(短編・お子様禁止)


【君がいるだけで2・その先は言わないで】

作・何処


五目ソバと叉焼麺を受け取り、財布から二枚抜いて前掛けをした(元)お兄さんに渡す。

「毎度!」

すっかり馴染みの(元)お兄さん(敢えてオジサンとは言わない。)は私に数枚の硬貨を渡し、おかもちに丼鉢と空き皿を仕舞いバイクへ戻って行った。
さあて、お盆に丼を二つ載せリビングへ。テーブルに丼を並べ、ノートパソコンと格闘中の彼へ声を掛ける。

…私も人格形成が漸く出来て来たと思う。ご飯をテーブルに並べる、この程度の事に激しく拒否の声を上げた昔の私は本当に子供だった。
…とか言うけど実はそれ数ヶ月前までの私。色々お子様だったのよ…あの…その…つ、つまり何と言うか…に、肉体的にもキャーキャーキャーキャー!何言ってるのアタシ!

彼は振り向き、肯定の声と共に優しい笑みで頷き、パソコンの蓋を閉じた。赤い顔気付かれたかしら?

「「頂きます。」」

彼の癖が移り、私もお箸を手に持つ時はご飯に頭を下げる様になった。
食事に感謝の祈り…神では無く食物に畏敬と感謝を捧げる…と聞いた時の衝撃は純粋な日本人の彼には恐らく理解出来ないだろう。

「ん!美味しい!」
「ほー、どれどれアタシにも一口頂戴。」
「チャーシュー一枚。」
「ケチ、なら二口よ!」
「…なんなら交換する?」
「嫌…食べさせて。」
「ハイハイお嬢様。」

苦笑しながら五目餡を掬った蓮華に箸で麺を載せ、私の口へ。あんたウズラ卵好物の癖に…

「あ、あひゅ、あちゅい!はふはふー!」
「慌てて食べるから…」
「むー、シンジの癖にぃ〜」

蓮華に唇を当てたまま不満そうに唸るアタシ。

…やっぱり未だ子供だわ私。我ながら見事な馬鹿っぷり。これでも11才で大学を卒業し、軍事教練を2年受けた元天才少女よ?最も、昔の私は天才の自負とエリートのプライドに凝り固まった高飛車で嫌な子供だったけど。

「ちゃんとふーふーしてよぉ、次海老載せてねぇ。」

…今やこれだ。どう贔屓目に見ても精神年齢小学生、昔の私が見たら目を覆い『アンタバカ〜?』と言いそう…は、反論出来ない…ま、恋愛中毒患者だから仕方無いわ。

「はい、どうぞ。」
「ん。」

二口目はちゃんとふーふーしてくれたから、少し熱かったけど黙って美味しく頂いた。
お返しに彼の唇に箸で摘んだチャーシューを当てる。私は上目遣いで優しく言った。

「はい、アーン。」

一瞬天井を仰ぎ、何かを諦めた表情でチャーシューを食べる彼の横顔を眺め、私は幸せに満たされた。

「シンジ」
「ムグムグ…ング。何?」
「ん…」「ん…」

衝動的に彼の唇を奪う。
“唇を奪う”…なんて素敵な表現。5:1割合で私が奪っているけれど。

キスの後、「冷める前に食べよう」って彼が言ってくれた。危ない〃、冷めて伸びた麺を啜るのは職場で懲りた。以来仕事場への出前は麺類抜きよ。


「ハーイシンジィ!ハッピーホワイトデー!」

「へ?」

今朝、ホワイトデーのプレゼントを徴収する為彼の部屋に乗り込んだ私は玄関で馬鹿面を晒し唖然とした彼の前で宣言した。

「さあ、プレゼントを寄越しなさい!1日シンジ占有権を!!」

「…又?」

「無駄口叩くのはこの口か!そんな口はこうよ!」
「ムググ…プハッ!ち、ちょい待て!」
「何よ?」
「仕事は?今日は…」
「リツコの実験に付き合ったせいで徹夜明け、よって本日は振替休日!」
「あらぁ…」

「て事なんで…少し寝させて…」

「は?」

私は勝手に寝室に入り手早く下着姿となる。未だ温かいベットに潜り込み、彼の香りを堪能しながら眠った。
気付けばもうお昼、シャワーを浴びた私に、彼が昼食をどうするか聞いたので出前にして貰った。近所の中華料理店、ここの処お気に入りなのよ。

