―――こんなアスカを大好きだ!


こめどころ






……

7月




夏休み前の試験が終わった。クラスのみんなは歓声を上げ、夏休みの予定を口にした。
けれどいつもと違って7割がたの時間は予備校通いに費やされることになるだろう。
その点私たちは一緒に避暑地に行き、いい環境のところで一緒に受験勉強に取り組むことになっていた。
シンジが先月私に提案してきたのはこの事だった。2つ返事で賛成した。
ほくほく顔で今はそれを楽しみにしているところ。

わたしは学士入学でどの国立大学にも交換留学生扱いで進むことができる。
つまりシンジの進学先にくっついて行くつもりだった。
日本語の必要性云々と言って教養課程から始めればいい。
そうすればずっとシンジと一緒だ。


冬月さんやマヤも、一緒の大学に進んで、結婚は卒業後というこの方法について賛成してくれてる。
要するに先行きどうなろうと2人にはまだ時間が必要だということなのよね。
回りくどいことだけど大人ってそういうもんなのかもしれない。
もし駄目だったからってそれが何だと言うのか不思議。何が駄目で、失敗だというのだろう。
いいけどね。実質何も変わりゃしないんだから。いざとなれば学生結婚とかしちゃうかもだし。
どちらにせよ、結婚前提の同居進学プランについては、シンジに図られることなく3人の密約として成立。

まぁシンジがどう思ってるのかって問題はあるけど、最近は不安をあまり抱かなくなった。
あれから何度もシンジとは寝床(しとね)を共にしてるし、肌を合わせて寝ている。
まだ、大人の関係にはなっていないけど、それはシンジの克己心とかわたしを大事にしたい気持ちの現れであって。
こっちにしてみればいつだってOK…ってわけじゃないけど、あいつが頼むならやぶさかではないと思ってるのに
わたしの方からなんて、言い出せるわけないじゃん。

「ねえシンジ。いつだってわたしの事、その、思ったとおりにしていいのよ。言ってくれれば検討してあげる。
ねぇわたしも望んでるってホントは知ってるんでしょ?言ってる意味、わかる?」

都会を離れた途端わたしは急に大胆になったみたい。だってこれから2週間も一緒に合宿するんだもん。
少しだけ表現は抑えたけど(だってやっぱり恥ずかしすぎるし)抱かれたっていい、と言ったつもりだった。
もし、今までのように焦らされ続けるんだったら、わたし、少し苦しすぎると思ったのよ。

「わかってる。それに親しい男女で関係持つことが全然珍しくないってことも知ってる。もう18歳だもんな。」

それって、ちゃんと分っていたという意味なの?わたしの思いをちゃんと受け止めてたってそういう事?

「じゃあ、なんでそうしないのよ。あたしのことあんまり好きじゃないの?」
「ねえ、アスカ。本当に僕とそいう風になりたい? 毎日抱きあう、朝も夜もつながっていたい?」

シンジがとんでもないことを言い出した。あたしのほうに鈴をつけようっての?

「そ、そうね。愛し合うって、まずそういうことじゃないかと思うんだけど。」

こ、肯定しちゃうの、あたしっ!

「じゃあ、僕が変なのかな。古いのかな。」
「変だとまでは思わないけど。」
「アスカの魅力に僕が気付いてないなんて、全然感じてないなんて思ってたわけ?」
「う…そんなことないけどさ。」

嘘だ。本当はそう思って焦れていた。

「僕はずっと、いつだって我慢してたんだ。アスカを無茶苦茶にしないようにって。」

列車の音って、つい何でも話してしまいそうになるリズムがあると思わない?
わたしだっていざいきなりそうなるとなれば、ちょっと怖いし、優しくしてって悲鳴を上げてたかもしれない。
もしかして、ずっとそんなことを心配してくれてたの?

「18にならないうちは、責任だって取れないじゃないか。もしもって事だってある。やっと…」



先月の誕生日。前後をネルフの試験で潰され、本部の部屋の一室でささやかに祝っただけだったけど。
ショートケーキと紅茶のいいのだけは頼んで買ってきてもらった。
シンジとあたしにとって、いえ、シンジにとっては大事な区切りの日だったわけね。
わたし、気づかなかった。言われてやっと気付いた。18になれば、男の子も正式に結婚できるんだって。
そう言えばあの日はいつもと違った。

「今日は、プレゼントは無しなの。家に帰ったらまた続きをしましょ。」
「いや、それはいいよ。誕生日は今日なんだ。それよりアスカに頼みたいことがあるんだ。」
「…なに?」
「キスしていい?」

キスなんて、最近は時々してたけど、シンジからっていうのはあまり無いことだった。

「いいわよ。」

あの時のキスは、なんだかいつもとずいぶん違った。重くて、熱くて、長かった。
キスをしながら薄眼をあけて見ると、シンジも薄く瞼を開け、わたしを見つめていた。
見つめる目が第一違ってた。
男にしては長い睫毛の向こうに黒い目があった。陶酔を誘うような、口付けだった。
唇の内側を舌が攫って行く。身体の奥からしーんとした空っぽの空間が広がってそこに吸い込まれそうな。
吸い込まれたあと、わたしはどこに行く、どうなるの。静かな音のない響きがどこかで鳴っている。
これが陶酔を誘ってるの。それに魅かれてるの。

気がつくと、シンジの腕の輪の中にいて、「アスカッ」って呼ばれて目が覚めた? わたし、どうかしてた?
目が霞んでる。そのままシンジはわたしを抱きしめて、頬ずりしながら髪をなで続けて、何も言わなかった。
わたしも、本部の宿泊施設じゃ監視付きだし、腕枕もねだれなかったしね。



シンジは夏の宿へ向かう列車の中で、あたしと顔を寄せあってそんな話をした。
今まで散々誘惑して、肌をよせ、キスをした。
それでもこいつは私をまるで崩れやすいケーキのように扱い続け、決して荒々しく扱わず、優しく抱き寄せるだけ。
わたしは焦れ、ますますシンジを誘惑し、まるで意地になった魔女みたいに色仕掛けをしかけた気さえする。

「来るときが来れば、例え泣かせる事になっても、絶対自分だけのものにしたいって思ってたよ。
アスカが思ってた以上に僕はアスカが大好きなんだ。」

唖然とした。こんな激しい言葉を、まっすぐシンジに言ってもらえるなんて。
今まで私が待ちに待ってた、言って欲しくて仕方がなかった言葉をこんなところで、急に言われるなんて。

