「ん〜、おはよふ〜。」


彼女はぴんと立った後頭部の寝癖に気がつかないまま、僕のワイシャツのそでで、目をこすった。

上半身を起こすと、昨夜起き上がった時に羽織って、適当に合わせてとめたボタンが目に入る。

その隙間から白い胸が見えてどきりとする。

何気ない風をよそおって、僕は応えた。


「もう、6時だよ・・。人目につかないうちにここを出ないと。」






彼女が結婚したわけ
           その1:見知らぬ彼女

                     written by こめどころ





「あ、あなた誰、いったい。」

「あなた誰って言われても・・・」


考えたら名前も知らない子の部屋で、僕は目を醒ましたのだった。

どおりでこの子の顔に見覚えが、ない。全然知らない子だ。


「きゃ・・・」


大声を上げそうになった女の子の口を押さえてベッドに押し倒した。


「ちょ、ちょっと待って。僕は怪しいもんじゃないよ。何か理由があるはずなんだ、ここにこうしているからには!」


がんばれ、僕の頭。いや正確には脳みそか?ええいそんな事は今はどうでもいい。なぜここにいるかが問題なんだ。


「ええと、昨日は相田の奴の結婚式に出たんだよな。
それから新婦の友達と一緒に飲みに出て、ええい、最初の店はホテルのエンベロープ、それからアルジャンに河岸を変えて、
そこで一旦解散して、僕は2,3人の子に引っ張られてトウジと一緒に飲みにいって、ええええっと・・・」


