As.−Treat me nice

『篝火/pine away for love』

komedokoro


 

 

 

 

 

2019-12-26


 事故の調査はいっこうに進展しなかった。破片も漂流物もオイルの跡さえもみつからなかった。本当に爆発墜落したのかさえ確かな情報はなかった。ラッカティブ諸島上空までは目撃者がいた。そこから先は茫漠たる海洋上空の飛行である。高度は2万mを越える。どだい目撃情報が期待できる訳はなかった。それでもモルジブからでた遠洋漁船が夕暮れ時に火の玉が流れたのを目撃していた。報告からすると方向も時間も一致する。おそらくはこれが唯一の手がかりであったが、どこのレーダーサイトからもカバーしきれない空白空間で、そうも都合よく事故が起きるであろうか? それが当然の疑問であったが反証がない。米国のインド洋緊急展開艦隊が持つレーダー記録が正規の手続きを終えても提供されないなら、全ては闇の中に葬られかねなかった。
最初の2日間をミサトとシンジ、アスカは空港に詰めてすごした。関係者の中には、捜索本部の置かれたニューボンベイに飛んだ人々も多かったが、3人はむしろ日本にいた方が情報は早いという判断でエアフランス日本支社のある空港の対策本部にとどまったのだ。


27日。ミサトは2人をマンションに帰した。緊張からアスカの衰弱が激しかった。アスカはまだ頑張れると突っぱねたが、この娘の内面の繊細さを心得ているミサトはそれを許さなかった。殆ど力づくで、無人タクシーに2人で無理矢理に押し込んだ。タクシーが発進してしまうと、やっとアスカはあきらめ、大人しくなった。シンジが少女の手を握りしめると、少女はシンジの膝にコロンと横になった。そのまま2人は一言も交わさないまま冷えきった自分達の家に戻った。


居間に転がったまま、アスカは大人しくしていた。シンジが毛布をかけた時も、小さく礼を言っただけだった。部屋が温まって、シンジが食事を作っている間も、アスカは背中を向けたまま、じっとしていた。やけに小さな背中でシンジは声をかけるのが躊躇われた。
食事を盆に載せ、アスカの背中側に座った。

 

「無力よね。あたしたちって。」

 

ぽつんとアスカが呟いた。

 

「エヴァなんていう究極の力を手にしていても、オーパーツ一つが傑出していても何も変わりはしないという事なのよ。これが又国際テロルの一つだとしてその国を叩き潰す? そんなことにしか使えやしないのよね。まぁ、わかってたことだけどね。結局人間の」
「御飯。食べなよ! どんなことだって、御飯を食べなきゃ対処出来やしないよ。」
「そうね。ミサトだって、酷い顔しながら御飯だけはちゃんと食べてたわね。」
「ミサトさんは、プロの軍人だから。リツコさんが生きてるって信じてるから、もし自分の力が必要な時に飛び出していけない自分が許せないから。だから食べてる。できる所から備えるって、そういうことだよ。」

 

ピクリ、とアスカの肩が動いた。

 

「アスカは、素人の僕なんかと違って、ミサトさんと同じ正規の軍人だったんだろ。だったら、自分の身体をもっとコントロールしなくちゃだめだ。心配で食べれないなんて、だめだよ。ちゃんと食べて、栄養付けて、・・・リツコさんを待とうよ。」
「シンジ。・・・あんたってやっぱり馬鹿シンジだわ。」
「な・・・んだよ。それ。」
「この、惣流アスカが、そのくらいの事がわからないとおもってんの?」

 

がバッと起き上がって胡座をかき、シンジの持っていたお盆を勢いよくとった。
お皿を暫く睨んでから両手で持ち一気にモロヘイヤとコーンのスープを飲み干した。

 

「へへっ。」

 

照れたようにアスカが小さく笑った。シンジも顔を崩した。そしてエプロンのポケットから小さなタオルを出してアスカの口の周りを拭こうとして顔を寄せると、少女の口元をぺろりと舐めた。ぱっと顔を離して仰け反ったすれすれのところを、アスカのひら手がしなって、音を立てて通り過ぎた。

 

「っつ、ひゅうっ! うん、美味しい。へへっ! 見事なスウェーバックでした。」
「このッ! 何てことすんのよっ。」

 

ちょっと頬をバラ色にした少女は、少年を押し倒し、馬乗りになって押さえ付けた。
そして2人の顔が、少女の金色のカーテンに包まれた。

 

 

 

*****

2019-12-29 23:52 pm

 