「ねえ、今何してたの?」
「んー、アルバイト。代筆みたいな物だけど。」
「おー偉い。」
「勤労者から褒められると照れ臭いな。」

行動に制約の付く彼は就職進学処か旅行さえ難しい。ふと遠い目をした彼に私は問い掛けた。

「シンジ、今何考えてたの?」
「ん?あ〜…お約束な事だよ。」
「お約束って?」

「…『馬鹿だな、君に決まってるじゃないか』って事。」

「「ん…」」

彼が私の唇を奪う。そう、彼の唇が触れただけで私はもう彼の物、私の全ては彼に奪われ、魂までも拐われてしまう。
彼に捧げらる為捕われた憐れな贄は無力にも期待と恐怖と喜びに身を震わせるしか出来ない。
差し込まれる舌に応え、水音が2人を繋ぐ。


あの赤い海で彼に『殺して』と言ってからもう四年。
あの時、気付けば動く事も出来ずシンジの背中にいた私は全てに絶望して生還の喜びより生存の苦痛に苛まれ、『気持ち悪い』と彼を拒否したが、揺れる背中に無力な体を任せるのは…初めて知った異性への依存と言う幸福。
身体中に感じる彼の体温、意外と広い背中、私を抱える腕の力強さ。何時か私は声無く涙を流していた。


彼の服を脱がせる。その行為は私の喜び。ならば生物学的にも機能的にも健全な男である彼は私の服を脱がせる事に何れ程の喜びを感じるのだろう。
彼の首からクロスを外し、Tシャツを脱がせ、ジーンズを下ろす。…今日はブリーフか…薄い布地の下で自己主張する彼を見て私はクスクス笑った。
恥じらい?何ですかそれ?

…でもね…彼の…シンジの視線には…その…駄目なの。精一杯の笑顔で彼に身を委ねる私の纏う服を、シンジが一枚一枚真剣な表情で脱がして行く。その視線に私は恥じらい(今更だけど、やっぱり恥ずかしい物は恥ずかしいのよ。)瞼を閉じ身を任せる。


赤い波が寄せる砂浜。女の子を背負い歩く苦行に疲れ果て彼は私を下ろした。
そして彼の背中から降りた私は…恐慌状態になった。
棄てられる…一度手にした物がすり抜ける…又一人になる…恐怖に襲われ私は激しく彼を罵倒し、詰り、謗り、拒み、憎み、そして…求めた。

『嘘ね』

『誰でもいいんでしょ』

『あんただけは死んでも嫌』

『あんたの全てがアタシの物にならないならあんたなんか要らない』

『殺しなさいよ…そうすれば永遠にアンタはアタシの物よ。アンタをアタシは絶対許さない…だから…その手で…』


彼の唇が私の乳首を挟む。背筋を走る電撃、吸われ、離され、起立したそれを舌が弄び、歯が挟む度に私の脳髄に火花が散る


…彼は私を殺せなかった。泣き疲れ、生き疲れた私達はいつの間にか抱き合って眠っていた。
気付けば手の内に眠るシンジ。私は何の疑問も持たず彼を抱き締め、再び睡魔に意識を委ねた。

彼に起こされ再び目覚めた私は目を疑った。
エヴァの十字架、水平線彼方のレイの顔、赤い海…私の最後の記憶の世界。
だがここはどう見てもジオフロント。ぽっかり空いた天井穴から覗く青い空、湖は水を湛えキラキラ輝いてる。
彼と二人呆然としていると長髪のオペレーター…その頃の私の認識はそんな物…が、戦自の四駆で現れた。
直ぐに私達は強制入院。それから暫くの間何が有ったかは判らない。


彼が私の身体中を愛してる。髪を撫で、唇をなぞり、舌を絡め、耳を噛み、首筋を舐め、乳房を、お尻を、腰を背中を、お腹を太股を、そしてアタシの女を彼の指が、唇が、舌が踊る。
弄び、掴み、挟み、摘み、弾き、擦り立て、抉る。
そして私は喘ぎ、悲鳴を上げ、痙攣し、身悶えし、涙と涎と汗にまみれ蜜を垂らす。


暫く経ち、リツコが見舞いに来た。仮死弾を喰らってLCLに浮いてたそうだ。彼女の説明によれば司令とミサトは行方不明。ファーストは何故か幼児退行していたらしい。

混乱し政府と戦自の対立する政情、ネルフは戦自の虐殺画像と一部政治家へのゼーレからの支援と指示の証拠と言う爆弾を政界と戦自双方にリーク、彼等は自滅し、行方不明の司令の唯一の血縁…彼は1人注目される事になった。
紆余曲折の末私と彼には生涯年金の支給とエヴァンゲリオン操縦手当ての成人後支払いが決まった…自由と引き換えに。

