こんなアスカを大好きだ【11月】

 
  彼女の身体と永遠という事
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こめどころ




11月


キッチンの暖房を強くした。
目が覚めると雨音が聞こえた。その音は煩いというよりもむしろ眠気を誘う程度だった。
だんだんその音は大きくなり、起きだして居間のシャッターを上げるころにはかなり激しくなっていた。
カーテンを開くと、雨が吹き付け窓ガラスを雨が流れ、ガラスを流れる曲線を描く水紋と僕の影が映っていた。
何時もよりだいぶ寒いのはガラスが冷えているからだろう。
もともとこの家は個室ごと温度を設定するようになっているから板張りのダイニングキッチンは冷える。
燃料費の節約という事もあるし、夜は僕らの部屋以外必要ないから合理的とも言えるけどね。
たまに夜中に冷蔵庫に飲み物を取りに来るくらいは暖房なんていらないし。
まあ、今朝は寒いから暖房もいいだろう。急暖のスイッチを入れた。そうして朝食を作り始める。
昨日はアスカの当番で、焼いた油揚げとナスとキュウリの漬物。
赤魚の焼き物、キャベツと卵に絹ごし豆腐の白味噌汁だった。
では今日は刻んだハムで、チーズオムレツを作ろう。
卵とひき肉はほの甘く。汁気を多く、そしてケチャップでアスカと書いた。
これが好きなんだよね、彼女は。

「う〜寒い。なぜダイニングに最初から暖房を入れとかないのよ!」

さっそくアスカのお出ましだ。暖かいむくむくのタオル地のスリッパをはいている。

「このくらいの寒さ、身体にいいくらいだよ。熱いお茶や味噌汁もそのほうが旨いし。」
「家で耐寒訓練するのはやめて頂戴よ。湯冷めしちゃうじゃない。」
「ドイツから来た癖にアスカは寒がりだな。ぼくなんて常夏育ちなのに。」

第一ダイニングキッチンが寒いと思うと、起きる気になれないとか我儘娘は言う。
朝になってから暖房を入れても、温かくなるまで待ってたら学校に間に合わない、というのがアスカの見解だ。
だからアスカが当番の日は25℃設定のタイマーが掛っていて、起きてきても温かい。
でも朝のキッチンはまだ真冬じゃないから。霜が降りてるわけじゃないし大体20度近くはあるじゃないか。
結局寒いのは僕の部屋なんだよね。だから起きだせない。2人で寝ている布団の中はとても暖かいから落差が大きい。
アスカの部屋は(タイマー入れてあれば)暖かく起きれるわけだから。僕の部屋に寝るからいけないのさ。
僕の部屋はもともとフローリングなんで寒暖差があるんだよ。それでもコンフォートマンションの納戸より10倍もましだ。
床暖房なんか無かったし(必要もなかったしね)夏場は暑くて蒸れて最悪だった。
その上あそこは換気扇だけしかなくて夏場はエアコンも無くてかき氷も一瞬で溶けたものだ。

「自分の部屋で寝て着替えてからダイニングに来ればいいだけのことじゃないか。薄着し過ぎなんだよ。」

思わず独り言。まぁ薄着って言うより殆ど何も着てないみたいなもんだけど。
それと週に4−5日は僕の部屋で寝るからいけないんだ。まぁ半分は僕が誘ってるわけだけどね。

「さて、それは誰のせいなのかしらね。」

やっぱりアスカだ。思考がシンクロしてるとしか思えない。
ブラとショーツだけなんて。お風呂上がりのピンク色の頬、肩、腕。
つやつやの腿、全身が透けて見えそうっていうかほとんど裸だよ…女子高校生が朝からそんな格好でいいのかよ。
大体風呂上がりなら温まってるし寒いという点は問題ないだろ。



「朝っぱらからそんな恰好をしてるからだろ!せめてタオルケットでも着てからなら問題ないじゃんか。」
「聞くけど自分はぬくぬくパジャマ着てるくせに、何故わたしは裸や下着姿で寝てるんでしょうか?」

たしかに今朝も僕が布団から抜け出した時は長い髪以外、身体になにもまとってなかったよ。
でも夜中だって寒そうだと思って毛布を掛けてあげたのに、僕にしがみついて剥いじゃったのは君じゃないか。
いや、それでも今はシャワー浴びた後だから、少しはましな格好なんだろ、キャミとショーツ一枚でも。

