(この作品はイタモノに分類される21禁ノベルです。イタモノと非LASが苦手な方は読んではいけません。)










 再会 星空のステンドグラスのある古書店と破風のあるアパート

こめどころ




やっと僕のところに戻ってきたアスカ。

長いこと唇を交わし、互いの荒れた息に刺激され、服を脱がせあった。
すっかり何も身にまとわず、今は冷たい自分の身体と、火のような相手の身体を感じている。
胸と恥毛を両手で隠しながら恥ずかしいからそんなに見ないで、と呟くように言った彼女。
今、やっと僕の下にいるアスカ。まるで猫のように互いの身体を舐めあい、ひそやかに息をつく。
次第に染まる身体、上気する頬。絡み合う手足。求め合う唾液。僕の腰をアスカの大腿部が挟み込む。
押し開いた下半身からアスカの香りが溢れた。心に誇りきった自分自身をアスカの中に沈めていく。
豊かな滴りを長いこと指で愛撫した後だ。軽く潜り込ませた陰茎でアスカの陰核をひっかけるように
擦りつけ、彼女がもう我慢しきれなくなるまで焦らし、蒸し上げるように溶かしていく。
敏感な身体が、下腹から腹筋にかけてびくびくと痙攣する。
思い切り唇を噛んで、声を出すまいと耐えている。僕の横腹を、アスカの両腿が締め付ける。

「シ、シンジ。」
「何だい。」
「あ、あたしのお腹の中、気持ちいい?」
「うん。暖かくて色々な物がからみついてくるみたいだ。君は?気持ちいいかい?」
「う、うん…」
「はっきり言ってよ。気持ちいいのかい?」

小さな声で彼女は何かつぶやいた。バージンだったならここで気持ちいいとは言えないよな、と意地悪く思う。
ただ、挿れただけでここまで反応するアスカの身体。片足を腕で捕らえて引き上げる。
何か叫ぶ彼女を無視して、隘路を僕の幹が突き通す。さらに両足ごと身体を持ち上げるようにして奥まで。
髪を振り乱し頭蓋を激しく振る僕の女の子。こんなにも刺激に弱い身体になってるのか。

「あっ。」

叫んだ途端、激しく息を吸い込み、また唇を噛んだのがわかった。
明らかに、こんなに感じてしまう自分を恥らっている。でもそれは時間の問題だった。
身体を半身から裏返し、僕自身を引き抜いた。

「あぅっ。あ、」

眉根を寄せて一瞬だけど僕に見せた表情には白痴のような目つきの媚が含まれているのを見逃さない。
丸くて豊かだけれど、贅肉の欠片も無い張りのある球形。その丸い尻を引き割って、しとどに
愛液を流す中心に腰を持ち上げ、あてがう。彼女は息を呑んで身体を硬くした。

「あ、待っ」

「だぁめ。」

手加減せずに一気に貫き通した。

「ひゃ、ひゃぅ。」

かまわず抽送を続ける、そのたびに唇から悲鳴が上がる。音程を次第に上げていくアスカ。
多分無意識なまま、尻を突き出してる。長い首をがくがくと揺らし、身体をのけぞらせ髪を振り乱す。

「はっはっ。ああ、い、いやぁ。あっ、あっ。」

背に噴出す汗が、見る見る全身に回る。激しく揺れるスペード型の細い腰と尻。

「ひん、あん、あああっ、い、いい。いやっ。聞かないで、見ないでぇ。」

身体が腰を中心にして次第に染め上がっていく。息が乱れていく。切れ切れな悲鳴。
全身が美しく染め上がったセックスフラッシュ。僕はさらに乳房を愛撫しながら腰を振った。

「だ、だめ、もうだめええっ。いくうっ!」

突っ張っていた手の力が抜け、ゆっくりとアスカは顔からベッドに崩れ落ちた。僕を締め付けるアスカの膣壁。
金色の髪がシーツに広がった。子供のころの赤金の髪ではなく、輝く穢れのない純粋な金髪。
だけど、この髪を初めてベッドで梳いたのは僕じゃない。愛撫したのも、匂いを付けたのも嗅いだのも。

「だめ、だめ、だめぇ…」

もう自分が初めてではないことをさらけ出してしまったんだ。 そのことに自分で気づいたんだね、アスカ。
背筋の彫が深くなり、臀部が勝手に引き締まって僕に纏わりつき引き込もうとする。
行くとか行かないとか、そんな言葉をどこで覚えたのさ、アスカ。
彼女の身体がひくひくしていても、僕は無慈悲に抽送を、より強く続ける。
行きっぱなしになって苦しんで泣き声を上げる彼女。引っ切り無しに行かされ続けると正気が保てなくなる。
彼女に高原から降りるスキは与えない。続けて子宮を叩きながら射精のトリガーを放つ。

「出すよ、アスカ。」

出すという言葉に特に良く反応するようだ。言ったとたんに膣壁が僕を包み込んで絞り上げようとする。

「あっ、あああっ。行くっ、お腹の中に出されて行っちゃううっ。」

「いいのかい?僕のが気持ちいいって言ってよ。お腹の中が気持ちいいかい?」

達し続けている淫靡で敏感な身体に、さらに手ひどい刺激を重ねる。ひどい、とかもうやめてとか叫んでも駄目。
きみを、もう2度と手放したりはしない。僕の焼印を身体と心の奥底にまで刻み込んであげる。苛めてあげる。

「いいの、とってもいいのよ、待ってたんだものあなたを待ってたの。気持ちいいっお腹の中が気持ちいいの。
燃えてるみたいなの。シンジのペニスが貫いてるの、気持ちいいの、ああっ。言わせないで、こんなこと言わせないでっ!
お腹、気持ちいいの。もっとして欲しいのよう。ああ厭、こんなこと言わせないで。」

片手で乳房を握り締め、乳首をねぶった。
四つん這いから今度は仰向けにさせて貫きなおす。アスカのお尻を持ち上げ敏感な芽を僕の陰茎で思い切りこすってやった。
アスカが泣き声を上げる。ぽたぽたと涙をこぼしている。言葉も舌足らずになっている。

「赦して、気が、気が変になるっ。シンジのが良すぎる良すぎるのよおっ。
あう、うっ。行っちゃう、行っちゃうよう!」

「出すよ。出してほしいかい。」

「い、いいよ。して。ううん、欲しいの、シンジのが欲しいのおっ!」

だけど、彼女は別の何かもの言いたげだ。もの言いたげに、涙があふれてる切なげな視線が僕の視線に絡む。
僕は堪えていた筋肉を解き放った。どっと吐き出されていく僕の精液。長く続いた射精。
アスカはそれを膣いっぱいに子宮の奥で受け止め、叫んだ。

「あああああっ、お腹が熱いっ!お腹がぁっ。」

跳ねようとする身体を抑えつけた。アスカは狂ったように僕を抱きしめ、腰に回した腿と腰を痙攣させて引き締めた。

「はああああっ!行ってる、あたし、行ってるのおっ!シンジ、シンジィッ!来てっ。全部出してぇっ。」

長く白い首をのけ反らして、アスカは僕の陰茎の元を握り、肩に歯を立て、腰で僕自身を迎えるように狂ったようにぶつけてくる。
精子の中には子宮を収縮させる生理活性物質が大量に含まれている。子宮はそれを利用してスポイトのように精液を吸い込む。
そして受精卵を取り込みやすくするのだ。それを熱いと感じる子もいる。子宮が感じたと思う子もいる。強烈なアスカの反応。
目が眩むほどの淫靡なアスカの姿態と快感に満足した僕の物は、アスカの声に刺激され何回も続けざまに彼女のお腹の中に放ち続けた。

