リビングでTVを観ながらふと薬指を眺める…あ、駄目、笑みが止まらない。
端から見ればさぞかしだらしない笑顔であろう事は理解はしているがこればかりはどうにも…
え…えへっ…えへへ…えへ〜えへへへへ〜〜…はっ!いかんいかん!
ま、それはともかく。
早いものだ…シンジと結婚してもう半年になる。
…へ?何故にそうなったか?う〜ん…説明するとかなり長くなるのよね〜…
ま、結論から言えば人類はサードインパクトを乗り越えたって事よ…結果、エヴァはその運用を停止する事になり、私達チルドレンもその役目を終えた…最も私の機体は既にスクラップ状態だったが。
そして私は一人、世間に放り出された…あ、いや、シンジとレイもだったわね。
最初は途方に暮れて荒れた。けど色々あって周囲の皆の進めに従いもう一度学生生活を営み出したの。
正直私にとって中学の授業自体は余りに低レベルで閉口した。が、大卒なんだけど余りに一般常識に欠けた私には(いや本当、今になって見れば赤面物な位無知だった…)同世代との交流は驚きの連続だったわ。
そして中学を卒業し、高校へと進学する内に私は漸く…ホント漸くだけどね…自分がごく普通の在りふれた人間の一員であると言う現実を受け入れる事が出来た。
受け入れて初めて実感した…エヴァは、私の呪縛だったのだと…
エヴァと離れ、エリートと言う枷から解き放たれた私は余りにも弱くて
そんな私を彼…シンジは支え、励まし…愛してくれた。
そして彼と私は付いたり離れたりしながら紆余曲折の末に結ばれ、夫婦になった…今や私は一介の専業主婦だ。
ん?誰よ似合わぬとかほざく輩は!?
コ,コホン。それはともかく。なってみて判る…主婦ってのは大変だ。確かに手抜きすれば幾らでも楽は出来るが、それは課題を只先送りにしているだけ…あ、いけない時間だ!
冷蔵庫に貼り付けてある調理タイマーの電子音に、私は少し慌ててリビングから台所の圧力鍋に向かいダッシュした。
作・何処
うむ、セーフだわ。さてと火力を弱火に…よしよし、それでは…ええとレピシレピシ…っと。
…ふむ、成る程確かに菜箸がさっくり刺さる。これが“芯まで火が通った”状態な訳ね。成る程ぉ…ここで再び味付けをして一煮立ちと…
見ての通り私は只今現在レピシ本片手に新作料理挑戦の為台所にて奮闘中…ん?少し甘いかな?
プシュン
「ただいまー。」
お!帰って来た帰って来た。
「お帰りなさーい。」
CHU♪
「あ、ここで背広脱いで、ハンガー掛けとくから。」
「有り難。」
ゴソゴソ…うん、他の女の気配無しっと…お、ついでに百円GET♪
「あ、何かいい匂い。」
笑顔のシンジに…て言うかホントこの笑顔反則よね…自分の赤くなった表情を誤魔化す為に得意気に告げる。
「ふっふっふっ、良ーく気付いたわねシンジ。なんと今夜のご飯は世間で噂の新婚家庭必須科目料理、肉じゃがよ!って、おっといけない煮えてる煮えてる!」
会話もそこそこに台所へ振り向き鍋へ突貫する。
「おぉ、それは美味し…そ…」
バサッ
…?何今の音?
煮えてる鍋からチラリと横目で視線を送り玄関を見ると、シンジが鞄を落として中身をばら蒔いていた…プッッ!ほぉおんとそーゆー所は相変わらず馬鹿シンジなんだからぁ。
てゆうか、そんな所が可愛いのよねー。…って何か言ってる私が恥ずかしいわ…
クスリと笑い、私は肉じゃがに更に愛情を注いだ…そこ!それメンツユとか言わない!
料理に集中している私に後ろから声が掛かる。
「アスカ。一寸話がある。」
?
振り向くと、リビングでネクタイを外しながらシンジが何故か怒った様子で私を呼んでいて。
何事かと首を傾げながらコンロの火を止め私はソファーに座る彼の向かい側に座った。
…やば、本気で怒ってる…ん?
