りに、男を愛撫し、男を舐め回し、吐き気を堪えてくわえ、媚態を示した。苦しさに堪えて、貫かれ、吐き出された汚辱を何回も受け入れた。これが初めての、それと認識した上でのセックスだった。まだ若いその男は3回も少女を存分に楽しんだ。
息も絶え絶えになってベッドに倒れ伏したままの明日香をひっくり返し、男は蔑んだ目で明日香を見、札を汗に濡れた明日香の下腹の上に投げ渡した。

 

札を数え「ありがとうございました。」と頭を下げ、自分の濡れた物と、男の迸ったものを垂らしながら、跪(ひざまず)いて礼を言った。男は汚らわしいとばかりに、返事もせずに目線もあわせなかった。「もう少し締め付けの訓練をしておけ。」と吐き捨てる様に言った。「はい、申し訳、ありません。」そう答えるしか無かった。
屈辱と恥辱を、その時初めて意識し、明日香は涙をこぼしそうになった。
だが、その涙が下まぶたの堤防を突破して明日香の腿に落ちた時、彼女は決意した。

 

この仕事を続ける限り、もう決して泣かない。その時に誓った。
そしてこの仕事をする限り全ての羞恥心は店では持たないと決意した。泣いても恥じてもこの状況を変えられないなら、生きて行くためにはこの道しか無いのだ。
涙や恥じらいは、稼ぐために使う武器。笑い声も微笑みも、甘える声も思いやりも優しさも、身体の機能の全て、自分の感情や想いの全ては、金に変えてこそ意味があるのだ。

 

・・・まだ男を知って間も無い初な娘が、自分の手の内で身体を染め、乱れて行く。
切ない気な吐息をはき、恥じらいながらも次第に自分の腰の動きに応じて、微かに、なよなよと娘の腰が自分を追いはじめ、嬌声をあげるのを必死に堪えている。明日香は自分の肢体の形状や、有効な笑い声や微笑み方、首の傾げ方や髪の垂らし方
を、上品で初々しく見える容貌や若い肢体を、十分検討し有効に活用した。見た目は17、8くらいには見えるが、中味が幼稚では客の話に付いて行けない。そう思い、経済やサイエンスや外国語の勉強もした。休みの日に勉強がしたいと言うと、そんなに可愛いんだから勉強なんかしなくていいのにと、必ずと言っていい程客達は言ったが、結局喜んで教えてくれた。
私生児の為、男性と暮らした経験のない明日香にとってそういう勉強の時間も得難い時間だった。男が喜ぶポーズや甘え方や拗ねかた。ねだったり怒ったり我が儘の言い方まで、そこで一緒に学ぶ事ができた。
愛らしいキスの仕方、目線の上げ方伏せ方、男が喜ぶ言葉や、性行為の際の悶え方、睦言。一人一人の客の癖や性の嗜好迄を微細に書き留め次の時に役立てた。
自分の名前や、この前の行為を憶えてくれている。この前みたいに膝の上で可愛がってとか、右の乳首へのキスが嬉しかった、胡座から攻められながら、首筋を舐められたのが忘れられないの、とか真っ赤に頬を染めた明日香にねだられると、殆どの男は少女を抱きしめ、全身を撫でさすらんばかりに狂喜した。
自分一人に縋ってくれる美少女と言う夢に、こんなにも多くの男達が飢えている事が恐ろしくさえ思える程、明日香のやり方は図に当たった。男達の予約に時間差を付けてたっぷりと話す事もよかった。皆、自分をさらけ出せる会話に飢えていた。明日香は、16才にして年間の売り上げで見ると、店のナンバーワンに躍り出たのだった。
しかも客一人一人の1週間以内のリピート率が殆ど100%に近かった。通う為の金を得ようと犯罪を起こしたものがいた為、2週間に一度しか、リピート予約が取れないようにして、やっと落ち着いたのだった。明日香の顧客リストには80人以上の男が並んでいた。週に20人として最低1ヶ月待たないと客は明日香と会えなかった。
店からとれる金は安定したが、一時は他の娼婦から妬まれ、店に行けない状態だった為、生活は苦しかった。店がその後、反明日香派の女の子の総入れ替えをするまで、それは続いた。そんな時自分を繰り返し店の外で買ってくれたのが『叔父様』だったのだ。母親の薬代迄出してくれた。「叔父様」の技巧は、まだ娼婦として幼い明日香を狂わせるのに十分だった。性技以外の部分で売っていた明日香は、そちらの方面では「叔父様」に全てを開発され、仕込まれたと言ってよかった。明日香は『叔父様』
の女。店はそういう位置付けと待遇を『叔父様』に与えていた。
そんな事を、全ての労苦を、忘れ去ってしまったかのように湧き上がってくるシンジへの淡い思い。一体この想いがどこから来たのだろう。意識なんかして無いはずだった。アスカを、妬ましいと、ほんの少し思っただけだった。シンジを自分のものに出来たら、ほんの少し悪戯してやろうと思っただけだったはず。住んでいる世界が違い過ぎる、純粋さ故の愚かしい男の子。純粋さゆえに残酷な女の子。あのふたりを。