「あああっ。入って来る、来てるの。お腹の中にシンジが来てるうっ。もっともっとなのぉ。」

白濁した泡がアスカの股間からこぼれてるのを見ながら僕は息を整えた。激しく肋骨を上下させ目をつむっているアスカ。
汗が全身から噴き出しているのは僕と同じだ。僕の物も相当満足したらしい。一息ついて生立ち状態になっていた。
顔の周りと背中に触れていた髪が濡れそぼって首筋や乳房や背中にほつれ張り付いていた。スリットから愛液が泡だって毀れおちている。
その汗を首筋から舐め取った。微かな塩味と昔持つけていたのと同じオードトワレの香りがアスカの汗と混じって薫った。
その匂いは昔と同じでもあり、大人の女になったアスカの匂いや今抱き合ったばかりの僕らの性臭も混じって微妙に違ってもいた。
気を失ったままのアスカの胸の上に僕の汗に混じって涙が何滴か落ちた。僕らがもう少し早く再会できていたら。引き離されなければ。
こんな情けない思いをせずに済んだのに。初めてのアスカを幸せいっぱいで抱くことができたのに。憎い。僕らをもてあそんだ政治が。
でもそれは仮の話だ。僕らは引き離されなければ互いをこんなにも想う事はなかったかもしれない。
この激しい思いは、アスカが他の男に抱かれていたからこそ湧き出してきたものかもしれない。もしもと思う気持ちは無意味なことなんだ。
でも、でも、でも。僕のアスカを想う気持ちは歴史に仮にはありえないというのと同じだ。それでも思わずにいられないんだ。
トワレのその匂いがアスカと過ごしていた過去を思い起こさせた。僕の整髪料も変えてはいない。アスカはこの香りをどう思ったろう。
アスカは行きっぱなしになって意識を高原に漂わせていたが、身体を震わせながら次第に戻ってきたようだった。
激しい行為に口を開きっぱなしになっていた女の子の部分が閉じていく。それと同時に僕とアスカの物が溢れ出してくる。
ゆっくりと、彼女は瞼を開いた。潤んだ瞳が僕の目を探し当てた。視線がはっきりとし、意識と一緒に戻ってきたようだ。
幸い、アスカが気づく前に僕の涙は止まった。

「なに。」

だけどとうとう僕は言ってしまった。言ったとたんに後悔していた。

「ごめんなさい。」

アスカが何を謝ったのか、暫くしてから気づいた。思ったとおりだった。
青い瞳からは止めどなく涙がこぼれていた。

「(どこの、どんな奴に抱かれたの。こんなに男を受け入れられるほど慣らされて。)大丈夫、気にしてないよ。」

かっと燃え上がる嫉妬。僕のアスカを女にした奴。真っ赤になって俯いていたアスカはやがてまっすぐに僕を見た。

「真剣だったの。彼も真剣に愛してくれていた。遊びや戯れじゃなかった。だから今生きていられるの。」

遊びだったって言ってくれたほうがどれほどましだったろうか。
きみはきみの意思で身体を開いたって事だよね。 本気で愛してたってことだよね。
あえやかに喘ぎながら身体を濡らして。そいつの前でショーツを脱ぎ捨てて。抱きしめたんだ。そいつの男を受け入れた。

「(僕だって、真剣だよ。それでも別れる時は別れる訳?)でも別れたんだろ?」

「別れるつもりで付き合いだす人はいないわ。確かにあの人はいなくなって私は捨てられたのかもしれないけど。」

「(そりゃそうさ、きみの肉体が欲しいだけ、きみを抱いたことを自慢したいだけじゃなければ。)…」

「ねえ、何か言いなさいよ。言ってよ。」

「(何を言えって言うんだよ。そのときどんな風に抱かれたのかとか?どんな表情でどんな声で。)ああ。」

「済んじゃったら、男って何もしゃべらなくなるって本当なんだ。」

「(こんなにしゃべってるさ。その男もそうだったって、今わかったよ。)そんなこと、ないさ。」

「タバコ吸わないだけいいけど。あれってどうかと思うわよね。かっこいいつもりなのかしら。」

「(アスカ、きみ何か反芻してるの。きみを初めて抱いた男のことを?)僕はタバコ吸わないから。」

「ごめん。」

さすがにバツが悪そうだ。

「シンジのキスは、きれいな息でよかったな。」

フォローになってない。

「(その男、ヤニ臭かったわけだ。そのヤニ臭い唾液がアスカの体中に塗られたわけ。
きみの舌はそれを舐り、その唾液を飲み込んだわけ。)僕は、まだ子供なのかな。」

「私のこと、こんなに迄しといて子供は無いでしょ。あ…」

アスカの内腿に、また僕の白濁した精液が溢れ、流れ出していった。妊娠したことはなかったんだろうか。
だけど到底聞けなかった。アスカを傷つけたくないのも事実だった。その流れのすぐ横に痣。僕がつけたマークがあった。
夢中で抱きしめて唇を押し当てた痕。
過去にあったこと、そうかもしれないとわかっていてアスカの身体を抱いた僕。
僕の心とは別に、肉体はその光景を見て勝手に硬く膨らんでいく。
知っていて抱き、汚いものでもあるかのようにアスカに嫉妬してる。穢れているのはどっちか、わかってるさ!

「ずいぶん元気ね、シンジのスペルマ。」

顔を染めながら、強がるきみ。僕の目線に気づいてあわてて太ももをティッシュでぬぐい翳りを押さえた。
その君をもう一度抱きしめて、押し倒し、挿し入れた。
膣いっぱいに溜まっていたアスカの愛液と僕の精液が混じりあって激しくしぶいた。

「アスカ。」

「え、ま、またするの。あ、んんっ。」

思い切りアスカの股間を引き割った。むっとするほどの女と男の匂い。
隠そうとした手を払い除ける。僕を咥え込んだ形がまだ残っていて、そこは簡単に口を開けた。
前の男ともこんな匂いの中で何度も交わった癖に。淫らにはしたなく身体を開いたんだろう。

「そうだ。(この脳にたまった前の男との光景を蛋白質に変換して吐き出してやる)」

「あ、くっ。」

顔を斜めに背け、喉を軽くのけぞらす。その反応は誰につけられた癖なんだよ。

「前の男のつけた癖なんか、全部上書きしてやるっ。掻き消してやるっ。」

「えっ。」

アスカは目を見開いて不安な目で僕を見たけれど、僕はかまわず君の身体を絞り上げるように抱きしめて、
声も出せないほど激しく腰を打ちつけた。僕だけのアスカにするんだ。

「(消してやる、消してやるっ。)くそっ。」

敏感なアスカの身体はびりびりと反応し、上り詰め、染め上がった身体が股間を大きく拡げ仰け反った。
彼女の生の女の匂いが僕を包む。いつもつけているオードトワレと一緒になって。
その匂いが僕をいつも獣のようにさせる。きみは僕の激しい性欲のターゲットになる。

「きみは、もう僕だけのものになるんだ。」


そういうと、彼女はもう何も言わないで僕にしがみついてきた。それはきっとアスカの誓いだったんだろう。
時間と距離、政治という僕と君を隔てていた壁は消しさることができる。
僕とアスカとの間には肉体と精神以外の何もなくなってしまう。
僕は身体を入れなおし押し倒した。アスカの翳りの中心に口を押しつけ舌で芽の皮を剥くとしゃぶりつき甘噛みを続けた。
アスカが泣きながら叫んでいるけど、柔らかな大腿部が震えながら僕の頭を締め付けて耳を塞ぎ微かにしか聞こえない。
仰向けに身体を回すと、気が狂うと叫びながら、息も絶え絶えな様子でアスカが僕の陰茎を口いっぱいに咥えこんだのを感じた。」
僕ら二人は肉体と精神を崇高な域にまで高めて見せる。そう、あの遥か古代の気高い皇帝のように。






