As.−Treat me nice

『交合の午後』

komedokoro









暗がりで人の影が踊っている。
安手の遮光カーテンから光が透けてくるので、そのうねる陰影は暗がりに浮かび上がって見えるのだ。細く長い腕と優美に伸びた指先。華奢な肩と鋭く切りこんだ様な細い腰、それに連なる下腹部は大地に広がる根のように広がり筋肉が輝く張りのある大腿部へと続いている、その下腹の陰は押さえきれない息遣いと共に次第に高いうねりへと昂っていく。上半身のゆっくりとした動きとは別の生き物のように、腰だけが次第に激しい動きを増していく。密やかに漏れていた声がかすれ、喘ぎが艶のある泣き声に変わっていく。汗が身体全体に浮かびだし、睦あう男女特有の匂いが濃密に満ちていく。

 

 

笑い声が満ち、誰もが笑顔で手を振っている。花びらがしきりと舞う桜の幻影。

 

 

フラッシュバック。顔中を口にし真っ赤になって力一杯叫んでいる男の子達の顔。

 

フラッシュバック。普段大人しい娘が手を振り回し、必死になって応援している。
男の子のガクランを着て旗を振り回している金色の髪の女の子の顔がある。

 

フラッシュバック。登下校の子供達の雑踏。物音一つない構内。定期試験の日。
高い放物線を描くバスケットボール。それを追う目。激しいドリブルの応酬。
花壇。鉄棒。渡り廊下を走っていく音。中庭の芝生の緑。校庭に落ちていく夕日。
輪になって座っている、セーラー服のスカート達。鮮やかなリボン。笑い声。
寄り添っていた影が一つになって消えていく。

 

フラッシュバック。白い雲青い空、眩しく透明な日射しが差し込んでくる。
静かな午後の教室に流れるリーダーを読む優しい声。
教室の前を覆うプラタナスの並木が机に光の紋様を描く。
たなびくカーテン。教室のワックスの匂い。並んででいるロッカー。更衣室。
友人に包帯を巻いている保健室。薬品の匂い。

 

フラッシュバック。
午後の陰が動いていく。吹き抜ける風。汗臭い剣道着。山の合宿場。
一人で繰り返しグラウンドを走る陸上部員。
柔道場から人が投げ付けられる音がする。
教室で話す人陰。大きな地図、資料の積み上げられた準備室で飲むコーヒー。
花壇の整備をする人達の麦わら帽子。
壊れた部品。古いタイヤが残る自転車置き場。
部室群の前でくつろぐ部員達。台本を読む人達、チューニングの音。
イーゼルに乗せた画布に写し取っていく友人の横顔。古い木造校舎の2階角。
油絵の具と、木工のおが屑の匂い。

 

フラッシュバック。
高い空に打ち上げられる花火と、派手なブラスバンドのファンファーレ。
いつになく短い校長の訓話。紅潮した生徒達の顔と歓声。
応援団の打ち振る大応援旗が目の端を飛び去っていく。カーブでの競り合い。
長く伸ばした鉢巻のリボン。ラインマーカーの前を全力で走り抜けていく。
横を走っていた子の姿が見えなくなると目の前に真っ白なテープ。

 

そんな場面が流れ過ぎる。

 

握っていた手の平がシーツをつかみ、手繰り寄せる。まともなリズムで呼吸ができない。腰骨にかかる無骨な手。下腹の中がかき回され突き上げられる。がくがくと振り立てられるあごと頭。途切れ途切れに何か叫んでいるのを、醒めた自分が聞いている。次第次第に熱い固まりが膨れ上がっていく。

 

ああ、もっと。

 

思わず呟くと,後ろから抱え上げられ、再び男の腹の上で突き上げられる。自分にかかる自分の体重に貫抜かれると、思わず自虐的に一番敏感な場所に移って応じてしまう。髪を打ち振り、舌を突き出し、腰を男の下腹部に擦り付ける。熱いものが次々と身体の底から盛り上がり脊椎を昇っていく。腿をわしづかみにされた所から何かが流れ込んでくる。びくびくと、丸味を帯びてはいるがまだ幼さを残す腰が、男を迎え入れている喜びに振りたてられ、痙攣を繰り返している。その痛々しく見える様が男を喜ばせる。