夜はシンジとアスカは一緒のベッドで眠った。シンジはアスカがまだ精神的に不安定な事がわかっていたから、一人で泣かしたくないと言う事もあったし、また自分自身もアスカを愛しながら眠りたいという若者らしい願望も勿論あった。シンジは恐るべき克己心を発揮し、今だアスカと最後の一線を越えずに頑張っていた。それは明日香のアドバイスのせいもあったが、こんな時に付け込みたくないと言う逆の意味でまた若者らしい清廉さにこだわった為でもあった。
異性の身体が、こういう時にいかに精神を支えてくれるかはよく知られた事実だった。自分を暴走させないようにシンジは注意深く自分を押さえながら、アスカを愛撫し、強引な熱情ではなく温かな感情を与えるつもりで、冷えた身体を温めようとでもするかのようにアスカのこころと肉体に触れて行った。ゆっくり、時間をかけて。
そうされていると、アスカのこころの中の、自分が傷つく事を怖れたり、過度に防衛的になる事の反発として表れる攻撃性が影を潜める。シンジに対する愛情と感受性が高まってシンジが自分を慈しもうとしてくれているのを素直に受け入れて芯から安心して、細胞の一つ一つまでが柔らかくなっていくような気がするのだった。そうすると肉体もまた心に感応してシンジの行為を、与えてくれる安らぎを、自然に身体に浸み込んでくる優しい雨のように、受け入れる事ができた。さらには積極的に受け入れようと、口を開き手を差し上げて、シンジの与える快感に身を委ね、燃え上がる事ができるのだった。
アスカは、自分自身をを今迄にないほど開き切る事が出き、これほど安らいだ世界をシンジが与えてくれる事に深い感謝さえ憶え、感動していた。忌み嫌って、怖れさえしていたSEXという行為が、これほど自分を変えるとは思ってもいなかったからだ。少年の前では、どんなにはしたない声をあげても、涙を流しても、さらに愛撫をねだって悶えても、以前のように軽蔑されるんじゃないかと怖れたりする事無く、心も身体も、開ききる事ができるようになっていた。その行為そのものが、そうする度に、アスカの肢体の中心に太陽のような暖かさを持たらすのだった。SEXを男に奪われるという形でしか認識していなかったアスカにとってシンジとのペッティングは信じられないほどの喜びをもたらすものだった。
アスカは安らぎ、恐れずにシンジに自分が今感じている快感を告げ、自分がどういう状態にあるかを伝える。その事がシンジにもまた深い喜びをもたらす。自分が彼女に深く影響を与えていて、自分の手や舌の動きや、摺り合わせる肌にアスカが、ひとつ一つ反応してくれている事が、限り無い喜びとして男としての誇りと自信を与えてくれるから。それが嬉しく、シンジは愛する少女に、なお一層の愛情を託すのだった。その喜びが肉体の喜びより更にずっと深い事にシンジは気づき始めていた。

 

「・・・あ、あ。シンジ、あたし、いっちゃ・・う・・・ふわふわする・・・」

 

シンジがゆっくりと全身にまといつかせた温かい空気のような愛撫がアスカの肢体全てをくるんで持ち上げていた。アスカは自分が何時の間にかすっかり身にまとった物全てを脱ぎ捨てている事に気づいて恥じらった。

 

「・・シン、あたし、いつの間に裸になったの。はぁ、なんか。なにも・・・ぁ。」

 

ゆっくり、膝を寄せようとすると、その膝の内側にシンジが温かな舌を這わせた。アスカの身体がふるふると、また震える。心地よい。ただひたすら官能の海を漂う。

 

「波が・・・来るの。何処かに漂っていっちゃうみたい・・シンジ、ああ、シンジ、もっと抱きしめて・・・肌をすり寄せて・・・お願い・・・」

 

その波に揉まれている自分の全てをシンジの目が見ている。シンジに見守られていると思うだけで、身体の内部から滾々と湧き上がってくる喜びと快楽が少女の意識を奪ってしまう。
深いオーガズムの波に飲み込まれると、アスカはまるで自分がシンジの手のくぼみにたまった小さな池の中で遊んでいるような気持ちになった。そう、あたしはシンジの手で遊んでいる小さな紅い金魚なんだ・・・シンジにされるがままに転がされているのが嬉しい。そのことがアスカを涙ぐませる。涙がひとすじ流れる度にアスカの氣持ちはさらに素直になっていく。幼い日々に戻ったような思いが込み上げてくる。おもいきりシンジにしがみつき、自分を抱きしめてくれるようにねだってしまうのだった。

 

「ねぇ、ね? ぎゅっ、て抱きしめて。」
「こう?」
「うん。うーん。あぁ・・・いい気持ち。シンジの心が流れ込んでくるみたい。」

 