 綺麗なブラウンのハイネックセーターにコートを羽織った女性が目の端を通り抜けた。
11月も後半になっていたなのに、いくら南ドイツとは言ってもその恰好は伊達の薄着というものだった。
よほどおしゃれな人なのかな。昔知っていた女の子を思い出した。今僕はその子を…
その柔らかそうな胸のラインに懐かしさを感じ、新聞から目を上げた。石畳の路傍にあるカフェ。
エアカーテンが吹き出しているお陰で、雪が積もっているような景色の中でも室内と変わらない。
日差しのお陰でむしろ暖かいほどだった。
彼女はもう背しか見えなかったが、この街ではありふれた赤金の髪に懐かしさを感じた。
女性の胸のラインに魅かれて目を上げるなんて、意外と僕はスケベ心があったんだな。苦笑した。

小柄なその女性は、まるで軍人のように背筋を伸ばして歩み去っていく。
いや、ドイツでは女性だって一個分隊歩かせればフランス軍より立派な足音をさせるって言うから。
そのこと自体は別に不思議じゃなかった。
その時、急にその彼女が唐突に振り返った。僕は、新聞を落とし、カップが石畳で割れた。
ウエイターが何か喚いたが耳に届きゃしなった。立ち上がって走り出した。向こうの女性も駆け出していた。
ほんの10秒もかからないうちに僕らは額を押し付けあうように息を弾ませて相手をつかんでいた。

「や、やっとつかまえた、ぞ。」

「隠れてたのはあんたの、ほうでしょっ。」

アスカと僕は、7年ぶりに抱きしめあっていた。叫んだあとそのまま口づけを交わしていた。
ハグが珍しくない国とは言えこれだけ激しく、長い時間歩道を占領していれば嫌でも注目される。
ずいぶん経ってからやっと正気づいて僕はアスカをひきはがしたけど、動悸が激しすぎて目眩がした。

「あんっ。」

「ね、ねぇちょっと。」

「なに。」

「僕ら、注目されてるよ。」

「なによ。あなたぜんぜん変わってないのねぇ。大学裏の商店街の近所で猛然とキスしたらあたりまえじゃないの。」

相変わらずといえば彼女こそ相変わらずだ、と思った。 悪質な確信犯かよ、君は。

「こんな事、慣れる慣れないの問題じゃないだろっ。」

思い切りしかめっ面になって僕を睨みつける。日本じゃ一回きりしか唇を許してくれなかったくせに。
好きの欠片もそぶりも見せてくれなかったくせに。

「ああ、わかったわかったわよ。これから時間はあるの?」

「別に仕事で来たわけじゃないから。時間はいくらでもあるけど。」

「相変わらずの体言止めかぁ。いい加減キッパリものが言えない?」

君を探しに来たという言葉は結局言い出せなかった。
アスカはちょっと一歩下がって、目を瞬(しばたた)かせて上から下まで僕を見た。
彼女が瞬きするたび細かい星がはぜた様に見える。 そしていきなり僕と腕を組んで横柄な口調でのたまった。
こんな所はちっとも変わって無かった。

「じゃ、只の観光で?」

まさか本当の理由など言えない。少年時代の憧れの女の子を探しに来ただなんて。
自分でさえ今書いてて馬鹿みたいだと思うけど本当のことだったんだ。
行方知れずのままのアスカ。
いくら調べても全ての資料は破棄されていた。
使徒戦役の後障害の為ドイツに返還(なんて言い方だ)されたとしか判らなかった。まるで機械の修理じゃないか。
アスカのシンクロ能力はまったく失われていてドイツネルフの籍からはとっくに抜かれていた。
僕の方も今となっては只の人だ。 なのに出国が自由になったのはたった3ヶ月前だった。
自由が与えられ、行き先申請だけで国外に出かけられるなったとき感じたのは、アスカを探し出したいという衝動だった。
ベルリンで見かけたとか、ミュンヘンに転出手続きをしたとか、実家は東ドイツの方だとか、
いくつかの傍証と目撃情報を抱えて僕はドイツにやってきた。2週間歩き回った結果はまるでゼロ。
ほとんどの情報は虚偽だったのだ。
あきらめかけてやって来たのが、この古都市ドラワウだった。彼女の祖父母が住んでいたとかいるとか。
しかし、もう期待はしてなかった。アスカが帰ってからも欧州は内戦が絶えなかった。だから安全を求め移動も激しかった。
最後に得た情報が、なんとアフリカでカメラマンの修行をしているケンスケからのものだったんだ。
アスカらしき女性を知っていたという仲間がその子はドラワウに今でもいるかもしれないと言っていたという。
ドイツネルフではアスカを知っているかもしれない人たちは既に散りじりになっていて、何の情報も得られなかったから
文字通りこれが最後の細い糸だった。
古いユースホステルに泊まり、広場の傍の通りにある潰れそうなカフェで朝食を採ったところだった。
そこでの、唐突な出会い。
背はいくらか高くなったのかな。それでも特に大きくなったようには見えなかった。

「そりゃ、自分が大きくなったからでしょうよ。何食べてそんなに大きくなった。ええ?」

アスカはせいぜい160cm足らずくらいで、日本人としたって今の女の子たちの平均身長より小さいだろう。
あんた幾つあるのよ、と笑いながら問われ、178cmと答えた途端、向こう脛を蹴られた。

「痛っ!」

「なまいきよっ!」

そう言ってアスカは少女の頃と同じようにニカッと笑った。

「今はね、古本屋さんに勤めてんの。忙しくはないんだけどちょっと埃っぽいかな。」

「アスカにしては意外なところに勤めたんだね。」

「何、女子サッカーの選手にでもなってるかと思った?
暇な間はいくら本読んでてもいいって店主のお爺さんが言ってくれるし、学生バイトとしてはいいでしょ。
学校に近いしね。」

「学生なんだ。」

「ちょっと寄って行きなさい!」

そこは確かに本が山積みになった、まるで前世紀の遺物(といっても20世紀じゃなくてもっと前だ。)の
ような本屋だった。伝統校の図書館を保存してるような。

「大学出てるって言っても試験をどんどん飛ばして行ってとった資格だけみたいなもんだから。」

アスカはあまり似合わないめがねを鼻の先に押し上げた。
やっと本物の大学生になった気がしてるんだ、と言いながら。

「今度は人文科学系の勉強してるの。大学院の人たちと一緒のゼミよ。」

そのあたりはさすがにアスカと言うべきか。年上の人たちと互角にやってるんだな。
だけどその時、僕の胸の中で嫌な想像がちくんと痛んだ。なんだ?