「そ…れは、僕だってちゃんと自分で着替えたわけだし。」
「へえ、そうなんだ。ちゃんと着かえて寝なかった私が悪いって言いたいわけね。
どうせ私なんか勝手に裸で寝てたんですもんね。みだらで悪うございましたわね。」

いや悪くはないよ。その恰好をずっと抱きしめたまま眺めていたのは僕だし。
それにさんざん抱いてその後でそのままシャワーを浴びないまま寝させなかったのがまずかったのも分かってるよ。
着替えって言うか、ーー0から着るのも着替えって言うのかな。
まあ、僕たち男は拭けば済むってとこがあるじゃないか。でも女の子はそうはいかないものね。
終わった後の始末だって僕らより大変だし、結局シャワーを浴びなおさないとって事でしょ?
その辺はみんなも知ってるだろうけど、いい加減にすると逆流しちゃったり、シーツを汚しちゃったりするじゃないか。
そのあたりが、女の子たちが怒る原因、やっと戻ってくると彼は高鼾(いびき)みたいな。
まして、アスカみたいな感じやすい子は気が遠くなったままとか、そのままになっちゃうことは結構多いわけで。

最初は僕だって知らなかったことだけどさ、アスカってちょっと他の子と敏感さが違うみたいでさ。
何気に彼女の話とかするじゃないか、男同士で。自慢半分、好奇心半分で。それで知ったんだけどね。

お前も早く惣流とやっちゃえよ、いいもんだぞって、そういう話の中で言われたんだ。
僕らは公認の恋人同士だけど夏休み前は身体の関係はまだないみたいと言われていた。
(実際夏休み前はそうだったし)
ちゃんと抱いてやらないと女の子は不安がるとか逃げられちゃうぞ、とか。
ほかの男に取られちゃうぞとかよく言われてたんだ。
でさ、あの、どのくらい自分の彼女は反応するかって下賤な話も男子は自慢しちゃうことがあるんだよ。
そういう時に聞いてると、だんだんわかってきたんだ。すごく敏感な子と普通の子がいるってこと。
つまりアスカは感じすぎるんじゃないかってこと。それもかなりもの凄く敏感みたいなんだよね。

制服のまま後ろから抱き締めて愛撫するだけで、簡単にアスカは立っていられなくなる。
髪に指を埋めて首筋に唇を這わせるそれだけのことでアスカは悲鳴をあげてもがき、息を荒らす。
鞄を床に落としてしまう。ホックとファスナーを外して制服のスカートに手を入れて下着をまさぐると、
もう既に僕に身体はすっかり抱かれたがってもたれかかる。

「馬鹿、馬鹿ぁ。」

そう言いながら泣きべそを書いたみたいに目の縁を赤くして。僕はセーラーの下から手を入れてブラを外す。
そのまま下半分を脱がしソファに手をつかせる。上半分だけの制服姿。えんじ色の大きなリボンが揺れている。
その姿のままでしばらくの間愛撫を続けると、アスカは「厭」とか「馬鹿」とか「やめてよ」とか言い続ける。
でも、感じ易すぎる彼女の身体は恥知らずに反応し、彼女の言葉も聞き取れない喘ぎ声ばかりになる。
ひざの裏側にまで流れるアスカの体液。その匂いに僕は半分獣みたいになって腰に手をかけて引き上げ襲う。
だから、さ。そのまま恥ずかしい格好のままパッタリ気を失っちゃうんだ。目を固く閉じて唇が震えてる状態。
膝と腿を震わせて、初めてのときは本当にびっくりして一生懸命呼んじゃったくらいだった。上半分制服のまま
ソファに抱きあげて横たえた。
しばらくしてうっすらと瞼が開く。

「わたし・・・どうなったの。」

そのあと直ぐに、自分がどうなったのかが分かったみたいだった。下半身にかけたバスタオルをめくると、
見たこともないくらい、かぁっと顔中を染め上げたアスカ。

「シンジがしつこすぎるから、こんな事になるんじゃない。」

気がついた後、なんだかいつもより急に声が小さくなった。口調はともかくその様子は可愛いったらなかったんだ。


それがあんまり可愛いかったら、今でもまた強引に引き寄せてしまう。
悲鳴を上げるアスカをまた何回も抱いてしまう。
キミだって抗えきれなくて結局僕を受け入れる。敏感になってるアスカはどんどん感じやすくなっていく。
長い腿が僕の身体に絡みついて締めあげる。僕はその分深く激しく君の中に突き刺さり、堪え切れなくなって。
続けざまに悲鳴をあげてくったりしたまま、もう目が覚まさない君。それはしょうがないじゃないか。
僕もだいぶ上手になったし、お互い馴染んだ身体になったというか。これって全部僕の責任なのかな。
もう初めて君を抱いてから3か月以上たったし。週に1〜2回だったのが毎日のように抱くようになった。
こんなことじゃいけないと思ってるけれど、肌を合わせてしまうとお互い拒めなくなる。