…何故か耳まで真っ赤になり口元を押さえ…あ、鼻血。
「?どうしたの?」
「ど、どぶじだどだだぐで…てっすてっす…」
「え?あ!は、はいテッシュ。」
「あ、あびがど…」
手元に有った箱テッシュを渡すと、彼は片手でテッシュを鼻先に当てながらもう片方の手でテッシュを抜き上を向きながら器用にテーブルに垂れた鼻血を拭いている。
「ち、ちょっと大丈夫?仰向けになった方がいいわね、後は私が…」
「…い゛や゛、大゛丈゛夫゛…」
心配になって上を向きながら鼻に紙撚を入れたシンジに聞いてみた。
「どうしたの急に…あ!さては又ナッツの食べ過ぎ?もーっ、いくらお夕食が待ちきれないからって駄目よおやつの食べ過ぎは。」
「ぢ、違うよ…あ、収まってきた…それより…一つ聞きたい。」
鼻に紙撚を入れたまま真面目な顔で私を見るシンジ。
う…ヤバ、ウケる面白い…ってそんな事言える雰囲気じゃ無いわよね…
「何?」
「…その格好は…何?」
…?見れば判るのに何を聞いてるのかしら?
まあ、一応聞かれた事には答えておこうかしらね。
「何って…見て判らない?新婚家庭の制服、新妻の正装とも呼ばれる裸エプロンよ。どう?これかなり勇気要ったんだからね!」
胸を張って返答する。
「は…か…エ…」
「でも古来からのシ…シキタリ?なら大切にしなくちゃねー。」
「へ?しき…たり?…は?」
「え?だってこれって、新婚のみに許される由緒ある日本の伝統的正式服装なんでしょ?で…でも…ね、さ、さすがにこ、この格好は正直かなり恥ずかしかったのよ?す、凄いて、抵抗はあったんだけどね、その…だ、だけど、この格好自体は少し嫌だけれどこれも異文明の歴史的な伝承文化だって事なんで思い切って勇気を出してその…が、頑張ってみたのよ!どう?似合っ…って、え?えぇっ!?ど、どうしたのシンジ?」
ゴン!と音を立てテーブルに臥せ潰れたシンジは、その姿勢のままこう言った。
「アスカ…又騙されてるよ…それ…」
「…え?」
―――
「データ送付、完了しました」
「各種測定計測機器異常無し」
「準備…完了しました。」
「各機関に通達…実験を開始。」
「開始して。」
「シュミレーター、起動します。」
ブウン…
「ふう…これで後はマギにお任せね。」
「やれやれ…」「肩の荷が降りたよ…」「マギによるシュミレート終了予定35分後…やっと終わったー!」
「さて、あたしらの出番はここまでだし、皆少し休憩しましょ。」
“プシュン!”ドカドカドカドカッ!
「ん?こ…」「この足音は…」「久しぶりねー」「相変わらず元気そうね…」
「こらーっ!ミ、ミ、ミサトー―ッッ!」
「あらぁアスカお久し振りぃ♪みんなー、新婚若妻様ご来場よーん♪」
「誤魔化すなこの牛女!」
「ん?どったのアスカぁ?」
「どったのぢゃないわよぉっっ!」
「あらぁ随分ご機嫌斜めねー、駄目よ新妻がそんなカリカリしちゃぁ旦那様がっかりよぉ?朝御飯食べて来た?食べないと苛々するって言うしぃ駄目よぉちゃぁんとシンジ君と二人で朝御飯食べてるぅ?それと苛々にはバナナかチョコかカルシウムよぉん?あ!それとも又シンジ君と痴話喧嘩ぁ?」
「うるさいうるさいうるさいっ!よ、よ、よょよよよぉくもよくもよくもぉっ!ま!ま!又騙してくれたわねえっっっ!!」
(はぁ…又か…)(…やれやれ…)(…葛城さんも飽きないなぁ…)(いい加減アスカも学習しなきゃねぇ…)
「ん?騙す?何の事?」
「し、し、しらばっくれてるんじゃないわよをおぉ!こ、こないだの事忘れたとは言わさないわよっ!」
「こないだ?えーとぉ…あ!ひょっとしたらこないだのってアレの事ぉ?やーだアスカ私嘘言って無いわよー。」
「嘘つき嘘つき嘘つきいぃっ!もー騙されないわよ!」
「だーから誰も騙してなんか無いわよーぉ。ま、ちょぉっち意味が違うけどぉ。それにほらほらぁ、新妻の艶姿にシンジ君もそら喜んだでしょー?くぬくぬぅ♪」
「その卑猥な笑顔止め!シンジは呆れてたわよ!」