「あ、あたし。待ってたの。シンジがそう言ってくれるのをずっと。
これからだっていつまでだって待ってるわよ。だって、だってシンジの事、大好きだもんっ!」

ちょっと待ちなさいあたし。そんなに飛びつくのははしたない。

「馬鹿言わないでよ、ここでそんなこと言ってたら、いつまで」

自分を怒鳴りつけた。あったりまえよね。

一体今まで何度シンジに抱かれることを想い、何度結ばれる夢を見たことだろう。
なぜこんなにもシンジが好きなのか自問自答を繰り返したことだろう。

わたしはとにかくシンジに齧りつくように抱きしめ、長い深いキスを交わした。
数回唇の間にたまった唾液を呑み込み、多分シンジが言うところの「お陽様のような笑顔満タン」で。
あいつからやっと離れ、口をぐいとぬぐった。
周囲の乗客は見て見ぬふりをしてくれてたみたい。ごめんなさい。

「これで今日から私たちはフィアンセで恋人で、天下公認なんだからね。
私の彼ですって紹介したら、ハイって言うのよ。」
「それ、アスカもなんだよ。いいの? 彼氏で彼女になるってことなんだよ。」
「ま、まぁやむを得ないところではあるわねッ。しょうがないから認めるわよ。
彼女です、恋人ですって言ってよしっ!」

これだけ勿体ぶって、いやいや認める真似して。
心の中ではシンジの周りをインディアンの勝利の踊りで跳ね回りたいほどだった。
周囲の人たちはさぞ笑いをこらえるのに苦労しただろう。
私自身はもうだっらしなくどろどろの笑顔だったと確信してるわ。
足が、がくがくと震えてうまく立ち上がれないってどういう事?

「でっかい焚き火たいてね。」
「何の事?」
「あっと、それは関係ないの。忘れてっ。」

気づいたのか気付かなかったのかシンジは微苦笑し、列車は盛岡北部に向かって驀進中。いいぞっ(何がだよ)
まだ夏は始まったばかりだから車両の中は結構空いていた。シンジの隣の席に移動。
つば広の白い制帽を目深に被って、口の中で小声で呟いた。

「シンジ。」
「なに?」
「あなたが、大好きよ。」

さっきはあまりにも急ぎ過ぎだった。ちゃんと、聴こえたのかな。
とにかくやっと、もう一度改めて素直に言えた。

「ずるいよ、アスカ。」
「なにが。」
「自分ばっかり、顔を隠してさ。」

見上げると、シンジの頬はかなり色づいてた。真っ赤に。
シンジは、わたしの帽子を少しだけ持ち上げて覗き込むようにし、満足そうに微笑んだ。

「ずっとずっと前から、アスカの事、大好きだったんだ。」

耳打ちするみたいにこっそりと言ってくれた。

「愛してる。」

わたしは深々と、帽子のつばを引き下ろしたの。そして反対側、青い山々を見てるように頬杖をついてごまかした。
まだ、目的の駅まではだいぶかかる。高架線がまだ所々壊れたままなので。朝食抜きでもう10時を回ってた。
そろそろ、お弁当出そうかな。冷たい麦茶もあるわよ。
悪かったわね、どうせわたしは愛してるって言われて餌を与えることしか思いつかなかった女よ。

「ねえ、棚の赤いボストン降ろしてくれる?」


目的地、宮古には乗り換えを2度して、午後になってから着いた。駅でレンタカーを借りた。
電気カーは15歳で免許が取れたからわたしもシンジも学校の課外活動で取得してあった。
港からは断崖を望める遊覧船が各地に向かって出ている。
暑くなったら小型フェリーに乗って涼むのも悪くない。
田老の旅館「はまひら荘」に着いた時には、既に冬月さんとマヤさんが来ていた。

「ヘリを近くまで乗り継いできたからな、思ったより早かったよ。」
「暫くぶりだったけど、いい気持ちだったわ。」

この二人、私たちを口実にして休暇を取っただけなんじゃないでしょうね。シンジがシーというジェスチャー。
確かに人をとやかく言える立場じゃないわね。まぁ2人がいる間は潔癖に清潔に振舞わないと。マヤは色々煩いし。
庭の向こうに広がる太平洋の光景は素晴らしいし、朝の日が昇る景色は何物にも代えがたいと聞いている。
温泉も中々のものなんだって。混浴のファミリー風呂もある。
そんなに大きくはないけど、何といっても私たちはあくまで勉強に来てるわけで。
そんなに焦ってくっついてる必要はない。2人が安心して帰ってからでも十分時間はあるもんね、シンジ。

ところが互いの気持ちを確かめあっちゃうと、男の子って我慢が利かなくなるものなの?
このあとちょっと困った状況になっちゃうのよね。わたしのほうはある意味幸せなんだけどさ。

わたしとシンジは勉強のとき以外は2部屋に分かれている。マヤと冬月さんの部屋だ。
でも、私たちは恋人同士でもある。特に今日は告白しあった当日。当日よ!
何はともあれとにかく私たちはくっついていたくて仕方なかった。
食事のあと、お茶をすすっている大人を置いて、私たちは車で港まで下りて行った。

「やっと2人だけになれたね。いつもは他人がいないから息が詰まるような気がしたよ。」
「シンジにしては珍しい発言ね。」
「そう?」
「君は、だれか遊びに来ると、いつだって引きとめたじゃない。」
「だってそれは礼儀だろ。」
「なにいってんのよ、だからジャージや眼鏡が図に乗っていつまでも居座ってたんじゃない。」
「それでアスカがキリキリしてたわけか。2人でいたかったんだね。」
「ずるい!ひっかけたわね。」
「そんなに僕の事が好きだった?」
「知らないわよ!そんな昔のこと憶えてないっ。」

駄目だ、思い出しちゃった。私たちの間で彼らが出てきたら恋人ごっこなんて暫くは無しだ。
ほんの少しの会話。可愛い中学生のころの他愛ないおしゃべり。それでもお互いの幸せをいのってた。
クラスの全員が同じ運命のかけらを共有していたのだ。
シンジが選ばれたのは只の偶然だったのかもしれない。誰が死んでも不思議はなかったのだ。

いきなり、シンジが求めてきた。

「アスカ。」

こんなこと、初めて。ちょっと真剣な顔だった。
獣の様に激しいキスを首筋から唇に向け移動させ、初めて私の乳房に触れてきた。
揉みしだかれた訳ではなく、くるくると球形を確認するように手を動かし指で押して弾力を確認されただけ。
男の子の好奇心を満足させたかったの?まるで幼稚園児が若い先生の胸に触れるように。

