【新妻へっぽこ繁盛記−若旦那編−】

作・何処



「あれは…エヴァじゃないか?」

無意識に口を衝いた台詞

ゆっくりとエヴァがこっちへ歩いて来る…否、あれは使徒だ、使徒が迫って来ている、でも…
そうだ、あの使徒に誰が乗っているのか僕は知っている。
だけど、その知る筈の無い事実に疑問を挟む事も何故かせずに只僕は現実を認められずにいた。

まさか…

その時、繋がりっぱなしの通信回線から綾波の声が聞こえた。


『乗っているわ…彼女』


そうだ、あの機体には…






え?

あ…あれ?
?か、彼女?

って…誰?

まるで僕の心の声が聞こえたかの様に綾波が答える。


『弐号機パイロットよ。』


へ?

何でアスカがあれに乗ってるの?
乗ってたのはトウジの筈…って?え?何で僕はそんな事知っ…



そうさ、知ってる筈だよ。だって…
もう経験してるもん。
て事は…つまりこれは…夢?


『…来る』


あれ?何で弐号機が動いてるの?アスカは?
端末を操作し弐号機との相互通信画面を呼び出す。そこに映るのは見慣れない女の子…

ええと…君…誰?

…ま、いいか。夢だからね。
…ん?でも、だったらあの黒いエヴァにはやっぱり…

…!!!

「!?っ!止めろー――っ!」

このままじゃアスカを…

嫌だ!喩え夢でもアスカに…うわぁあぁぁぁぁぁっ!

「止めろ!止めろ!止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろアスカに触るなあぁっ!このっこのっこのっ!!停まれ停まれ停まれ停まれ停まれ停まれ停まれ停まれ停まれ停まれ停まれえぇぇぇっ!」


その時、初号機が雄叫びを上げた。




【新妻へっぽこ繁盛記−若旦那編−】作・何処




ふと光を感じる…

朝だ。

意識の浮上と共に瞼が開いていく。
覚醒と共に一瞬微かに香る独特のどこか甘く生臭い匂い…目覚めの時は何故か何時もLCLの匂いを感じる。


『フラッシュバック…一種のフィードバックね。幻聴や幻痛の一種、もし不安ならカウンセラー手配するわよ?』


リツコさん…赤木博士の勧めを僕は断った。
LCLの香りは僕の中では自分の過去その物で、僕は過去を恨み憎み後悔していても否定はしていないのだから。
過去を受け入れる事…それがいつの間にか自然に出来てると気付いた時、僕は漸く大人になっていたんだ。と今頃になってやっと実感する。

『あったりまえでしょバカシンジ!あんた今幾つよ全く!』

…って怒られそうだからアスカには内緒だけど。

…ん?
顔に手を遣る。濡れた頬の感触、重く腫れた瞼…そうだ、あれは…本当に…夢?

ふと右に視線を遣ればそこには見慣れた朱金の波。

「夢…だよね。あ、そっか夢か…よ、良かっ…たぁ…っ…」

…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ…

思い切り安堵の溜め息を吐き出し、改めて隣に眠るお姫様へ視線を…

あ、何か笑みが止まらない。

…結婚して一年。昨日は僕の誕生日兼結婚記念日だった訳で…

昨夜の出来事を思い出して思わず赤面。

いや、昨夜の玄関に迎えに来たエプロン姿のアスカが衝撃的過ぎて…
だってエプロンの下はいつものチューブトップにホットパンツ姿だと思ってたんだよ。そしたらさ、その…

…何?何時ものそれで不満なのかだって?…い、いや不満なんか…只もう一寸大人し目な格好でさ…淑やかってのも良いかなって…

贅沢?うん、だよね。でもさなんか見慣れ…痛い痛いごめんなさい幸せで痛い痛い痛い!

つまりその何だ…ま、まぁ何時もの服もあれはあれで素晴らしく魅力的で魂の救済的に目の保養な何時も有難うございます的日常の隠れたお楽しみってな感じで跳び跳ねる様に動くアスカに良く似合ってて健全なお色気が又堪らなくって稀にだけどつい我慢出来なくて後で絶対怒られるのにその場で頂きますしちゃってご褒美TIMEをお腹一杯御馳走様まで堪能しちゃったりする位あの格好も素晴らしいんだけどって痛い痛いだから物投げるなって!

ええと何だっけ…あ、そのそう、あの、ええと、何と言うか…

…今回は更にグレードUPしてて…

え?く、詳しくぅ!?

