ある日唐突にアスカは手錠を買ってきた。
今までベッドから起き上がる気配すら見せなかったくせに。いきなり起き上がって出かけると言い出したんだ。
付き添いのナースさんと一緒に出かけたけど帰って来た時は一人。もう介護はいらないからと断ったらしい。
ではあさってまた様子を見に来ますということになったんだって。医者も許したらしい。

でもすたすた歩きまわる様子ってどうだ。あいつ皆が眠っている夜中に起きてリハビリやってたんだ。
だから昼間に眠りこけてたんだな。ずっと横になってたやつがああも自由に歩き回れるわけない。
筋肉の衰えなんてそう簡単に回復なんかしないものだ。
そのあとアスカの始めたことって言ったら。僕をおもちゃにしてありとあらゆるゲームやごっこや悪戯。
あげく、僕をベッドに固定して遊び始めた。遊んだ、というより弄んだといったほうがいい。
こっちはかわいそうな病み上がりのアスカだと思ってたもんだから、抵抗が後手後手に回ってしまったんだ。

「何でこんなことすんのさ。」

「うるさい。あんたは私の言う通りにしてればいいのっ。」

抗議はしてみたが横柄そのもので取り付くシマもない。しかもこの目つきはなんだ。まるで獲物をもてあそぶ虎のような目。
そのとたんに目に何か貼り付けられた。スースーして冷たい感じは、あ、これまさか「ころぴた冷え冷えシート」か?
言われたようにしてろって言われたってこれは度を過ごしてるよ。両手両足首固定目隠しシートだなんて酷過ぎる。
でもいくら抗議してもアスカはにやにや笑いが止まらなくなったみたいに逆三日月の目をして、僕のパジャマを脱がして
ぺろりと胸板をなめたりするんだ。へ、変態ッ。もともとエキセントリックでちょっとおかしなところがあるとは思ってたけど
これはもう、どうにかなったとしか思えなかった。思えないのに僕の体の上にのしかかってくるアスカの柔らかい体とその曲線や
ふくらみや柔らかさ。現実に伝わってくる体温や吐息、見えない感じられない部分への妄想が、身体を僕のコントロール下
から引きはがしてしまう。その上一番恥ずかしいアスカに知られたくない部分がいつもの10倍にもなってカチカチになっている。

アスカは自分の着ていたパジャマの上を脱ぎ捨てた。残ったのは柔らかでシックな薄手のシュミーズと清楚なブラジャーだけ。
フェロモン全開だ。これが赤だの黒だのだったらまだ少しはこらえが効いたかもしれないけど、こんなのは逆にルール違反だ。
いつものアスカの過激な恰好じゃなくて、僕がどこかで彼女に抱いていた、少女らしい凛々しさと、逆に儚げで清潔なイメージが
僕の心臓やら中枢神経を貫き、手足の自由まで奪う。繰り返すけどこんな子に抵抗なんかできなかった。

大体、使徒戦から戻ってからのアスカはおかしかった。加持さんの死を受け入れられず、シンクロ数値もほぼゼロにまで落ち込み、
郊外の廃墟で発見されて以降、ろくに口もきかず食事もとらなかった。僕がいくら話しかけても虚ろな目でたまに見返すだけだった。
そのアスカが朝から急に出かけたと思ったら変なグッズを買いこんできて、いきなりの狼藉ぶり。我慢してたらこのざまだった。

思い切りなぶりものにされた。からかわれて、笑いものにされて、最後に自分を好きかどうかを何回も尋ねられた。
素直に答えられるか!そんなの。
好きだと答えても、嫌いだと言っても、唇の表皮だけのキスとか、胸板への頬ずりとか、舌先で首筋をそっとなめたりとか生殺しだ。
挙句、ブラまで取って薄手の下着だけで僕の身体に重なってきた。いったい何を求めてるっていうんだ。聖人君子じゃないんだぞ。
誘惑だよ、思いっきり僕を誘惑して爆発寸前まで追い詰めて、そうやって散々いたぶったあげくアスカは僕の体の上で眠り込みやがった。
何でこんなことまでして、挙句に居眠りなんだ?さっぱりわからないよ。眠りの深さは睡眠というより昏睡に近かった。
少しずつ、けど必死で体中をひねって、体の脇に落ちた手錠のカギを咥え上げ、やっとこさ片一方の手首の手錠を外した。
あとは一つずつ手首と足首を外した。