女の子達の顔がぐるぐると頭の中を駆け巡る・・・


「思い出したぞ!たしか女の子を送っていくとか言ってくじ引きをしたんだっけ。それで、ぼくはぼくは・・・・」


真っ青になった。その子も何か思い出したらしくて真っ青になっている。






午後の2時くらいから飲み出した僕らは、かなりグテングテンになっていたけれど、世間はまだ7時前くらいだった。

僕はエスコートをまかされた彼女を送って、駅の方にぶらぶらと歩いていた。

ああ、世間様のヒンシュクの目が心地よい・・・

彼女はちょっと息が切れたようだったので、どこかの神社の階段に腰を下ろした。


「あ〜〜あ。」

「若者がため息か。大分疲れたのかい?」

「そうじゃないわよ。わが身の不幸をちょっとばかし嘆いてみたの!」

「わが身の不幸?なんでさ。君さっきまで男と結婚なんて馬鹿げてるって喚いてなかったっけ?」

「そりゃあ、そうよ。男どもと私は不倶戴天の敵ですもん。」


握り締めた手が震えている。


「へ、何でそういうことになってるわけ?」

「あ、あしたから。」

「うん。」

「あ、あたしの朝ごはんと晩ごはん、誰が作ってくれるのよぉ〜!」


あ、そういうことか。なーるほど、そりゃ大変だよなあ。と笑いをかみ殺した。


「なんで?なんでレイが結婚したってのに私は独り者で、恋人も居ないのよ。世の中間違っとる!!」

「え、きみ恋人いないの、情けないけど僕もいないんだよ。」

「彼氏いない歴23年、まいったか!その上あんなぱっとしないメガね男に親友かっ攫われてっ!情けないっ!」

「へっへーん、そんなの自慢にならないね、ぼくは彼女いない歴23年と半年だよっ。」

「そんなの、選り好みしてただけでしょ。
おとなしくてしっかりものの、レイみたいな日本女性の鏡なんてもう絶滅したっての!!」

「ははは。最後の一匹が今日つかまったってわけだ。」

「そうよ。レイでおしまい。でもね知ってる?ここだけの話、もう一匹だけいるのよ。」

「へ?どこにどこに。」

「ここによっ!!」


そう言うと急に胸を張って見せた。

彼女の長い、今日の為にゆっくりと内巻きのウエーブをかけた金髪が揺れ、青い目が挑むみたいに輝いてる。

ちょっと男の子っぽい性格?だけれど、こうやって顔を寄せられると容姿も香りも女の中の女と言っていい。

結構色っぽいし、いや、こんなんじゃたぶらかされないぞ。長い頸に深紅のチョーカーなんて・・・素敵じゃないか。

ええい!大体女の子は正式な場所では、何だってこんな肩や胸元とか肢を剥き出しにした格好をするんだ。

こっちはネクタイに背広、革靴はいてガチガチの格好なのに卑怯じゃないか。

やせ我慢だって言われたってここは堪えなきゃ男の面子が。


「へ?きみがそうだっての?だって君、どう見たって外国人じゃないの。」

「ばあ〜か。私はね、これでも日本人の血が流れてるんだからね。」

「ハーフさんですか。これはおみそれしました〜。でもご飯が作れないって言ってなかったかい?」

「るさいっ!それに何でハーフなのよ!うちのほうではね、ダブルって言うのよ!
まったく日本人って奴は唯我独尊な人種ね!」

「ああ、ダブル・・・ダブルね・・・。そこにバーがあるじゃない。入ってしっかりお聴きしましょう。」

「望むところよ、ゆっくり語ってやるからね!」


そういうと、ミニドレスをひらめかせて彼女は方向転換した。

僕らは横丁に目に付いたバーのドアを勢い良く開けた。



「まずね、ブランデー、シングルロックで。」

「僕もブランデー、ダブル。ストレートで。」


カウンターに座る。ちょうどいい高さで酒の種類も揃っている。いい店じゃないか。


「いい趣味してんじゃない。ビールか水割りしか日本人は飲まないと思ってたわよ。」

「ばかいえ。いろんなやつがいるさ。」

「それで2,3杯飲んで、すぐくどいたり、さわったりすんのよね。」

「だから、ちゃんと僕はダブルで飲んでるだろ。これで公平だからな。あとで酒の上の不埒とか言うなよ。」

「うん、あんたは偉い、認めてやろう。」


彼女は明るくカカカカカと笑った。なんだか昔っからの知り合いみたいだこの子。

それから、軽い冗談や式に来た仲間の話とかを二人で面白く話し合い、最後に自分達の話になった。


「でね、私は日本風に言えばクオーターってわけよ。
このおばあちゃんってのが日本風のしつけってのに思いっきりこだわる人でさあ。」

「ふーん、それどこかに身についてるわけ?」

「わかんないわね。お箸が使える。正座ができる。敬語がちゃんと使える。
お習字ができる、浴衣が縫えるって、形になるものは分かるけど、こういうものの価値は自分でも分からないわね。」

「煙草に火を付けてくれるとか?」

「あんた馬っ鹿じゃないの?それって水商売の女がやる事でしょ?
どうも日本の男は、女らしさを水商売と勘違いしてるみたいね。」


僕は思わず赤くなったかもしれない。ずぼしだった。女らしさ?女らしさって何だろう。


「黙って肯いてるだけでずるずると抱かせてくれるくれる女とか、くねくねしだれかかるだけの女が良いなら、
それ相応の場所へ行けばいいのよ。男の人はお金さえあればその手の人には不自由しないでしょ。」