そんな時のアスカの涙と一緒にシンジに向けられる笑顔は、お日さまのように輝いて天上の蒼青の空のように透明に澄み切った、花のように愛らしい笑顔だった。その笑い顔にまたシンジも同じような極上の笑顔で応じるのだった。
アスカの火照った柔らかいお腹に、シンジの鋼のような固くて凛々しいものが押し当てられているのが分かる。それは大きくて鋭くて長く、シンジそのもののような強さで、火のように熱く燃えさかり、自分を蹂躙したがっているように感じられる。だが、前のように禍々しく、苦しみと痛みを与えるものとしての恐怖心は感じられなくなっていた。アスカはシンジの下着の上からそっとそれに手を押し当てた。

 

「シンジのここ・・・苦しくない? どくんどくんて、波打って、脈打ってる。」

 

「苦しいよ。でも、君を守るためだったらまだ我慢できる。アスカが本当に、僕に抱かれたくて、僕のものになりたいって思う迄、我慢してあげる。でも、そこには触らないで。堪えきれなくなっちゃいそうから。」

 

アスカはまだそれを直視する事ができない。身体が火のように燃え上がって、どんなに愛撫されても、まだ空虚な気持ちが残るのはこれを、シンジの最後のものを受け入れていないせいなのだろうか。その事がアスカに僅かな後ろめたさを感じさせる。自分がそれを受け入れたいと思う気持ち。それが多分、もうすぐ分かるだろうとは、思っているが、それ迄シンジを待たせる事が辛かった。

 

・・これを受け入れない限り、本当にシンジのものになる事はできないんだろうか。こんなに乱れて、自分の密やかな部分迄シンジの舌と唇で愛されていて、はしたない叫び声をあげてしまうことまであるのに・・・なぜ、あたしは・・・嫌だけどシンジになら、上げてもいい。我慢できるとしか思えないのか。だが、そんなアスカの悩みとは別に彼女の身体はどんどん燃え上げって行き、アスカの思考を蝕んでいく。純粋な喜びが身体の奥底から湧き上がってくる。体温が上がり、身体中からさらに汗が噴き出してきて、アスカの全身が美しく照明を照り返して輝く。
シンジはそんな全身を濡らして自分にしがみつき、愛撫を求め、喘ぎ、助けを求めるアスカを心底愛おしいと思う。この女の子をいつまでも守り続ける事に、誇りと真の喜びと、充実感を覚える。自分の、どこ迄も広がっていく様な拡大感と勇気の全ては自分に全てを預けて縋り付いている、この可憐な存在が、支えてくれていると思うのだった。願うならば、神よ、近い日々にこの女神が、その全てを、大きな喜びを持って自分に捧げてくれますように。そうシンジは祈った。
アスカの身体の奥底から、激しいエネルギーが突き上げてくる。エクスタシーの波が海鳴りのように自分の全てを飲み込む津波になって押し寄せてくる。シンジもそれに感応して、自分の全てを放つべくその情熱が滾(たぎ)りつつあった。

 

「シンジッ、ああっ、はああうっ、来る!来ちゃうようッ!」
「アスカ、開いて、もっと、もっと開いて僕を受け入れてっ。」
「はぅっ、シンジッ、あ、あ、−−−−ん! シンジィッ!」

 

シンジは、黒いブリーフを身に付けたままアスカの真っ白な柔らかな内腿を広げる。足の付け根の両方の腱が浮かび上がり、赤い柔毛と可憐な花びら、わき上る蜜泉に、シンジは自分の部分を押し当てて擦り付ける。アスカがあまりの刺激に更に叫び声をあげる。ここにこんなにも直接シンジをあてがわれたのは初めてだった。自分からも、言われた通りに大きく脚を広げて、あてがわれたシンジのものを迎えるように、押しあて、腰をうごめかす。アスカは、自分の脳髄が今まさに、煮えたぎり、蜜蝋のように、とろけて行くと感じた。それは、半分は恐怖だったかも知れないが、もう半分の歓喜の方が強かった。
アスカはシンジに固くしがみついた。

 

「ああああっ!キャウウウウウウーッ!
 抱いて! シンジ、抱きしめて! もっときつく抱きしめてえええーっ!」
「アスカアアアアッ!」

 

シンジの両脇に、アスカの足が絡み付き、激しく締め上げる。同時にシンジも少女の背骨が折れるほど抱き締める。爆発と衝撃、閃光と雷撃のようなエネルギーの交叉。シンジの黒い下着に、アスカの止めどなく流れ出す愛蜜と、シンジから迸った大量の精液が浸み込んでいく。最後に残った障壁を隔て2人の最も柔らかい部分が触れあう。2人は2本の弓のように頂点をこすり合わせ、押し付け合いながら、次の瞬間激しく抱き合って、ベッドで転げ回った。お互いの身体の中に、潜り込んで重なりあいたいと、本能が悲鳴をあげているのだ。
気を失ったようになって、絡み合ったままの2人は、深い眠りの中へ落ちていった。