「シンジってば可愛い。」

男性嫌悪の性癖がある私が初めて男の子を可愛いと思ったのはこの時だったかも。

「何だよ、可愛いって。」
「あら、プライドが傷ついちゃった?シンジちゃん。」

ちょっと膨れたような顔をして、引き寄せられると、今度こそしっかりと乳房を揉まれた。

「ちょっと、痛い!」
「あ、ご、ごめん。」

あわてて手を離す。やっぱり可愛いと思う。もうどこを触れられてもそんなに動揺はしないかな。
その次は腿の上だった。ミニスカートなんて穿いてくるべきじゃなかったかな。
腰を抱き寄せられると腿の間に手が入った。
ごまかすようにキスがせわしくなる。あんまり調子に乗るんじゃないわよ、シンジ。性急過ぎるのはいや。
温かい両腿の間の手は、挟まれたまま動けないでしょ。
わたしの乳房は誰も触れた事がない。だからまだ触れられて感じたりしないのだ。せいぜい頑張って頂戴。
バリゲードかいくぐって、この田老の巨大な対津波用防潮堤のようなわたしの堤防はそう簡単には崩れないわよ。
下品ながっつきも、焦ったキスも駄目よ。それが伝わったようにシンジの愛撫はゆっくりとしたものに変わった。
そのせいなのかな。却ってシンジのそっと触れるような指先はわたしを追い詰めていくような。

「はぁ、はぁ、はぁ。ああ。うっ。」
「アスカ、そんなに硬くならないで。」
「バ、馬鹿。だめ、ダメってば。」

シンジの指、シンジの指に触れて押しのけようとしてもだめだった。な、何この、あ、感触は。

「あ、くうぅ。あ、いやぁあっ。」

その夜、いつまでも長く続いたシンジの愛撫で、初めて喘ぎ声をあげさせられ恥ずかしい思いをした。

「も、もうやめよう? 息が、苦しい。はぁっ、はぁ、はぁっ。」
「疲れちゃった?」
「汗まみれよ。こんなに、エア、コンが効いて、るって言うのに。」
「あっと言う間だったような気がする。」
「シンジは没頭、してたもん。それに…やっぱり外で、されるのって、ものすごく落ち、着かないのよ。」

何時の間に2時間も経ったの。わたしも時間感覚が飛んでる。
車という個室の中だし、この狭い中じゃシンジの動きも限られるから油断してたかな。
田舎の港はずれとは言っても、通行人はゼロでは無い塾帰りの高校生らしき女の子が横を通り過ぎた時は焦った。
ひょっとしたら同い年じゃないの。
その時あたしはシンジにブラウスの前をはだけられてたし。ブラだってはずされてたし。
シンジを突き飛ばすようにして胸元を閉じた。男の子はSEXの最中でも周りに気がつくなんて嘘っぱちね。
女の子の身体ってやっぱり男の子にとって本能的に夢中になっちゃうものなのか。
今まで理性で抑え込んできたシンジでさえ。
これじゃ後ろから頭ボコンで異種族にわたしをさらわれちゃうわよ。
カッターを半分脱いだ男の子が車で起き上ったのに驚いたのだろう。
その子は咄嗟に走って逃げ、わたしは見られずに助かった。

「何だよ、アスカだって夢中になってたくせに。あんなに僕にしがみ付いて、はあはあ喘いでた癖に!」
「そ、それはっ!そう言う事に触れちゃいけないんだからねっ。」
「だって実際身体中赤く染まってた。この匂いだってアスカの。」

何てこと言うの!わかりの悪い彼氏にすることは一つしかないわね。

「ルール違反だって言ってるの!」

みぞおちに素直に一撃入った。シンジがダンゴムシになってる間に服装を整え、髪を梳いた。いい気味よ。
そのまま車を運転して旅館に戻ったけど、もう10時を過ぎていたのでマヤに怒られた。
まるで家庭教師に怒られて部屋のベッドに飛び込む餓鬼んちょみたいだ。ピーターパンでも来るんじゃないかしら。
隣の布団に浴衣に着替えたマヤが入ってきた。

「アスカ、起きてる?」
「受験生には、習慣的にちょっと早すぎる時間ね。」
「そうねー。まあ2時くらいまでは勉強するもんね。」
「えーっ?勉強はせいぜい12時までだよ。」
「アスカは特別でしょ。シンジ君は普通の受験生なんだから。ネルフの推挙があればどこにでも入れるけど。」
「シンジはネルフには頼らないと思うわ。」
「私もまったくの同意見だわ。シンジ君とアスカはそう言うところよく似てると思う。」
「鈍感愚図馬鹿と純粋颯爽大天才と、どこが似てるわけ?」

マヤはしばらく笑っていたので私は満足した。

「わたしたちは明日には戻らなきゃいけなくなったの。せめて2,3日は一緒にいて遊びたかったんだけどね。」
「大人は大変ね。」
「まったくね。でもそれがアスカやシンジ君の為になるならしないわけにはいかないわ。」
「マヤ。」
「先輩や、ミサトさんのそれが望みだと思うから。いいえ、死んでいったみんなの願いだと思うから。」
「マヤ、あなたは劇的に盛り上げすぎよ。思いこみも強すぎ。でもありがとう。私もあなたの幸せを願ってるわ。」
「どうなった?あれから。」
「シンジと?」
「ええ。」
「これからは、誰かに紹介する時は彼女ですって言ってくれるって。」
「うまく行ったわけね。」
「スケベで困ってるけどね。」
「それはしょうがないんじゃない?ミサトさん式に言えば『わっかいんだからあ!』てとこよね。」

ま、その点についてはさんざんシンジを誘惑してきた私も同罪だけど思うけど。
もしかしてシンジのスケベは私が培ったのか?そういうことになっちゃうの?