 

 

 

なのに・・・

 

クリスマスイブの夜
ホテルの一室で、男は明日香に後ろを向かせると、下だけを脱がせたアスカの尻を両手で割り、その間に喘ぐものへ容赦なく挿入した。

 

「ひぐぅっ!」

 

明日香の身体は舌で奉仕させられている内に十二分に潤って、はしたなく噴き出した粘液が腿の上から始るチャコールグレーのガーターストッキングに沿って零れ落ちていた。真っ白な見事に持ち上がった尻と、張りのある腰と外腿。淫猥な香りを漂わす
しっとりとした、滑るような内腿。男の身体を深淵に吸い込んでしまうような花弁。
明日香の身体は一旦火が入ると押さえが効かないように調整されている。どこまでも燃え上がって、勝手に爆発してしまう身体なのだ。夢中になって男を喰わえこむ膣、ふしだら極まりない身体から汗が噴き出して流れ落ちる。この娼婦だらけの世界では
本気で行き、本当に感じ、淫液を流している女で無ければ商売は勤まらなかった。
明日香はどんな男に抱かれても、敏感で、繊細な反応を余す所なく示してしまう女だった。そんな天性の媚態を示す女だった。
それが男達を虜にし、時には奈落に突き落とす。

 

「あっ、あぐっ!」

 

いつものように、もう明日香の脳髄はとろけ切って何も聞こえてはいない。理性は失われ、ひたすらに男を求める淫らな雌の肢体。どんな刺激も最早彼女には快楽としてしか伝わらない。男は内ポケットから黄色い液体の詰まった小さな圧縮注射器を取り
出した。それを、内腿の脚の付け根にぎゅっと押し付けた。

 

ぱしゅっ。

 

「ひ、ひぃあっ!」

 

瞬間、目の前が渦を巻いた。快感の余り気を失ったと明日香は自分で思った。激しく悶えていた肢体がくね上がって仰け反ると、壁に沿ってずるずると床に倒れた。男は少女の固く目を閉じ、ぶるぶると細かく痙攣している身体を窓際のカーペットに打ち
捨てたまま、注射器をポケットの中に入れ、ズボンをはき直した。部屋の電話を取り上げると、「私だ、頼む。」そう声をかけた。
セミスウィートの仕切りのドアが開くと、数人の男達が半裸のままの姿を曝している明日香を隣の部屋に運び込み、全ての衣類を手際よく剥がした。そこには壁いっぱいの試験機材が並べられ、ベッドの上に横たえられた明日香に次々と器機が接続されて
行く。明日香がギリギリ入るくらいの大きな水槽が組み立てられ、そこに大量のLCLが特別な導管を伝わって流れ込んでいく。どうやらこのホテルは男の息が懸っており大掛かりな臨時の実験施設を隠し持っているようだった。

 

「準備、完了しました。MAGIシステムへの、接続パスコードコンタクト。」
「connect---successfully」
「いつもながらの・・・見事な肢体ですね。」

 

誰かがごくッと唾液を飲み下す音が聞こえた。いつでも元気いっぱいのネルフのマスコットガールの姿がだぶったのか。流れる黒髪はそのままだが、コンタクトを外し虹彩彩色が解かれると、真っ青なスカイブルーの瞳が半分閉じたまぶたの中で輝いた。
同時に黒い髪や僅かに小麦色をした肌の色も元に戻って行く。30分もしない内に赤味のかかった金の髪と、雪の様に白い肌が現れた。その美しさに男達は声を失う。

 

「諸君、観賞会はそこ迄だ。まずは初期の目的を達せねばならん。スキャンを開始してくれ。同調計測、始動。」

 

男が言うと皆は苦笑しながら実験を開始した。何をしてるんだ。まるで中学生の頃の様に女の子の身体に見とれるなんて。みなそう思った。

 

「パーソナルパターン計測開始。ASK01。201909A1試料にて設定。」
「座標軸固定・・・ウエイブ、でます。」

 

「今回の実験では波形修正の可能性に付いて計測します。その後、基本パターン波の同調、誤差修正、固定を行います。基本人格構成に大きな誤差を出さない為です。」
「波形、右方移動。インターフィーレンス線、限度越えました。」
「そのまま・・・現パーソナルパターン計測後、固定。」

 

右方移動終了。僅かな誤差が未だに埋まらない。水槽の中の少女が苦しそうに喘ぐ。
口から細かい泡が吐き出される。

 

