マリッジブルー…

まさか私が?…いえ、当然よね…


大体結婚…このあたしが?ね、信じられる?
この高慢で我が儘で嫉妬深くて生意気な癖に子供なあたしがよ?

それが…結婚?



【夫婦坂・彼女の憂鬱編】

作・何処




…結婚か…そして夫婦生活…


  嫌  。



  怖  い  。



  シ  ン  ジ  。



  教  え  て  よ  。



  ね  え  シ  ン  ジ  ?



  何  故  私  な  の  ?




 …  嫌  …




 …  怖い  …




 …  助けて  …





 …  タスケテ  …





タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ




  シ  ン  ジ  私  ヲ  ス  テ  ナ  イ  デ …




  怖い。 怖い。 怖い。



こわいこわいコワイコワイコワイコワイコワイ…


…駄目だ。鬱のスパイラルに入った。

この歳になっても未だに私は人形を抱き締めて眠る。
この恐怖の原因は分かっている。

幼児期体験による心理的外傷。

パパの浮気現場目撃してからそう言う行為が不潔で堪らなくて…

一応性交渉の知識は軍で叩き込まれたけど…トラウマは簡単には抜けないのよね…

エヴァンゲリオンパイロットとしての適性が認められ、私がパイロット候補になったその日、ママは首を吊った。

ママが自殺してから、パパが再婚するまで半年。
その時既にあの人…新しいママは妊婦だった。

私がもう少し歳なりの子供ならば…止めよう、仮定は意味が無い。
私の新しい家族…私は自ら…今だから判る。私は逃げたのだ。

エヴァのパイロット養成過程を前倒しし、私は寮に入り訓練に明け暮れた。

エヴァンゲリオンパイロットの座を目指したあの頃を思い出す。

私は努力した。

男に負けない為に…

女と舐められない為に…

そして…

子供と馬鹿にされない様に…

そう、


ママみたいに捨てられない様に…。


あたしは…見て欲しかった。
抱き締めて欲しかった。


…必要とされたかった…


ふと一人の男性の面影を思い出す。

加持リョウジ…私の初恋の人、憧憬対象、そして大人と言う復讐対象の象徴…代償としてのスケープゴート。

最初は嫌いだった。
私の知る男達…幼過ぎる子供や、雄の匂いを漂わせる軍人、目指す物に没頭する科学者、優しい…それだけの…パパ…とは違ったから。

だけど…惹かれた。

そんな自分を冷静に分析した。

そうか…

彼は私にとって上官でも教師でも父でもない、身近で見る初めての大人だった。

彼なら私を大人に導いてくれる…

性行為の恐怖と嫌悪、相反する大人への憧れ、子供からの脱却への渇望…

ジレンマを『子供を作らない』事で解消する…子供の考えそうな、当時の私には理想的な解決の構想。

しかし…当然な事に私は適当にあしらわれた。子供の遊びに付き合う程暇ではなかったのだろう。

そして
私はシンジに出会った。

嫌悪する子供そのものな彼を軽蔑しながら…嫌いになれなかった。
気付けば私は彼をいつも見ていた…自分の感情すら気付かぬまま…

あれからもう八年…

紆余曲折の末、私は彼と…シンジ…さん…と…その…こ…婚約したの…

でも…

ねえ…シンジ。

本当にいいの?