 

 

 

 

***
2019-12-30 09:28 am

 

アスカは部屋の中にたった一人でいた。ミサトは空港に詰めたきりで、そこにシンジは着替えと頼まれていた端末を届けに、朝早くに出かけていったからだ。
今日は30日だから一ヶ月ぶりにネルフに出向かねばならない。毎月最終日に末梢血の採取とダミーシステムとの同調試験がある。万が一の場合に備えてエヴァとの同調は、欠かせない作業となっている。最近の同調指数は、45前後をうろうろしていた。シンジの指数も70に欠けるくらいだった。
朝、目が醒めたら、もうシンジの腕のなかで揺られていた。昨夜のような激しさではなく、静かな・・・その後、愛されながら再びまどろんでしまった事を思い出した。

 

『Silly girl , so I'm silly girl  Oh ! I'm silly girl.....』

 

シンジがニュースを聞きながら朝食を作ったラジオ。曲が流れっぱなしになっている。

 

・・・煩いわね、そんな事何度も繰り返さなくたって分かっているわよ。

 

マヤに問い合わせてみた所、今日の試験はアスカ一人だけ来ればいいという事だった。シンジとの同調調査試験は2月になってからでも別段問題ないからアスカを優先との事だった。それでシンジは一人で旧港区を埋め立てた中央国際空港に向かったのだ。身体がだるくて出かける気になれない。それでも12時には試験室にいるであろう事は分かっていた。幼い頃から躾けられた条件付けされた行動。何をさておいても最優先で受けなければならないのがこの同調性試験という物だった。
稼動できるコアが実際存在しているのかどうか知らないが、仮に無いとしてもこの実験が続けられているという事は一旦緩急あれば、EVAが出動可能になるという事の証しとなる。政治的な思惑に興味はないが、それが他国やそこの旧ネルフ支部の技術者に対して一定の圧力をかけ、政治的野望や、超科学の流失に枠をはめる事になっているという事くらいは理解できる。それがこの現在のかろうじて保たれている平和を維持するためになるなら、自分の気分の誘惑に打ち勝たねばならない。当然の事だった。

 

・・・今朝はシンジの爪の手入れをしなかったな。

 

だが、今のアスカに取っては世界平和よりも重要に思えてしまう事がある。ぼんやり朝の行動を反芻していると、そんな事を思い出してしまった。
最近はシンジの愛撫も手慣れた物で、目が醒めた時にはとっくに自分がフワフワとした幸福感の中に漂っている。温かい手のひらや頬が触れるか触れないかの、微かな、感触ともいいいがたいほど微かな空気をアスカの身体に残しながら、ゆっくりと時間の中に漂っていられる程のゆとりをもって愛撫してくれる。今朝もまたそうだったのだ。その愛撫のなかで目を醒ます事は、仄温かい湯槽の中に浮んでいるような、極上のけだるさと喜びをアスカの肢体と意識に与えてくれる。

 

・・・でも、学校が始ったら、これは、やめなくちゃ・・・毎日ぼおっと・・・

 

頭の芯のほうがいつまでも目覚めない。そのかわりに何か湯煙の中を彷徨っている様な、温室にこもった薔薇の香りを吸い込んでいる様な半覚醒の時間が、いつまでも続く。肢体の中に埋れ火を残されているような、そんな感じ。もどかしいような・・・なにか足りないような、心地よい焦れに内腿を摺り合わせる。身体を伸ばし、足の指先迄を反らし、片膝をわずかに曲げ腰を捻る。大腿部から手のひらと指で身体の側面にそって腰、胸、肩先にまで撫で上げる。何も身に付けていないままでそうやって身体を捩っていくと、自分の肢体がSの字の曲線から構成されていて、くねっているのがよく分かる。身体をそうやって何回か撫で上げ、自分の細い指が乳房の丸さや臀部の球面を確認すると、うつ伏せに転がり、シンジの枕に顔を埋め、その匂いを深く吸い込んだ。顔をあげて枕にキスをする。寝床に残っているシンジの身体の跡に、身体をくねらせ、擦り付ける。シーツを胸にかき寄せて抱き締め、そしてもう一度匂いを吸い込む。後頭部がぼんやりして、そこの皮膚感覚が鈍くなってしまったような、感触。ジーンと微かな音を立ててでもいるように身体のあちこちに、痺れが残っている。