「正式に結婚するまでは、妊娠はしないようにね。ネルフの奨学金も切られたら暮らせないでしょ。」
「その時は相談に行くわ。といってもまだ『最後の一線』は越えてないから安心して。」
「随分古い言葉知ってるのね。事後に相談されたってどうしようもないでしょって言ってるの!」
「確かに大学に受かって、卒業してからって言うのは正しいのかもしれないけど同居してる以上は危険率は一緒でしょ?」
「またピルを定期的に処方する?」

妊娠が私たちを貧困に没落させる心配は今のところない。
いざとなれば私が家庭教師をしながらだってシンジ一人と赤ちゃんくらい、大学の間養って見せるけどね。

「いえ、それも今となってはなんか不自然かなって思ってるのよ。前は不順で苦しんだけど今はそう言う事もないし。」
「シンジ君との生活が、幸せで安定してるということね。」
「あんなにシンジシンジ言ってたのに。ほんとに自分でも不思議よ。」

マヤの黒い瞳が輝いて見えた。

「好きだよって一言言ってもらったら、どうしても結ばれたいとか無理にでも抱かれたいとかって無くなっちゃった。」
「王子様には逆につらい羽目になったわね。」
「いいのよ、あいつわたしのことさんざん焦らしたんだから。」
「いいなあ、私も恋人が欲しいなあ。」

マヤがつぶやいたのがやたらリアルだった。


マヤの言ってたとおり、冬月さんとマヤはその日の昼には東京本部に戻って行った。
宮古駅前商店街の蛇の目寿司本店だけはしっかり食べて行ったわ。ウニからイクラから刺身からてんこ盛りで安いの!
宮古駅前にネルフ支店ができる日も近いわね。あはは。

7月にはまだフェーン現象もなく、風も爽やかで2階の勉強部屋では予定が気持ちいいくらいサクサク進んだ。
宿の管理人さんは私たちにザルうどんや、かき氷を出してくれたりする。
予定が進んでいればそれは一層おいしく感じるわけで。14日で20日分の問題集をこなすという私たちの計画は7日目にして
既に18日目に達していた。私は当然だけど、シンジはよく頑張ったと思うわ。難問集の問題までどんどん解けるようになった。
だってこの間、ずっとお預けのままだったんだから。男の子は女の子をバネにして大きくなるのよね。
わたしに追いついて来れない男なんて私が相手にするわけないって、あいつはよくわかってるのよ。
いわば先物買いの物件なんだから、外れたら売却。当然のことね。大学に受からなかったから捨てられたって恨む奴がいるけど、
そんなの当たり前のことだってどうして理解んないのかしらね。
学力の自信がないなら最初からもっと検討して頭以外で勝負できる方向へ進むべきじゃない。

ドイツでは進路分岐がもっと早いから人生に対してもっと真剣なのよね。形は違うけどアメリカだって同じこと。
シンジにはそのことを話してある。元々従順な勤め人を作りだすための国民教育一辺倒の日本とはちょっと違うのよね。
異分子を嫌うし、排斥を見て見ぬふり。強者に弱く弱者に強く、こんなこと言いたくもない。

さすがに、そのことが何を指すのかシンジにはピンときたみたい。勉強に向かう真剣度が学期中とまるで違う。
そう、大学に進めば何とかなるって事も無いんだとシンジは知っていて、その可能性にかけている。
受験に成功するって事はその夢に向かって努力する事が許されたということにすぎない。シンジ頑張ってと声援を送る。
朝日が太平洋の水平線に毎日上がっていく。食卓の上には昨夜かたずけた参考書や数式の下書き、英語の文書の訳文がある。

わたしたちは送る。子供たちの地平に続く必要な全てを。どんなにあってもそれを子供たちのために届けようと努力する。
そういう仕事をしている全ての人たちへと続く支援を。尊い誠の道を歩く人々へ僅かな助けになることを望む。

受験勉強の一節の中にも心を強く揺さぶられる一節が隠されていることがある。

母が死に父が去り、兄と弟の二人が残され二人きりで必死に生きています。毎朝3時間離れた湖に歩いて通います。
村の井戸は有料なので使えないからです。世界中の子供たちを襲う深刻なな貧困は子供たちから就学の機会を奪います。
貧困から抜け出すこと自体を貧困が阻むのです。
貧困の中で必死に生きる世界中の子供たちが学校に通う機会を、夢をかなえる機会を、あなたの支援で届けることができます。
虐待や搾取から子供たちを守り、予防接種で命を守りHIVと戦い、安全な水と衛生を確保し、子供たちを守る力を結集させ、
緊急支援活動を行っています。全ての子供たちに教育を。教育がないところに貧困や搾取が発生し、無知や偏見がさらに
多くの虐待や不衛生な環境に人々を追い込むのです。

これはユニセフの活動をまとめた物がテキストベースになっているのだろう。最近は世界の大学ではテキストを原文で読ませ
それに対するオリジナルな意見を回答するするような試験が主流だ。
悪戯に難文を読み下すだけではなく、平易な文章に対して意見を求められる。
一日だけ丸バツ式の回答をするテストなどで選抜を行うといった乱暴な方法はとられていない。
数日をかけ口頭試問も含めた丁寧な試験を行う。受験料を稼ぎに簡単な一次試験を行う様な事は大学自らの尊厳にも関わる。
その代り国家からの選抜試験支援予算が組まれるようになった。
逆にハイスクールレベルでの生徒に対する基礎教育もいい加減には済まされなくなったけれどそれもいい結果を生み出すだろう。
日本は教育国家といわれ、大学の数も多いのだが教員の質がそれに追いつかず、結果的に学生は学びたいことも学べない。
教員の質を向上させることが学生の質を上げることとつながるという主張が通ったのだ。
しかも現場に出るフィールドワークを中心にした授業単位が広く認められた。
例えば行動社会学が図書館の奥深くで学ばれるという状況が改善されたようなものだ。

一方で基礎科学が重視され、臨床医師が基礎医師を敬うといういい意味での伝統が生まれた背景自体を改善するようになった。
そうしなければならないというプラスの風が吹き始めた。
例えば法医学者や解剖医が全国に僅かしかおらず、警察嘱託で使い回されているという結果を改める為、不要出費を大胆にカット。
新規の予算を必要とするだけ掛ける事が推し進められた。
このような変化の裏にはある強大な組織の支援があったが、そのことについてはその動機も結果の分析も行われていない。
そのため軽々しく語ることはできない。だが日本はこの10年ほどの間に改めるべきところが整然と改められた。
そのことで世界的にも尊敬される国となったことは第3者的立場から日本を見続けた私にはよくわかる。

当時の日本には持っている知識を動員し問題の解決にはどのような道筋が必要かを語ったり説明する事を学ぶ要素が欠けていた。
問題解決にはディベートやプレゼン系の能力も必要になる。英語を学ぶ以前に高等教育を受けるに必要なことがあり過ぎたのだ。
数学の難問を解くのは論理的思考能力の訓練にしか過ぎない。歴史や古典の知識は派生する教養を導くことに主眼を置くべきだ。
そういう極論すらある。わたし達は世界的な気候の激変の中にいるだけでなく、文明の大系が激変する時代にも立ち会っている。
言わば、全人類がどう変化するかというはざかいにいたのだ。そしてわたしとシンジの関係の展開における結節点にも。