 

・・・あ。来る。

 

熱い息を吐き、心の中での微かな悲鳴に男が気付き、無慈悲に両の乳房を握りしめ捻りあげる。膨れ上がった男の太い幹が、子宮の奥底までを擦りあげる。汗と愛液にどろどろにされてしまった身体が、僅かな光にぬらぬらと輝いて、女の全身の形を、その曲線を、そのわずかに開いたくちびるの喘ぐ様を暗がりの中に浮かび上がらせる。男の形を、下腹の中にくっきりと感じ、身体を貫くその形を意識した途端、頭の奥が痺れて爆ぜた世ような気がした。

 

どくん。

 

突然、何もかもが2重にぶれた。熱い粘液がはしたなく股間に溢れ返り膝裏にまで伝わって流れている。思わず腰をうち振ると欲しがっていたものが信じられない程の激しさでやって来た。それに翻弄され、揉まれ、悲鳴をあげ意識を攫われる。犯され、弄ばれている自分の身体は、男の思う様に操られ、いいようになぶられている。逃れられぬままに娘はとうとう込み上げてくるものに耐えられなくなった。我慢しきれない、はしたない泣き声を上げてしまう。それでもせがむように腰を揺らすのを止めることができなかった。

 

「ひぅあっ。あっ。いやぁっ。」

 

女の形が男の上で美しくアーチ型に反り返って震え、長い金色の髪が男の腹の上で渦を巻く。快感に歪んだ表情、潤んだ瞳を見ながら男は娘の左腕と右の腰骨を掴み娘が倒れ伏す事を許さない。それで、2度、3度と達した娘の深い場所が繰り返し収縮すると、その度に容赦なく男の堅い先端が子宮を抉る。その快楽に悲鳴をあげ、また女が達する事を繰り返す。それに併せ、男が腰を高く突き上げると、娘の魂は自らの快楽に巻き上げられて容易に落ちては来れないところまで吹き上げられる。何かを掴むかのように優美に突き出された右腕、のけぞった喉の微妙な線とが腰の痙攣とあわせたようにびくびくと震えた。男のものが急速に膨れ上がると、娘は足をさらにはしたなく開いて腰を深く落とし、男を少しでも股間に迎え入れようと、焦れたように懸命に腰を細かくうごめかす。溢れた粘液が男の腹にぬらぬらと性器のうごめいたままに痕跡を残す。青白い腹が息をつく度に陰影の形を変える。その内壁が男に絡み付き、搾り取ろうとする様にさらにうねうねと肉樹にまとい付く。髄が白く煙ってそのまま熔解していくような感覚。自分でも気付かぬままに細く啼き続けている事に気付く。焦らされた股間が最後の物を本能的に求め火のように熱く火照ってどろどろになっている。あまりの切なさに、恥じらいが吹き飛ぶ。

 

「んっ,はぁっ、行く・・ぅ! もういやああっ。」

 

男の陽根の形をはっきり感じるまでに娘の子宮と膣が激しい収縮を繰り返す。絡み付いてくる髪を払い除けようとするように頭を乱暴に幾度も打ち振る。堪えきれなくなった声をそれでも何とか押さえようと唇を引き結ぶ、その様子が、ちょうどピンで留められた美しい昆虫のようだ。乱れ切った、その哀れで無惨な様子が男の嗜虐心を満足させたのか。男は口を開いた。

 

「ほしいのか・・。」

 

男の声に娘の声が悲鳴のように縋り付く。

 

「・・・ほ、しぃ。はっ、ほ、しい、です。」
「では、出すぞ。」

 

男の冷静な声を耳が聞き取った瞬間、きゅうきゅうと音を立てて、膣全体が激しく収縮した。その頂きで娘は激しく達し、高い叫びをあげ子宮の中に吐き出された男の熱い迸りを吸い込む。その迸りが臓器の形を脳裏に浮かび上がらせる。
同時に男の精が娘を今までにない高みに放りあげた。白濁した粘液が、体の芯に染み込むのがはっきりと分かる。娘は狂ったように腰を、恥骨を男にこすり付けた。自分の乳房を握りしめ、乳首に爪を立てた。どんなに恥知らずなまねをしているのかもはや自覚できないのだ。あふあふと何かうわ言のようなものを呟いていた娘の形の獣が男の上に重なって崩れ落ちていった。