肌を合わせた途端、僕らは宇宙の深淵のかなたに飛ばされたように感じる。一体僕らはどこにいるんだろう。
柔らかいベッドの上にいたはずが、僕らはきつく抱きしめあって宇宙の深淵にその逆巻きの中へ沈み込んでいく。
白い肌の中に僕は限りなく溶け込んでいく。アスカの唇と舌が僕に絡みつき唾液をからめ捕り、背と腰を抱きしめる。
アスカの長い豊かな髪。耐えられないほどの甘く僕を刺激する香り。細くそれでいて豊かな腰。柔らかい内腿と
弾力のある大腿部。そして、僕を限りなく柔らかく包み込むアスカの。
僕は堪え切れない。可哀そうな彼女に激しく汗まみれになりながら身体をぶつけずにいられないんだ。
指を咥え顔を振り、髪を振り乱す。アスカの身体が、染まっていく。ピンクから濃い桜色に染まっていく。
細く高い声をあげ、こめかみや身体全部に汗の粒を浮かべる。
真っ赤に頬を染め、素裸のままで気を失ってしまうのは僕のせい?
ゆすっても呼んでも、そのまままま。激しい息遣いで微かに呼ぶ僕の名前。優しく肌をさすっているしかない。
でも正気づくと、声を少しだけ荒げて、赤い顔のまま食ってかかる。

「その代り、ちゃんと後始末も…してあげてるじゃないか。」
「そっから先は言うんじゃなぁいっ!!」

真っ赤になってアスカが叫ぶのはいつものことだ。目の前すれすれを平手が風を切って飛ぶわけで。
ティッシュで押さえたりショーツをはかせたり、色々したのがお姫様のプライドをいたく刺激するらしい。

「キミが感じ過ぎる体質なのは、僕のせいじゃないだろ!」

だからこっちも怒鳴り返すことになるんだ。
悔しそうに唇を噛んでるアスカの表情に、僕も顔が緩んじゃう。

「それって自慢してるみたいに聞こえるわよ。いじわる!」

ハイビスカスとか椿とか紅バラのように赤くなるってホントにあることなんだな。
睨んでも全然何時もの迫力はない。猩猩トンボの赤いお腹みたいだ。
朦朧となったアスカがだらんとベッドに倒れてしまった様子を見下ろしながらパジャマを着るのは最高!
白い背と、ハート型お尻が可愛くて、潰れた乳房が胸の横からはみ出してる。金色の長い髪が身体を覆って
手と足が投げ出されて、くびれた腰をみていると僕はアスカをこんなにも愛していることに築かされてしまう。
悪いとは思ってるんだよ。でもさ…ちょっと優越感とか支配欲を刺激されていい気分なのがわかるだろう?
アスカみたいな気の強い恋人ならなおのことだよ。それって皆もわかるよね。胸がドキドキと激しく鳴る。
写真でも撮りたいって思うけどそれはしない。あとで知られたら命の保証がないもの。
でも、例え次の日のシーツの洗濯が大変だとしても止められないよな。
(照れ隠しにアスカが言い付けるんだ)

TVが朝の天気予報を流している。今日は一日雨だそうだ。それを聞いてまた眉根を寄せる。
だけれど機嫌はケチャップで書かれた名前を見て、ちょっと良くなったみたいだ。少し頬に笑みを浮かべた。

「明日には輪島上空に寒気が流れ込み、さらに冷え込みますので暖かくしてお休みください。
甲信越関東でも山間部は雪となるところが多いでしょう。」

さすがに明日は暖房タイマーを入れとかなければならないかな。風邪をひかせたりしたら看病しろとか言って
また大変なことになっちゃうからね。ソフトクリームとか季節外れの果物とかほしがるし。





「なあ、碇。ちょっと相談に乗ってくれよ。」
「おう、なんだ。」

僕も最近はいっぱし剣道部の猛者を気取ってるんで、違和感のある人はごめん。
剣道部の役員から解放されたけど、急に練習をやめると身体が落ち着かない。
ゆっくりやって来て、軽く流し汗ばんだくらいで先に上がる。練習時間は3−40分くらいだ。
シャワーを浴びてさっぱりしたところで帰宅する。今日はアスカは来なかった。