「ほらほら、女らしい人はそういう事を大声で言わない。はしたないよ。」


僕は彼女がグラスを振り回してカウンターにこぼした酒を、慌てて押さえながら言った。


「あ、ごめん。」

「なんであんたがあやまるのよ。私がひっくり返したのに。」

「いや、気が利いた奴なら、グラスをさっと引っ込めてあげられたなと思って。」

「変な人。」


「新しいのを。ふたつ。彼女のは薄目にね。」

「かしこまりました。」


彼女はそれをぼんやり見ていた。


「でも、今時浴衣が縫えるなんてすごいじゃないか。お習字だって。僕なんか字が汚いから人前に出せないよ。」

「それが女らしさとは思えないけどな。」

「それは、文化だからね。その国の美意識って言うのかな。だから、結構狭い範囲にしか通じない物なんだと思うよ。」

「そうなんだ。」

「ぼくにとっては、やっぱり母さんの記憶が女らしさの根底にあるんじゃないかな。」

「優しくて、暖かくて・・・いつも甘えさせてくれた?」

「いや、その頃にはもう死んじゃってたからね。もっとイメージ的な物しか残ってないから。」

「早くに亡くなったんだ。わたしもなんだ。小学校に入る前くらいに。」

「親を早く亡くすと、やっぱり、親という存在自体に憧れるところがあるよね。」

「そうね。でなければ、私みたいに親になんかならないと思うか。」

「なぜ。」

「おばあちゃんは可愛がってもくれたかもしれないけど、私が小学校を卒業する前に死んじゃったしね。
お父さんはよその人と結婚しちゃったし。」


ため息をつく彼女。


「いらない子だったのよ。わたし。」


切なそうな顔をしてた。明るかった表情が一瞬翳ったように思えた。


「僕は、だから、温かい理想の家庭が作りたい。絶対にお嫁さんになってくれる人を可愛がって可愛がって、離さない。」

「いいな。あなたに選ばれる人。幸せでしょうね。」

「僕を選んでくれるかどうかは、わからないけどね。」

「選んでくれるよ。あなたいい人だもの。私には、分かる。」


しんとした空気が流れた。緊張してお酒が一気に回ったようだ。周囲がぐるぐるする。



「で、出ようか。」

「うん。なんか急に酔っ払っちゃったみたい。」

「勘定を。」


クレジットカードのサインをする時に、手元が暗くて見え難かった。彼女はライトスタンドを手元に寄せてくれた。

僕は彼女の横顔、スタンドの光に浮かび、きれいな線を描いているその横顔をふと眺めた。

いい子だな。そう思ったとたん、決めていたのかもしれない。



店の外に出ると、そこに、旅行代理店があった。

僕は彼女の手を掴んで、その中に入った。カウンターに座ると、女性社員が飛んで来た。

僕は、携帯電話のスイッチをいくつか押した。銀行の定期預金残高は28万クレジットだった。

(現在の日本円に換算すると290万円ほど)