 

激しい火炎の様な熱い吐息が繰り返される。びくびくと震える自分の嫌らしい身体。
厭わしいかった。だが全身が喜んで転げ回って嬌声をあげているのも分かっていた。
全身の神経系を毟られてしまったように指1本動かせない。それでいて溶鉱炉の中味の様などろどろとしたものが、娘の若木のような身体の中を這い回る感触から逃れられずに吐息をはく。身体はシーツの上に長く伸びているままだ。

 

 

「何を考えていた。」
「・・・わから、ない・・・。」

 

 

震える声がかろうじて絞り出され、男の問いに答える。

 

先ほどまではすっかり女だったのに、今こうして見ればまだ少女といっても良い程の幼さの残る表情をしている。その娘はのぼせた表情で教え込まれた通り男の胸に舌を這わせている。男が柔らかな少女の溝に指を埋めると,眉間に皺を寄せて声を噛み殺す。男は再び女を裏返すと,心行くまでその乳首を転がし、内腿を撫で上げ、足の付け根を嘗め上げながら丹念に指で太股の外側から尻の付け根まで刺激していく。娘は自分の感覚点を的確に責められる度に悲鳴をあげ跳ね上がる。半泣きの声が細く部屋の中に籠る。それから指だけで幾度か娘をじっくりとなぶりあげ幾度も気をやらせた男は、自分のものを頬張らせている少女の焦れきった股を押し退けて立ち上がった。
唇を震わせる程切な気に紅潮した顔。はぁはぁと激しい息をついている娘を見下ろす。ここまで蒸し上げておいて、いつもここから先は2度と与えてはくれない事を少女は知っていた。赤味の強い金髪と潤んで縁取られた青い瞳。その瞳が再び点されてしまった肉欲の焔を哀し気に訴え男を見上げている。コーカソイドと日系混血特有の張りのあるきめの細かい白い肌が紅に燃え上がっている。そこ此所に残る愛噛みの跡。
男はもはや荒い息を隠す事もできず、蜜が零れるままになっている娘をそのままにし、シャワーを浴びる為に立ち上がった。
年の割に無駄のない逞しい身体をしている。

 

「ほら、今日はこれを持って帰れ。」

 

 

肌をさらしたまま、自分の身体に燃え上がる焔を扱いかねている少女に声をかけ、小振りのボストンバッグ女の腰の横に置く。男はこの娘が服を脱ぐ時までに時折り見せる凛とした表情と、次第に掘り起こされていく情慾にまみれ、爛れていく様子との落差が気に入っていた。特に、健気に割り切ろうとしながら、男に縋り付きたい状態まで追い詰めた最後の別れ方が、その儚気な細い肩の僅かな震えが男の嗜虐心を満足させるのだった。娘は容易に自分の意思通りに動こうとしない身体を無理に起き上がらせて中を見る。

 

 

「サンダルフォのジャム。ハーシーのチョコレートペースト、缶入りバター。100%ビーフのコンビーフ。こんなもの・・・ある所にはあるものなのね。」

 

 

そんなものがぎっしりと詰まっている。闇市で国産の安物と交換すれば五倍の量のものと交換できる。店の裏口に回れば、高いレートで買い上げてもらう事もできるだろう。少女は仰向けに再びベッドに倒れた。まだこんこんと湧き上がるもので濡れそぼったままの下半身の翳りを曝す事を恥じらう気持ちもあるのだが、この男はうつ伏せに寝るよりこの方を喜ぶのを知っていた。だから少女は我慢した。

 

 

「あんたは、どうしてこんなものを呉れるの。若い淫売なんて幾らでも街に溢れてるでしょう。あたしの値段なんてたかが知れてるのに。」
「お前に払ってる訳ではない。自分の過去の慕情への支払いといった所かもしれんな。たまには良いものを食べないと身体にも悪いぞ。」

 

 