「おまえは、惣流と長いんだろ?何でも中学時代から付き合ってたとか聞いたぞ。」
「まあな。セッちゃんに聞いたのか?」

セッちゃん―セイミさんていうのはこの男、剣道部の元主将の彼女でバスケのキャプテンをしていた。
隣のクラスだけどアスカとも仲がいいんだ。たまに廊下で話してるのを見かけたりする。

「ああ、でな、あいつが言うには碇と惣流はもう深い仲だから相談してみろって。」
「深い仲っていっても、俺たちが本当に付き合いだしたのってこの夏休みからなんだぜ。」
「中学からじゃなくてか?」
「あ、いや付き合いはあったんだ。あったけどそれは全く友人としてというかそう言う事で。」
「ああ、この夏休みにできたって事か。よかったじゃないか。惣流っていろいろ面倒そうだからな。」
「ま、まあな。確かに手はかかるし。色々煩しいことも少しはあった、かも。」

確かに、僕でなければ耐えられなかった事も一杯あったんじゃないかと思いだす。
だがセッちゃんを通じてアスカの耳に入る可能性も憂慮しなければならない。口は固めにしないと。
歯切れ良く気軽に返事なんか出来ないわけで。この辺が3年かかった理由なのか?

「おまえに告るって前言ったろ。、その週末にあいつに告白したんだ。」
「よくやったな。おめでとう。」
「いや、まぁ、うん、ありがとう。それで、ついこの間、身体の関係になっちゃったんだよ。」
「うん。」

郊外の草原で見ちゃったこいつら2人は、結構過激だった。アスカのやつ真っ赤になってたな。
時間的に遡るとあれでまだ付き合いだして一か月にもなってなかった頃だったのか?
全く最近の若い奴は性急だよな。

「それで、まあ正直言って俺は堪えが効かなくてさ、会うたんびにしたくなるんだ。」

主将はちょっと躊躇って、告白するみたいに言った。

「おれの部屋に来たときなんか、嫌だって言われたけど無理やり何回もしちゃったし。
あんまり腰が痛いとか嫌がるから、家の近くまでおぶって帰ったこともあったんだ。」

いくらなんでも擦り切れそうなほどやるってのはやりすぎだろ。最初はケガしてるみたいなもんなんだから。
ゆっくり始めるとか、身体の準備が充分できるまで待つとか。最初から我慢は無理なのかな。
僕はアスカの誘惑に慣れてたから、そんなにどぎまぎしたり焦らなかったのかの知れない。
それでもアスカと抱き合うたびに僕はあいつを貪(むさぼ)るとしか言いようのないほど激しく抱いてしまうのだけれど。
僕はアスカを抱くたびに幸福感と後悔と申し訳なさで一杯になる。アスカは僕に抱かれることをどう思ってるんだろう。
もし、妊娠したりしたらそのことを喜ぶだろうか。僕は避妊してるけど、彼女は昔みたいにピルを飲んでるわけじゃないし、
夢中になって忘れちゃう時だってある。

「まぁ気持ちはわかるよ。好きって言うのは男の場合やらせろって言うのと変わらないからな。」
「そっ、そうだろ。それも含めての好きなんだよな。」

ちょっと言い訳っぽいけど、それもまた一つの真実だ。

「だからと言っても、毎度何回もってのはまずいだろ。ケダモノはいけないぞ。妊娠させたら困るだろう。」

と言っても男は我慢効かないって時もあるからな。女の子の身体って麻薬みたいなもんなんだ。
覚えると癖になるって言われるのはそのせいだろ。

「毎日何回もじゃなく、2日に1回とか3日に1回とかにするとか。」

と言って自分はどうだ?正直言うと1日何回もすることがある。休みの日なんか朝から晩までベッドにいたこともある。
あの時は、何回やったか覚えていないほどだった。
アスカは拒否しない。あの子はすぐ濡れちゃうって言うか…自分のほうから求めてくることもあるけどいいのだろうか。
けど僕の方だってもしかすると色キチガイかもしれない。アスカに触れていると僕の克己心なんかないも同然だ。

「おまえ、どうだよ。今どのくらいしてる?一緒に住んでるんだろ。」
「そっ、それは一応内緒だよ。どこで聞いてきた。…またセッちゃんか。」

アスカのやつ、結局秘密なんて言って、情報だだ漏れじゃないか。知れ渡ったら退学もんだぞ。
僕はって言われても、夏休み前は逆に誘惑されてたんだよな。今だからやっとわかったけど。
あの時素直に言う通り抱いてたら、もっと早く毎日毎日だったかも。
何であんなに我慢してたんだろう。自分の中のアスカの綺麗なイメージを守りたかったのかな。
どうせからかっているだけさ、と思ってたこともあったしな。