「ふう。」やっと体を起こすと寝こけている女の子をベッドに仰向けに寝かせた。







───してはならないことをやっちまって、人生収支が赤字?な件────


KOMEDOKORO






 ぼくは決心した。いくら日頃温和な僕だって、こんなセクハラまがいのことをやられて黙っている必要はない。

「しかえししてやる。」

アスカの両手首に手錠をかけベッドに繋いだ。気がつかないまま眠っているアスカはすごくかわいく見えた。
パジャマのズボンはすっかり下げた。輝くような太腿とつきたての餅のような下腹部。指で触れるのも躊躇われるような乳房。
きれいな青の花もようのショーツがあって、さらに腰と下腹部の女の子の、どこまでも広がるようなラインを誇っている。
ごくっと喉が鳴った。いや、ほんとはぐびぐびっと。さもしいと思うけど君だって間違いなく喉が鳴るか唾を飲むかしたと思うよ。

さらにそれに手をかけた。少しずつ下ろしていくと股間からの熱気がちょっと立ち上っているような気がする。
や、やばくないか?しかし手は止まってくれない。勝手に動くなんてことが実際にあるということを初めて知ったよ。
腰の裏に手を当ててそっと持ち上げ、ショーツを巻きおろすようにしたらお尻からつるんと剥けた。それを表から引き下ろす。
白いお腹ときれいに描かれたY字型。それを腿の半ばから膝の下まで下ろした。膝が割れるときれいな台形に股間の形が整った。
これ、アスカの匂いか?はっきり僕とは違う匂いだよね。視線がコンクリートと化したように動きゃしない。
スケベ筋全開だ。 まだアスカは気づいてない、何にも。たぶん。

怒ってるんだ、僕は。仕返ししてやるんだ。仕返しだよ。
でもこれって怒りだろうか。怒りというよりもさんざ劣情を刺激された挙句、その吐きだし口を狙ってるだけなんじゃないか。
自分のことを正直に見てるのはやっぱり自分だけだよな。下品な欲望に頭が爆発しそうなんだ。

こんもり盛りあがったわずかな丘に指の腹が触れていく。ピクリと体が動くけど、まだ意識はないみたいだ。
いいのか、こんなことして。アスカが気づいて、大きな声をあげられたらどうなるんだろう。咄嗟に口を手で押さえつけるしかないけど。
見つめているそこは、柔毛が薄く茂り、しっくりとわずかに光を帯びぬめりがあるのか。何回か指を前後させると頬が染まったように見えた。
抱きたい、したい、犯したい、欲望で変になりそうだ。
そんなことを思いながらも、アスカの一番の中心部に口と鼻を近づけて匂いをかぎ、ついに舌をあてた。僕は変態だ。キチガイだ。

「アスカぁ。僕のものになってよ。僕を叱ってよ。僕を人間扱いしてよ。」

気が付いたらそんなことを繰り返しつぶやいてる。
変態な上にマザコンで境界領域だ。シスコンでロリだ。もうどーしよーもない。僕はズボンを下ろすために腰に手をやった。
むき出しになった、遮りようもなく僕の不潔と獣欲のシンボルがびくびくと痙攣しながらアスカの中心の熱気を感じるまで近づいた。
アスカの頬もなぜか真っ赤に……?なぜ?