結果的に10日目には全ての受験テキストは消化された。
あと4日間はテキストの復習程度。僅かではあるが自由に休暇を楽しめる。

「せっかく自動車借りてるんだ。近くの観光名所くらい行ってみようか。」

シンジが言うので出かけることにした。ここら辺で一番有名なのはやっぱり浄土ヶ浜かしらね。
このシーズンは海水浴客も多いので、私たちも水着や着替え、サンダルも準備した。
道なりに細い道を走れば無数の浜があリ、プラベートビーチの様に楽しめるんだけど、それは何年かあとの楽しみにして、と。
白くそそり立つ石英粗面岩と松の緑と海の青の対比が美しい所だった。水質も申し分なかった。
黒の細身の水着は、前からみればワンピースで後ろからは背を大きくえぐったようなデザインで結構きわどい。
シンジはいつもわたしの後をついてくる習性があるので、まあこれはシンジへのサービス水着だったのよね。

海につかり、岩の周囲を軽く流して泳ぐのがなまった身体にちょうどいい感じ。
10日間も一日15時間以上ただ座って、猛勉強だけしてたんだから、身体がギシギシいっても当たり前よね。
車を港に置き、フェリーで海側からの観光。ウミネコがどこまでも付いてくるのはみんながエビせんを喜んでやるから。
うまく指先からつまみあげたり、投げた物をすくい取っていく。エビせんこんなに食べて健康に良くないんじゃ。
と、思った私もキャーキャーはしゃいじゃったけど、シンジも歓声をあげて同じことしてたからまあいいかな。
観光船組合でも少し健康的で海が油で汚れない食べ物を考えるべきじゃないかしら。


宿ではずっと2部屋取って勉強や食事は一緒だけど寝るのは別室にしてた。
無駄遣いみたいな気もしてたけど、マヤが念を押していったし、新東京に帰ればまた同居だしね。
そのままにしてたけど、もう勉強期間も終わったし、そろそろシンジだってつらいかもと思っていた。
わたし自身?前にも言ったけどシンジが告白してくれてからはそんなにせっぱつまってはいなかった。
勝手だけどこうなると、わたしの方からは動けない。告白以来立場が逆転したようだ。

畳部屋と二の間、冷蔵庫と椅子セットが置いてある縁側。
夕食後は、眠くなるまでそこで取り留めなく話す。
がり勉の後、そのままだと頭が火照って眠づらくなるけど、こうすると安静効果があるのか、静かに眠れる。
サイダーや、オレンジジュースを飲みながら、漁船の灯りが並ぶ海と芝生の庭と松を眺めながら。
朝早くから朝食まで、同じように窓を開けてそこからの景色を楽しみながら向かい合っている。

朝食は7時からで、一階の食堂で泊り客みんなでとる。若い小さな子の一緒のご夫婦と、年配のご夫婦が多い。
2週間も連泊すれば旅館のことはよくわかるようになる。
管理人さん達は普段は10時には家に帰り、オーナーの息子さんが11時頃当直に入る。
小さな町だから管理人さんがいない時でも急患が出たとかと電話を入れれば5分もしないうちに来てくれる。
ただしお酒や氷の準備は10時までに。まあ、台所の大型冷蔵庫から出し入れしたら自己申告で、のどかなものだ。
オーナーの息子さんは保険のようなものだ。ここの宿で育ったので施設のことはよくわかっている。
風呂は24時間掛け流しの温泉だし、昼の間に洗い場を磨くのが仕事だ。普段は農協に勤めているとか。

「いい所だよね、この宿って。」
「昔はもっと広くて、武道系の合宿所をやってたらしいわよ。一階に写真があったもの。」
「ああ、それで敷地がやたら広いんだね。」
「今は町なかにある、坂道の角から大屋根が見えるお寺がここにあったらしいわ。」
「へえ。」
「大災害があったとき大きな敷地が空き、お寺が買い取ってそのお金で被災者の救済をしたらしいのよ。」
「ああ、ここの伽藍が残って、武道場になったわけか。」
「老朽化したんで取り壊し、今は旅館だけが残ったわけね。」
「そのころの学生がここの基本客らしいわよ。」
「学生時代を過ごした場所はやっぱり懐かしいんだね。」

だいぶ遅くなって、やっと夜がやって来た。一番昼が長い季節。
食事が終わると今日はもう受験を忘れていられる。風鈴のいい音。このあたりはいい砂鉄がとれるので有名。
南部鉄の風鈴は、昔からの素朴な音色でこんな時代になっても人気が落ちない。

「私たちにとってもそうなったわけね。2週間もお泊りをした場所なんて。」
「僕らに、本当に子供ができたら、ここにまた来ようよ。」
「バ、馬鹿。なんてこと言うのよ。」
「いいじゃないか、僕らだけだよ。あの時は目を白黒させられただけだったけど。」
「お、憶えてるなんて…」
「想っている女の子に、それらしいことを仄めかされて憶えてないわけないだろ。」
「今度はわたしのどぎまぎする番って事?シンジって意外と執念深いのね。」
「こっちにおいでよ。」

誘われるままに、シンジの膝の上に座ったらそのまま後ろからそっと抱きしめられた。

「アスカは暖かくて柔らかいな。」
「そ、そう?」

いつものような、大声が出ないのはどうして。まるで、小さな娘が父親の膝に座っているような。
わたしってすこしファザコンの気がある?

そっと、抱きしめてくれたシンジの腕はそのままわたしの胸を抱きすくめ、クロスして乳房を掌で包んだ。
同時に、ポニーテールに結ったわたしの項に唇を落として、わたしは首を竦めてくすぐったいのを堪えた。
その首を上に伸ばすように乳房から上がってきた手が撫であげていった。その喉を唇が追って行く。
ここまでは、何回も進んできたところだ。でも今日はどうするつもりなんだろう。シンジはいよいよ覚悟を決めたのかも。
そう思うと不安でたまらなくなった。今までの強気の構えは何だったんだろう。

「アスカ。」
「は、はいっ。」

ハイって、どういう事よ。第一わたしの馬鹿シンジに向かって言うべき言葉じゃないわね。

「僕らは恋人同士になったんだよね。」
「う、うん。」

なったわよ、確かに。自分でそう言ったんだもん。

「そうよ。」

あきらめてそう言うしかなかった。まさかこのまま本当の恋人同士になろうって言うつもり?