結局はアスカと自分のつり合いとか、自信の有る無しとかだったんだ。引け目とか劣等感みたいな。
彼女を抱くのは、まだ怖かったって事もある。もし、妊娠でもさせたらどんなことになるか。
女の子はどんな子でも自分よりも大人に見える。
でもアスカを本当に崇拝してたって言うのが一番正直なところかもしれない。肉欲よりも、凛々しくて
毅然とした、戦いの女神のようなアスカに本当にあこがれる気持ちのほうが勝っていたんだ。
しっかりしてよ、男らしくなってよ、私を守ってよとアスカが叫んでいるのが僕には聞こえていた。

でも、どんなに幼く見えても清楚な子でも、男に抱かれてるって聞けば、穢れて見えてしまう。
男の子なんて勝手なもんだよね。アスカが処女だろうってことはまず間違いないと思ってた。
アスカが時々私は男くらい幾らでもいたわよ、未経験なわけなんてないでしょっ!なんて怒鳴って
そのたびに僕はへこんだけど、あの潔癖症の子がそんなことはしてないだろうと信じていられた。
だからもっと自分に自信がもてるようになってからって。結局、迷いながらずっと待ってた。
自信と横柄の塊みたいだったアスカがだんだん僕の事を本当に好きでいてくれるって信じられるようになって。
そうだよ、自分の大切で、愛おしい愛くるしい存在として、次第に見つめていられるようになったんだよね。

実際可愛かったんだ。あんなに涙をぽろぽろ流して泣くなんて思わなかったよ。
おかずにしたこともあったけど僕にとってアスカは性欲とか肉欲とかの対象ではなかったんだよ。
いなくてはならない片割れになっていた事が解ったんだ。

僕らはキスをした。そのキスは本当にキスに為だけのキスで、アスカの青い瞳と清らかな唇が僕を水晶の中に
アスカの為に僕の全てを賭けさせた。そしてあの浜辺で僕らは互いを理解しあう事が出来た。

僕らは結構純粋に、好きって言う気持ちだけに従って結ばれたと思う。
あんなに魅力的に見えた肢体であっても、実際にはそんなに性欲に引きずられてはいなかったんだ。
それなのに、今はもうためらいもなく性欲に押し流されてる。たった3−4ヶ月で。いいのかこんな事で。
繰り返すけど、時々は後ろめたくなって反省してるんだ。これでも。

夕焼けを背にした校庭と隣地との境に植えられた欅の大木がまっ黒な影になって並んでいる。
そこにはムクドリが大群となって枝に鈴なりになっている。何かの音に驚いては一斉に飛び立ち夕焼けの
空を一回りして、また少しづつ枝に戻る。
僕の彼女への恋心はいつもあんな風に飛び立ってはまた迷った挙句戻ってくる。

「おい、どうした?」
「おう、なんだったっけ?」
「しっかりしろよ。さては惣流の身体反芻してぽ−っとしてやがったな。いい女だもんなあ。」
「いや、まさか。それよりセッちゃんがいるのにそんなこと言っていいのかよ。」

初めて結ばれた日のことを思い出した。
朝食の後、もう一度部屋に戻ってぼくらは手をつないだまま横になった。
なにか指と指の間から今までにない温かいものが互いの身体を循環している実感があった。

「そうだな、俺たちは最初、行為そのものよりただ抱き合っていることの方が。」
「うわ―、おいまさかって奴だな。セイミが言ってた通りだ。清純カップルだったんだなー」
「なにを言ってんだよ。」
「惣流が言うには、行為そのものよりただ一緒に丸くなったり、背中あわせになってる事の方が幸せなんだって。」
「それ、それってアスカが言ってたのか?」
「そうなんだろ、セイミがそう言うんだから。おい、どうした。顔真っ赤だぞ。」

かーっと顔が赤くなったのは自分でも承知してた。たしかに最初の日はそうだったよな。
なんだよいまさら、そんなこと知ってたじゃないか。そしてずっとそうして来たじゃないか。
アスカが僕に求めてたこと、あいつを可愛がることって自分にとってどういう事だったのか。
息が苦しくなって、吐き出そうとしたら、まるでボールのような息の塊が空中に浮かんだ気がした。