「え?…あの…ええと…シンジ君喜んでなかった…の?あの格好を?」
「何を喜ぶのよ何をぉっ!」
「ううむ…実はシンジ君特殊な性癖なのかしら?おねーさん心配だわぁ…」
「そーゆー問題じゃなーいっ!」
その様子に盛大に溜め息を漏らす金髪。
「…はぁぁー―――…。」(ま、又ミサトはぁぁっ…そうでなくても寝不足気味なのにっっ…)
「そーゆー問題よぉ。それで燃えなかったらシンジ君男として色々問題」「夫婦間のプライベートに茶々入れるなーっ!!」
「〜っっるさいわねー、声デカ過ぎよぉアスカ。大体“シンジが時々溜め息吐くんだけど倦怠期かしら?”なぁんてアスカが言うからほぉんのちょびぃ〜ッとばかり新婚さん向けのアドバイスしたげただけなのにぃ。」
「ふっ、ふっ、ふふふふっざけんなぁー―っ!何が伝統よ何が文化よ何が由緒ある正装よおっ!あ、あ、あんな恥ずかしいかかか格好っっ!き、着る覚悟するの大変だったのよ!しししかも何よ何よああああの格好にそそそそそんな意味がああ有っただなんなんなんてアアアア、ア、ア、アタシしし知らなかったんだからね!恥ずかしいったら無いわよ!」
「へえぇ…て、ことはぁ…ふうぅぅん、ぢゃあ、ちゃぁあんと・意・味・教・え・て・貰ったんだぁ…ほぉぉ…シンジ君やるぅ。」
「へ?…教え…は?え!あ!?!う゛、う゛あ゛、え゛、お゛、わ゛、わわ、私別にそのァの…(モジモジ)」
「…ほほー、その可愛い反応からするとぉ〜、シンジ君たら相ーぅ当燃えってか萌えたのねー。ウンウンシンジ君の嗜好がノーマルだと判っておねーさん安心だわー。」
「!?ばっ!ば!ばば馬鹿ミサトーっ!!何恥ずかしい台詞ほざいてるのよおっ!」
「んふふふふ〜、で・さ?ねねねどーだったのよぉん結果はぁん?」
「けけけ結果あっ!?」
「そ。結果よ結・果♪女同士でそーゆー話題なら当・然・ここはひとつぅ、ぶっちゃけ話よねー♪んふふふねねねねアースカちゅわん、ちょっち、ほんのちょーっちあの格好した其処ら辺から最終的に至る所をばこのおねーさんに詳しく説明」
「言えるか馬鹿あっ!大体ちょっち詳しくって意味解らな過ぎよー―っ!」
「ち、一寸貴女達!い、いい加減にしなさいっ!」
「…あー、何てゆーか…」「…ご馳走様…」
「…不潔…」
―――
「碇…又我々の計画に一歩近付いたな。」
「…」
「では予定通り…」
「ああ、次は福引券で温泉ご招待だ。既に計画は次のステージへ移行した…後は場所だが…」
「任せろ。準備は出来ておる、美肌と子宝の…だな?」
「…(ニヤリ)」
―――
ガランガランガラン
「おめでとうございまーす!福引券三等賞大当りー!ペアで豪華二泊三日温泉旅行ツアーご招待券ー!」
「「は?」」
「当た…った…」
「当た…え?………!?イ…ィヤッハーッッ!ヤヤヤヤッターヤッターヤッタやったやったわやったやったやっちゃったぁ!シシシシシンジシンジ私やったわシンジ私やっちゃったぁ!!引いたわ引いた引いた引いた一発で大当り引いちゃったーっ!しかもペアでご招待だってねねねねえねえねえねえシンジ聞いた聞いた聞いたあっ?!聞いたわよね今の聞いたわよねねねねシンジ!ペアよペアよペアなのよシンジとアタシでペアなのよ判る判る判るシンジ?ペアって事は二人一緒って事なのよっ!」
「う…うん…(うわ…浮かれてるなぁ…でも無理も無いよね。自由に旅行なんて昔は無理だったし…そっか…温泉かぁ…)」
「ま、まぁ一等じゃ無いのが少し癪だけど、一等の新型EV車は駐車場又借りなきゃいけないし二等のディナークルーズも捨てがたいけど後の体重計が怖いし、やっぱりサードかなーとか思…コホン!」
「しかしアスカ三回に一回は福引き当てるよね、凄いよ三割越えてるし。」
「ふっ…私、改めて自分の才能が怖いわ…て言うかシンジ全てこのア・タ・シのお陰なのよねぇ!ねねねそこん所判ってるぅシンジィ?さ、この引き強なアタシに感謝なさい!」
「う…うん…(…でも…なぁんか嫌な予感しかしないんだよね…)…はぁ…」
「?」