「止める…」

「…アスカ?」

「止めるっ!ああっ!やっぱり無理よ!無理だったのよ!」

「…諦めるの?」


レイの言葉に涙が滲む。


「だって…こんな…私…もう駄目…駄目なのよ…」

「何故?」

「私が幸せになるなんて許されない事だったのよ!」
「そんな事無いわ。」

「止めて!慰めなんて要らない!」

「…葛城さんも赤木博士も、青葉さんや日向さんも皆貴方の事を大切に思っている…」

「…」

「…碇君なら…こう言うわ…逃げちゃ駄目だ…って。」

「シンジには…悪いと思うわ…でも…やっぱりあたしはシンジには釣り合わないのよ…」

「そう…逃げるのね。」

「ああレイ言わないで!」

「…なら…どうするの?アスカ…」

彼女が冷たい口調で問う

「わかんない…わかんないのよ…私…私どうしたらいいの?」

溜め息をつきプラチナブルーの頭を振り、彼女は私に事実を…認めたくない事実を冷静に指摘した。

「解ってる筈よ…」

「聞きたくないわ!」

「駄目…」

「嫌…言わないで…」

「いえ…はっきり言うわ…」

「レ…イ…」






「…ウエストあと一センチ落としなさい。」

「はうっ!」


レ…レイ…そ、そんなはっきり…


「…貴女の胸が収まるのはオーダーメイド品…仕方無いわ。」

「うえぇ〜ん!レイ〜〜〜!」

「…だから言ったの…いくら碇君と喧嘩したからって…ケーキバイキングは危険よって…」

「ううううううううううううう〜」

「…一週間お肉抜き。ケーキ禁止。バスト保持の為無理な運動禁止。無茶なダイエットサプリも中止よ…いいわね?」

「はうっ!」

「貴女の同居者としての後1ヶ月、きちんと管理させて貰うわ…」

「は、はううう〜…お、お肉ぅ〜、ケーキぃ〜…」

「…あたしも付き合う…誰かのお陰で私もスカートきついの…くす。」

「う〜…意地悪〜…レイの意地悪〜…」

「…何か言ったのかしら?…そう、今夜は納豆にしたいのね?」

「ゴミンなさい。…とほ〜…」



さて、それからレイのダイエット作戦は始まったの。

…正直、レイと同居するまで私は彼女の事を誤解していた。

正直、無愛想で無表情で可愛気ない暗い女って思ってた。
全く…あの頃あたしの目は何を見ていたのやら。
人との接し方が判らないから無愛想に見え、感情の表現を知らなかったから無表情だった彼女はつまり…可愛いのだ。見た目も、仕種も、反応も、性格も。

突拍子も無い事を無知故にやらかしたりもするが、意外とひょうきんな性格に裏表が無い…と言うか馬鹿正直な点、割と頑固で面倒見も良くて根気の有る所、そして何より、あの反則技の笑顔だ。
…あたしが男なら、間違い無く嫁にする。シンジと奪いあいになっても。

そんな妹の様で姉の様な彼女は、探究心の塊だ。料理の本一冊買えば全レシピを作る、それも見た目まで完璧に再現して。
そんな彼女がダイエット料理なんか初めたら…

揚げ麩カツ、プディング風湯葉、蒟蒻ステーキ、豆腐ハンバーグ、おからケーキ…
彼女の創意工夫は尽きる事を知らぬようだ。
おからって雪花菜と書くなんて知らなかったわ。

けど…

…お肉食べたい…




…さて、その後…

…一応リハーサル前にはなんとか間に合い、私は結婚式の衣装を作り直さずに済んだ…けど…



「良かったわね、ダイエット間に合って…」

「え…ええ…」

「ま…まあ…そうだね…」
リツコの台詞に私とシンジは気まずい笑顔を交わした。

「ククッ…クククッ…」

…ミサト…何笑ってるのよ全く…大体誰のせいで…

「しかし…どんなダイエットしたのアスカ?実に興味深いわ。」

「先輩の言う通りですよ本当に…あたしダイエットすると胸から痩せちゃうから羨ましくって」

「「あ…あははははは…」」

「プッ…クククッ…プククッ…」

…ミ〜サ〜ト〜、後で覚えときなさいよ〜…

「?シンジ君?アスカ?」

「?どうしたの二人共…ミサト?何笑ってるの?」

「べ、べっつに〜笑ってなんかぁないわよぉ〜?」

「「…##」」

「皆さん、お揃いの様ですね…」

「あ、レイちゃん!…可愛い…」

ま、当然よ当然!あたしが選んだんだもの完璧よ!