 

・・・ばか。

 

そう思いながら熱くなった吐息をはく。

 

「ばかばかばか・・・馬鹿シンジ。」

 

なんでここにいないのよ・・・何でこんな切ない思い、恋人に、させんのよ。

 

どこからか、唇に愛しい男の子の名前が乗っていた。
自分で、自分の体温を高めてしまうような行為。
こんな肢体の状態で出かけていき、全身を隈無くチェックされるような事は、とてもできない。上気したままの頬や、過敏になり過ぎたままの身体をマヤに見られる訳にはいかない。その時迄はそう思っていた。
その時アスカはシンジの枕の横に、少年が出かけようと急いで着替えた為、脱ぎ捨てられて忘れられていた下着を見つけた。アスカは手を伸ばしてそれを握った。

 

・・・シンジの・・・下着。

 

・・黒のボクサーブリーフ。最近あいつのお気に入りの下着。動きやすくてフィット感が、とても気持ちいいらしい。昨日の夜、ずっと身に付けて耐えていた最後の障壁。確かに・・・柔らかくてよく伸びて、感触がいいな・・・。
そう、こころの中で呟いたけど、その為に手にとった訳ではなかった。

 

・・・あたしの手、震えてる。

 

思わず部屋の中を見回す。誰もいる訳なんかなかった。
ゆっくり、顔を近付けてく。
喉が、からからになったような感じ。でも、もう目が離せないの。
そして、あたしは、だめ ! だめ! という声を振り切って。
シンジのブリーフに顔を押し付けてた。
目が眩んだみたいになって、その匂いを、夢中で嗅いでる。
自分とシンジのが混じった、匂い。青臭いような、草の根のような不思議な匂い。
愛しあう度、シンジが苦しそうな声と一緒に、あそこから身体を震わせて絞り出すようにしているもの。時々、僅かにあたしの手や身体に、シーツに零れたそれが、浸み込んだ跡が触れて、冷たい時がある、シンジの・・・。
・・・これが、シンジの、精液の匂い? シンジから、迸っているものの匂い?
アタシの身体、みるみるうちに汗ばんでくる。
熱い。カラダが・・・アツイ。
これが、あいつの匂い。
アタシ、何てことしてるんだろう。なんてひどい真似してるんだろう。
お皿にこびりついたソースを、一生懸命舐めてこそぎ取ろうとしてる、お腹を空かせた野良猫みたい。四つん這いになって、シンジのパンツに顔を埋めてる・・・
だめ、だめ、だめ・・・やめて・・・こんなこと、しちゃだめだよぅ。
恥ずかしいよっ。シンジに見られたりしたら泣いちゃうよ。
ううん。それどころか、舌噛んで死んじゃった方がましっ!

 

そう思いながらあたしはどんどん泥濘にはまってく。
後頭部だけが冷たい。それは、禁忌を犯している緊張。許されない事をしてるから。

 

ブリーフを、裏返して。
シンジの匂いの一番強い所を探して顔を押し付けたまま動かした。まだ湿ったまま。片方の手が・・・ああ、勝手に身体を滑り落ちていって敏感な部分を、まるでシンジの手がするみたいに。朝、シンジが出かけていった時からずっと火照ったままだったんだ、きっと。優しく愛されたから気がつかなかったけど、身体の中は、どろどろだったんだ。それに火がついちゃったんだ。それでこんなに淫らな事ができるんだ。止めなきゃと思っているのに、自分がどんどん勝手にエスカレートして行く。片手だけではもう、焦れて気が狂ったみたいになっている自分を押さえられない。恥知らずな、自分でも全然意識していなかった欲望にひきずられて、胸が苦しくなる程に息が弾んで、熱くなっている。全身の肉体が、シンジを求めて震えてる。あたしは、もう、色情の虜になっている。恥知らずで臆面もなく肢体を揉みしだいて情けないうめき声を嬉しそうにあげている。乳房を握って、指を伸ばして先端を刺激すると、「はあうっ!」って声が出た。
切なくて切なくて、もう一方の手を・・・もう一方の手を・・・。
恥ずかしい!
でも、がまんができない。ぶるぶると足が震えて、シンジの指を、そして、そして。
わからないけど・・・わからないけど、多分、シンジそのものを、きっと本能的に女として、シンジの、きっと赤ちゃんが欲しいんだ。

 

「ああぁ・・・切ない・・・シンジィ・・・せつないよ・・ぅ。」

 

あたしは身をよじってスリットに指を当てシンジのやり方を思い浮かべながら、濡れてるそこに、ゆっくりと動かしながら指を埋めていった。
生殖、したがってるの。あたしの身体。だから・・・膣の中に、欲しいんだ。
だから、シンジの。きっと、シンジの精子が欲しいんだと思う。
つまり・・シンジの、
あの、男の子を・・・自分の、なかに。

