今年の文化祭は大騒ぎ

komedokoro



「はあっ!!」

ビュンッと、うなりをあげてアスカの足がむき出しになりながら猛烈な勢いで払われた。

「うおっ!」

3人の男は足を払われて宙に浮かんだ。体を落としていたアスカがやや身体を起こし、
今度は正面から突くよう3連のケリを入れた。

「わあああっ!!」

ウエイトレスの女の子に絡んでいた男の子達は見事にドアから廊下に転がり出た。

「いててて・・・・。」

うめき声をあげるその前にすっくと立ったのは、フライ返しを持って赤いぴよぴよ
エプロン姿も凛々しい、われらがアスカラングレー、その人であった。

「二度とくるんじゃないわよっ!とっととあんたらの汚い男子高にもどんなさい!」

何ごとかと駆け付けた先生達も苦笑いしている。余りにも見事にやられた男子達は、
こと程さようにみっともなかったのだ。
周囲を取り巻く女子高生達の容赦ない嘲笑の笑い声と視線にいたたまれなくなった彼等は、

「どちくしょおおおおっ!!」

叫ぶと涙を隠そうともせず逃げ出していった。

「ふんっ!」

アスカは勝利の鼻息を吐き出した。

「きゃああ、アスカこげてるこげてる、燃えてるううッ。」
「ええっ、し、しまったあああっ。」

再び教室に駆け込んでいった。賑やかな娘である。
クレープはすっかり炭化してまるで瓦せんべいのようになっていた。

「まったく、あいつらのおかげで大損害だわ。」

「アスカ、それ、ちがうとおもう。」

「なんだって言うのよ、レイ。」

蒼い髪の女生徒は、だまってポリバケツを指差した。そこには失敗した屑クレープが
山のように打ち捨てられていた。

「な、はははははは。」

レイは慎重にお玉でクルクルとクレープをのばしながら、つぶやいた。

「あの人達が来ている間だけでも損害が少なかったのに。またこないかしら・・・。」

アスカはもう一度クレープを焼きはじめた。今度は隙間なくのばせた。ここからはがして。

「あ、はやすぎる。」

レイが止めたがもう遅かった。

「あ。」

クレープは、見事に途中から破れてしまった。
アスカはついに、エプロンをはずした。

「駄目だ。だれかかわって・・・。」

レイはそのあいだに見事にアプリコットジャム・バター・生クリームクレープを仕上げた。

「レイ〜。あんた一昨日までは私と同レベルだった癖にどこで練習してきたのよう。」
「ないしょ。」
「ずるいよう。あんたと同レベルだと思うから安心して引き受けたのにい。
これじゃあたしだけがどへたにみえるじゃない。」
「アスカは、毎日クラブで遅かったでしょ。私は帰宅部だから。リツコさんに教わってたの。」
「あの人料理なんかできるの?」
「できなかったわよ。」
「じゃ、なんでおしえられるのよ。」
「研究となったらあの人は凄いもの。中通りのクレープやさんの前で一日中データとってたの。粉と水の配合とか、延ばし方とか火加減とか。それをそっくりコピーしたの。」
「あたー、それじゃかなうわけないわ。やめたやめたあっと。」

アスカはそのまま構内取り締まりの係りに加わって、その日一日を有意義に過ごした。


5時。

文化祭が終了し、いよいよ校庭にに積み上げられたファイヤーストームの点火開始である。

「ちょっと、なんでこんなに男子が少ないのよ。」

文化祭委員長が悲鳴をあげそうになりながら副委員長に詰め寄る。

「風紀委員会がやけにがんばっちゃって、男子で服装の乱れてるのはみんな閉め出しちゃったんですよ。」
「どうすんのよ。女子高ではみんなこれだけを楽しみに生きてるこも多いのよ。」
「文句があったら、風紀委員会のアスカ・ラングレーに言って下さいよ。ぐす。私だって。」
「わかった、みなまでいうな。私だって彼氏はいないんだ。」

「「許すまじ、アスカラングレー!!」」


怨嗟の声が校内に満ち満ちていく。

「アスカ、あんたうらまれてるわよ。」

風紀委員長、洞木ヒカリが、そっとアスカの耳もとで囁く。

「だあってしょうがないじゃないの。このくそ暑いのに毛糸の帽子かぶって、短足に煮しめたような
不潔なズボンをへそまで下げて穿いてるようなのを、校内においときたくないでしょ。」
「でもそれだって好きずきなんだしさ。」
「しょうがないなあ。じゃあ、動員かける?」
「動員?あてがあるの?」
「じゃ、電話をかけるか。レイッあんたもきてっ!」