「おまえ、彼女に、本当に、どうしてわたしのことが好きなのって聞かれたんじゃないのか。」
「おい、驚いたな、どうしてわかった。」

いろいろ僕から見たら我儘とか無理を言うのは、心配なんだ。馬鹿だなアスカ。
女の子の心配事なんて限りがないのかもしれない。それはセッちゃんもアスカも同じなんだろう。
僕らは一緒に住んでいられるだけ幸せなのかもしれないな。

「俺もお前に相談されて良かった。アスカだって同じことをきっと心配しているんだろうからね。」
「そうか、じゃ何か奢れ。」
「馬鹿、相談料が先だろ。」
「セイミに貢いでるから、財布なんかからっけつだよ。弁当の残りのコロッケ、食うか。」

野郎の食い残しなんか食えるか。結局今回は僕のおごりで駅前にラーメンを食いに行った。
今度会った時は奴のおごりって事になった。
アスカと一緒にいる時間をもっと大事にしよう。もうちょっと優しくしよう。
そんなことで、喜んでくれるんだから、女の子は本当にかわいいと思う。
まぁ多分あいつだって同じこと言ってるだろうけど。

アスカは昔から、ちっとも変っていない。僕がずっとアスカのことを好きでしょうがなかったようにね。
だから僕はいつまでもアスカを抱きしめ続ける。愛し続ける。いつまでだって、アスカは僕の魂。
彼女の笑顔が、その瞬間蘇った。僕らの前にはまだまだ先が見通せないいほどの永遠の時間が広がっている。
この先、何時までも、僕は彼女を抱きしめていることだろう。だけどそれはいつまでも保障されている事ではない。
いつか僕らは銀河の渦巻きの中にこまぎれになって塵じり振りまかれてしまうかもしれない。それでも2人は
別れ別れにはならない。いつまでも僕らは広大な宇宙の中で引き合って絡まりあうことだろう。
そして再び同じ恒星系を形成することだろう。
アスカ。僕はいつだってどこでだって君を見つけてみせる。



「ねえ、最終進路調査を提出した?確か月曜日が締め切りだよね。私日体大に推薦希望なんだ。」
「進路調査ねえ。なんか夢みたいな話よ。保育短期大学から保母さんになるのもいいかな。」
「それってもしかして、短大卒業したらそのままお嫁に行くとか?」
「一体だれのとこに行くっていうの?もしかして碇のところ?どうやって私の事養っていくのかしら。」
「なんとでもなるんじゃない?あなたたちは筑波の学園都市から助手として誘われてるんでしょ?」
「大学の助手なんていくらもらえるか知ってる? 月に8万円くらいだよ。官舎の費用が3万で水道光熱費が2万だって。」

セイミがため息をつく。2人で16万光熱費と家賃が5万じゃとても暮らしてはいけない。

「世の中甘くないのね。」
「学費はまた別だしね。奨学金も出るらしいけどちょうど消えちゃうらしいわ。」
「それじゃ、簡単に結婚て分けにはいかないか。」

だって準教授のサラリーだって15万だよ。アルバイトでも一生懸命やらないと。それもいいかもしれないけど。

「その割にはなんか楽しそうにしてるよね。ふたりで助け合って暮らすのが嬉しいの?」
「そうかな。うん。そうかもしれない。」
「それにさ、遮音建築じゃないんだって。」
「上司が隣にいたりして。新婚さんには辛いわねえ。」

以外と女の子同士の話しってきわどいのよね。
ごめん、まだ本当の事は誰にも話せないのよ。入学と同時に結婚だなんて。
進路希望書には「卒業とともに進学。同時に家庭に入る予定。」と書いた。これはあたしの夢。
シンジはなんて書いたんだろう。昔だったら無理やり見たかもしれないけど、今は怖くて見れない。
戦いはまたいつ始まるか分からないし、そうなれば私たちの幸せな時間はどうなるか分からない。
冬月さんたちが筑波に私たちを置いておきたいのは、いざという時に備える必要があるから。

「なんかさ、シンジの奴この頃妙に優しいのよね。」
「そういえばフジQ(剣道部の前主将)もそうよ。一時はほとんど猿みたいにやらせろばっかり言ってたんだけど。」
「もう飽きたってことじゃないでしょうね。」
「まさか。回数減った分、なんか妙に優しいって言うか。ーーそれはそれで大切にされてる感じで嬉しいんだけどさ。」
「ああ、それは確かにシンジもかもね…」