「危険域です。反応がオーヴァーレベル。」
「もう少しよ。後2秒。」
「2・・・1・・・0」
「Ask01、ASK02・・・同調します。」
「固着・・・」
「波形、固まりました。」

 

実験は明け方迄続いた。

 

 

ふと・・目が醒めた。ベッドの上でシーツを握りしめ、倒れ伏していた。
皮膚はひえて冷たいのに、身体の芯は燻っていて、熱い。男はもういなかった。気を失った自分を、更に存分に、こころゆく迄弄んで行ったのだろうか。
起き上がる。腿にぐじゅっという微かな音。自分の中から溢れ出た物がシーツとそこにかかっていた木綿のネルシーツをぐっしょりと濡らしていた。思わずその中に指をあてがうと、スリットの中に溜っていた物が口を開けて一気に流れ出た。あわてて、そこにあったティッシュをわしずかみにして、性器に押し当てた。その僅かな刺激が火をつける。身体の中で燃え上がり、ふたたび荒れ狂うものがある。狂喜しさらなる刺激を求める淫魔の群れがいる。顔をしかめながら息と声を噛み殺す。

 

「・・・また。」

 

収まりの付かない自分の肢体が、悲鳴を上げ、悶え狂い始めている事を知っている。
いつもの事なのだ。『叔父様』に抱かれた後はいつも。
ぶーん、と静かに空調の音が聞こえる。クリスマスの朝は青く晴れていた。
贅沢な調度に囲まれた部屋。壁には品のいいエッチングが掛けられている。
鏡に、ベッドに臥せっている自分が小さく写っていた。心を、肢体が浸蝕して行く。起き上がって、店の部屋の戻るために、のろのろと下着を集め始めた。

 

 

 

 

 

再び2019-12-31 明日香の部屋。


「シンジ君・・・」

 

意識しないまま零れた言葉。

 

「シンジくん・・・シンジくん、シンジくん。」

 

両肩に手を回して、自分の身体を抱き締める。目の前に、少年の笑顔が浮ぶ。
胸に手を当てる。自分の想いに押し潰されそう。
この気持ちは、何処からやってくるのだろう。
明日香は困惑していた。自分の余りにも劇的な変化に。愛おしい、シンジが。
初めて知った、同い年の男の子の心。初めて開いた、あたしの心。

 

何となく寄り添って、何となく二人で見つめ合って・・・くちびるが重なって。
そっと、抱きしめてくれるシンジ君のぬくもりに、心も、体も、寄り添うようにゆだねて、二人で、雪を見つめてる。いつまでも、見つめてる・・・
そんな夢が、あたしを苦しめる。

 

シンジと、ずっといっしょにいたい・・・
このまま、時間が止まればいいのに・・・  そう、想っていた。甘い、夢を。

 

気難しい、気取り屋の女の子だったはず。男達は皆私をちやほやしてくれる。
娼婦であると言う事を、恥じた事は無かった。後悔した事も無かったのに。

 

・・・どうして? どうしてあたしは娼婦なのよ!
どうして、穢れない娘として、シンジの横にいられないの!
・・・どうして? 
・・・どうして? 
何故あたしは、このベッドで、男の人に汚され続けていなければならないの!

 

・・・会いたい、シンジに会いたい。

 

こんな穢された身体のままでもいい。会えた瞬間に死んでもいい。
あいつが、あたしのことを、例え侮蔑の目で見たとしても・・・

 

 

 

 

 

シンジ君に、

 

 

 

 

 

会いたいよ。

 

 

 

 

 

As.-treat me nice.-16『guttersnipe/crud』02-04-17

 

 

 

珍しく後書き

 

今回、すけっち・ぶっくさんから頂いたアスカの独白を使って、その頂いた文章とイメージからの連想で書かせて頂きました。クリスマスの夜シンジがもしかしたら自分を、尋ねて来てくれるかもしれない。そんな事は無いと思いながらも、シンジとの楽しい時間を、思い描かずにいられない明日香。2人で、降る雪を見つめていたい。夢のようなその想いは、シンジとずっといっしょにいたい・・・このまま、時間が止まればいいのに・・・只、それだけ。
どん底の深淵で蠢きながらも、娘らしい淡い夢を、だからこそ描かずにいられない明日香。そんな切ない思いを持ち続けている彼女を、さらにその思いを、暗闘に利用しようとする人間達が取り巻いて行く。そんな中で汚されながらも、なおシンジを求める明日香。だが、彼には守るべきアスカラングレーがいる。明日香の思いは、行き場が無い。

こんな切ない思いを頂いたらそのモチーフで書かずにいられませんでした。
ええ、私もLAS系の人間です。2人とも幸せになってほしいのです・・・が。  
それでは今後とも宜しくお願い申し上げます。

こめどころ