「これだけ。」


対応してくれた女性に見せようとすると、


「ちょっと待ってよ、あたしのも。」


そう言って割り込んできた彼女の画面には、残高32万クレジットが示されていた。


「勝ったね。」


得意そうに鼻をぴくっと動かしてウインクして見せた。その表情に僕はまたゾクッとなったわけで。


「じゃあ、これだけで。」

「あの、全部使ってしまうと、あとで困るんじゃ・・・」


旅行会社の彼女は心配そうに言ったが、酔っぱらいに何を言っても無駄だ。


「大丈夫、何とかしますから。」

「あたしの部屋に越してきてもいいわよっ。レイがいなくなっちゃったし部屋空いてるわ。」


そうそう、ケンスケの嫁さんと一緒に住んでたんだったっけ。後釜に座るってのもいいなあ。

今いる寮は結構立派だけど、家族寮に空きがあるかどうかはわからないし。

一緒に住むのもいい。あれ?結婚するんだからどの道一緒に住むことになるのか。やっぱり少し酔ってるな。


「では、宿泊日数の御予定をお聞きします。」

「2週間くらいかな?」

「そうね、そのくらいは欲しいわよね。」


その条件をパソコンに打ち込み暫く待つ。


「南半球をめぐる、海と風と星空の新婚旅行10日間コースというのが、深夜02:30分出発です。」

「それだ!これでいいよね!」

「うん、行こう! ロマンチックゥ!」

「後悔、しないかい?」

「素面で一生懸命考えてもでない結論もあるし、私らしいとも言えるわね。後悔なんて、しない。」

「僕もだ。君と、暮らしていきたい。」


僕らはそこで初めてのキスを始めた。お酒の香じゃない甘い香りが口の中に広がる。


「あ、あの〜、お客様・・・・サインをお願いしたいんですけど。」

「ま、待って、サインだって。」

「うんもう・・・。」


唇をしぶしぶ離し、ペンを持ってはたと困った。


「あ、あの、きみ、名前は?」

「惣流アスカ。23歳!!」

「あ、そうなんだ。僕は・・・。」

「知ってるわよお。碇シンジ。同じく23歳ね。」

「な、なぜ知ってるの?」

「あはは。馬鹿ね、さっき、クレジットカードのサインを見てたじゃない。」


そのやり取りを聴いていた旅行社の彼女は、バンとテーブルを叩いて立ち上がった。


「お、お客様っ。冷やかしはこまりますっ!!」

「冷やかしじゃないよ。ほんとにこれから・・・。」

「名前も知らない同士で結婚するなんておかしいです。冷やかしに決まってますっ。」

「じゃあ、証拠を持ってくるわ。それならいい?受け付けつけてくれる?」

「証拠って?」


僕と旅行社の彼女は声を揃えていった。


「ばかね。婚姻届に決まってるじゃない!区役所の自動受付はどこっ!!」

「表に出て、右に曲がって300メートル。白い建物がこの地区自動窓口ですけど・・・ 本気ですか!!」

「だから本気だってばーっ!」


店を飛び出て僕らは二人で大急ぎで走っていった。自動受付は出生と婚姻だけは24時間受付だ。

それぞれの住民コード13桁を打ち込んで、左手を確認窓に当てる。ぴっ!


「おめでとうございます。あなたがたは法的夫婦として認定されます。
付帯項目の書き込みを選択し、番号を選んでください。」


電子音メッセージが次々と指示を送ってくる。


「国籍の選択をしてください・・・・新住所を打ち込んでください・・・」

「あっ、これ困ったな。」


点滅がちかちかと・・・保証人の欄だ。どうしよう。

こんこんと、ノックの音。振り返るとさっきの旅行社の人。背の高い男性と一緒だ。


「保証人でお困りじゃないかと思いまして。」

「な、なって頂けるんですか?」

「本気のご様子でしたので。それに、何か羨ましくなっちゃって。」

「私達も、来月結婚する予定なんです。こんなに劇的じゃありませんけれど。」


にっこり笑う2人に向かって僕とアスカは歓声を上げてドアを押し開いた。


こうして僕らは無事?法的な夫婦になった。そしてそのまま国際空港にタクシーを飛ばした。

今は世界中どこでも個人確認は、国籍と住民コード、特別の時でも掌紋確認で済む。
国境を越える際にも、特にパスパートもいらない。

そのまま大気圏外飛行機は僕らをのせて最初のホテルのあるモーリシャスにむかった。

僕らは機内でも、周囲の迷惑も顧みずずっとしゃべり続け、飲みつづけた。

まぁ、100%新婚さんばかりの便だったから、誰も何も他人のことなんか気にしていなかったけどね。

無茶苦茶ハイな状態で、僕らの新婚旅行が始った。って言うか、始まってしまったんだ。





「わ、わたしったらなんてことを・・・・・。」

「僕は何という事を〜〜〜〜。」


二人は暫く朝日が射し込んでくる中、マジで青くなって頭を抱えていた。

しかしいつまでこうしていても仕方がない。前後策を講じなくちゃ。


「あ、あのー、惣流さん?だったっけ?」

「な、なんでしょうか、碇さん。でしたよね。」


惣流さんはしっかりと胸のワイシャツををかき寄せると、僕の方をむいてひなげしのように真っ赤になった。

美しい金髪と、白い身体が眩しく輝いている。

おもわず全身に視線を走らせるた。

彼女の、首筋や、腿や、胸元やちらちらしている下腹部に、ぽつぽつ虫さされのような跡がある。


「む、向こうむいてて下さい。」


そう言って、床から何かさっとすくい上げ、シーツの下でごそごそと身に付けている。シ、ショーツ?