 

自分で、その事を認めるのが、凄く抵抗があった。
おとといならば、きっとこんな事を認めなかった。
先月だったら情けなくて泣いただろう。

 

でも、いまは、わかる。あたしはもうすっかりシンジに変えられちゃったんだ。
10月頃のアスカとは、もう別の人間で、全然別の考えを持っている。
こんなふうに自分が変わった事を、嬉しいと思っている。
こんなふうに・・・している自分のことを、ケダモノみたいとは思わない。

 

あたしは・・・シンジと、したがってる。
シンジが欲しい。
シンジと、生殖行動がしたい。愛されたい。
シンジのあの熱い塊を、自分の中に受け入れたいと思ってる。
シンジに、して欲しいと思ってる。シンジに受け入れて欲しい。
シンジに、抱かれたい。

 

最後まで。本当に、すっかりシンジのものになりたいと思ってるんだ。

 

あたしはそんな事をいっぺんに思いながら、シンジのブリーフを喰わえて、もう片一方の手を、とうとう自分のスリットに伸ばして、ぐしょぐしょに濡れているそこを、さっきから自分で愛撫してしまってる。

 

一番感じる芽の所、そして谷間に沈めた指の先の。
仰向けになって、身体を思いきり反らしてく。感じ方がどんどん強くなって、全身を何回も跳ね回って、爆発しそう。悲鳴をあげて顔を仰け反らせた途端、シンジのブリーフが顔の上半分を隠した。口が自由になって喘いだ途端、あたしを繋いでいたものが、何か音を立てて切れた。強烈な快感が、肉体を稲妻みたいに引き裂いて一気に抜けていった瞬間、嗚呼、あたしはとうとう爪先と頭の後ろで殆ど半円形のブリッジの形になってあそこに指を喰わえこんだまま、真っ白になった世界を見た。

 

「はっ!−−−−ぃぃぃいいいっ!あ、はぁっ、はぁっ、はぁっ! あ、ああっ。」

 

その直後ににもう一度、もっと強く激しいものが、あたしを揺さぶって、荒々しく貫いていった。反り返ったまま、思いきり乳房を掴んで爪を立てた。

 

「あ、はっ! あくぅっ、ああはっ! な、なにぃっ、あんんん・・・っ!」

 

さらにもう一度。両手で拳を握りしめ、脚を大きく開いて腰を持ち上げて耐えた。

 

「い、やぁ、あっ、はああああっ! んんっ!」

 

ぜいぜいと息が荒れている。そこに最後の大きな波がやってきた。自分で両肩を抱きしめて固く両方の脚を絡み合わせると、ヴァギナと子宮がきゅうっと音を立てたような気がした。淫液が絞り出されて溢れ出たのがわかってしまった。もう何が、どうなっているのか分からないほど、快感があたしをもみくちゃにして、訳の分からない声を思いきり上げた。

 

「ああ、だめえっ!いやああああああっ! あ、あ、あ、ああっ!いやあああっ!」

 

あたしは、がくがくと全身を震わせ、それを止められないまま,悲鳴をあげるしかなかった。その後は、くったりとなったまま、ベッドで指一本動かせないでいた。少しでも動いたら、その瞬間、雷に打たれたみたいに悲鳴をあげて達してしまう。立て続けに5回も達した。もう立ち上がる事もできない状態になっていた。貧血を起こしたみたいに何も分からないまま、ベッドに倒れても、ずっと弓のように反り返っていたと思う。びくびくと身体は燃え上がっているままだったけど、あたしは何よりも大切な事をやっと理解できた。30分か1時間かが過ぎてやっと身体が動かせるようになり、ベッドの端に腰掛けてあたしは思った。

 

 

あたしは、とうとう、あたし自身が、シンジにどれほど抱かれたがっているのかを知った。シンジが求めるからではない。恐怖を堪えて、捧げるためにでもない。あたしが、シンジを愛しているから。シンジがあんなにもあたしに与えてくれているものを、あたしもシンジに与えたいから。喜びと歓喜を持って、シンジに抱かれたいんだ。アスカ惣流ラングレーが、碇シンジを心から愛しているから。慈しみあい、愛しあうために、与えあい、喜びあうために、シンジに抱かれたい!この想いを、誰に恥じる事無く、大きな声で伝えたいから!
ちょっと興奮気味に、あたしはそう思った。

 