「アスカは聡明で可愛いから、結構可愛がられてるんじゃない?」

自分でもいやな聞き方だと思った。

「まぁね。教授もお姉さんたちも良くしてくれてる。男子たちも前のときほど子ども扱いしないし。」

ぶるっと、身体が震えた。冷や汗が出るような悪寒だ。
いけない、風邪を引いたかな。そう思った途端、ひんやりとした手のひらが額に当てられていた。

「変だと思った。あんた少し熱があるんじゃない?顔も熱っぽいわよ。」

「そうかな。さっきからちょっと寒気がするんだけど。」

そういうとアスカはレジに腰を下ろして古い机の引き出しを開けた。

「ほらこれ、バイエルアスピリン。別にアレルギーないわよね。2錠飲んどきなさい。それからこっちは1錠ね。胃薬よ。」

「あ、ああ。」

「ぐずぐずしないっ、洗面台は階段の裏側よ。」

軍隊調で命令された。小さい洗面台で薬を口に放り込み、蛇口に直接口をつけ水を飲み込んだ。

「ちょっと、あなたお腹すかしてるんじゃないの?」

「10時ごろ、さっきの店の先でホットドックを2本食べたよ。」

「その前は?」

「き、昨日の4時ごろに紅茶とビスケットを2,3枚。」

アスカはいきなり頬を不満げに膨らませた。

「そんなことだと思った。あんたって人は自分の食欲にはまるで無関心なのよね。
寒いのにカロリー不足になったら風邪ひくにきまってるじゃないの!」

そう言ってさっきとは違う毛布のような真冬用のコートを羽織って、黒縁のメガネをかけた。
長い髪を引っつかんで一つにまとめてハンカチで縛り上げる。
僕のあきれた顔に向かって、にやりと笑った。

「これがここでの職業上の格好なの。あんた暫く店番お願い。値段は裏表紙に貼ってあるから。」

「え、ええ?アスカッ。」

と答えた時にはもうアスカの足の先だけしかガラス戸の向こうには無かった。相変わらずの疾風ぶりだ。
僕はあきらめてコートを脱ぎ、レジの横の本の山に被せるように置いた。旅行鞄はレジの脇に。
階段下のカウチに座って、そのまま横になって落ちていたソファを首の下に突っ込んだ。
靴を履いたままの足を高く組んで、本屋の天井をぐるりと見回した。
本、本、本。螺旋を描いて階段が屋根近くまで螺子状に巻き上がっている。
この景色の中にアスカは何年か嵌って過ごしていた訳だよ。この知識の中に埋もれていたんだ。
不意に、それって何だか凄いことの様に思えた。
同時に、ここでアスカがどんなことを考えていたのだろうと思いを巡らす。
静かな、ほとんど(このペースだと)数人の客と、店主と少し会話ともいえない話を交わす程度の時間。
手に余るほどの時間。その時間をアスカは一人きりで過ごしていたのだろうか。僕の事思い出すこともあったかな。

「もし、ほんとにそうなら。」

わずかでも僕にだってチャンスはあるのかもしれない。いいや、期待してるわけなんかじゃ、無いけど。
今のところ、アスカはあの頃のアスカとちっとも変わっていない(ように思える)僕には。
けれど、もしも――もしもだよ。もう、7年もの時間が経っているんだから。大人の恋愛くらい、きっとしたよね。

「相変わらずだな、僕は。」

先回りして最悪のことばかり考えておくのは、もし悪い予感どおりだったら諦め易いし、楽だから。
ナニって、傷つかなくて済むって事じゃないか。まるで情けない中学生のままの発想さ。悪いかよ。
唯一、僕にとっては見栄は互いにいっぱい張ったけど、結局洗いざらい情けないこと曝け出して、
その上でまだ一緒にいたいと願った唯一の相手なんだ。――少なくとも、僕にとっては。

そのまま眠りこんでしまったらしい。アスピリンのせいだな。いつも眠くなるんだ。薄い毛布とアスカが着て出かけた
厚手の毛布の様なコートが、襟までかけてあった。あいつがしてくれたんだろうな。上半身を起こした。
本棚の細い通路。埃の中に立つメガネのアスカが本を広げて、あごに手をやってそれを読みふけっている。

「アスカ。」

声をかけた。アスカは本に夢中で振り替えらない。

「アスカ、僕だよ。シンジだよ。」

振り向いた彼女は怪訝な表情。僕が誰だかわからないの?もう忘れちゃったの?」

「アスカ!」

もう一度叫んだ途端、彼女の顔が目の前にあった。階段を飛び降りたの? 
青い、青い瞳。あの頃より濃くなった?

「汗、ひどいわよ。」

「ぼ、僕何か言ったっ?」

うろたえてカウチから転げるように落ちて、彼女の視線から逃れた。

「別に何も――。」口元をほころばせて「何よ、知られちゃ恥ずかしいような夢でも見てたの?」

「馬、馬鹿な。」

「ごめん、何も言ってなかったって。」

この会話って。

「7年前とは逆だね、この会話。」

「夢を見てた私に、あなたが馬鹿って言って、私がごめん、なんてね。」

笑ってしまった。すると彼女は優しく微笑んだ。

「なに?」

「ううん、やっとあの頃の笑顔をしてくれたなって、思っただけ。」

そう?そんなに違っていたなんて思っても無かったけれど。
でも、アスカは僕の笑顔をずっと憶えてくれてたってこと。

「あの時、なんで泣いてたのかまだ覚えてるかい?」

「忘れたこと、無かった。シンジの笑顔。」

「何だ、僕の夢見てたの?」

「シンジの笑顔が離れていったの。その時初めてあんたの笑顔がなかったらどうしようかって思ってさ。」

アスカは告白するみたいに言った。

「結局、正夢になっちゃったのよね。…幾度も悔やんで泣いたわ。」

そう言ってから、慌てたように抱えていた荷物を本が数冊乗っていた比較的空いたデスクの上に置いた。
いろいろな形のデリバリーパック。チャイナやビーフシチューとか、丸いパンとか。牛乳とか、サラダとか。

「私もお昼まだだったから、一緒に食べましょうよ。ま、あなたが作るものほど美味しくないだろうけど。」

得意になって2人に出していた食事だけれど、時には二人が我慢して食べてくれてたことも今は知っている。
こういうデリバリーは発達していて、下手な食堂なんかよりよほど味がいい。
風邪の上に、食べだすと僕は自分がこんなにおなかが減っていた事に気づいた。
そして、自分が何としても確認したいと思っていることに。
それを、アスカに確認する勇気を、たった今、アスカが僕に言ってくれたことに。

そのまま、午後を過ごした。客は3人来ていずれも何処かの大学の先生だろうと思しき静かな人たちだった。
本の注文をし、アスカが入手のための資料をパソコンに打ち込む。
正規のルートではなかなか入手できない希少本をオーナーの特別なネットで探し出す仕事であるらしい。
受け取りに来た人は明らかに抑えきれ無い喜びと興奮を示し、アスカと何回も握手をし、大切そうにコートの内に
抱きかかえるようにして帰っていく。その人の気持ちが今の僕には我が事の様によくわかったわけで。

寒さが増してきた。店の中央にある巨大なオイルヒーターのスイッチを彼女が押す。
老いるヒーターの虫の羽音のような微かな音と同時に、低い唸りを上げて天井のフィンがゆっくりと周り出す。
そうだな、本屋に炎は厳禁だものな。書棚の一角には日本語の書物もあったので僕はそれを引き出すと、カウチに
寝転がってずっとその本を読んでいた。天窓から差し込む日射しがゆっくり移動していく。
ちょうどそのカウチに達するところで日が沈んだ。
入り口の古風な門灯が灯り、アスカのレジの所のスタンドだけが、薄暗がりに浮かび上がっている。
ぱちんと音がして、僕のカウチの後ろの壁灯が点いた。顔を上げるとアスカがこっちを向いていた。