なんであんなに私を抱いてばかりいたのに、一緒に丸くなって寝てるばかりになったんだろう。

『将来のこともあるから自分を大切に。』

先生たちが言うたびにわたしは思ってた。
馬鹿ね。大切に思うからこそ将来を共にするあいつをがっちり捕まえとくんじゃない。

日本の女生徒が潔癖なのは文化の違いだけど、それだって男の子との付き合い方とは直接の関係はないじゃない。
むしろ、そんなことで全てが崩れるならその文化というか生活に問題が大ありなんじゃないかしらね。
SEXで身を持ち崩すかどうかなんて、ちょっと考えたらナンセンスな話だってすぐわかりそうなもんだ。
つまり変に重要視しすぎてるから、ねじ曲がるんじゃないかしら。いやらしく考え過ぎなのよ。
結婚する前はいやらしいなら結婚したって厭らしい行為に違いはないじゃない。

でも、肌を合わせ抱き合っているより、一緒に眠っているほうがずっと安らいでいる自分がいるのはなぜだろう。
女同士の話もあるから、今日はセッちゃんと一緒に帰った。
セイミなんて変な名前なのはお父さんが化学の教授だからだ。彼氏の剣道部前主将はフジQというあだ名だ。
こっちのお父さんは物理の先生。だから名前が不二久。フジクという読みでフィジクスの意味だ。
うちの学校は趣味に走った名前が多い。素子、電子、粒子なんて3姉妹のお父さんの職業は推して知るべしでしょ。

「これから先のことって、よく考える?」
「なに、Qちゃんとのこと?セイミはQちゃんと直ぐに一緒になりたいの?」
「あいつとの事だけじゃないけど。こうして日々を過ごしていくことの先に何があるのかって。
また戦争でも起きれば、あいつと結婚して一緒になる前に死んじゃうかもしれないじゃない。
昔みたいに、好きな人が迎えに来てくれるのを待って、無為な毎日をどんなふうに暮らせばいい?一刻も早く一緒になりたいと思わない?」

そうよね、わたしとシンジはこの日常に戻ってこれたこと自体が喜びだけど、普通の子は違うものね。
わたしたちは、戦闘でいつ死ぬかもしれなかった。今二人で生きていられるって事だけが貴重で喜びだもん。
何万もの人を殺した私の手は血まみれだし、シンジだって親友をオタマジャクシか蛙のように握りつぶした感触にいまだに苦しんでいる。
でもクラスの子たちだって20世紀に1億2千万もいた日本人が3千万になる様な状況を生き抜いてきたのだ。
きれいなままで生き抜いて来れたとは限らないじゃないの。人の食物を奪い取って食べたこともあったかもしれない。
片親が多いし、施設から通っている子も多い。地方政府の援助や里親制度の充実で生きてこれた子が多いのだ。
わたし自身だって、軍属でなかったら教育も技能も何もなかったに違いなく。生きていられたかどうかも怪しい。その代わりに人を殺してきた。
欧州は極寒で日本よりずっと生きにくかったもの。最初の冬から内戦でバタバタと人が死んで行った。
シンジがいくら可哀想な育ちと言っても、凍え死ぬことも人を殺して食物を奪う事もなかっただろう。ドイツのプロトタイプエヴァを稼働させるたび、
凍りついた兵士たちを踏み潰して歩いた。敏感な足の裏に骨の砕ける感触とバキバキという音を耳は拾った。血潮でぬかるんだ道を歩いた。
ドイツでは使徒戦役後でさえ内戦が続いた。ジャガイモ一個ベーコン一枚の為に人が大勢死に子供すら動員され殺された。

「この先にかぁ。」
「大学に行って碇君と学生結婚して、子供産んで母親になって。」
「いい夢ね。それも悪くないなあ。」

いい夢よね。でもそのことが私たちに許されるのだろうか。呪われたエヴァの搭乗員たる私たちが。

日本は合成食料の生産技術と汚水浄化プラントを世界中に無償で技術援助した。
何もかも失った国々はそれでここ何年かを乗り切る事が出来るだろう。
競争ではなく助け合う世界経済。生活水準が極端に落ち1945年レベルからやり直した先進諸国は足ることを知った。
穏やかな循環が世界を包む。奪い合う事も、殺し合う事も無くなるだろうか。
シンジとの穏やかで平和な暮らしのように。まるで普通の人のように子供を2人くらい作り、
仕事に出かけ戻ってくるシンジを送り、迎える。暑い日はお絞りと冷たい水を、寒い日はお風呂を沸かし鍋を用意し。
いいの、本当に許されることなの?愛し合い抱き締めあって、また子供が出来ちゃったの、と頬を染めて告白する。