ジリリリリリリリッ! 瞬間、警報が鳴り響いた。わっ!心臓が止まりかけた。とたんに正気には戻ったけど人生は真っ暗だ。


あっという間に殺到する警備員。どんどんとドアを叩く音。

「警備部ですっ。どうかしましたかっ。」

はっとして固まってた顔と指を離し、アスカのショーツと寝間着、自分のズボンをたくしあげ、布団をかぶせた。

「よかったのに。そのままでも。」

「気、気づいてたのっ。」

「あったり前でしょ。ここまでされて気がつかないわけないじゃん。」

「ご、ごめんなさいっ。」

飛び跳ねて下がって土下座だ。

「悪いと思うなら、最初っからしないようにっ。」

アスカは余裕綽々(しゃくしゃく)だ。
どこかに手を封じられても使える警報ベルのスイッチがあるんだ。

「なにかあったんですかッ!」

警備員が重ねて声をはりあげた。

「だいじょうぶ。なんでもありませんから。」

アスカが落ち着きはらった声でそう言うと、警備員は一応納得して引き上げていった。
どういうわけか2つの防犯カメラにはタオルが掛けてあって、一部始終を見られずに済んだ。
あ、僕に悪戯をしてた映像も遮断されてたわけか。アスカのやることに隙はない…ってかなわないな。

「さてシンジあなたは。」

「わ、わかったからみんなには、内緒にして!」

両方の手錠を外したとたん、パアンッ!と思いっきり横っ面を張り飛ばされた。
僕はベッドの向こう側に吹っ飛んで、アスカのドレッサーの化粧品をバラバラ落としながら
壁に激突した。鼻血噴き出たけど、その後アスカはこう言っただけ。

「赦してもらえたと侮るんじゃないわよ。
あんたのこずるい指と、ずうずうしいモノのことはずっと覚えておくからね。」

「う、うん。」

そのまま、もう一度顎を蹴り上げられた。僕はおどおどしながらアスカに忠誠を誓うしかなかった。
もとはと言えばアスカがきっかけを作ったんじゃないかなんて言えないし…


最後の決戦が迫っているという話だった。それでアスカはネルフ付属病院から本部保健部の居住区に移されていた。
ずっとアスカは調子がおかしかったし、小康状態になったとは言え保健部にいたほうが安心だと思われたからだ。
僕が近くにいたのはまぁ結局付き添いみたいなものだ。
そこで引き起こしたのがこの事件だった。結局あいつは惰弱で女の子に縋ってでも自分の自我を守りたかったのだ。
この一件だけを見ればそういうことになってしまうよな。

というより、ネルフもそれしか手段がなかったのだろう。つい先日までぼろ屑のようになっていたアスカは、
僕の呼びかけにだけ気づき反応した。しばらくして意識を取り戻した。
さらに何日かして起き上がれるようになると僕を相手に色々話せるようになった。
そうして僕を試しにかけるために色々買い込んできたんだ。そのことが今になって薄々見えてきた。
どういう精神構造になっているのだか正確には分らないけれど、アスカは僕がいつでも、たとえどんな理由からにせよ、
自分に執着し、拘り、アスカのことを自分のものにしたがっていると認めたらしいんだ。
で、信じられるならそれを許そう、心を開こうというわけだ。

「わたしが好き?」
「わたしが欲しい?」
「わたしを抱きたい?」
「私だけを望んでくれる?」
「わたしを嫌いになっても捨てたりしない?」
「わたしのすべてを受け入れてくれる?」
「たとえどんなことがあっても、私だけの味方でいてくれる?」
「わたしがまちがっていたとしても。」
「世界が私の敵に回っても?」
「ずっとずっと私のことを見つめ続けていてくれる?」

その中には最初僕が条件付きで同意したのもあったと思うんだけど、繰り返すうちにこんな悲しい質問を繰り返すアスカの前で
全てに同意したんだと思う。アスカはそれでゆっくり僕の上で寝込んでしまうほど安心したんだ。
それは、腕枕をされて安心しきって寝てしまった幼い娘のように。
かたくなに閉じ切っていた心を解放させ、少しだけにせよ安心してくれたのだろう。
だが、今度は僕のほうがアスカの依存心に気付いてやれなかった。思いは行き違ってしまった。
僕の指に反応して急に昏睡から正気付き、警備員を密かに呼び僕に最後の一線を越えさせなかった。
横っ面を張り飛ばして、いままでのように僕の上に君臨した。
自分への凌辱が加えられる最後の一瞬に僕を否定し、投げやりにもしくは境界が失われかけていた自我を復活させたのだ。
アスカによればそれこそが初めて互いに手をさしのべあえた瞬間だったのだ。だが、