「つまり。」

わたし、青ざめた顔色になっていたかも。

「僕らは婚約を交わした同士で。だけどまだ本当には結ばれていない。」

あまりにも不安で、わたしはシンジの上から立ち上がろうとしたけど、シンジは手を離さなかった。
抱え込まれたままの姿勢で、わたしはシンジの愛撫を受け始めた。
感じるはずのなかった乳首はシンジの指がそっとそこを触れ始めるとあっというまに硬くなった。
全身にがくがくと震えるほどの感覚が伝わり始め、目を固く瞑るしかない。
顎に手を掛けられわたしの首は強引に斜め後ろにひねられ、唇を重ねられて舌を絡め取られた。
きっと、今夜はこのままでいられない。身体が、かぁっと熱くなった。

迂闊なことに勉強に気を取られてシンジの渇きを癒すことに気づいていなかったのだ。
舌を絡めると、まるで揉み上げるように歯列から唇の裏の肉まで舌を差し込まれ嬲られた。
それだけで、わたしはもう正気が飛んでしまい、シンジの腕と胸の中にへたり込んでいた。
上半身を抱え込まれて、下半身は椅子の手すりに乗り上げたような格好に。
キスと片方の乳房を抑えられ、空いた手は腿と交差する一点に触れ、そのままわたしの秘密の丘への愛撫が始まった。
固く目をつぶったのは、やっぱり恐怖が身体を襲ったからだ。

覚悟はしてたけど、今までシンジの優しさに甘えていただけなのがよくわかった。
わたしなんて何の覚悟もしないで、ただ愛をねだっているだけだったんだってこと。身体が震えた。
浴衣の裾は大きく乱れて開き、自分の白い足が抱えあげられているのは夢の中。
そのまま隣の部屋に連れ込まれ横たえられた。
このまま抱かれてしまうの?シンジを甘く見てた。今まではシンジが手控えていてくれたんだ。

お風呂の後でとっておきの下着に着替えておけばよかった。
今は只の普通のスポーツショーツだ。そんなことばかりを考えてた。
横たえられた脇でシンジは浴衣を脱いだ。
キスや唇での愛撫を途切れさせないまま、わたしは帯をとかれ、着ているものも脱がせられる。
添い寝をするような姿勢になって乳首も咥えられ、舌で唾液をまぶされ、抵抗が低くなったところをさらになぶられた。
今まで感じた事のない切ない快感がぴりぴりと胸から全身に走った。背筋、脇腹、腹部から腰さらに腿に続く外側ライン。
今まで触れられたことのない場所。腕の内側から胸の脇、首筋からまた唇と舌に。自分の息が荒れてる。

「はあっ、はぁあっ。や、やめ。」

ショーツの上からの愛撫はそのさらに十倍もの快感を体中の神経系に走らせ、感じた事のない感触に身体が反応していた。

「駄目、ダメだってば。そんなに、急にはいやっ。」

思わずシンジの手を抑え、動きを阻んだけれど、力がまるで入らない。だめ、そんなところに触れないで、愛撫しないで。

「や、やめて。」
「アスカ、我慢して。」
「我慢なんかできないよ。」
「大丈夫、みんなしてることなんだ。異常なんかじゃない。」
「だ、だって。」

太股が、膝が、がくがくと痙攣して。震えてる。自分で抑えたショーツはぐっしょりと濡れていた。

「なにっ、これ、なんでっ?」

あわてた。あたし、どうしたのっ。こんなに濡れてるなんて、不始末をしたの?

「シ、シンジ。あたしどうかしちゃったの?お漏らししちゃったみたい。」
「女の子は、男の子とする準備ができると、膣からこうやって潤滑油が湧きだすんだ。」

シンジの手が、そのヌルヌルを撫で下ろす。

「ほ、ほんとにっ? 恥ずかしいから、触らないでっ。」

わたしは兵舎育ちで、勉強は軍の教官からマンツーマンで教わっていたし、身近に女の人なんていなかったから。
生理の時も軍医が処置を教えてくれただけだった。そこまではそれで済ませてこれた。
でも、こんないざという時になって、自分が愛したり愛されたりする技術のことなんか何も知らないことに気付いた。

性教育というものがあるのは知ってたけど、中学では戦闘で休みがちだったし、高校になってからは耳学問だったし。
男の子の誘惑の仕方みたいなのは雑誌で読んだけど。抱かれる際にどういう事が起こるかなんて全然知らなかったんだ。

「どうすればいいのっ。」
「大丈夫。そのままでいればいい。僕に任せて。」

シンジにイニシアチブを取られて最初の夜を迎えるなんて。これは全くの想定外だった。
これだけリードできるってことは男の技官や整備の人にずいぶんいろいろ教えてもらってたのね。ずるいわ!
浴衣を脱ぎ、殆ど素肌になって抱き合うとシンジの股間からもの凄く強ばったものがあたしの下腹部に押しつけられた。

「な、なにこれっ。」
「ぼくの、男のシンボルだよ。」
「ええっ嘘!あれってもっと小さなものじゃ。」
「好きな女の子を抱くときには、大きくなるんだ。触ってごらん。」

シンジは私の手を取ると、そのとんでもないものに強引に触れさせた。
ちょっと触れて、手をひっこめた。

「握っていいよ。」

パンツの中に手を引き込まれ、ぐっと握りしめさせられた。すごい!熱くて脈動してる。
シンジはわたしに握らせたまま、パンツを脱ぎ捨てた。
飛び跳ねるように手を開いたけど、シンジはもう一度握らせることを強いた。
目を見開いて、シンジの腿がわたしの胸を跨ぎ、その股間の後ろ側から太い枝が生えていた。

「こんな所から生えて硬くなってる。」ああ、気が遠くなりそう。

その先端はつやつやと輝いて、握りしめているところは脈を打ち、呼吸をし、その部分だけで生きてるように見えた。

「何で今夜だけこんなになってるの。今までは感じてなかったの?」
「そんなわけないよ。これは我慢したり、コントロールは効かないもんなんだ。
今までは君に気付かれないように腰を引いたり、身体をひねったりしてごまかしてたのさ。」
「つらくなかった?」
「つらかったさ。でもアスカを怖がらせたくなかったんだ。」
「馬鹿、今だって怖いわよ。でもシンジのものだと思えば怖くない。」
「もう、合宿も終わりだね。だから今夜はアスカと本当の恋人同士になって東京に帰りたいと思ったんだ。」

わたしにはもう言うことはなかった。拒むつもりもなかった。ただ、こんなものをわたしは受け入れられるの?

