バレンタイン作品(短編・お子様禁止)


【君がいるだけで】

作・何処


宅配のピザを受け取り、僕は財布から三枚千円札を引き出した。

「はい、毎度有り難うございます!」

すっかり顔馴染みになったアルバイトのお兄さんは僕の手に数枚の硬貨と少し膨らんだ冷たいビニール袋を渡し、スクーターへ戻っていった。
玄関を閉め、荷物を抱えてリビングへ。ソファーの向こうの赤い髪に手を貸す様に声を掛ける。
数ヶ月前なら激しく拒否の声を上げただろう彼女は振り向きながら肯定の声と共に優しい笑みを向け頷き、ソファーを跨いで僕の手からフィッシュ&ポテトにチキンまで参加した袋の乗ったピザの箱を取り上げる。
テーブルの上に鎮座したピザの箱を開けた彼女の歓声が挙がった。蓋の部分に湯気の立つ揚げ物を山と開け、早速ポテトをくわえると僕に顔を向ける。

「ん!」
「火傷するよ。」

苦笑しながらポテトを取り上げ代わりに唇を当てれば半ば不満そうに彼女は唸る。

「ぶー。」

なんか可愛い。彼女の唇に取り上げたポテトを当てると上目遣いで餌をくわえた。どこかの温泉ペンギンの様だ。ホフホフとポテトを食べる彼女にコークの缶を渡す。

「…で、あんたいつまで服着てるの?」
「へいへい仰せのままに。」

首からクロスを外し、Tシャツを脱ぎ、ジーンズとトランクスを一緒に下ろす。目の前に揺れる二つの脂肪の塊とその先端の授乳装置は素晴らしく魅力的だ。正直に反応する下半身を見て彼女は声を上げて笑った。


「今から28時間、あたしはシンジと愛し合うわ!」
「へ?ムグッ!」

今朝、バレンタインのプレゼントは私よ!と僕の部屋に乗り込んできた彼女は玄関で唖然としたままな僕の口にチョコを押し込みながら宣言した。

「あー、食事と休憩を4時間入れて32時間ね!寝るのも入浴も一緒!外出も駄目!服を着るのは来客以外禁止よ!」
「ムグムグ…ングッ!ち、ちょい待て!」
「何よ?」
「仕事はどうしたの?今日は未だ金曜…」
「年度末前の有給消化で今日明日は休み!」
「は?」
「優雅な年金生活を十代から堪能するあんたに勤労者の苦労と喜びを分かち合わせてあげる為にわざわざ来てあげたのよ!感謝しなさい!」
「はへ?」
「二週間よ二週間!あんたと逢わないでひたすら早出残業繰り返し休日出勤当たり前生活が二週間!」
「あ、うん。」
「あんたに逢えない悲しみと苦しみと怒りを仕事にぶつけていたけど、それもこれも今日この日に取る有給の為!」
「…何で?」
「今日は聖バレンタイン!徴兵逃れの恋人達を結婚させてくれた正に愛の聖職者バレンタイン!正に恋人達の日じゃないの!」
「あ、うん。」
「毎日〃のんびり過ごすあんたは判らないでしょうけどね、仕事は責任があるの!そう簡単に休めないし遣り甲斐もあるわ。ここんところ忙しくてあんたに電話どころか帰って化粧落とさないで寝ちゃうぐらい。」
「お疲れ。」
「で、普通電話も寄越さない交際相手に『私と仕事、どっちが大事!?』ってマヌケな事を聞いて困らせるのがお約束でしょ!」
「…お約束って…」
「あんたがその台詞を吐いたら『馬鹿だな、君に決まってるじゃないか』って辞表叩きつけてここに跳んで来るつもりだったのに!!」
「…普通立場は逆だろうしその台詞は流石に言えない。それに辞表出して受理されるかな?」
「…馬鹿?そのくらいあんたが好きだって事よ。」
「あ、成る程。全くどれだけ鈍いんだかね僕は。」
「て訳でお預け食らってあんたの愛情に餓えた私に二週間分の愛を寄越しなさい!」
「はぁ〜?」
「ちゃんと私も1日2時間として14日分28時間、きっちりまとめて愛してあげるわ!」

さっさと服を脱ぎ捨て、あっけにとられた僕の口に唇を押し付け、舌を絡める彼女に僕の停止した思考は再起動させられた。ま、彼女の気紛れは何時もの事だ。そう割り切った僕はチョコ味のディープキスを堪能した。

もつれ合い、裸の彼女を抱き締めキスを交わす僕ら。気付けば服を脱ぎ捨てていた僕はそのまま玄関で彼女と生殖行為を営んでいて。
朝から愛し合った後、玄関に服を脱ぎ散らかしたまま寝室へと二匹の獣は裸のままで抱き合いながら向かった。
寝室のベッド上、僕らは互いの肉体を思う存分堪能し、繋がったまま眠った。
気付けばもう昼過ぎ、シャワーを二人で浴び、玄関に散らばった服を洗濯機に放り込み、僕らは遅めの昼食をピザにする事に意見の一致を見た。
彼女を抱く度に僕は優しくなる。歪みが修正されるみたいだ。そして彼女は抱かれる度に穏やかになる。満たされ、自分を守る為の刺を抜き落としていく。

彼女の誕生日に指輪を贈り、クリスマスに彼女の純潔を頂き初のお泊まり。猿の様に年末年始を2人過ごして年が明ければ毎週末お互いの部屋へお泊まり生活。素晴らしいだろ?
行動に制約の付く僕は就職や進学はおろか旅行さえ難しい。行方不明のネルフ総司令の息子って事がその理由。