「なんだってのよ畜生!こんなところでシンジに抱かれて好きなようにいたぶられて強姦されて汚されて
それが私の現実における姿だってえの?許せない、許せない。」

僕の指がアスカの大事な部分をなぞる感触は結構強烈で、その分僕に対する殺意を盛り上げるのに十分だったらしい。
だけどこのままで全部をこいつに委ねてしまってもいい。シンジに抱かれて甘ったれられて、涙を下腹に垂らされることで
シンジが救われるかもしれないって、その快感も甘い誘惑だったらしい。その思いと両方が交差した。

「で、このまま2人ともいずれゼーレとの決戦で壊れたまま殺されるのを許すわけ。
せっかく赦し、助けてあげたシンジもろとも殺されるわけ?」

そんなのまったく無意味じゃない。ママが死んでからこの方、あたしはここで殺されるために生きてきたっての!?
それが爆発して、僕にきっと目を向けた。
アスカの股間を死んだ魚の目をして、薄笑いを浮かべていじってる情けない僕を見たんだ。
そこで爆発が起きた。鋼鉄の扉をぶち破って、分厚い精神障壁を粉々に吹きとばしたんだ。正気と新鮮な空気が脳に満ちた。

「こいつのことも、もう一度焼きを入れて、生かしなおしてやるっ!」

今だから言うけど、たしかにアスカのお節介がなかったら僕はあのままアスカの肉体に溺れたまま腐れ死んでいたんだろうね。




後日アスカは言った。

「なぜ赦すのかって?それはもう私はシンジのものなんだって、先に決めてたからよ。あのままじゃ嫌だったけどね。」

いくら決めてたからって普通はあれじゃあ恋人の情けなさに愛想を尽かすんじゃないか? 自分で言うのもなんだけど。
ましてアスカは女王様なんだから。まあ一方的にじゃなくて僕が認めている上でってとこは前とは違うけどね。

「もう一度。」

アスカは僕を見て笑った。

「2人からやり直そう、やり直せるって、本気で思えたからよ。」

すべてが終わって、海岸で今僕らは焚き火をしている。
打ち寄せられて乾いてる木切れはいっぱいあった。例え2人きりだったとしてもアスカが言うように幾らでもやり直しはできると思えた。

「それにさ、あの時のHな目つきをしたシンジは厭じゃなかったのよ。本当は。」

「え?」

「誰にも見向きもされなくなってた私に、最初に言い寄ったっていうか、手を出したわけでしょ。」

「そ、そんな理由なの?」

「それって、結構大事な理由だと思うけどなあ。」

女の子って全然わからないや。今のところだからと言って優しくなったわけでも、身体を許してくれるわけでもない。
ちゃんとした家を確保して、ちゃんとした結婚式をするまではだめだって言うんだよ。この二人だけの世界で正式な結婚式って。
僕のほうの告白はさせたくせに、自分は「さあどうなのかな。」以上のことは言ってくれない。
東京のウエディング会社で、素晴らしいドレスを手に入れた。
高級な住宅街の高台に新築の家もあった。食のほうも向こう十年は大丈夫そうだし。だからと言って何の心配もないわけではない。
ビルの崩壊も道路の劣化も、人がいなければ早く進む。

せいぜいたまにキスがご褒美みたいに来るだけ。身体を愛撫されたこともしたこともあれきりだ。
この状況で将来アスカが言うように、彼女の何もかもが僕のものになったって、得するんだろうか。
アスカに言わせれば人生の最大の賭けでの勝ちは、間違いないってことなんだけどさ。
どちらかと言えば、なんか人生収支決算、大赤字になるんじゃないかって、そんな気がするんだけど。

「早くアスカを腕の中に抱きしめて自分のものにしたい。でもそう簡単にはいかないよなあ。」

そう呟いたのは誰も聞いていないと思うからだ。

「馬鹿ねえ。いつだってどこだってOKなのに、弱気が治らないとどんどん赤字が膨らむわよ。」

聴き耳立ててたアスカがそんなこと言ってただなんて、誰か教えてくれたっていいじゃないかっ!!





  Komedokoro−20−Feb−2009




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