男は白髪を掻き上げ事務的に聞こえる声で言った。そして財布から10クレジット札を五枚つかみ出して少女のまだ汗ばんだ白い腹の上に置いた。
これも相場よりだいぶ高いと言える。

 

 

「あたしの髪と目の色に何か関係があるの?」
「なぜそう思う。それだったら囲ってやった方が話が早そうだ。」

 

男は煙草に火をつけると、大きく煙りを噴き出して目を細めた。

 

「そうね。昔の恋人に似てるとかそんな話なら独占したいと思うよね。」
「そう、だからはずれだ。ただの気紛れだ。」

 

ほんの2、3口だけ煙を吐くと、男は煙草を揉み消した。

 

「でも、慕情って慕わしいと思う心の事なんでしょ。」
「今時の淫売にしては物を知っているな。もう一枚追加してやろう。昔教師をしていた事があったのでな。頭のいい子供は好きだ。」

 

そういって男は少女らしい青白さが残る腹の上に更に一枚札を置いた。

 

(「そうとも。慕情にお引き取り願うための、今の俺を補完するための支払いだ。俺は、この娘を抱き、なぶる事で過去を塗り替えたいのだ。」)

 

「あ、ありがとう。」

 

娘は札を数えると笑顔を浮かべて言った。娘が笑うと男も笑顔を僅かに見せその頭をゆっくり数回撫でた。少女は自分の足がまだ細かく震えているのを意識する。両方の足首と膝裏と柔らかな内腿に、男に押し広げられた時の手の跡が痣になって残っている。その痣を愛おし気に眺めている自分に気付いて少女はうろたえる。
今日も気が付けば髪を激しくうち振りながら嬌声を発し幾度も達していた。この人とはまだ4回目なのにすっかり自分の弱味を知られてしまった。次にはどれほどの狂態をさらけ出してしまうのだろう。こうやって私は心の奥底まですっかり淫売になっていくのだろうか。

 

でも、こうやって頭を撫でられているのはなんて気持ち良いんだろう。

 

男は金だけではなく親切さや優しさを演出する事でこの娘の心を自分に向けて開かせようとしていた。心を開く度に次第にこの娘の恥じらいが大きくなり、その分、深く反応するようになって行く事を男は知っていた。

 

「ずいぶん露悪的な事をするんだね。悪い先生。」
「もう先生ではないからな。」

 

男は上着を被ると袖に手を通さないまま部屋を出た。そして階段を降りゆっくりと車に乗りこむと口中殺菌剤でうがいをし除菌ティッシュで手を丹念に拭った。薬液をコンクリートの床に吐き出す。これも儀式のようなものだな、と男は思った。
偏光サングラスをかけ、ドライバーグラブを手にはめると男の車は何処へかと走り去った。

 

部屋に残された娘は暫くベッドで惚けてから、のろのろと起き上がりシャワーを浴びた。身体がまだ喘ぎ続けているが、娘らしい最後の誇りが自慰をする事を堪えさせた。扇情的な下着を身につけ、少年のような、ジーンズと黒いシャツを着込み濃紺のスタジアムジャンパーを着る。やや大きめの野球帽を被るとそれに髪を絡げて押し込み、サングラスをかけてバッグを持ち従業員出入口からホテルを出た。

 

裏道から裏道を辿ると賑やかな大通りに出る。身体を普通に動かすとまだ収まっていない焔を意識し別れたばかりの男の指を思い出す。その途端に少女は再び下腹に激しく湧き上がる衝動を感じた。慌てて奥歯を噛み締めて耐える。身体中に震えが走って立っいられない。ビルの壁に身体を持たせかけると、かなりの努力をして息を整えた。あの男に身体を任せなければならなかった日はいつもこうだ。ビルに寄り掛かったまま息を弾ませている娘を何人かの通行人が心配気に見守っている親切な人達。だが少女にとってはまずい事なのだ。

 

「くっ。」

 

一息つくと、娘はそのまま地下鉄の駅へと続く階段に駆けこみながら、キャップをとった。美しい金髪が日光がそこに差し込んだように広がった。金色の少女は頭を振ってもつれた髪を振り解き楽になったキャップをそのまま被った。
そして暗い階段の奥に向かって駆け降りていった。

 

 

 

20.1.2002**komedokoro/As.