…言わなきゃ駄目?

つ、つまりだね、お帰りのちゅーの後、アスカが玄関から台所へ振り向き僕に背を向けた瞬間に僕の視界に飛び込んで来たのは…
以前一度だけお目に掛かった格好だった。

…判った。正直に言うからその手の一斗缶仕舞って。
つ、つまりそのアレだ…

エプロン“だけ”のアスカだった。

二回目とは言え問答無用の破壊力。
いつもなら布地の下で隠されてる筈の柔らかな魅惑の曲線を描く背中の生肌と、柔らかいけど張りがあってプリンとしたアスカの…な、生のお、お尻がが…。

…あ、やべ。又元気に…

ゲッホンゴッホン!ま、まあそんな訳で僕は思わず鞄落とすわ鼻血噴くわの大騒ぎ。
て言うか前回も同じ反応だったよとほほ。大体嫁見て鼻血って俺幾つだよ全く…
ん?あ・又俺“僕”って言ってら。

まあそれはともかく・だ。
鼻血を止めに正面に座ったアスカをふと見たら、その…

…油断してた。正に“衝撃”だった。その姿は俺の視覚神経を電撃的に通過し脳髄を貫いたんだ。

…え?具体的に?…やっぱり言わなきゃ駄目?…本当に駄目?…はい…

えーとつまり、だ。正面にいるアスカの姿は一見普段通りだったんだけど、見慣れたエプロンの内側から普段は他の布に押さえ付けられている二つの大玉林檎サイズ大福って言うかツインマシュマロって言うか、それが拘束から解放され、フリル付きの白い布を前に突き出し押し上げて自己主張していて…。

いやー、やっぱり3/4の遺伝子が持つ力は凄い。とても16まで実は胸のサイズに全く潜んでない密かなコンプレックス全開…あ、これアスカに内緒ね。

でも比べる相手が悪いよ、リツコさんやミサトさん相手じゃあの頃のアスカは未だ未だ子供な訳で。
だからやれ美容食だの豊胸体操だの牛乳だの一部の肉体部位成長への熱意は傍目からも尋常じゃ無くて。
…結果あの努力はああして見事に実を…本当に実を…と言うか果実を…豊かにもたわわに結んだ訳で、有難う!あの頃のアスカ本当に有難う!って何言ってんだ俺。

と、とにかくだ。
俺の視線その他からアスカの体前面を保護する筈の布切れは俗称チラリズム効果により逆に俺の劣情を誘う効果をこの上無く発揮してくれていた。
特にエプロンの下からその存在を誇示する丸くて真っ白な部分の醸し出すフェロモンが凄くって。
アスカの身体前面の大半を構成する布地の立体曲線と、それにより造り上げられた陰影が演出するその布下に存在する物体の重量感。
そして布地に収まりきれず両横からはみ出た丸い部分や、上部の深い谷間部分が驚く位の自己主張をだね…

いや、頭では判ってるさ。何時もの姿と大して変わらないって事は。


でも…あれは良かった…


おまけに「や…やっぱりこの格好、一寸恥ずかしい…」なんて恥じらうアスカなんか見ちゃったもんだから…

…え?

…はい。美味しく頂きました。

!だ、だってそんなの見たら暴走したって仕方無いだろ?


…それにしても…


改めて隣の眠り姫を眺める。
朝日に輝く波打つ朱金、その下に幼さの残る美しくも安らかな寝顔が微かに寝息を発てている。
その綺麗としか言い様の無い白磁の肌は蠱惑のカーブを描きながら毛布の中へと…

あ、まずい…あんな所にキスマーク付けちゃった…又怒られそう。

「…でも何だってあんな夢…」

未だ俺は過去に囚われているんだろうか?
でも、俺が過去を否定しないのは今此処に居る彼女の存在が過去無しでは有り得ないから。
辛くて苦しくて悲しくて、逃げ出したくて仕方無かった過去、でもそれがあったからこそ今の俺と彼女が存在するって事実。

でも後悔は残る。
最も俺が一番後悔しているのはあの使徒戦でもあの赤い海でも無い。彼女と出逢ってから結ばれるまでの遠回りだ。
結局、俺は“恋愛”と“慈愛”の区別すらつかない子供だったんだ。