歩いている道は、いつの間にかお気に入りのポプラの街道になっていた。
広大な林と草原はここにあった浄水場と公園の跡地だ。
今は半分が小麦畑になっている。来年の春に刈り取られる麦がそよいでいる。その向こう側は冬でも実る超耐寒性の水田だ。
この風景は昔住んでいたところに似ている。ポプラは今落葉がすっかり終わって裸になっている。
人々の躯はその美しい黄色い道や麦畑の下にこまかく砕けて埋もれている。富士の下に眠る私の可哀想なママのように。

私の田舎の風景を思い出す。寒くて、凍って、毎日雪が続く。淀んだ重い雲の下で暮らした冬の景色。
だけれどわたしはあの寂しい風景が好きだった。帰ってくるママの姿を遠くから見つけることができるから。
ママの料理を食べる機会が多くなる。ママが朝起きても家にいてくれることが多くなるから。
フレンチトーストもチーズオムレツも甘くておいしかった。ミルクも味が違う様な気がした。
今朝のチーズオムレツは何となくママとの朝食を思い出したわ。
思いきり甘えて、夜は本を読んでもらい、一緒に買い物に行き、一緒にバンを焼く。
一緒にお風呂に入り髪を洗ってもらった。夜は緩く編んでもらい、朝はきちんと三つ編みをしてもらった。

「ママ。」口の中でつぶやいた。「わたし、このままシンジと一緒にいていいのかな。」

可哀想な私のママ。夫に裏切られ、娘は軍に奪われ、正気を失わされエヴァに封じられ。

「アスカ、どうかした。」
「ううん、なんでもないの。」

並木が終わった先、橋を渡る両側は一面のススキの野原。
真冬には凍りついて、シャラシャラと乾いた音を立てる、銀の草原になる。その景色は私の氷結の風景。
私は、いつの間にか大人になった。この凍りついた冷たい風景は私とママの心象。決して許されることなんてない。
この景色に比べて、私はなんて豊かで幸せなことだろう。抱いてくれる人がいて身体の奥底から湧き上がる快感と幸せ。
何百回私はその人に抱かれただろう。喘ぎ、しがみ付き、気を失うほど愛される人がいる。愛してくれる人がいる。
この先に夢があり、かなえたい思いがある。彼の子供を生む幸せ。乳を含ませそれを思い切り吸い込まれる幸せ。
何万人もの幸せを踏みつぶし破壊し千切り飛ばして得た、私の幸福。
その具体的な力を手に入れることで私はおとなになった。夢をかなえるだけの力を手に入れることができたのだ。

それが、大人になるということ?幼いままに封じ込められていた私は解放されることができた。
レイは無機物のような存在のままだった。シンジのママもトウジのママも、私のママも皆封じられたままだった。
もしかしたらあの使徒と呼ばれた者たち同じ存在だったのかもしれない。
幼いころに失ったものを、今私は再びとり戻すことも新たに生み出すこともできる。
そして愛する人と暖かな時間を過ごすことができる。

幸せを紡ぎ、子供たちを人々を守り育てることができる力を持つ。そんな大人に。
そしていつの日にか再び同じ惑星の浜辺に立って宇宙を眺めることだろう。

その日、わたしはシンジと手をつないだだけで眠った。
私自身とシンジの幸せは一体この宇宙のどこに存在しているのだろうか。
きっといつか見つけて見せる。でも、私達の夢はきっと叶わない。私たちの夢は銀河の向こう側に砕けて散っていくだろう。
それでもあきらめない。自分の思い込みだけでそれを決して打ち捨てたりはしない。この手でつかむために手をそばそう。


「いこう!」

「うん。」


制服にマフラーと6つボタンのコートを着込んで、僕らは学校に向かって駆け出す。固く手をつなぎあって。
アスカのミトンと、彼女が編んだ僕の手袋。息が白く弾むと、通勤の人々の間を縫ってスピードを上げる。
僕らは蒸気機関車のように息を吐き出しながら坂を下り、上っていく。
アスカが僕を意識して先に立って走っている。そして僕自身もアスカを斜め後ろから眺める。
きれいな線を描く身体と豊かな髪で、僕のアスカが振り返る。僕はその水色の目に笑いかけ、追いつこう。
ああ、何時までも僕らは一緒にいたい。いつの日にかこなごなに砕け散るとしてもその日のその瞬間まで。

数億年の彼方まで。母さん、あなたはそれを見届けたいのですか。












Konna Asuka o daisuki da【Novemver】Komedokoro 22-July-2009
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

























<INDEX>