「マヤさん、リツコさん、ミサトさん、今日は来て頂いて…」

「いいのよレイ、それにしても…アスカのダイエット良く成功させたわね…貴女の体調管理が素晴らしかったのね。アスカ、レイに感謝しなさい。そのオーダーメイド品のドレス危うく着れなくなる所だったのよ?」

「「あはははは…」」


「それが…私途中までしか…一週間碇君と新居に篭ってて…帰って来たら…」

「「わわわわわっ!?!し、しーっしーっ!!」」

「「?」」

「一週間籠っ…て…って、あ!?」

「「ギクッ!!」」

「え?どうしたんです先輩?」

「アスカ…シンジ君…あなた達まさか…あの馬鹿女の台詞真に受けたんじゃないでしょうね…」

「「う゛」」

「ば、馬鹿女…」

「へ?待って…馬鹿女って…それにお泊まり…え…嘘…」

「「い、いやあのそのつまりだから…」」

「…ミサト、何故に逃げる。」

「い…いやそ…それはそのあの…ま、まあ経験談ってか一番効果的だったって事で…」

「ミ〜サ〜ト〜!!貴女やっぱり!!!」

「不潔…」

「何をしてたのか教えてくれないんです…ミサトさんの体験談に従ったとしか…ミサトさんも只笑うだけで…」

「「あ゛う゛…」」

「「ミーサートー(さーん)!!」」

「あ…あはは…ごみん。」

「あははじゃ無いわよ!シンジ君もアスカも全く…少しは外聞って物をねぇ!!」

「呆れた…一体何だってそんな方法…頭痛い…。」

「「…ごめんなさい。」」

「?」

「よ♪二人共」

「来たわね元凶の片割れ…」
「…不潔…」

「は?」

「加持君、貴方達の爛れた過去を君の片割れがこの馬鹿っプルに暴露したのよ…お蔭で汚染されちゃって…」
「返して…あの清純な二人を返して!」

「ち、ちょっと待ってくれ!?葛城説明しろ!一体何の事だ?」

「…若き日の過ちをちょっち洩らしただけよ…」

「過ち…って…あ!」

「…不潔…」

「二人共、こんな爛れた大人手本にしちゃ駄目でしょう?」

「爛れたって…」「それは無いよリッちゃん…」

「「…##」」


…思い返すだに恥ずかしい…それにしても…

『まさか本気にするとは』
って…ミサト…それは無いわよ…


…でも…ま…効いたし…


そ、それで…実は…

未だ…その…ええと…

た、体重危険な時とか…その…つ…つまり…シンジに…ってキャーキャーキャーキャーッッッ!何言ってるのあたし!

…でも…シンジって…

割と…ケダモノなの!プククッ!!まぁ〜ったくあの顔で暴走しちゃ反則よバカシンジ♪

…コホン!ま、まあそれはさておき…シ…シンジ…さん…うひゃ〜恥ずかしい恥ずかしい〜!!、あたし何言ってるの〜!!

…落ち着けアタシ、この惣流…違う違う、いか…いか…いかり…あすか…

アスカ・碇…

…うふっ

うふ…うふふ…

うふふふふふふふふふふ…

うふふうふふうふふうふふうふふ〜

碇…碇…

ふっ…ふっふっふっふっふっふっふっ!

アスカ・碇…アスカ・碇…ミセス・アスカ・碇〜♪

ん?待てよ…日本風に言えば碇アスカか…
碇…い・か・り・あ・す・か♪い・か・り・あ・す・か♪

うぷぷぷぷぷぷっ!イッカーリアッスゥカァ♪

嫌〜〜〜ん恥ずかしい〜〜〜!!碇ですよ碇!私碇アスカですのよ奥様をっほっほ〜〜って私が奥様じゃないそうよ私奥様よ奥様!そう、自己紹介で

『碇の…妻です』

なぁんて♪イヤンイヤン恥かし〜♪

なぁんたって妻よ妻、今の私は妻ですわつ!ま!
えっへ〜えへへ〜えへへ〜へ〜♪シンジの奥さんは私なの〜♪

フラウアスカぢゃありませんのよフ…フフ…フフフフロイライン!そう!そうよ!今私はフロイラインアスカなのよ!

♪マダムよミセスよ妻よ人妻よ奥様よん♪奥さん奥方若奥さん♪いずれはみのさんに『お嬢さん』て…待て。待てアタシ落ち着け。

…何言いたかったのかしらあたし…

そう!シンジの呼び方なの!バカシンジを今さらシンジに『さん』付けって言うのも何か恥ずかしいし…シンジって普通に呼ぶのも何かつまんない…何か他に無いかしら?


「アスカ〜、お風呂沸いたよ〜」

「は〜い、シン…あ・な・た♪」


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