「いいよ。」

意を決して言った。もう引き返せないんだよ、いいの? うん、いい。わたしはシンジのものになる。
そして、これを受け入れて、シンジを本当に自分のものにする。本当に入るなら。
シンジの指が、わたしから湧き出るものをすくい上げた。それを大きなものにまぶして、塗りつけて。

「一緒になる。シンジと一生一緒にいる。」

緊張の余り、それを見て唾を飲み込んでしまった。
なんてもの、見せるのよ。思いつつさらに溢れ出てくるのがわかった。
その指が、わたしにまた、直接触れる。
溝に沿うように撫でられ、気が狂いそうな感覚がわたしをどこかへ吸い込む。

「僕も、アスカと結ばれて、家族を作ってずっと一緒にいたい。約束してくれるね?」
「あったり前じゃん。逃げようったって逃がしたりしないわよっ!」

大声を出すことで、何とか正気を。

「あは、あんまりロマンチックじゃないっていつもぼやくくせに。」
「あっ、しまった。」
「僕の一生は君のものだ。」
「わたしの一生も、シンジのものよ。先に死んでも付きまとってやるんだから。」

手を離すと、シンジはまじめな表情になって下がり、わたしのショーツを脱がせた。
ぐっしょりと濡れそぼったそれを見るのはとても恥ずかしかった。
わたしの潤滑油はもう隠しようもないほど周囲を濡れそぼらせ、したたっていた。
布団も浴衣も、ぐっしょりと濡れていた。内腿から膝を伝わり、脹脛までねらぬらと輝いている。
わたしは火を噴く思いをして、素裸のままでシンジの前に、やっとの思いで立ち上がった。
た、立っていられないの。シンジの肩を押さえつけるようにして、やっと。

「あなたのアスカになる前の、最後の、バージンのわたしの姿よ。」
「とても綺麗だよ。――僕のアスカ。」

タオルをボストンから取り出すと腰のあたりに重ねて敷いた。
そしてその上に横たわった。シンジのあんなものを受け入れるのだとすれば、わたしは。

「は、初めてだから…」

シンジの身体がわたしの上に重なった。胸や首筋や、脇や下腹部をシンジの手や唇や舌が愛撫していく。
わたしの身体は隙なく塗りつぶされていき息を吸うのも苦しいほどになった。
快感て、こんなにも凄いものだったんだ。正気が失われかけてる。喘ぎ、悶え、シンジにしがみついた。

「あ、あっ。」

悲鳴なの?歓声なの?両手で顔を覆った。
シンジの身体は熱く、2人の身体は汗に塗(まみ)れていた。
身体の隅々にまで加えられた愛撫は、またわたしの中心に戻り、打ち寄せては引き返す波となる。
その反復の度、体の芯から喉を伝って声をあげてしまう。髪をなでられるたびに続々と身体中が震えた。
流れ溢れ迸る愛液はシンジの身体も濡らす。もう何もかも意識の中にはない。
いつの間にか、手は顔から離れてしまっていた。

「あ、シンジ、シンジィ…」

シンジの指が身体の奥底に愛撫を加える度に、細く甲高い声が喉から溢れてしまう。首に齧りついているしかない。
シンジの名を無意識に繰り返してしまっているのに気がついた。
自分の髪が、視野を遮るの。その向こうにシンジの顔がちらちら見えるだけ。だき寄せて唇をあわせ舌を絡める。
わたしにできること。身体を押し付け、抱いてと繰り返す。許しを請う。もう耐えきれなかった。

「シンジ、もう駄目。もう許して。」

身体をくねらせる。枕元にあった鏡に自分が写ってる。赤金の巻き毛の中、真っ赤に上気した頬と肩が写っている。
これ以上焦らされたら、もう大きく叫んでしまいそうだ。

「もう、だめ。抱きしめて。もっとぅ。」
「アスカ。」

シンジの表情は真剣だった。怖い表情に見える。わたしの肩を抱き寄せた。

「入るよ。」

え、とうとう。そうだ、言わなきゃいけないことがあった。

「シンジ、今日は大丈夫な日だから。あの、最後まで行っても、大丈夫だからね。」

うわ、こんなの言うことも頭の中でシミュレーションしてたのよね。恥ずかしいったらない。

「あ、でも、怖いの。怖いから、優しく。」
「わかってる。大切にするから。」

その声に、こっくりと肯いた。シンジの腰がわたしの腿の間に割り込んできた。


必死で、いくら抵抗しても開かれていく、わたし。異様な感触が、僅かに中に。来る。

「怖い。怖いよ。」

思わずシンジの胸を押し返してた。そのさらに外側からシンジの腕がわたしを抱きしめる。苦しい。
苦しいと叫ぼうとした瞬間、シンジの指がわたしの奥底に何か熱いものを導いて、わたしのあそこの口が開いた。
濡れそぼったそこに、ひどく大きなものがわたしの襞をかき分け押し分ってきた。無理やり。

「痛いっ!」

抗おうとしたけれど、もう間に合わなかった。怖れで血の気が引いた。激痛。

「あああっ。い、いたっ。」
「大丈夫っ。」
「痛い、痛いっ。」
「すぐだから。」

足で布団を蹴り、激しく首を振り、伸びあがって逃げたけれどシンジの押さえつける力の方が勝(まさ)った。

「いやっ。」

その瞬間入口に押し付けられていたものがズルリと中に入ってきた。
のけぞったけれどさらに深く入り込んだ。何これ、気持ち悪いっ。

「うう、うっ。」

シンジの物はわたしの身体の中に大きく埋め込まれたまま、同じ動きが弱く、速く、激しく繰り返された。
わたしの手と腿ををシンジの手と膝が押さえつけていた。胸と腹部をシンジの体幹が抑えつけてた。
傷みをこらえてのけぞった直後、わたしは脱力し、シンジがするがままでいるしかなかった。
痛みは繰り返しわたしを襲い、シンジは単純な動きを反復し、激しい息遣いがわたしの耳元で繰り返された。
シンジとわたしの腰が密着した。心臓の鼓動にあわせ痛みが強くなったり弱くなったりする。
ひどいよ、こんなに痛いのに。こんなにつらいのに。
愛してるから我慢してるんだから。
シンジは可愛いとか愛してるとか色々言ってくれるけど、痛みが消えるわけじゃないもん。