そのとき、時計が鳴り始めた。ミサトがネルフを表向き退職して教職に付いた時にシンジと私の友達達が贈ってくれた、白雪姫のからくり時計。
もう11時。早く支度をしないと約束の時間に間に合わなくなってしまう。

 

やっとの思いで立ち上がった。その途端ちょっとした悪戯心が湧いた。シンジの白いランニングシャツと黒いボクサーブリーフを履いて、立ち上がってみた。姿見で確認すると、なにかとても背徳的で、いけない事をしている感じがする。いつものLYCRAのボディショーツよりずっと隠れれいる部分は多いのに不思議な気がした。私に少し大きいシンジのランニングのショルダーの部分らあたしのおっぱいが少しはみ出ていて、先っぽがシャツに突っ張っている。もう片方はお乳の半球と一緒に、反対側にはみ出して見え隠れしてる。余りの淫乱な様子にぞくぞくっと総毛立った。また腰の奥の方できゅうっと音がしたような気がした。

 

その格好は・・・ちょっと、シンジとあたしが融合したみたいだった。

 

物凄く恥ずかしかった。恥ずかしい癖にあたしは興奮して真っ赤な顔をして姿見の中で、どきどきしていた。シンジの黒いブリーフといつもの黒のチョーカーだけの姿、それにしどけなく男物の大きなランニングを淫らにまとって乳房をはみ出させてる。
凄く嫌らしかった。乳房を握りしめて指で乳首にちょっと触れてみる。電気が走って、反対の手の指が、下腹部に、シンジのパンツの中に潜り込んでいく。敏感なスイッチをいじくっていて切ない息を吐いている。そこに触れてしまい、思わず腿を摺り合わせながらしゃがみ込みそうになって。あぁ、またきゅうって、奥の方で鳴いている。その瞬間のあたしの顏っていったら。・・・あれがあたしの、女の顔・・か。唇を半ば開き、舌がのぞいてて・・・シンジがいつも可愛いって言ってくれるけど、とても嫌らしくて淫微な、火照り切ってのぼせた、みだらな顔に見えた。
スポーツブラをつけるとして、下はシンジのを借りていったら潔癖性のマヤは、嫌そうなな顔をするかしら。タンスの一番下の右隅に、2枚だけシンジのシャツとパンツが入れてある。シンジの部屋のタンスには逆にあたしの下着が2枚ずつ。その部屋で汚してしまった時の為に入れてある。これを借りよう。

 

アスカはそう思い付くと、いきなり早くネルフの試験室に早く行きたくなった。鏡に向かってにんまり笑うとバスタオルを振り回しながら浴室へ向かった。ブリーフ1枚だけの格好が、爽快に感じられた。

 

 

 

 

*****
2019-12-30- 12:40 PM

 

ネルフ本部の試験室にアスカが駆け込んだのは試験開始13:00PMの20分前だった。

 

「アスカ! ちょっと遅いわよ。試験前には30分間の安静が必要な事くらい分かってるんでしょ。」

 

マヤがちょっといらついた声を出す。リツコが遭難と聞いた時、すぐにセイシェルに飛ぼうとしたのがマヤであったが『国家重要人物渡航事前許可申請』に引っ掛かって出国できなかった。リツコは事前審査フリーのパスを今だ使える状態にしてあるらしい。マヤが技術部の主任になったのはリツコがネルフを去った後であり、既にこの種のパスの発行は認められなくなっていた。リツコの一大事に側にいけない。その事がマヤの機嫌を一層悪くしていた。

 

「ごめん! ちょっと寝坊したっ。すぐ着替えるからっ。」

 

以前のだだっ広い本部なら間に合わない所だったが今のネルフ本部ビルには、威圧的な司令室も、ターミナルドグマも必要無いから、外見上はごく普通のビルとなんら変わらない。シャワールームも更衣室も試験室の隣にくっついているし超クリーン処理も、以前の様に数十工程も必要としない。約15分間、シャワーと温風と薬液噴霧を堪えるだけですむのだ。以前はこれだけで1時間素肌のまま耐えさせていたのだから、実際、いかに『機械に人をあわせる』ことが優先されていたかが分かる。

 

更衣室で急いで服を脱ごうとしたら、プラグスーツがない。戸惑っているとピーンとチャイムが鳴り、マヤの顔が写し出された。

 

『アスカ、急で悪いんだけど今日はA10神経系の走査も同時に行うから、一切の束縛物は取り去ってほしいのよ。指輪とか、ああ、そのチョーカーとかもね。それで暫く意識も無くなると思うの。半覚半睡状態で3時間ほど脳波測定もするから・・・』

 

アスカは慌てて叫んだ。

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ。それってまさか公開制じゃないでしょうね。マヤだけが立ち会うならいいけど。青葉さんや日向さんは・・・」
『ごめんね。いつも手伝ってくれるリツコ先輩や葛城さんが不在でしょ。人手が。』
「だめよっ! だめだめだめ!ずぇーーーったいにだめ! は、半覚半睡状態では、どんな事が起きる事があるか、マヤだって知らない訳じゃないでしょっ! あ、あたしのプライバシーは、どうなるのよっ!」

 

顔を真っ赤に染めてアスカが喚き散らした。ここでもし恥ずかしい事でも口走ったらもう2度とここには顔出しできなくなる。それ以前にどんな事を言われる事か!