「大分気に入ったみたいね、その本。」

「こんな古書の群れの中に何故日本語の小説なんかが混じってたんだろうね。」

「そうね、時々場違いな本が混じってるときがあるのよ。何を読んでたの?」

立ち上がって本を示した。

「辻邦生の『背教者ユリアヌス』と言う本だよ。」

「AD360-363のローマ皇帝ね。キリスト一神教を多神教に戻そうとした皇帝として有名だわ。
キリスト教をはっきり導入した前皇帝に対し反乱を起こしたのだけれど激突寸前にコンスタンティウス2世が死んだの。
不思議なことに前皇帝は後継者にユリアヌスを指名したので戦いは終息したといわれている。」

「さすがだね、僕はこの本を読んで初めて知ったよ。」

「そりゃあ、ユリアヌス帝はこっちでは有名ですもの。当時のキリスト教関係者には厭われたでしょうけど。
ローマが繁栄の中の愚鈍に落ち込む事を良しとしない哲学者皇帝だったのね、きっと強い意志と崇高な精神を持ってたのよ。
ローマ帝国衰亡史の方にも彼に対してはちょっと肩入れした記述が多いのよ。」

ああ、そういえばアスカは人文科学系の勉強を今はしてるって言ってたよね。

「君だったら、ユリアヌスがしようとしていたことを応援したと思う?」

「衰亡史にはこんな記述があるわ、『問題は臣僚たちであり、もしこの哲学者皇帝がみずからに課しているこれら厳しい掟に、
彼らもまた時間と行動との全てを挙げて従わねばならぬ事でありながら、当然とは言えすすんで彼を助け、帝冠の重荷を少しでも
和らげるよう、協力に応ずるものなどほとんどいなかった。』つまり既に官僚は腐敗してしまっていたのね。」

アスカの瞳が急に透き通った眼差しに変わったような気がした。

「それに対して、たった一人きりでも勇気と誠実を持って戦おうとする人を見捨てたりすることはしないわ。誰だって。」

それから、彼女はまっすぐに僕の目を見た。

「シンジは、私がそんな風に戦おうとしてたら、どうする?」

「もちろん、応援するに決まっている。
いや、そんなに大問題じゃなくたって、君のやろうとしていることを助けないなんて、いつでもありえない。」

「そうね。」

階段を上った天辺にある空に向かってはめ込まれたガラス。
その天窓に向かって、壁面の上部の壁に建物をぐるりと囲んで嵌め込まれている窓。その一つに金星が輝いている。

「そうよね、シンジならそう言ってくれたでしょうね。」

アスカは楽しそうに肯き、一階の隅の大きな柱時計が重々しい音で7時を知らせた。

「シンジは宿をどこに取っているのよ。」

「君と会ったカフェの、広場と噴水を挟んで反対側のユースだ。心配ないよ。」

「ユースホステルか。憧れてた時もあったわね。そうか。で、夕食は一緒に摂らない?」

僕が同意して肯くとアスカはうれしそうな顔をした。

「じゃあ、8時になったら仕事は終わるから出ましょ。」

それからアスカは何処かに予約の電話を入れた。
そして、今日、最後に送られてきた書籍を仕分けして袋に分けたり書棚に戻したりし始めた。
僕はそれを手伝い、彼女の言うとおりに何冊かづつ本を書棚に入れた。膨大な数の書籍がきちんと分類された世界。
約束された世界がその先には展開されている。レトロスペクティブに分類された世界には揺らぎが少ない。
この静謐な世界が、学問の世界に繋がっているのは判るけれど、僕らが生きている社会はこれと正反対な世界。
いつでも先に何が待ち受けているかわからない、不安とあるいは希望が混在する世界。

今夜、アスカに何を話すのだろう。
そして、君は何を僕に語るのだろう。まだ、何も決まっていない。先にあることは混沌の中から選ばれる。
僕とアスカの間の7年。そこにあったこと、無かったこと。
全てはここに、僕らの間にあったこと。無数の事実。夢を見ている。

最後の何冊かの本を一番下の書棚に納めると、すぐ横にアスカが膝を着くようにしゃがみこんだ。

「どうも今日はオーナー戻ってこないみたい。」

「そう、こういうことって多いの?」

「一種のハンターみたいなものだから。遠くまで出かけたのかもしれないわね。」

書棚と書棚との間は、明かりの届き難い日陰の世界。
夜になれば暗黒の領域だ。隠れていたものと隠していたものが現れる。

「7年も何をしてたんだい。」

「自分でもよくわからない。最初のうちは模擬体でのリンケージの実験をしていたけど、シンクロ率が下がってとうとう
起動することができないようになって、最終的に2年目の終わりごろネルフの後継機関からは解雇されたわ。
と言っても行動の自由も通信の自由も極端に制限されてた。」

「僕も同じような経緯と環境だったんだね。」

「でしょうね。対外的にはほとんど行方不明扱いだったと思うけど。私も随分あなたの居所を探したわ。」

「結局、こうして偶然会えたなんて奇跡みたいな話になったけどさ。」

「こんなことって、あるのね。」

「もともとエヴァの起動だって、勝ち続けたのだって9999(フォーナインシステム)なんでしょ。
確率はいつも0.9999%だったって。呆れちゃうよ。」

アスカはそういったけど僕にはこの出会いは奇跡とは思えなかった。必然だと感じられていた。
理由や根拠は全然無いんだけど。必ず会えると言う漠然とした期待は常にあったんだ。
だから僕は。
だからこそ僕は。
今夜こそ、勇気を奮い起こして、この戦いに臨むんだ。
狭い書棚の間で立ち上がると、僕らの間にはほんの少しの隙間しかなくて。
熱がまだあるのか、僕は少しよろけてアスカのいる側の書棚に手をついた。
まるで、アスカが動くのを遮ったように。アスカは営業用の太い黒縁のメガネの底から僕を見た。
吐き出した息が触れ合い、呼気の香りに僕は昔と現在が混在して、立ちくらみがしたようだった。
頬が触れ合いそうになって、互いのうぶ毛が微かに触れ合う。服の中から立ち上がる体臭。
あの頃と同じオードトワレ、使っているんだね。
落ちてきた木の葉が宙で触れ合ったように、僕の唇はアスカの頬を滑り唇に触れた。
瞬間、時が止まったまま身体が固化したように思えた。まだ、何も言ってなかったのに。
うつむいた途端2人の額がぶつかった。痛みなど何も感じはしなかったが、目を見合わせ、笑いを浮かべた。

「馬鹿ね、もう。」

「ごめん。」

これで、僕らは元通りだ。その後、今度はアスカが僕の頬に唇で触れ、その後ゆっくりとキスを交し合った。
もう、子供じゃない僕ら。息が急速に熱くなって、思わず舌を絡めていた。
これは、幼馴染としての懐かしさのあまりのキス?それとも恋人同士になった確認の大人のキス?
ちょっと待って。いつから僕らは恋人同士になってた?