4年前。赤い海で彼女に『殺して』と頼まれ、でもやっぱり殺せなくて…気が付けば僕らはジオフロントの湖畔で抱き合って眠っていた。
目覚めればぽっかり空いた天井の穴から青い空、湖は赤くない只の水。隣の彼女はエントリープラグから引きずり出してライフキットの応急措置キットで手当てをしたプラグスーツ姿。
起こした彼女と呆然としていると青葉さんが徴発したらしい戦自のランクルで迎えに来てくれて、直ぐに僕らは入院させられた。
それから暫くの出来事を僕らは知らない。見舞いに来た赤木博士は麻酔弾を受けてLCLプールに浮いていたらしい。父さんとミサトさんは行方不明だった。綾波は生きていた…幼児退行と診断されたらしい。
父さんの口座や資産は凍結された。最も資産は幾つかの特許だけだったし、その口座残高はサラリーマンの平均貯蓄額に毛の生えた程度だったらしい。予想より桁が三つ四つ少ないと弁護士の先生が言ってた。
予想外の結果に慌てたのは父さんに全ての罪を被せたかった人々。何しろ彼らはネルフの持つ国家予算規模の資産を当てにしていたから。
ところがネルフの資産は全て国連名義(最初から判っていた筈だけど)、おまけに債権で予算を集めていたから、もしネルフを解体すれば膨大な赤字債務を背負う事になる。
『資産の一部を碇司令が隠匿!?』新聞や週刊誌の表紙にそんな字が踊ったのはその頃。情報操作で世論を操りたかったらしいが暫く経つとその記事は報道すらされなくなった。
ずっと父さんはワンルームのアパートで暮らしていたらしい。資産らしい資産は銀行口座以外は殆ど無かったそうだ。
親戚から絶縁され、妻を亡くし息子を捨て、サードインパクトを防ぐ事に全てを捧げた研究者。父さんの遺した記録を辿った人達はその結論に達したようだった。
収まらなかったのは戦略自衛隊だ。命令に従って幾多の犠牲を払った挙げ句に悪役として扱われそうになった彼らは命令を出した人達を糾弾し、命令した人達は戦自の暴走を非難した。
ネルフは戦自の虐殺画像と一部政治家がゼーレから支援と指示を受けていた証拠を双方に流し、彼等は自滅した。
騒動は一段落したがネルフ総司令の唯一の血縁…1人息子の僕は蚊帳の外だった筈がいつのまにかあちこちから注目される事になった。
対応に苦慮した皆の結論は僕に生涯年金の支給とエヴァンゲリオンの操縦手当てを成人後に支払う事。それで彼等は僕に口を閉ざす事を求めた。エヴァに乗らずに済む…僕は只頷いた。
後見人を冬月副司令(司令職は空席にするそうだ。)が引き受け、中学を卒業するまで副司令と穏やかな生活は続いた。ドイツに戻った彼女が日本に亡命するまで。
ドイツに帰国した彼女は両親に会う事無く拘束され、ネルフの情報を聞き出された後は実験検体として飼われていたらしい。
彼女の両親が極秘にネルフと連絡を取り、彼女が行方不明な事実が発覚した。僕は再びエヴァに乗り彼女を救出、気付けばそのまま彼女を日本に連れ帰って来ていた。
輸送機で操縦していた日向さんは見て見ぬ振り、帰国した僕らはマヤさんと青葉さんにからかわれ、只赤くなっていた。
冬月副司令の指示でネルフが彼女の身柄を保護した事となり、赤木博士が彼女を綾波と一緒に引き取った。あれから3年、僕は高校を卒業して独り暮らしを始め、彼女は今、名前を仁波飛鳥に変え、ネルフ技術開発部臨時職員として働いている。彼女も今は独り暮らしだ。


ピザを食べてるのか彼女を頂いているのかそれとも彼女に喰われているのか判らないぐらい僕らはお互いを求め合う。気の抜けたコークを口移しで飲ませ合い、ピザをかじる合間に空いた手はお互いを愛撫する。
身体中を色んな液体でベトベトにし、喘ぎと吐息と獣の唸りに歓喜と悲鳴が混じる。罰を求める艶声に僕は許しを与え、許しを乞う涙声に僕は断罪を宣告する。
身体中を擦り掴み摘み弾き、垂らして舐めてキスして飲んで噛んで、入れて出して喚いて喘ぐ。泣いて喜び啼かせて楽しみ、僕らは快楽に没頭する。
今既に僕達は父にも母にも拘りは無い。僕には彼女が、彼女には僕が居る。他に必要な物なんか些細な事さ。たまに思い出して涙を捧げれば十分だろう。
幸せは僕らを溶かす。人類補完?足りないから僕らはこうして補完しあえるんじゃ無いか!嗚呼素晴らしきかな不完全、欠けた人類最高だ!
僕は彼女に溺れる。チーズとトマトソース臭いゲップをし、オリーブ油まみれの手でお互い愛撫しあい、動物らしく交尾し、人らしくキスを交わしながら。
後26時間の独占を僕らは楽しむ。そして満たされた僕らは再び不完全な欠けた存在に戻るだろう。互いに又補完される為に。点けっぱなしのテレビから誰かのシャウトが聴こえた。


『愛し合ってるかい!?』


【劇終】

多分後書き。

皆様初めまして。何処と申します。
こめどころ様とリンカ様の作品が眠れる何かに火を点けました。
オリジナルも二次創作もほぼ初心者です。1作目未だ終わって無いのに2作目です。しかも1作目と無関係。
てゆうか初めてエヴァ見たのが【終わる世界】だったり通して見た事無かったり劇場番は新旧見て無かったりなんかもうあれです。
皆様まあ色々言いたいでしょうが『笑って許せ』。
恐らくゲンドウの同級生な何処でした。


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