一目見た時から好きだった。
今にして思えばそんなの、あのマグマにダイブした時から判っていた。

命令された訳じゃ無い。

予定の行動でも無い。

俺はあの瞬間、アスカ以外何も望んで…いや、考えすらしていなかった。

只、自然に俺はアスカを求めたんだ

自分の行動の意味を考えたのは使徒殲滅後、旅館の布団に横になった瞬間。

もし僕が間に合わなくて、もしもアスカがいない生活が始まったら…

怯えた。

寒気に震えが止まらなくなり歯の根が合わずガチガチと音を発て、その音に更に怯えた。
押し寄せる喪失の恐怖に俺は布団に潜り込み固く瞼を閉じ体を丸め、ひたすら眠ろうとしていた。

その意味すら考えずに。

何故あの時俺はその恐怖と向き合わなかったのだろう。
向き合って何か変わったかは分からない、でもあの時こそ俺は逃げちゃ駄目だったんだ。
まぁ、その結果俺は遥か遠回りをしてしまった事は間違い無い。

結局アスカも、俺も、自分の事で手一杯な子供だったんだ。
“恋”を知らなかった俺は初めての“恋”に戸惑い、怯え、“憧れ”と“恋”の区別が付かなかったアスカは自分の“恋”心に気付く事無く
お互いを求めながら反発し、お互いを意識しながら拒絶しようとしていた。
だけどそれを自覚するより時間は早く流れていた。

そして、サードインパクト

全てが終わった後、エヴァはその運用を停止する事になり、チルドレンもその役目を終えた。
そして何のフォローも無く世間に放り出され途方に暮れる俺達…特にアスカは荒れた。特別なエリートから急に只の14才扱いになれば当然だけど…は、紆余曲折の末、周囲の勧めに従いもう一度学生生活を営み出したんだ。

正直大卒のアスカにとって中学の勉強は退屈以上に苦痛だっただろう。が、一般常識に欠けた綾波とカヲル君(いや本当、驚く位無知だった…)や同世代との交流は驚きの連続だった筈だ。

そして中学を卒業し、高校へと進学する内にアスカは変わった…まるで何かの呪縛から解き放たれたように。
弱さも、臆病さも隠す事がなくなったアスカは本当に普通の女の子だった。

トウジと再会したのもその時だった…
放課後の屋上で、僕のせいで左足を無くした。そう言って謝罪したら殴られたんだ。

『自惚れんなキサン!ワイは自分で納得してアレに乗ったんや。この足はワイの勲章や!誇りや!キサンその宝物を可哀想言うんか!?』

そう言って軽く義足を叩いたトウジ。
予想外の台詞に絶句する俺へ不意にニヤリと笑いかけながらトウジは話し続けた。

『なぁ、考えてみ?センセや惣流や綾波がアレに乗っとればワシやのうてセンセらの中の誰かがこうなっとったんや…否、死んどったかも知れん。エヴァに乗るっちゅうのはそう言う事やったんや。』

言葉を切りふと上を向く。

『…あの日、ケンスケと二人センセにエヴァへ拾われて命拾いして、あん時に初めてワイはアレの怖さと、そいつに乗るセンセの大変さがよう判ったんや。だから判るねん…あらもうどうにもならへん事やったってな。』

そう言って溜め息を吐く

『なあセンセ…聞いとくれや。ワイは、うんにゃ、今生きとる皆、誰も彼もセンセに、センセの仲間に救われとったんや。もしセンセに文句言う奴おったらワイがパチキ喰らわしたる!』

そして、倒れたままの俺に手を伸ばしながらトウジはこう言ったんだ。

『…センセ、ほんま、有り難うな…』

…トウジの言葉が無ければ俺は未だ自分の事を卑下するだけの卑怯者だっただろう。

そして高校を卒業後、ついたり離れたりの長い付き合いの末、やっとアスカへの想いを自覚した俺が危うく途切れる所だった二人の縁をギリギリ瀬戸際一杯の線で繋ぎ留め、ついに結婚するまで10年。今や俺は普通のサラリーマン、アスカは一介の専業主婦だ。

…にしても可愛いよなー、実は照れ屋で奥手の割にエロいし。

とかアスカの寝顔を眺めながら思ってた時、目覚ましが鳴った。


「ん…ぉはよう…今何時かし…あれ?何で私こんな時間にセット…あ!大変!今日は自治会の通学路当番だったわ!急いで着替…な!?何て所にキスマーク付けたのよバカシンジぃッッ!!」


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