そうだ・・・昨夜僕らは、ホテルに入るなり、お互いの身体を求め合ったんだ。

控えめにしたのは最初の一回だけ。火照って慣れてきた身体はまるで発情期の獣みたいにとどめようがなかった。

明け方までに3度、愛し合った。

というよりも貪りあったと言ったほうがいいかもしれない。

その後、冷蔵庫のコーラに、強いお酒を混ぜてラッパ飲みして、また4回目と5回目を・・・

身体の隅々まで知り尽くした充実感から、裸のままで気を失ったように眠りこんでしまったんだ。

そうだった。・・・やっとぼーんやりと微かに記憶が戻って来そうになってる。

惣流さんの身体中にある「虫刺され」の痕。


「あれって、やっぱり、僕のキスマークだよな。・・・あああ。」


鏡に自分が映っている。僕の身体にもあちこちにキスマークがついている。これは惣流さんが付けたんだろう。

僕にとっては、正直に言うと生まれて初めての体験だった。それなのに、それなのに、


「ろくに何も憶えてないなんてあんまりだ〜〜〜!!!」


僕は思わず叫んだ。その声に、やっと惣流さんも正気づいたらしく、昨日のように元気?が出たらしい。

眦が吊り上って、まくし立てられた。


「ちょっとあんた、それはないんじゃないの?!わたし、私は仮にも初めてだったのよっ。
それを勝手にやるだけやっておいて憶えてないってどういう事なのよ。あんたってサイテーッ!!」

「僕だって、僕だって初めてだったんだ。それなのに。――そういう想いにはに女も男もないよっ!」

「へ?あんたほんとに初めてだったの。それは、お気の毒に。こんな美女としとねを共にできたというのにね。
でも2度目のチャンスはないのよっ!」

「きみ、憶えてないの。どこまで憶えてるの?ここはどこだかわかってる?」

「なんかぼんやりしてるけど、どこかのホテルでしょ。」

「ああ、やっぱり・・・・。そこの雑誌でも読んでご覧よ。」

Compilations Alien Saga - L'integrale La race la plus dangereuse et la plus meurtriere de l'univers
serait-elle dans le colimateur de la Companie ? 何これ、新刊書の紹介・・・え?これってフランス語じゃないの。
あ、これも、これも・・・・こっちの新聞も。」