日本とドイツじゃ、その重みはぜんぜん違うことはわかっていたけど…
もう一歩、踏み出してもいいのだろうか。迷った挙句思い切ってその白く浮かんだ喉にキスをした。
アスカは拒絶することなく、首を軽く仰け反らすようにして僕の唇を受けてくれた。
甘い、アスカの甘い切なくなる匂い。女性の香り。溜まらずきつく抱きしめ、胸に顔をうずめた。
アスカの腕が僕の頭をそのままくるむ様に抱きしめる。

「シンジ。あたしのシンジ。」

「アスカ。君を探しに来たんだ。もう絶対に離さないために迎えに来たんだ。」

「待っていたわ。私、ずっと待っていたのよ。」

きみの声と同時に、僕の首筋とか頬に水滴が降りかかった。顔を上げると彼女は泣いていた。

「何よ、その顔。みっともないわよ。」

僕の目からも途切れない涙がまぶたを乗り越えて流れ出していた。
こぶしでそれをぬぐうと、アスカの涙もワイシャツの袖で拭った。
それから思いついてハンカチを取り出して彼女の頬に押し当て、同じように自分の目も拭いた。
僕らはそんな狭い隙間で暫く抱き合ったり身体をさすりあったり、軽いキスを交し合ったりした。

出会ってから弾けるまで、7年の間があったのにたった半日。
僕らは告白もしなかったけど愛し合っていることを確認した。
堪え性の無いこと甚だしいとか後で言われてしまうかもしれない。
やっと満足しあって予約を思い出したら、もう8時を47分も過ぎていた。
レジを閉めて、店に3つの鍵をかける。
僕らはその店まで走っていき、再開を祝してワインをあけ、鴨を食べた。
石畳の上を並んで歩いた。真っ赤に染まった紅葉の並木は大戦前に日本から贈られたものだ。
7年の間にあったこと。
機関を解雇された後すべきことも見つからず、家族も消えEU内の戦闘も止まず。
自分の存在意義に疑念を持ち、何でもいい、何かに縋りたかった。
寂しくて消えてしまいたかった。
その時点で、ふと大学に戻ることを思いついた。
解雇はされ自由は無い。だが金が無かったわけではなかった。
大学に行って、本来なら自分がいたであろう場所に回帰しようと考えたのだった。
幸い、機関は同意してくれた。進学希望先が人文科学系だったのも幸いしたかもしれない。
丁度17歳の春だった。一度大学を出ているので、学士入学扱いで入学できる。
その年の9月から通い始めた。何事もなかったわけではない。さみしさは簡単には消えなかった。
死にたいと思ったことも一度や二度ではなかった。
周囲の学生ともほとんど年齢で違和感を感じることは無く、勉強にも同期のコンパにも出席した。

「ほんとに普通の通りの学生生活だったのよ。普通の。」

僕らの横を、やはり学生だろう、ラフな格好で8人ほどのグループが大声で話しながら行過ぎて行った。
それぞれにカップルが大体決まっていて、数組で行動を共にするのがこちらのスタイルだ。

「楽しくしているうちに、落ち込んだ気持ちも晴れていったわけだね。」

「そうなの。もう自分が特殊機関のパイロットではなくて、普通の女子学生で戦闘で死ぬなんて事が日常と
して隣に張り付いていた時間は永遠に終わったんだって。安心できたのよ。」

アスカは口をつぐんだ。つぐんだまま歩き続けた。そして不意に語りかけてきた。

「私のアパートすぐそこなの。寄っていく?」

大学脇の小路。大学側は煉瓦作りの塀に鉄製の柵が並んでいる。その通りに沿って石畳の道が続いている。

「君がいいなら。」

「あなたがどうするか聞いてるのよ!私が決めることなの?」

選ぶのは僕だ。そして、この後のことは初めて読む本と一緒で、先のことはわからない。
選んだこと、選ばなかったこと。それは等価値に僕の前に現れ、存在する。
選ばなかったこと、選んでしまったこと。全て元に戻すことはできない。
その先を修正するのもしないのも、また自分の自由なんだ。

「行きたい。」

アスカを見つめ、キッパリと言った。
彼女は僕の顔を見つめ、何か言いかけた。その後口をつぐむとゆっくり肯いた。
断られるのかと一瞬思ったが、その探るような目には君の不安とか迷いがあることが判った。
こんな時間に、男性を部屋に迎え入れるという事がどういうことか、僕らはそういう知識を持つ歳になっていた。
そしてそのことに責任がとれる歳にもなっていたのだ。

「僕が、決めていいんだね。」

「そう言ってるじゃない。」

まるで、子供のようにこっくりと肯いた彼女は前に立って歩き出し、僕はその横に付いて腰に腕を回した。
その腕に縋るように軽くもたれ掛かったアスカ。そのままの姿勢で僕らは街路樹を辿って歩いた。
小さな破風の付いた、3階建てのレンガと漆喰の建物が続く。角を曲がると並木がプラタナスに変わった。
この辺は学生が大勢住んでるの、と彼女は言った。友達も大勢いる。
だからここに来るって事は、2人が公の関係になるって事なのよ、と呟いた。

階段を少し上がって、一軒の家を真っ二つに切ったように分けられている。メゾネットタイプという奴だ。
ベージュの外壁。 2F3Fには薄い石を這い合わせた文様がアクセントになっている。大きな菩提樹が屋根に被っている。
上がった階段の左半分がアスカのアパート。半地下室と正面に広い居間とダイニングキッチン。バスルーム。
2階には広い部屋が1つと小さい部屋が2つ。そして階段の奥から入る天井裏の部屋が一つ。
物置ではあるが、十分な居住能力があるそうだ。寝室にしてるの。ハイジの家みたいでしょ、と自慢そうに言った。
部屋数が多いので大抵は学生同士二人か三人でシェアして住むことが多いらしい。
アスカはここに一人で住んでいた。

「どう?」

「びっくりした。ぜんぜん散らかってないし、壁から床までぴかぴかに磨いてあるし。
花まで活けてあった。ここ本当にアスカのアパートなのかい?」

「なんでよ!あたしだってドイツの血脈を持つ女よ。ハウスキーパーとしての能力は誰にも引けを取らないわっ。」

胸を張って言うけど、なんとなく釈然としない。
確かに血筋から言えば世界一素直で可愛い日本の女の子もドイツの女の子も。だけど。
世界最強の女のはずなのにあのころ私はどうしてシンジをもっと大切にしてやれなかったのか。
もはや日本女性は滅びたとネルフでは思わざるを得なかったし。周りが悪例ばかりだったしな。
コタツをあげると山ほどみかんの皮とかティッシュとか出てきそうな気がしてたんだ。
まぁ、あの頃日本は常夏だったからコタツは無かったけれどね。

アスカは一部屋一部屋案内してくれた。どの部屋も薔薇のポプリが置いてあって女の子らしい良い香りがした。
洗濯物入れにはラベンダーのポプリが入っていて爽やかな薫りがした。これは昔ながらの洗濯物用の薫りつけ。
ソファのレースの掛け物とかも手作りだって!
驚きの連続で土下座しちゃいそうだった。

「どうっ、見直した?」

「恐れ入りました。」って僕は完全に降伏したわけで。

今日は偶然会ったんだし、その後アスカは僕と一緒にいたわけだし。疑いようが無い。

「変わったんだねえ。アスカも。」

そうだよね。17歳からもう7年も経ったのだから。僕らももう24になるんだ。アスカは院生だし、僕は研究生だ。

「大人になったとか女らしくなったとか言ってもいいよ。」

いや、ほんとうに変わったんだね。7年というのは途轍もなく長い時間なのを実感した。
屋根裏部屋。誰もが子供の頃一度はあこがれたことがあるだろう。
アスカは、ここに低床ベッドを持ち込んでいた。外観のポイントになっている破風がこの部屋の唯一の窓。
天井の高さは1mに足りるかどうかで、壁は屋根の形に傾いている。強力な断熱仕様が可能になったため、
寒さのきつい冬のドイツでもこの部屋に居住できるわけ。
絨毯を敷き詰め、ころころと転がって動くアスカは子供のように可愛らしい。
柔らかいベッドに二人で転がり込んだ。ドイツの大人用セミダブルベッドは僕ら二人でも十分な広さだった。