 

『あの2人が駄目となると、後は・・冬月司令に手伝って頂くしか無いんだけど。』

 

 

 

 

アスカの身体が何本もの細いケーブルに係留されているように、淡い蛍光緑の液体中に浮んでいる。静脈から注入された薬剤の効果でいつものアスカの喚く声はない。体温と同じ温度に調整され、比重もアスカの身体と同じ。全ての感覚も刺激もないようになった水槽。半睡半覚の状態で、種々の電気パルスがアスカの脳に直接送り込まれ、反応を取っているのだ。アスカとの約束で、青葉と日向のモニターは消されている。芳紀まさに18才の輝く美の極致とも言える肢体を、独身中年に曝す訳になんぞ行くかぁっ(アスカ談)ということで・・・。

 

「02.03モニターリセット。音声変換装置作動・・・。」
「いいのか・・・あんなに嫌がってたのに。」
「視覚確認してない時に万一の事があったら、危険なのはアスカ本人なのよ。黙っていれば分からない事は、黙っていればいい。責任は私が取りますから。」
「なんか・・・赤木さんとそっくりなもののいいようになってきたな、あいつ。」

 

スピーカーから、こぽこぽ・・・・と、細かい気泡の音が拾われて流れている。
解いた、豊かな髪がまるで黄金の海草のようにたゆたっている。白い肌は青い翳りを落とし、ニンフ(nymph)のように感じられる。水槽の底部からゆっくりと吹き上げられて、LCLがゆっくりと循環している。それに連れてアスカの身体もゆっくりと左右にローリングする。日向や青葉がアスカの裸体を見たのは彼女が中学生の頃だった。綺麗なもんだな、と言うのがその頃の感想だったが、18を迎えたアスカを直視するのはさすがに躊躇われていた。だが、これを見て2人は既に感動の域に達していた。息を飲んでひとしきり鑑賞すると、むしろすっかり冷静になって作業を開始した。
その日アスカのシンクロ率は89.57%に達した。この施設を使っての試験では最高数値の記録だった。パーソナルパターンの形がかなり変容している事が確認された。

 

『・・・・・・』
「何か喋っているみたいだよ。」
「意識波は出ていないな・・・うわ言か・・・・。」
「02、03!音声遮断!」

 

マヤが真っ赤になって叫んだ。激しい愛撫の言葉がアスカの口から発せられていた。
男と女の、睦みあう時に交わされるような、淫らでもある愛の言葉・・・

 

『ア、アスカったらッ! ふ、不潔よっ。あ、あれ? 』

 

じいっと、目を細めてモニターを見た後、特定の場所を拡大して行く。乳房の脇に、指の跡。首筋に・・・キスマーク。内腿にもはっきりと指の跡が残されている。音を立てたかと思うほどに、一気にマヤの顔が、さっと朱に染まった。

 

がたん!

 

いきなり立ち上がったマヤの顔は全面、炎のように染まっている。
先ほど迄の羞恥からではない。怒っているのだ。頭髪を逆立てて怒っているのだ。

 

「ど、どうしたっ?」

 

青葉が驚いてマヤを振り返った。
だがマヤは、真っ赤な顔をしたまま、青葉が肩においた手を邪険に振り払った。

 

 

 

 

航空機事故の手がかりは全く別の方からやって来た。
遠くマダガスカルに被災者と思われる遺体20体が打ち寄せられたのだった。
損傷が激しかったがその遺体の持ち物の中には700便のチケット半券が含まれていた。時期外れの嵐が死体を早く運ばなければ漂流物は2週間以上海洋を漂った後にならなければ到達しなかったろう。僥倖であったといわねばならないだろう。
表着地点と航路、最終確認ポイントから、墜落仮想ポイントが割り出され、その周辺の海底の調査が開始された。カールズバーグ海嶺の西南に広がる地域のあるポイントが想定され、数隻の海洋探査機と海底探査ソナーをもつ船が召集された。
程なく、回収用のビーコン波が確認された。

 

 

 

 

 

As.-treat me nice.-14/pine away for love /2002-4-5