「つまりここはフランス語圈なんだってば。」

「へ?」

「ここはねモーリシャス諸島だよ。」



彼女のブルーアイは真ん丸に見開かれた。驚愕に声も出ないだろ、ああ、僕だってそうだよ。


「モ、モーリシャスぅ〜〜〜????あのマダガスカルの横っちょの?なんでそんなとこにいるのよう!!」


僕はふらふらと立ち上がり、床に投げ捨てられていた背広を拾い上げた。

パンツもネクタイもワイシャツも床に散らばっている。

それと一緒にピンクレースの「ぴー!」や綺麗な「ぴー!」や「ぴー!」が。これって、彼女のだよね、間違いない。

当たり前だけど昨日の背広だ。胸ポケットに手を入れると、確かに入っている婚姻届。

夢であってくれと祈っていたけど、現実はかくも冷たい。


「ほら・・・。見てごらん。」


惣流さんは、シーツを慎重に扱いながらベッドの端ににじり寄り、肢を下ろした。

そして差し出された書類を手に取った。ごくんと唾を飲んだのが分かった。

開く。


「こ、こここれは婚姻届。婚姻届っ?! い、いいいいい碇アスカになってるうう。私の掌紋確認もある・・・あ・・・」


惣流さんは、そのまま真後ろに上半身をばったりと倒した。

白い胸の丸い膨らみと、ピンクとホワイトのストライプのショーツが丸見えになったけど、気の毒で何も言えなかった。

僕は昨日の夜のようにワイシャツのボタンを胸が見えない程度にきちんと留めてあげ、シーツを被せた。

昨日の夜のように・・・昨日の・・・僕はまた顔がかーっと熱くなっていくのを意識した。記憶が段々甦って来たんだ。

そして、太股の付け根ぎりぎりのところにまで、見知らぬ僕が付けたキスマークを見つけるに及んで、鼻から一気に
生暖かい物が流れ出してきたわけで。

モーリシャスがどんなところか知らないけど、鼻の穴にティッシュを詰め込むと窓を開け放った。

気持ちのいい風が吹きぬけていく。一晩中ケダモノの様に愛し合った部屋。このままではボーイさえ呼べない。

その場面の記憶が急に生々しく思い出され、僕は慌ててシャワールームに駆け込んだ。

勿論他に爆発寸前になってしまったとこがあったわけで。水でもかぶらなきゃやってられかったわけで。




「どうすんのよいったいこれから。」彼女は僕と目線を合わせないで呟くように言った。(絵:PENPENさん)






その日の午後。僕らはホテルのプールで隣り合わせにすわっていた。大枚をはたいて服なんかを一応揃えた。

大汗を掻きながら会社や仲間に電話をし、急に休まなくてはならなくなった事なんかを破綻なく話した。

(つもりだけど、半分以上の人は本気にしていなかったかも。)

とにかく会社の方は直属の上司が何とかしてくれるという事で、ぼくは三礼九拝してお礼を言った。

一生恩に着るとはこういう事だ。


「あああ、とにかく何とかなった・・・・。惣流さんの方は?」

「私は年休を取らしてもらったわ。一応公務員だから年休取得についての理由は問うのは禁止なのよ。

でも14日間休むって言ったらさすがに絶句してたわ所長。帰ってからが問題ね。」




とにかくこれから暫くの間に身の振り方を考えなくちゃ。冷たい飲み物のお陰で大分身体の火照りは納まってきたけど。

惣流さんは、かなり大人っぽい黒い水着を着ている。肢、腕から首筋まで、キスマークは念入りにお化粧で隠した。

僕に付いてた奴も一緒にあちこち隠してくれた。真っ赤っかの共同作業。ここにもあんなとこにも・・・

自分達のやった事なのが、信じられない。恥ずかしいっ。

その後、軽く食事を取り、ここにこうして座っている。



「ねえ、碇さん。どうすんのよ。いったいこれから。」


彼女は僕と目線を合わせないようにしながら呟くようにいった。


「僕、大体の事思い出したよ。

一緒に飲んでいた時感じていた事は、お酒入っていたから、いくらかは感情が高ぶっていたかもしれないけれど、

基本的には今でもそのまま思っている事だなって。僕あの時言ったよね。温かい理想の家庭が作りたい。

お嫁さんになってくれる人を可愛がって可愛がって、絶対に離さないって。あれ、君に向かって言ってたんだよ。」

「そんなこと、わかってるわよ。

だから私だって、いいな、あなたにそう言ってもらえる人って幸せだなって、応えたじゃない。

後悔もしないって。」

「じゃ、じゃあ、プロポーズのところまでは、OKしてくれるんだね。」

「うん・・・。そうか、な。」


惣流さんは向こうを向いたまま言った。


「ありがとう。惣流さん。」


彼女はこっちを振り返った。


「本当に私でいいの?度外れ娘かもしれないわよ。あきれちゃうかもしれないよ。」

「わかるよ。君は僕がずっと探していた人だと思う。」


だから、決心してもう一度言った。


「僕と、結婚してください。惣流アスカさん。」


彼女は僕がそういうと、暫くの間、僕をじっとみつめていた。

目線をそらしそうになったけれど我慢して彼女の視線に応じる。

すると、急に眩しそうな目をして、彼女は顔を俯かせ、言った。


「二つだけ約束して欲しいの。」

「いいよ。」

「あのね、私の事はアスカって名前で呼んでくれる?一応夫婦なんだし。
結婚を続ける事については、この旅が終わってからもう一度考えましょう?」

「君がその方がいいなら。でも僕の気持ちは変わらないと思うよ。」

「責任とってなんてことで、結婚して欲しくないのよ。」

「それって、僕にとってだけものすごく都合のいい話だよ、いいの?」

「あなたは、常に私の2倍のお酒を飲んでいたでしょ。それで五分五分よ。
こうなっちゃったのは、あなただけの責任じゃない。私だけの責任でもないけど、借りは作らないわ。」