シンジとトウジ、ケンスケ、カヲルは、アスカとヒカリ、レイ達に夕方のファイヤーストームに
誘われていたので、いつもは入れない女子高の門をいままさにくぐったところであった。

「なんやしらんどきどきするなあ。」
「禁断の花園だもンね。」
「荒々しい花もおるけどな。」

苦笑いし、ため息をつくふたり。
女の子にまだ夢を持っているケンスケは夜間撮影用の機材まで持ち込んでいるし
カヲルも何回も髪に櫛を入れている。いいよなあ、夢を見れる連中は。

5時は過ぎているが、まだファイヤーストームは開始されていないようだ。
校庭の隅に、女子高生たちだけが大勢たむろしている。

「ラングレーさん、あなたのいうとおり開始は15分繰り下げました。だけどどこから男をつれてくるの?」
「これだけまって、あんたのシンジ君があらわれただけだったら、ほんとにあなたころされるわよ。」
「大丈夫大丈夫。まかせなさいって。ほらきたっ!」
「えっ!」

ぐおーんという飛行音が周囲を圧しながら近ずいてくる。そして、校庭の端にあっけにとられている
生徒達をしり目に深紅のイチジクの半葉マークの大型ジェットヘリが強行着陸した。
輸送口からあらわれたのは、大急ぎで礼装軍服に着替えたネルフメンバー若手の一団。

「きゃああああああーーーーっ!!!」

黄色い声が爆発した!
この第3新東京市ではネルフは最もおちかずきになりたい男性No.1なのである。
男性の方だってそれは知っているから、努力を重ねて入所したのだが
悲しいかなネルフの勤務体制は労働法が適応外と言われる程の激務。
外に出さえすればもてもてとわかっていても20時間+αの勤務時間ではどう仕様もない。
そこにふって湧いた今回の話。息子の嫁であるアスカと、ユイの忘れ形見とも言うべき
レイには、むちゃくちゃ甘い碇指令と冬月副司令の許可がとつぜんくだったのである。
若者に限らず女子高と聞いて総てのネルフ男性職員がヘリポートに殺到したのはいうまでもない。

たちまちにして校庭は歓声に包まれ、積み上げた薪に火がつけられた。

「どう、委員長、これでもんくないでしょう、あ、あれ?」

とっくに委員会室には誰も残っていない。

「やれやれ、需要と供給が一致するとこういうことになるわけよね。」
「じゃあ、アスカ、いこうか!」
「ようし、いっけーい!!」

アスカが用意されていた音楽のスイッチを入れる。今はやりのプランジャーのメロディが
がんがんかかりはじめる。数人でセットになって、ぎゅうぎゅう押し合ったり跳ね回ったりする
楽しい曲である。校庭の男女は一気にボルテージがあがった。

ヒゲづらのサングラスの男と、背の高い初老の紳士の周りが特に盛り上がっている。
かわるがわる、女子高生を空中高く振り回している。
その群集の中を、シンジ達がまっすぐにこっちに来ようとして足掻いているのが見えた。

ちょうど一段高いとこに設えられた、委員会室のまどをあけて、アスカとヒカリ、レイは、
大きく手をふり、大声で叫んだ。

「おおおーい!!わたしたちはここよ〜〜っつ!!」


星空の下の、大きなかがり火。
まっかに染まったみんなの顔。
これからまた、人の世界が再び始まる。
これは、そんなサードインパクトが終わった年のひとこま・・・。


こめどころさんの素敵なアフターエヴァ短編です。
こめどころさん、いつもいつもありがとう。(>_<)/

こめどころさんのSSのよさは、自分にはチルドレン達が生き生きと日々の生活を楽しんでいる様を
自然に感じられる事ですね。(^^)
特にアスカちゃんには、こめどころさんのまるで娘を見守るような愛情を感じます。

本作品は、掲示板にカキコして頂いたのを素敵な内容だったので、やがてログが消えてしまうのが惜しくて
私の判断でこの寄贈コーナーに加えました。掲示板で味わってない方にも読んで欲しいと思いまして。
この短編で何か素敵な気持ちを感じられた方は、ぜひこめどころさんに感想をよせてくださいね。

こめどころさん、今後とも素敵な作品で私達を楽しませて下さい。

 

2008/05/13 アスカの旗の下に 2nd Flagへ再録

こめどころさんに感想メールをお願いします。m(__)m

 


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