こころの切片

komedokoro







私は、むかしレイと呼ばれていたことがある。





そんな記憶を持って、この星の上にただよっている薄い意識体。

自分がなんなのか、よくは知らない。




ただ、この細長い、広い海の片隅にある列島を通る時だけ、ひどく懐かしい気持ちになって

ある山と湖のほとりの街をかならず吹き抜けていく。



風は私の意識を小さな湖に吹き寄せる。



ゆめをみていたような憶いが、

ひとすじの道を、陽が差し込むように、そこをてらしだす。



何かが隠れているような、もう少しで何かを思い出せそうな。

むねの奥がもどかしい。痒いような。はき出したくて、はき出せないような。


苦しい想いが胸を掻きむしりたいような気持ちにさせる。




そんな時、必ず私の視野の片隅に佇んでいる。

豊かな金髪を背中まで流した空のように青い目の少女と

オニキスのような黒髪の細身で小柄な少年が連れだって。



あの子たちは誰?



ふたりは必ずそんな時私の方を見上げる。

そして微笑む、ふたり手を繋いで。

私のことがまるで見えでもしたかのように。




この、なぜか愛おしい青い星の、ほんの片隅に生きている小さなふたり。




あのふたりは誰。 私の心をかき乱すのはなぜ。






私の心はあの子達を見ると暖かくなり、砂漠に雨を注ぐ。

森の中を木々をざわめかせながら通り抜ける。

白い帆に風を送り、母親に抱かれた子供達のほほを撫で、空に大きな虹を架ける。

月の光を寂しい人のところへ送り届ける。星を瞬かせ、珊瑚のたまご達をゆっくりかき混ぜる。

風の言葉、波の静けさ、月のささやき、雪の温もりをつたえる。




こうしてゆっくりとこの星を回りながら、その度にこの小さな街へ。

あの、ふたりの微笑みに引かれるように戻ってくる。





まどろむ夢の中のように時が流れる、

あのふたりは少し背が伸び、少しづつ大人になっている。

そして私を指差して手をふる。

私が本当に見えているかのように。




私はこの星を包む大気となり、循環する水となり、うつろう生命と共に彷徨う心。





昔、レイと呼ばれていたものの、かけら。





いつまでもいつまでも、見守っていたい心。











 

2008/05/13 アスカの旗の下に 2nd Flagへ再録

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