「意地っぱり。」

「頑固もの。」


何となくだけど、上手くやっていけるんじゃないかって、その時僕は思ったわけで。

それから彼女は黒い水着のまま体操の時の三角座りになって、鼻の頭をぽりぽりと掻いた。


「でもまぁ・・・わたし、碇くんに会えて良かったと思うよ。」






つづく







あとがき

朝、目が醒めたらとんでもない美少女が隣りに男の浪漫的かっこうで眠っていたら・・・。
という何とも都合のいい妄想で始ったお話しです。
今回は皆さんのお好きな裸ワイシャツでスタート。
ちゃんとしたお話しにもしますけど、男の浪漫推進実行委員会推奨作品という事も決して忘れませんよ〜。

今回は絵師Penpenさんより頂いた画像を挿し絵として使わせて頂きました。
ありがたい事です。Penpenさんの描くアスカちゃんは色っぽくて可愛くていいでしょう〜〜。(^^)<自慢。

PenPenさんのHPは URL:http://www.mine.ne.jp/tauras-sho/index.html 夢の中の麒麟 です。


さてさて次回はどんな格好にいたしましょうか?リクエストを書きに掲示板へGO!!


こめどころ(^^)










チルドレンの座談会

レイ :「こめどころさんから、投稿が届いたわ。浪漫連載よ」

カヲル:「それは、とても嬉しいことだね。 でも、僕の出番が無かったよ。 しくしく」

レイ :「......今回に限っては、私もその方が良かったわ」

カヲル:「ん? どうしたんだい、リリス」

レイ :「私と相田君が、結婚...悲しいときも涙は出るのね」

シンジ:「綾波、あの...」

アスカ:「止めておきなさい、シンジ。 下手な慰めは、逆効果よ」

カヲル:「リリスの心も繊細だね。 好意に値するよ」

レイ :「ごめんなさい。 こんなとき、どう振舞えば良いか分からないの」

シンジ:「人格チェンジすれば良いと思うよ」

レイ :「そう? 分かったわ」

カヲル:「人格チェンジ?」

レイ :「やっほー。 みんなお待たせ。 謎の美少女転校生、綾波レイちゃんよ!」

カヲル:「リ、リリス?」

アスカ:「てい!!」

レイ :「痛い...なにするの、アスカ」

アスカ:「元の人格に戻ったわね」

レイ :「相変わらず乱暴ね。 碇君に愛想つかされたらどうするの」

アスカ:「大丈夫よ。 なんたって、アタシとシンジは夫婦なんだから」

カヲル:「離婚という可能性もあるけど」

アスカ:「それも問題なし。 だって、シンジったら、初めてのアタシにあ〜んなことや、こ〜んなことまでしたのよ」

シンジ:「ちょ、ちょっとアスカ」

アスカ:「それに、アタシの黒い水着姿まで、見れたんだからね」

レイ :「確かに、あれは良かったわ」

カヲル:「まさに、リリンが生み出した文化の極みだね」

シンジ:「うん。 アスカ、すごく魅力的だよ」

アスカ:「あ、ありがと、シンジ」

シンジ:「僕、あんなに魅力的なアスカと結婚できて、幸せだよ」

アスカ:「シンジぃ....アタシも、シンジと結婚できて、すごく幸せ」

シンジ:「アスカ」

アスカ:「シンジ」

カヲル:「ここからは、いつものパターンかな?」

レイ :「恐らくそうだと思うわ」




そして、シンジとアスカは抱き合った。




カヲル:「やっぱり....」

レイ :「いつものことよ」







Parlさんのサイトに置かせていただいていた作品です。上の後書きは当時付けて
いただいた物をそのまま転載しました。




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