「ああ、こんなところにも天窓が付いてるんだ。」

「北の人間は日光浴が好きだからね。天窓があると中々良いわけよ。星も見えるし木の枝も見える。」

ベッドの上にぺたんと座り込んで解説する彼女は、あの頃と少しも変わらないように見える。
幾らかボリュームが増えて、胸や腰が大人らしくふっくらとなったけれど。

「アスカ。」

僕は寝転んだまま、君に手を伸ばす。手の先が触れ合った瞬間、自分の方に引き込んだ。握った手を熱く感じた。
バフっと音がして掛け布団の上に転がり込んでくる。その両手を押さえ、顔で顔を抑えるように唇を 交わした。
逆らわずにそのまま舌が絡まってくる。ぴったりとしたセーターが優しい胸のラインを強調した。

「ね、ねえ。先にお風呂に入ってきてもいいかな。」

「まだ覚悟が決まらないのかい?」

「そんなことない。でも、シンジにどこでも見せられるように奇麗にしてきたいの。」

30分程で彼女は戻ってきた。ハーブの薫りが全身から漂ってくる。やや古風な女性のエチケットだ。
僕の下に組み敷かれたまま、アスカの身体は力を抜いて僕に向かって開かれている。
アスカの指が、僕のネクタイを解き、ボタンをひとつづつはずしていく。
それをベッドの横に捨てると自分からセーターを 半分までめくった。
そこに揺れる、引き締まった腹筋と乳房を支える美しい胸筋。2の腕の白い肌が現れる。
口元だけがセーターから現れて、表情が隠れたままアスカの上半身が晒されている。
上半身をこすり合わせる。信じられないほどの快感のハミング。身体中が喜びに弾けそうだ。
最後に真っ赤に上気した頬と額、潤んだ瞳が現れる。喜びに頭の芯がどうにかなりそうだった。
見詰め合っているだけで息が上がり、体中で絡み合わずにはいられない。
僕だけがそうなのではない。アスカが僕自身を受け入れると、言ってくれているんだ。
ブラジャーをはずし、ショーツを腿を転がして脱がせた。アスカは半身を起すとピンを数本外し、金色の髪をほどき横になった。
その長い髪をベッドに広げた。その上に僕は覆いかぶさった。

「あ、あの…シンジ。」「アスカ…やっと戻ってきてくれたんだね。」

そのまま僕らは素肌を合わせ長い口付けを交わした。 長い口づけ、手を握り合い、それから乳房と乳首への愛撫。
背中や脇に汗が飛び散る。火のような身体に舌を這わせ、愛し合った。柔らかく広がっていく下腹部。
和えやかな翳りと輝く大腿部。豊かな腰と張りのあるお尻の線。
そこから立ち上るアスカそのものの恥ずかしい匂い。絡めあった互いの腿と下腹を濡らし合う。
頭が茹ってしまったようなその香りに引き寄せられ、アスカの両足を割り裂いた。内腿にキスを並べていく。

「は、恥ずかしいっ。」

「大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃないわ。考えたらシンジとは初めてだもの。」

アスカの翳りに手を伸ばして触れた途端、彼女はのけぞり声をこらえた。アスカの甘いスリットに口付け、舌でクリトリスを舐った。
彼女の過去の事は知っていた。知ってはいたけれど苦しかった。僕はその時背筋が焼けるような思いをしていた。

「シンジ、だめ。そんなの。そんなとこ汚いよ。あっ駄目だってばぁ。」

その時の顔と顔。交わした目と目。炎のような肉体に飛び散る若い汗。
長いこと舐ってアスカがぐしょぐしょになったあと唇に戻った。激しく息を荒らし、頬は火照り切っていた。

「入れるよ。君の中に。」

「私の、お腹の中に来て。」

僕とアスカはいま一つになる。だけどっ。 下腹部に触れているだけで僕は暴発し、アスカの下腹を精液で汚した。
僕をじっと見つめた後で、彼女はそれを2本の指ですくい上げ、少し躊躇ってそれを唇を開け舌の上に乗せた。

「あ。アスカッ。よしなよっ。」

「シンジのコックから出たもの、だもの。平気。」

さらにその汚れた指をしゃぶって見せた。僕のシンボルは興奮に鉄のように固く膨れ上がった。
目を硬く閉じ、緊張に震えている彼女と唇を併せた瞬間、自分自身を押し入らせた。
口を硬く閉じ、悲鳴を堪えるかのようなアスカの様子。膣壁に熱く包まれた喜び。

「あっ、んんっ。」

「気持ちいいかい?」

あまりにも恥ずかしい問い。身体の細かい震えは、僕の身体にも伝わってきた。喘ぎ声を噛み殺しているのがわかる。
僕は、自分を引き抜いた。その瞬間に仰け反ったアスカの身体と切なげな表情。どうして?という表情が切なげだった。
男の身体に、こんなにも深く反応し、打ち震えている。ぶるぶると震えながら振り返った表情は歯を食いしばっている。

「(ほしいんだね、そんなにも。あんなに凛としてた君が、そんな風に男を欲しがるようにされたんだ。)」

どこの誰とも知れない、どこかの男に。その男にもこんなことしたの。本当ならその純粋さに感動できただろうに。
畜生、畜生。なんでこんなことになったんだ。

「(くれてやるっ!喘ぐがいいっ。)」

凶暴な気持ちが、身体に溢れた。 思い切り恥ずかしがっっているアスカに微笑みながら僕は別の事を考えていた。
アスカの身体をうつ伏せに返し、輝くような両腿の付け根をわしづかみにして、尻を引き裂くように割り裂いた。

「あ、いやっ。」

姫割れが滴ってはっきりと見えた。濡れている。濡れて男を待っている。
深々と僕を咥え込んでいた膣はぽっかりと口を開き、粘液が糸を引いている。その次第に閉じようとする中心。
そこに僕の昂りきった幹をあてがい、愛おしい君を女にした男に怒りをもって突きたてた。一気に子宮底をつき当てた感触。
堪え切れない様子で、苦痛の色さえ浮かべ、アスカが腰を蠢かし声を漏らす。

「あっ、はぁっ!はぁあ。い、いやああ。」

身体が震え、さらに愛液が噴き出していた。
隘路をえぐり直すように、先端を数回抜き差しして焦らす。アスカは声を堪えようとして息を漏らす。

「んっ、ふうっ、あ、はああっ。ひ、ひどいっ!」

ずぶずぶと刺し貫き、引き戻す。

「こっちのお腹のほうも気持ちいいかい?」

「ああっ、だ、めえぇっ!ゆ、赦してぇっ。」

何回も何回も、アスカの反応を、こんなにも乱れさせてしまう弱さを教え込まれているアスカの様子を見て、
怒りと情けなさが溢れる。どこの誰が、僕の凛々しいアスカをこんなに弱い女にしたんだ。

僕はいきなり、奥の奥まで貫き激しく抽送を繰り返す。豊かな尻を高く掲げさせ、腰骨を持って突きまくった。
がくがくと頭が前後に打ち振られ、金の髪が打ち振られ。 アスカは自分で尻を僕のリズムに合わせ振りはじめた。
なんて淫乱な踊りだろう。