ひたすら、我慢。シンジが満足するまで、我慢。
シンジは激しく最後に抽出し、身体を震わせて息を吐いた。身体の奥底で何かがきゅっと収縮したのを感じた。

シンジは止まり、うめき声をあげて一気に息を吐いた。
わたしの身体はシンジを食い締め、痛みがある箇所が幾つもあるのを知った。

「アスカ。もう、我慢しなくていいよ。」

こんなに息荒らして。
ちゃんと最後まで、できたのかな。わたしの身体に満足してくれたのかな。まずそれを考えた。

その途端に身体中が弛緩した。内側だけじゃなく、外側のあちこちが打撲を負ったように痛んだ。
笑顔を見せようとしたけど、目から溢れたのは涙だけだった。しかもそれが止まらないのよ。
溢れていた涙をシンジが吸い取った。

「終わったよ。つらかったかい?」
「えっえっえぐっ。」

涙がいくらでも湧いて出た。傷みとか、興奮とか、感動とかいろいろごっちゃになってた。
こんなに泣きじゃくるつもりはなかったのに。

「そんなに泣くなよ。」
「馬鹿、大丈夫だって言ったくせに、痛かったわよ。怖かったんだから。」
「ごめんね。」
「ごめんじゃないわよ。ひどいじゃないのっ。まだ17歳なのにッ。」
「あやまるから。」

さんざんいろいろ誘惑したくせになんてわがままなんだろう。自分で呆れてしまった。
でもしょうがないじゃない。わざとしてるわけじゃないもの。
わたしの小さな拳がシンジの胸を叩くために押し付けられたままだった。ひどく小さく見える拳だった。
その腕を伸ばしてシンジの頭をかきよせた。シンジの髪は汗でぬれていてたけれどいつもどおり柔らかだった。
シンジの手も抑えていた肩から離れ、髪を愛撫した。わたしの髪は湿って、巻き毛になってシンジに絡みつく。

「ああ。」

そのまま、しばらくの間じっとしていた。背中と前髪を時々シンジが撫でてくれる。
その感触がわたしに大きく息を吐き出させた。長い時間だったのか、どうか。中から何か流れ出てくる感覚。
はっとして手を伸ばし、ティッシュを数枚取ると股間に押しあてた。
シンジも同じように手伝ってくれようとした。

「あ、だめっ!」

悲鳴を上げた。そこは凄いことになってるはずだった。彼氏に始末させるわけにはいかない。

「横に転がって。」

シンジの男の人のものはまだ猛々しく下腹部に跳ね上がっていた。目のやり場に困るほど逞しいままだった。
半身を起して自分の始末をすると、さらにティッシュを手に取りシンジのそこを包むように拭き取った。
一瞬だけ、目の中に鮮血が見えた。自分を拭いた時も、シンジをぬぐった時も。

「自分でするよ。」
「黙って転がっていなさい。」

立ち上がって隣室に行き、お茶用のお湯を洗面タオルにかけて絞った。
戻ってきて広げ、大体冷めたところでシンジのものを覆い、汚れをきれいにふき取った。
まだ固く、拭く度にさらに反応して震える。こんな魁偉なものがわたしの中に入ってたなんて。

今わたしのところには、大きな穴があいてるんじゃないかしら。鈍い痛みだが確かにずきずきしてる。
奥の方、怪我してる。確かにこのシンジのこれが、わたしの処女を奪って行ったんだ。そうか。

シンジがわたしを不思議そうに見ているのに気付いた。そんなにしみじみ見てたかな。

「こっち見ないでね。」
「う、うん。」

自分の場所もきれいに拭った。もう一度洗面所で洗い流し、お湯で絞った。
さようなら、わたしのバージン。太平洋に流れていきなさい。

シンジの出したものはあちこちに飛び散っていた。
それを見つけてふき取っていく。染みがほとんどなくて安心した。
バスタオルを布団から取り去り残された跡を内側に汚れた洗面タオル、濡れた下着と一緒に畳んだ。 
泳ぐために持ってきたバスタオルだったけど、こんなことに。それともこの事までどこかで覚悟してた?     
新しい下着を取り出した。勝負下着って言うけどもう意味が無くなっちゃったわね。
今度こそは綺麗なそのためのショーツをはいたけど後がどうなるか分からないので生理パッドを挟んだ。
ブラも刺しゅう入りのいいものをつけた。

2人の浴衣をたたみ、シンジの下着もあいつのボストンから出して、パンツをはかせてやった。
シンジは戸惑ったように「いいよ。」って言ったけどわたしがしたかったのよ。
起き上ったところでシャツも着せてやった。面倒をみたいって言う気持ちと愛情はくっついてるみたい。
Tシャツを着て、短パンをはいた。シンジは半ズボンのジーンズ。
縁側の椅子にもう一度向かい合って座った。シンジがコーラとファンタグレープを抜いてくれた。
シンジのあそこは、パンツをはかせた時でもまだ大きいままだったから、完全に満足したわけではなさそうだ。

「ねえ、まだしたりないんじゃないの?男の子って凄いんでしょ。」

やっとの思いで口にした。

「凄いって何のことさ。そりゃまだしたいかって言われればそうだけど、今夜は十分満足したよ。」

シンジはそう言ってくれるけど。

「だってまだ…」

シンジはまだ満足しきってないと思うと悪かったかなと思えた。

「そんなの、アスカの方がつらいだろ。あんなに泣いてたんだし。ごめん、無理させたよね。」」
「……。」

息が詰まったように言葉が出なかった。こいつ、底なしに優しいんだ。
学校の仲間と話してたような軽薄な「男ども」とは全然違うんだ。
命がけで一緒に戦ってきたこいつなのに何を勘違いしてたんだろう。
わたしって底なしの馬鹿アスカだったんじゃない。こいつが優しいことなんてわたしが一番よく知ってた。

「バカ、そんなこと。」

言葉を継ごうとしたら、それより先に涙がまたあふれてしまった。必死でこらえたのに声は震えていた。

「わたし、いい恋人になる。誓う。あなたと同じくらい優しくなるから。」

シンジはわたしの顔をしばらく見つめ、頭をかきよせ、キスをしてくれた。
奥底に鈍い痛みが残ったままの夜。だけど、そのことが誇らしい。
あたしは正式にシンジの恋人で、しかも婚約者なんだ。
もう一度、わたしの方から誇りを持って口付けを返した。

「ありがとう、アスカ。」

それからわたし達はコーラとファンタの瓶をカチンと打ち鳴らして乾杯した。
喉を潤して夜の海を眺めながら、ぽつぽつと話をした。
そして、海への窓を開いたまま、勉強部屋の布団に一緒に寝た。ぐっすりと。

あさってには、東京へ向けて出発だ。











こんなアスカを大好きだ(7月)こめどころ 11−4−2009



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