私にはどうでも良かった。ドイツからの帰国要請も私は只頷いただけ。
だが帰国した私を待っていたのは…地獄だった。


アタシの女にシンジの男が捩じ込まれる。硬く熱い雄が雌の泉を抉る。擦り、抜き出し、突き刺す。アタシの女はシンジの男を受け入れ、包み込み、濡らし、締め付ける。


私は機内で拘束され、特殊施設に囚われ実験検体となった…エヴァのパーツとして。
連日の取り調べ、実験と投薬…白壁を無気力に眺め、泣く事も無く私は毎日只彼の名を呟いていた。幸いと言うか皮肉な事に、反抗しない私は精神操作や脳外科手術をされる事は無かったが。そして…

突然響き渡る警報、私には関係無いと身動ぎもせず白壁を眺め…不意に予感が走り、フラフラとベットの脚間へ潜り込んだ。まさか…

壁面に亀裂が走る。紫の巨大な指先が数m厚のコンクリート壁を剥ぎ取る。そして姿を表す紫色の巨人は…

「…シンジ…」

気付けば私は初号機の背に廻された掌の内、排出されたエントリープラグの非常口からLCLに飛び込んだ私はシンジに抱き止められた。

数刻後、エヴァ輸送機のキャビンでパイロットの日向は泣き止まず抱き抱えられたまま着座した私を黙って迎え入れた。
後日記録画像をマヤに見せられた…恥ずかし…ダビングして貰ったけど、未だ見る勇気が無い。


もう何度目の絶頂なのか、私は彼に翻弄される。背は高いが普通体躯の彼の体力が信じられない。私の口から溢れ出すのは歓喜の悲鳴、罰を求める艶声、許しを乞う涙声。


後で知ったが、ゼーレ残党は情報操作で完璧に私の存在をネルフとユーロから隠匿していた。
検閲を逃れ両親の元に届いた、記憶を取り戻したレイからの一通の手紙と言う只1つの誤算を除いて。

ママ宛に『今私は彼をシンジ君と呼んでます。』と一言日本語で書かれた無記名の手紙を不審に思った両親が極秘にネルフと連絡を取り、初めて私の行方不明が発覚したそうだ。
私は冬月副司令の指示でネルフに身柄を保護され亡命した形となり、身柄はリツコが預かった。レイとリツコと名を変えた私の三人の共同生活はドタバタ劇そのもの。笑いと涙と怒号と猫にまみれた2年は私を癒した。


快楽の荒波に翻弄され途切れ〃の悲鳴と拒絶の台詞しかもう出ない。幾度目かの絶頂の中シンジがアタシの中へ欲望を放つ。熱い飛沫がアタシを満たし、絶頂の果ての恍惚感にアタシは意識を手離した。


去年、彼は高校を卒業し副司令の元を離れ、アタシも独り暮らしを始めた。
今のアタシはネルフ技術開発部臨時職員、仁波飛鳥よ。

私の誕生日に指輪を贈って来た彼に私はすがり付いて一晩中泣いた。
クリスマスには一緒に朝を迎え、2人だけで年末年始を過ごし、今は毎週末お互いの部屋へお泊まり。今私最高に幸せ!


再び求め合う私達。肌を合わせ、舌を絡ませ、手はお互いを愛撫する。身体中をベトベトにして、喘ぎと吐息と獣の匂いが部屋を満たす。
今や私の体は髪一本まで彼の物。耳朶から爪先迄シンジは私を求め味わう、シンジの唇に私の身体は跳ね、震え、悶える。翻弄され息も絶え絶えな私は弛緩し、もうシンジの為すが儘。
シンジは女を堪能し、アタシは男を咀嚼する、そして二人は唸り呻き喘ぐ。アタシは泣いて喜び、シンジは啼かせて楽しむ。


快楽に没頭する。もう何も拘らない。シンジにはアタシ、アタシにはシンジが居る。他の事なんかどうでも良い。辛い事を思い出した時だけ泣いて涙を捧げるわ。

私はこうして彼に補完して貰って、彼を私が補完するの。人類って素敵!
愛撫し合い、動物らしく交尾し、人らしくキスを交わしあいながら私達は互いに溺れる。
相手を独占し合い、満たされた私達は又再び不完全な存在に戻るの。互いに又補完される為に。


シンジが激しく私を抉る、もう何を自分が言っているのか判らない。お互いの名を呼び合い私達は再び絶頂を迎えた。

アタシの中に果てたシンジが優しく語りかける。

「アスカ…」

「その先は言わないで…アタシから言わせて。」





「愛してるわ。」


【劇終】


多分後書き。

♪何〜処の誰かは知〜らな〜いけーれーど〜♪

…すまん。

『君に逢いたくて』アフターてゆかアスカバージョン(遅刻)。やっぱりお子様禁止。
まあ生暖かく見過せ。


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