「ひあっ、あっくうぅ。来る、くるっ。」

何回も何回もアスカは簡単に達してしまう。リズムが合うたびに悲鳴が昂る。

「ひっ、ひっ、ひあっ!強いっ!」

そのたびに僕は自虐的な思いでアスカをさらに深く突く、突き上げる。

「い、あ、行く。お腹、気持ちいいの。だめ、だめぇっ。ああっ気持ちいいのおっ。」

涎れを吹いて、アスカはもうつんのめって倒れる寸前だ。そうだ、行け、恥知らずに行ってしまえ。
行くとか来るとか、そんな言葉をどこで憶えたんだよ。誰が教えたんだよ。涙がこぼれそうに僕は情けない。
アスカはもう、誰に抱かれているのか判らないのかもしれない。 僕だよ、僕が抱いてるのに。
もう一度仰向けにして貫く。膝を両肩に抱え揚げ、腰を上げさせ股間を激しく突いて突きまくった。
乱れ、叫び、白い肢体を壮絶な紅に染め上げ、苦しげに切なげに顔を振り、髪を乱し、四肢を強張らせ、
全身を弓のように反らせる。お尻だけを突き出して身体を丸める。両肩に抱え上げた膝を締めて僕の頭を強く挟み込む。
両の太腿がガクガクと激しく痙攣し叫び声を止められないんだ。

「ひゃっ、お願い赦して赦してぇっ。お願いシンジ、赦してえっ!あああっ。」

さらに僕は立ち上がると、アスカを逆さまにぶら下げたまま突きまくり抉り通した。

「あっ、だめだめええっ、やめっやめええっ!ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

叫び声を上げていたアスカは、悲鳴が小さくなり微かに呟くだけになる。

「ひうっ、ああああっ、だめ、赦して、だめぇ。気持ちいいのぉ。お腹気持ちいいのぉ。」

両のこぶしを握り締め、堪え切れなくなって、僕の頭を挟んでいた力ががっくりと抜けてぶら下がった。
気を失ったアスカをとぐろを巻くようにベッドに置き、真上から体重を掛け、
子宮まで衝撃が伝わるほど攻め立てる。さらにまた気づいたアスカがひどい悲鳴を上げる。

「あっ、だめえっ、良すぎるのぉ。嫌、行く、壊れる、嫌っ、ああ狂う、狂っちゃうようっ。」

「アスカッ。」

「シンジッ、シンジイッ!してっ。お願いしてぇっ!」

「アスカは、僕のもんだ。」

「私は、あなたのものよっ。」

「永遠にっ。」

「エイエンニッ!」

「行くよ、アスカ出すよっ!」

「ああっ、来て、来てええっ。お腹にシンジのが欲しいっ!」

「うおおおっ、アスカ孕め僕の子を産めッ。」

「あっ、産む。産むわ、だからもっと出してっ!孕ましてっ。お腹の中に出してっ。」

頭を殴りつけられたような衝撃が走り、僕は最後の最後までスペルマの塊をアスカの胎部に放った。
アスカの身体は僕を吸い込むように引き絞って、射精は長く長く続いた。

「ああっ、お腹気持ちいい。あったかいの、お腹気持ちいいよう。シンジのペニス気持ちいいのぉ。」

その後、僕らは徹夜で4度愛し合って、目が醒めたら次の日の夕方だった。
アスカはお腹を抱え込むようにして幸せそうに眠っていた。

アスカは寂しかったのかもしれない。何かに縋らなければ生きていけなかったのかもしれない。
彼女を女にした男を僕は憎んだが、結局その男のお陰で遅れてきた僕はアスカと生きて巡りあう事ができたのだ。

「そのことを僕が知ったら彼女を見捨てるのではないかと心配していたわよ。あなたたち日本人は処女性を大事にするから
とかなんとか、いまどきほんとにそんなことあるの?あれ、これしゃべったらまずかったかな。」

今時のドイツでは考えられないほどアナクロな考え方をするアスカだが、それが日本の血だったのだろうか。
考えれば彼女のお母さんだって、さっさと離婚してしまえば狂うほど苦しまずに済んだのだ。
只どちらがまともな考え方なのか、いまでもわからない。
少なくとも僕らは今後一生一緒に生きていくだろうと言うそれだけ。
アスカの前の男は、おせっかいな友人達(僕もここに留学したんだ)が教えてくれたところによると、
あの本屋でアルバイトをしていた日本人で、彼女にアルバイトの代理を頼んだまま、いつの間にかこの大学街から
姿を消してしまったらしい。カメラマンを目指している男だったと聞いた。アスカは黒髪の彼を愛したのか彼の代わりに僕に応じたのか。
アスカの心の底の事はわからない。僕と彼、アスカはふたりの男を愛したのだろうか。どちらかはどちらかの代理だったのだろうか。

あそこにあった日本語の小説は彼のものだったのかもしれない。
ユリアヌスは誠実でまじめな皇帝だったが、何回も暗殺されそうになり、それでもローマを守る為自らペルシャと戦い、病戦死した。
古の神々と共に彼は去っていき、彼の改革は新しい世に残すべきものを僅かに残しただけで終わった。子供も残さなかった。
孤児であった彼は、その間もなく死ぬだろうという事を覚悟していたのかもしれない。愛し守らねばならない者をあえて残さなかったのだ。
もしかしたら、男は心を病んでいたアスカを本当は守っていてくれたのかもしれない。そう思うことにした。

「シンジッ、午後の講義、いつ終わるの。」
「えっと、2時50分だな。」
「ええー、まだ4時間もあるじゃん。」
「当たり前だよ、ついさっき来たばかりだろ。」
「だってぇ。我慢、できないんだもん。」
「我慢て?」
「あれよ、あ、れ。」
「家出る前にもしたでしょッ!」

アスカは最近際限が無い。下手すると学校休んでも抱き合っていたがる。
こんなにしてばかりいるのにどうして妊娠しないんだか不思議なくらいだ。
背中のディバッグには新しいショーツとか汚した時の換えのスカートとか避妊具の予備とかも詰め込まれている。

「あ、あーん。ちゃんとお腹の中に出してね。は、はああっ。シンジイ。」

「アスカ、ちょ、ちょっと声抑えて。」

「大丈夫よ、このお店はめったにお客来ないんだから。」

結局バイト先の書店で(大学から5分)本棚に寄りかかって立位、例のカウチに腰掛けて、アスカが跨ったり。
レジの上に押し敷いて後ろからとか。教会の尖塔のようなこの本屋で女の子を抱くのは罰当たりなことをしてる気がするんだけど。
アスカのスレンダーな肉体。張り詰めた大腿部、丸く輝くお尻。
細い腰と広がって行く淫靡な下腹部、台形に絞られた股間と柔毛。滴り落ちる愛液。
刺激が足りないと自慰までして見せ、僕をたまらなくさせる。
だれがこんな誘惑に打ち勝てる?寝る前も同じ。何でこんなにアスカは荒淫状態になったんだろう。
もし、してやらなかったらどうなるだろうか。とても恐ろしくて拒めない。
恥ずかしげもなく何度も「シンジのぺニスゥ」をねだるんだ。しゃぶりついて無理やり準備を整えるんだ。
公園の木陰で、教室のカーテンの陰で。図書館やゼミ室や、アルバイト先で。そうやって僕を誘う。
僕は結局一日に朝起きて1回と書店で1回。帰り道の夕方の公園で一回と、家に帰って食事前に一回、
寝る前に一回の5回を最低こなしている。まだ若いからいいけど今後はどうなるんだろう。
にっこり笑ったアスカの笑顔には僕の股間はどうしても逆らえないようだ。

「シンジィ、明日もいっぱい可愛がってね、SEXしようね。」 

そうして耳元でつぶやく。

「わたし、赤ちゃんが欲しいのお。だからお腹の中に一杯出してね。」 

とろんと溶けたような目で、アスカはねだる。多分本気で言ってるんだよな。
それが君の幸せだと言うなら僕はいつだって君を抱きしめて眠ろう。君を抱こう、いつまでも。  

                                         
                                           おわり




2006-11-23 再会_こめどころ星空のステンドグラスのある古書店と破風のあるアパート 再掲載時修正2009-06-27

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